「食物アレルギーを知っていますか」というテーマで、2018年にコラボしたNPO法人「FaSoLabo(ふぁそらぼ)京都」。縁日のたこやき、クリスマス会のケーキ、修学旅行の食事…。食物アレルギーがあるために皆と同じものが食べられない子どもたちでも、皆と一緒に美味しいものを食べ、楽しい思い出を届けたいと活動される姿をご紹介しました。(→2018年コラボ時の記事はこちらからご覧いただけます)
今、FaSoLabo京都が運営事務局のひとつとなって準備を進めているのが「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」。食物アレルギー当事者の子どもたちの夢や希望を、社会に発信しようというプロジェクトです。
「食物アレルギーへの理解や認知が広がったのは、本当にありがたいこと。次のステップとして『かわいそう』とか『大変だね』という食物アレルギーのネガティブな面ではなく、ポジティブな面にスポットを当て、発信していく段階に来ている」と話すのは、理事の小谷智恵(おだに・ともえ)さん(53)。自身も重度の食物アレルギーの子どもの母親として、さまざまな葛藤を乗り越えてきました。
「食物アレルギーと一緒に生きてきた今の子どもたちは、痛みを知っているからこそ、周囲にやさしさを与えていると感じます。誰かの痛みがわかるのは、とても素敵なこと。食物アレルギーであるからこそ描く本人の夢を、食物アレルギーの子どもの親として、そしてまた一支援者として応援したい」
実はこのイベントの構想自体は、10年ほど前から小谷さんの中にずっとあったのだそう。
「やっと、実現できる時機が来た」。そう話す小谷さんに、お話を聞きました。
(お話をお伺いした小谷さん(写真左)。とあるイベントにて、アレルギーフリーのケーキを子どもたちに渡しているところ)
NPO法人FaSoLabo(ふぁそらぼ)京都
食物アレルギーの子どもとその保護者の居場所づくりや日常生活相談など当事者支援から活動をスタート。食物アレルギーの子どももそうではない子どもも共に笑顔で生きられる地域づくりを目指して活動しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2020/5/25
(「アレルギーのこどもも、そうでない子も安心して集える場を作ろう」をコンセプトに京都府京田辺市で活動する地域コミュニティー「ばーばの手」の皆さんと、一緒に芋ほり&青空ごはん。アレルギーの有無に関わらず、たくさんの子どもたちが参加した)
──前回のコラボではお世話になり、ありがとうございました。
京都でも緊急事態宣言が発令され外出自粛が続いていますが、アレルギーの子どもさんやそのご家族に影響はありますか?
(※取材は2020年4月24日。京都はこの8日前、4月16日に緊急事態宣言が発令された)
小谷:
食品メーカーさんからもそういったご質問をいただいていて、会員さんたちに困りごとをヒアリングしていますが、皆さん比較的冷静に行動されていると感じています。
普段からアレルギー対応食(食物アレルギーがある人のための食材)をスーパーで手に入れるのが難しいことや食物アレルギーのために日常的に外食が難しいことから、食材等は日ごろからインターネットで購入したりストックされたりしているので、学校が休校になっても普段事として捉えられているのかもしれません。
──そうなんですね。事務局での食物アレルギーに関するさまざまなイベントの開催はキャンセルされたそうですね。
小谷:
人を呼んでのイベント開催にはリスクがつきものです。アレルギーっ子は喘息の子も多く、新型コロナウイルスの情報が出始めた当初、喘息や慢性疾患のある子どもは特に気をつけるようにと言われていたので、皆さん特に「外出しない」ことを徹底されていました。
また、団体の理事をしてくださっている医師の先生方からも現場の緊迫した状況が感じられたので、収束のためにまずは医療の現場を守っていただくこと、そのために本業に専念していただくことが、私たちに今できる最善のことだと判断し、割と早い段階で中止の判断をしました。
現在は、ZOOMを利用したオンラインのレシピ紹介や交流会・相談などを始めています。しっかりと収束に向けて努力をして、その先に初めて次の世界、未来が見えてくるのではないかと思っています。
(2019年8月、阪急H2Oサンタ NPOフェスティバルにて活動紹介。「子どもが手に持っているのは『ブルーパンプキン』。ハロウィーンの時に食物アレルギーの子どもも安全に楽しく参加できるよう、お菓子の代わりにおもちゃや文具を用意しようという取り組みで、「アレルギーの子もどうぞ!」という目印に、軒先に青いパンプキンを飾る)
(食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーションの出場者募集チラシ(※募集は終了しました))
──そんな中でも「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」というプロジェクトを企画されています。こちらについては後ほど内容を詳しくお伺いしたいのですが、今後の動向次第では、このイベントもキャンセルの可能性はあるのですか?
