「こんな大人になりたい」「自分もこんな風に生きたい」。
そんな風に思わせてくれて、その後の人生に影響を与えてくれた大人の存在。
皆さんにも、一人はいるのではないでしょうか。
「かっこいいな」と思える人との出会いによって、自分の価値観を見つめたり、新たな発見をしたりしながら、人生で大切にしたいものや目標がクリアになり、進むべき道が見つけやすくなる。もしかしたら、その背中を見ているだけで勇気をもらえる存在になるかもしれません。
「出会い」は、本当に不思議なパワーを持っています。
今週、JAMMINがコラボするのはNPO法人だっぴ」。
岡山を拠点に、「若者」と「地域でカッコよく生きる大人」をつなげる場をつくり、若者に夢や生きる勇気を与える活動をしています。
「だっぴ」代表の柏原拓史(かしはら・たくし)さん(39)に、活動についてお話をお伺いしました。
(お話をお伺いした、「だっぴ」代表の柏原さん。)
NPO法人だっぴ
岡山を拠点に、「自分の生き方について考える若者」と「自分のあり方を見つけて魅力的に生きている大人」とが出会い、フラットな交流の場を創出することで、若者が「こんな大人になりたい!」を見つけるきっかけ作りをしているNPO法人。若者が自分らしい多様な働き方、あり方を見つけると共に、地域社会の人的資源の向上と地域活性化の実現に向けて活動している。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(「だっぴ」が開催する【中学生だっぴ】でのワンシーン。大人と子どもが立場を超えたフラットな関係性で思いを話し合える場だ。)
──岡山で、若者と地域で活躍する大人をつなげる活動をされていますが、詳しく教えていただけますか。
柏原:
私たちは、地域の若者と大人が、気軽に安心してフラットに出会える場をつくり、提供しています。
地元の高校生や大学生、若手社会人を対象にしたイベントの他に、最近は義務教育の中でも子どもが大人たちと交流できる場を設けたいと、中学生向けのイベントにも力を入れています。
──なぜ、このような活動をされているのですか?
柏原:
身近にカッコいい大人、素敵だなと思える大人がいたとしても、その人たちと接することがなければ、子どもたちはずっとそれを知らないまま、大人になります。
「地元には面白い人がいない」「自分がなりたい理想の大人が近くにいない」と感じて、故郷を離れ、都会へと出てしまう若者もいます。
活動を通じ、親や学校、習い事の先生など、普段の生活範囲で接してきた大人だけではなく、実は身近なところにもかっこよく生きている大人ってたくさんいるんだよ、ということを知ってほしいと思っています。
人生のターニングポイントに、「出会い」は大きくかかわってきます。良い出会いに恵まれている人は、いろんな人と会っています。若い人たちも、たくさんの大人との出会いを通じて、将来へのビジョンや道を切り拓く勇気を持ってくれたら、と思っています。
(【中学生だっぴ】を受ける前と受けた後の生徒へのアンケート結果。大人の話を聞いた後では、子どもたちの将来への期待度が上がっていることがわかる。)
──どのような「出会いの場」なのですか?
柏原:
私たちが開催している「だっぴ」は、対象者に応じていくつかの層に分かれています。【中学生だっぴ】や【高校生だっぴ】のほか、【だっぴ50×50】というプロジェクトもあります。
──内容は異なるのですか?
柏原:
【だっぴ50×50】は、大学生や若手社会人などが実行委員となって運営し、自分たちで「会いたい大人」を50人探してきて作り上げるイベントです。企画からスケジュール、ファンドレイジング、先方との交渉まで、すべてを担うことで、彼らの成長にもつながっています。
(【だっぴ50×50】参加者集合写真。参加者比率は、大学生と大人がだいたい50対50。)
柏原:
このイベントは、若者の「挑戦を応援する場」。ミュージシャンやサラリーマン、美容師さんやバーテンダー、マジシャンの方など、地元はもちろん、地元を飛び出して「かっこいい生き方」をしている大人たちが参加してくださっています。
──多彩ですね!