小谷:
運営スタッフと話し合い、「どういうかたちであれ、実施しよう」という結論に至りました。本来であれば協賛企業(石井食品株式会社)さんから提供しただいた千葉の会場で開催予定でしたが、状況次第ではオンラインでのライブ配信に切り替える可能性もあります。いずれにしても当初の予定通り、8月8日に実施します。
──なぜ、このイベントに関しては実施を決められたのですか。
小谷:
今、感染拡大防止のために多くの方が外出自粛しています。家でテレビをつけたりインターネットを開いたりすると、メディアが発信するニュースはコロナ一色です。ニュースに限らず、昔のドラマや番組の再放送が増えましたよね。
それはすなわち「昔を振り返っている」或いは「今を見ている」状況だと思うんです。賛同は得られないかもしれないし、「楽しむ」という言葉を使うことさえもはばかられるような状況ですが、こんな時期だからこそ「未来を見る」場があっても良いのではないかと思ったことが、いずれにしても開催しようと決断した理由です。
(「食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション」運営委員3名でのZoom会議の様子)
──そうだったんですね。
小谷:
学校に通えずにいる子どもたちが、何か楽しいと感じることに取り組み、自分の夢を誰かに知ってもらったり応援してもらったりする良い機会になるのではないかと思いました。
それは大人たちも同じ。しんどい今だからこそ、子どもたちが発信する夢が、希望につながることもきっとあるのではないかと思ったのです。
──確かに自粛ムードが続き、未来が見えず、社会全体的に疲弊していると感じます。
小谷:
今回のコロナの件だけに限らないかもしれませんが、「なんで今こんなにしんどいのだろう」「なんでこんなに我慢しているのだろう」と思った時に、それが未来のため、夢のためだと思うことができたら、きっとつらいこともプラスの力に変えられると思うんです。今回の企画が、そう思ってもらえるきっかけになってくれたらと思っています。
(アレルギーナビゲーターである細川真奈さん(写真前列中央)を招いてのおしゃべり交流会での1枚。細川さんは離乳食時より食物アレルギーの当事者。今はそれを強みに変え、株式会社eat isを立ち上げ、アレルギーナビゲーターとして各地でイベント企画や運営、商品開発などに携わっている。右端は小谷さん)
(2007年、京都で開催されたイベントにて、いろんな味の味噌汁体験をしてもらっているところ。「右の男の子二人は、私の長男と次男です。長男がアレルギーっ子でした」(小谷さん))
──なるほど。そんなメッセージも込められた開催なのですね。
プロジェクト自体は、どのような意図でスタートしたのでしょうか?
小谷:
もう10年も前になります。当時はまだ食物アレルギーが社会で認知されておらず、企業に支援のお願いに伺う度に「こんなに大変なんです」「受け入れてもらえなくてつらいんです」と食物アレルギーのしんどさを伝えていました。
ある時、京都の企業さんに伺いました。担当の方に食物アレルギーのしんどさを伝えると、「しんどさはすごくわかるけれど、食物アレルギーのある子どもたちが描く夢だったり、未来への希望だったり、そういうのはないのですか?」と聞かれたんです。ハッとしました。
その方は、アトピー性皮膚炎の子どもたちが夢を語るプレゼンテーションに足を運ばれていて、参考にとそのイベントのパンフレットを持たせてくださったんです。
(アレルギーナビゲーター細川真奈さんのおしゃべり交流会の様子。「写真の大学生2人がアレルギーフリーのケーキを選んだり、当日自分たちの経験を子どもや保護者に話してくれました」(小谷さん))
小谷:
私自身、息子の食物アレルギーで心身ボロボロになった時期がありました。でも、活動から15年が経って振り返ってみると、食物アレルギーの認知は広がったものの、耳を傾けてみると「アレルギーって大変だね」「食べられるものが少ないってかわいそう」「外食も難しいし、旅行もなかなか行けないね」といったネガティブなイメージばかり聞こえてきたのです。
当時は、食物アレルギーというものがあるのだということ、そのことによる生活や食事づくりの大変さを知って欲しかったし、まず知ってもらわないことには、国や自治体の制度や仕組みを変えていくことは難しかった。でも、そこを一生懸命15年間やってきた弊害として「食物アレルギーのつらい面」ばかりが広がってしまったんです。
(阪神淡路大震災をきっかけに活動する「一般社団法人おいしい防災塾」と地域ボランティアの防災士さんと一緒に子ども対象の防災イベントを開催。災害時において、食物アレルギーへの対応は非常に重要。「防災クイズをしたりおかしポシェットを一緒に作りました」(小谷さん))
──そうだったんですね。
小谷:
でも、若い世代のアレルギーっ子たちと接していると、食物アレルギーの経験をマイナスでばかり捉えていません。自分の経験や知識を前向き発信することで、何か他の人たちに役立てたいという子たちがすごく増えているんです。
食物アレルギーのしんどさを経験したからこそいろんな視点を持てるようになり、自分の弱みを強みに変える子たちがたくさんいて、そんな彼らの情熱に触れて「もう食物アレルギーのマイナス面を伝える時期ではない。プラスの面を伝えていく時期だ」と思いました。そしてそれを発信するのは、当事者である子どもたち自身、これからの未来を生きていく子どもたち自身の声だと思いました。
そんな時、ふと京都の企業で提案してくださったドリームプレゼンテーションを思い出し、活動で関わりのあった細川真奈さんに「こういうことやってみたい」と話したんです。
細川さんに話した三日後には、もうホームページができていました。アレルギーっ子が気軽に旅行を楽しめるようにさまざまな情報発信をしているメディア「アレルギーっ子の旅する情報局 CAT」の村田愛さんに細川さんが声をかけてくださり、村田さんがホームページを作ってくださったんです。
「え!ほなやろうか!」と。嬉しかったですね。
(運営者の一人でもあるアレルギーっ子の旅情報局 CAT(Child×Allergy×Trip)の村田さんが発行する、アレルギーっ子の旅をもっと楽しく気軽にする情報誌「WAKUWAKU」。右は村田さんのロゴマーク)
(食物アレルギーに配慮し、パティシエ体験ができる「こどもパティシエ」のイベントでの一枚。米粉のクレープのデコレーションのための果物を切る)
──プロジェクトの内容について、詳しく教えてください。
小谷:
食物アレルギーの子どもたちが、食物アレルギーであるからこその自身の体験やアイディア、夢や希望を企業を始め多くの人にプレゼンするプロジェクトです。応募は4月半ばに締め切っており、小学5年生から大学生まで7名の出場者が夢を語ってくれます。
──楽しそうですね!
小谷:
出場する7名には、食物アレルギーに携わる事業を始め、さまざまな分野で活躍する「大人サポーター」がマンツーマンでつきます。プレゼンに向けて、パソコンの使い方や資料作成、発表に向けてのアドバイスや練習等のサポートを行います。
──どんな応募があったのか、ちょっとだけ教えていただけませんか?
小谷:
「食物アレルギーのために給食が食べられずお母さんが毎日お弁当を作ってくれていたけれど、市販の冷凍食品も食べられなかったので、お母さんがすべて一から手作りで作ってくれた。将来はアレルギー対応の冷凍食品を開発したい」という夢や「食物アレルギーユーチューバーになりたい」といった夢がありました。
出場する子どもたちにとってこのプロジェクト参加が自信につながってくれたらというのはもちろんですが、子どもたちを支える親御さんや周囲の大人たちが当事者の思いを知ることで、発想をプラスへと転換させるきっかけになってくれたら嬉しいですね。
──当事者だけではなく、ということなんですね。
(「大人サポーター」の一人、NPO法人「アレルギーっこパパの会」代表の今村慎太郎さん(写真中央、犬の着ぐるみを着ているのが今村さん)。「アレルギーっこパパの会」は、「食物アレルギーの子どもたちのリスクと疎外感のない社会」「アレルギー対応ができる企業がアレルギーのない人たちから選ばれる社会」を目指して活動している。JAMMINとは創業間もない2015年9月にコラボしていただきました!その時の団体紹介ページはこちら)
(「大人サポーター」の一人、大学生の鷲さん(写真右から3人目)。「H2Oサンタ NPOフェスティバル」ワークショップでの一枚。鷲さんは長年食物アレルギーによるつらさを抱えていたが、FaSoLabo京都の活動に携わるようになり当事者の集まりに参加したことで「アレルギーを隠すのではなく、伝えている人の方が楽しく人生を送っているのではないか」と思うようになったという。食物アレルギーであることは話さずに挑むつもりだった就職活動で、食物アレルギーであることを企業側に伝えると「痛みがわかり、多様性のある視点を持っているあなただからこそ来てほしい」と言われることが多々あったという。「『食物アレルギーであることは隠すことではない』と本人が思えた時、彼は私たちからしても目に見えて変わりました」(小谷さん))
小谷:
アレルギーっ子に対して「免疫療法」といって、少しずつアレルギーのある食べ物を食べさせる治療があります。たとえば小麦アレルギーのある子どもに対して、毎日3ミリずつうどんを食べて様子を見るということをするのですが、当事者である子どもの本音は「こんなことをやるぐらいなら、小麦は食べられなくても良い」だったりします。
医師や親主導で治療が進められ、診療方針に子どもの声が反映されていないケースがあるのです。しかし、果たしてそれがベストなのでしょうか?
自分の命を守る術は治療だけではないのだということ、子ども自身には楽しみながら見極め、取捨選択して生きていく強い力が備わっているのだということを、医師・保護者・学校の先生・友達など、いろんな立場の人たちに感じてもらえたらと思います。
(年に一度、FaSoLabo京都が活動報告会と共に開催しているビッグイベント「オープンキャンパス」にて。「鷲くんと私の長男が、チョコレートファウンテンで子どもの相手をしています。二人は同い年で、共にアレルギーっ子。一緒にイベントを手伝っている姿はとても嬉しい光景でした。食物アレルギーだったからこそ出会った二人です」(小谷さん))
──なるほど。
小谷:
病気や障がいのある子どもに対して、周囲の大人たちはよく「寄り添って」と言いますが、果たして本当に寄り添えているのかなと思うと、自分自身を振り返ってみても「どこまで子どもの思いや意志を聞き、大事にしてあげられていたのかな」と思います。
私自身、重度の牛乳アレルギーがあった息子に対し、「牛乳が飲めないと周囲からいじめられるのではないか」と不安になって、一生懸命飲ませようとした時がありました。ショック症状を起こしたために治療は諦めました。5年くらい経った頃、おばあちゃん経由で「もう一度牛乳にチャレンジしたい」という息子の思いを聞かされました。当時、息子が私に直接自分の思い言えないような雰囲気があったのだと思います。
保護者の方も必死です。だからこそ日頃から、大人が「子どもはどう思っているのかな」「本人はこれで良いのかな」ということを意識できる環境があればいいなと思いますし、このプロジェクトがその一つのきっかけになってくれたら嬉しいです。
もしかしたら、私が発信する方法もあるのかもしれません。でもそれはあくまでも支援者としての声です。子どもたち自身の声で夢や希望を発信することで、彼らに本来備わっている「生きる力」を周りの人たちにも再認識できるきっかけなるのではないでしょうか。
大人たちの応援が、アレルギーっ子の明るい未来をさらに広げていってくれるでしょう。
(おばあちゃん、お母さん、子どもと3世代でイベントに参加)
(昨年開催したアレルギーフリーのたこやきイベント。「子どもたちが楽しめるイベントの一つになりました」(小谷さん))
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
小谷:
今回のプロジェクト開催にあたり、広報やオンライン環境整備、社会への発信ツールに必要な資金として使わせていただきたいと思っています。開催方法については6月末に決定する予定ですが、会場・オンラインいずれの開催であっても、周知のためのチラシ制作・印刷やその配布などに資金が必要です。大人サポーターと子どものやり取りもオンラインで行うため環境整備が必要です。ぜひ、未来に描く夢の一歩を応援していただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
(FaSoLabo京都のスタッフの皆さん。Zoomでの会議の合間に一枚!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
食物アレルギーというテーマですが、小谷さんがおっしゃっていることは全てに通ずることだなあ…と感じ、深く考えさせられるインタビューでした。
暗いよりも明るい方が楽しいし、嬉しいし、多くの人がそちらに引き寄せられるでしょう。また、「子ども本人の声に大人がきちんと耳を傾けられているか」ということは、食物アレルギーに限らず、さまざまなシーンで課題となっていることです。
今回のプロジェクトが、食物アレルギーというテーマを超えて、多くの人に夢や希望、気づきを与えるきっかけになればと思います。以下のURLより詳細をチェックできるので、ぜひご覧ください!
・食物アレルギー・ドリームプランプレゼンテーション ホームページ
・FaSoLabo京都 ホームページ
梯子、気球、階段…さまざまな方法で太陽へたどり着く子どもたち。
無限の発想で食物アレルギーをプラスに変え、大人たちが思いもつかなかったような方法で未来を切り拓く様子を表現しました。
“You are capable of amazing things”、「君には、すごいことを達成できる力があるよ!」というメッセージを添えています。
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