(【だっぴ50×50】にて。こちらの参加者は、フィギュアスケート国際大会のメダリストブーケを制作しているフラワーエンターティナー・萬木善之さん。)
(【だっぴ50×50】では、実行委員が会いたい大人へ事前にインタビューを行う。インタビューを受けるお相手(写真中央)は、岡山を拠点に、新しい形で日本茶を提案する三代目茶師・下山桂次郎さん。)
──【中学生だっぴ】と【高校生だっぴ】はどうですか?
柏原:
こちらは「挑戦を応援する場」というよりは、「大人とつながる場所」。私たちが運営し、地域の中学・高校で開催しています。大人の参加者は、地域で暮らす方々です。地域のおじちゃんやおばちゃんからおじいさんやおばあさん、そして地元企業の方なども沢山参加されます。
大人・子どもを含む8〜9人で一つのグループになって、それぞれが進行役から出された「お題」に対して、フリップに答えを書く。それを「せーの」で見せ合って、話し合います。
(「お題」の答えを各自記入したフリップを見せ合う瞬間。十人十色の回答に思わず笑いが。)
──面白そうですね。どんな「お題」なんでしょうか?
柏原:
実行委員が毎回考えますが、たとえば「生きる上で必要なものは?」や「勉強する意味って何?」「どんな大人になりたい?」など、基本的に答えが「イエス/ノー」では終わらないものですね。過去や考え方など、自己開示できるようなテーマにしています。
いきなり自己開示は難しいので、最初はもっと簡単なお題からはじめます。さらに、「キャスト」と呼ばれるスタッフたちが各チームに必ずサポート役で入り、徐々にその場が打ち解けて、話しやすい雰囲気を作ることに注力しています。
──だんだん体を慣らして、本題に入っていく…という感じなのですね。
(話し合っていくうちに徐々に緊張がほぐれ、参加者全員が、安心して自分のことを話せる雰囲気が生まれる。)
柏原:
そうですね。ただ、ここで大事なのは、「答えを見つける」場ではないということです。普段接することのない人の考えや経歴を聞くことで興味のスイッチが入ったり、いつも同じ教室で勉強している友達ですら、話を聞いてみたら「そんなことを考えていたんだ」と気づくことがあったり。深く話し合うことで、いろんな気づきがあるようです。
──毎日顔を合わせている友達だと、逆に何かきっかけでもない限り、深い話をする機会は確かにないかもしれません。
柏原:
また、子どもたちにとっては「大人が自分の話を聞いてくれた」と自己肯定感が得られたり、「自分のことを親身に話してくれた」と大人への信頼度が上がったりします。
──小さなグループで子どもと大人が話し合う中で、いい風に回っていくんですね。
(参加者の緊張感をほぐしたり、話しやすいリラックスした雰囲気を作るためにチームに必ず一人は入れるという「キャスト」は皆、だっぴの研修を受けたボランティア。研修ではグループになり、本番を想定しながら練習を行っている。)
柏原:
今の子どもたちは、私たちの想像以上にがんじがらめだと思うんです。試験や受験に追われる中で「生き方を考えないと」と焦っている子も多い。
親や先生から同じようなことを再三指摘され、ストレスを感じている子どももいます。
また、親や先生が、なかなか面と向かって言えないこともあると思うんです。まったく新しい大人との出会いが、日常の中でふっと立ち止まり、より深く自分の人生を見つめる瞬間になるのではないかと思っています。
──いろんな大人に出会い、その生き方を知ることで、自分の人生と重ね合わせ、自分にも多様な選択肢があるんだということをイメージできますね。
(【中学生だっぴ】にて。非日常的な空間だからこそ、多様な価値観・考え方がゆるく交差し、共有される。)
(「大人になりたいと思った」は、参加した生徒の感想。素敵な大人との出会いが、子どもの未来を明るく灯す。)
──そもそも、どうしてこのような活動を始められたのですか?
柏原:
活動拠点でもある地元・岡山の学生を見ていると、彼ら彼女らが自分のキャリアを考えていくときに、あまりにも情報が少なく、また偏っているのを感じました。また、それに比例するように若者が「ここにいては、将来が限られてしまう」という風に感じていたんです。
岡山は、東京のように大都市ではありません。けれど、「世界は、本当はもっと広いんだ」ということ、それを感じさせてくれるような、活き活きと生きる大人が近くにいるんだということを、感じてほしいと思ったんです。
──なるほど。
柏原:
また、地域の大人たちも、自分が経験してきたことを次世代に伝えたいと考えている人が多いと感じていました。
互いを知ることで、もっと魅力を生み出していけるはずなのに、両者が出会う場がなかったんですね。若い人と地域の大人たちがざっくばらんに語り合う場所が必要だと感じたんです。
(【中学生だっぴ】にて。外見も中身もかっこいいバーテンダーの話に真剣に耳を傾ける一同。)
──柏原さんは岡山のご出身ですが、地元という点にはどんなこだわりがありますか。
柏原:
私自身は、岡山で生まれ、東京や大阪で働いた後、岡山に帰ってきました。
環境を守るために、ずっと子どもの環境教育に携わりたいという夢を持っていましたが、地元へ戻る前は転勤が多く、自分が携わった仕事の経過や成果を見ずにその土地を離れることが多かったんです。
「一度一つの場所にじっくり腰を据えて、種を蒔き、その種が芽を出し花をつけるところまで見てみたい」。そう思い、地元へ戻り活動を始めました。その過程で、環境教育から人が繋がりあう社会教育へとシフトしてきたんです。
──そうだったんですね。少しずつ実りを感じているのではないですか?
柏原:
そうですね。「将来が楽しみになった」「大人のことがあまり好きではなかったけど、話を聞いたり聞いてもらったりして好きになった」「自信が持てた」。子どもたちから、そんな声をもらっています。
参加したある高校生が「高校を辞めようと思っていたけど、だっぴのイベントである大人に出会って『こんな生き方があるんだ』と知り、一生懸命勉強して海外に留学したという話も聞きました。
これまで岡山でやってきたノウハウがあるので、今後は活動を全国にも広げていきたいです。
──今回のチャリティーの使途を教えてください。
柏原:
将来や自分の人生について、まだそこまで意識は高くないような子どもたちにも、早い段階で大人との出会いを通じて、自分の人生や生き方を考える場を届けたいという思いがあって「中学生だっぴ」に力を入れています。
活動を広げていくにあたり、教育委員会から依頼のあった中学校だけなく、開催を希望する中学校を公募していきたいと考えているのですが、開催にかかる費用の負担は決して軽くありません。
今回のコラボで、公募してくださった中学校で「中学生だっぴ」を開催するための資金を集めたいと思います。
そして、新たな子どもたちに、地域の大人との出会いを通じて新たなビジョンを届けたいと思っています!
──ありがとうございました!
(岡山県の最北東部・西粟倉中学校で【中学生だっぴ】を開催した際に、ボランティアスタッフの皆さんと!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
中高一貫の進学校に通っていた頃、「とにかく良い大学に入る」ことが何より大事とまず教えられました。「なぜか?」に対して納得できる答えが無かったので、先生が信用できなくなった私は(笑)、勉強を放棄して自転車で町中を走り回り、大学生からおじいちゃんまでたくさんの人に出会い、話を聞きました。そこで教えてもらった知識や経験が、その後の力になったことは言うまでもありません。今でも、思い返します。
「だっぴ」を当時の私が受けられたなら、どんなに刺激になっただろう、どんなに嬉しかっただろう──。そう感じながら、お話をお伺いしました。
たくさんの選択肢を知ったうえで一つの道を選んだ時、結果として同じ道を選んだとしても、最初からその一つしか選択肢がなかった場合と比べると、その後の向き合い方、生き方、すべてが変わってくるように思います。
「誰かを知ること」は「自分を知ること」。未来へ向けて心のトビラを開く若者が、出会いを通じてより自分らしく、輝きながら生きていけるように。「だっぴ」の活動を、一緒に応援しませんか?
ラジオから流れる胸が騒ぎ出すような音に、
卵の殻を打ち破り、羽ばたき歌い出す小鳥たち。
「音楽」は、魅力ある大人たちの話を、
「小鳥」は、若者を表現しています。
“Change to grow”、「成長するために、変化しよう」という言葉とともに、
「だっぴ」の活動を表現しました。
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