「マラリア」と聞くとアフリカや東南アジアを思い浮かべ、「日本は関係ない病気だ」と思う人が多いのではないかと思います。しかし、日本にマラリアが存在しなかったわけではありません。
1960年代ごろまで発症の事例があったのだそうで、源氏物語の光源氏や平清盛もマラリアに苦しんだ様子が文献に残っているのだそう。
日本を出ると、東南アジア諸国では、現在でもマラリアは深刻な問題。
アジア諸国への旅行者、アジア諸国からの渡航者も増えているなかで、日本人にとってマラリアは決して他人事の病気ではありません。
今週のチャリティー先は、Malaria No More Japan(マラリア・ノーモア・ジャパン)。
マラリアの撲滅を目指して活動を行っている国際NGOの日本支部です。
今回は、理事である長島美紀さんと、事務局次長の飯塚由美子さんにお話をお伺いしました。
▲今回お話をお伺いした長島さん(右)と飯塚さん。中央はマラリア・ノーモア・ジャパン専務理事の水野達男さん。
NPO法人Malaria No More Japan(マラリア・ノーモア・ジャパン)
「マラリアの無い世界」を目指し、キャンペーンやイベントを通じた啓発活動や政策提言を行うほか、マラリアの犠牲者を無くすために海外でも精力的に活動をしています。
TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
——日本にいると、マラリアって遠い病気というか、「聞いたことはあるけど、よく知らない」っていう方がほとんどだと思うんです。
まずはマラリアという病気について教えていただけますか。
「マラリア」は、マラリア原虫を持った蚊(ハマダラ蚊)に刺されることで感染する病気で、アフリカやアジア、中南米などの地域で流行していています。
感染すると、発熱や吐き気などの症状が現れ、最悪の場合は死に至る病気です。
毎年2億人がマラリアに感染していて、年間42万人が死亡しています。
——死者42万人?深刻な数ですね…。
ここ10年の集中的な予防活動もあり、死亡する人は減少しつつありますが、それでも世界では、2分に1人がマラリアで命を落としています。
▲こちらがマラリア原虫を運ぶ蚊・ハマダラ蚊。
——2分に1人…日本にいるとなかなか実感しないことですが、こうしてお話を聞いている間にも亡くなる方がいるんですね…。
マラリアに感染すると、具体的にどんなことが起こるのですか。
マラリアには、三日熱(みっかねつ)マラリア、四日熱マラリア、卵型マラリア、熱帯熱マラリアの4つの種類があります。
感染すると、10日〜30日の潜伏期間を経て発熱や嘔吐、頭痛などの症状が現れます。なかでもアフリカで流行している熱帯熱マラリアは、感染すると重症化する確率の高い、とても危険なマラリアです。
熱帯熱マラリアに感染すると、血液中の赤血球の形自体を変えてしまい、血液がドロドロになるんです。血が流れにくくなり、脳や腎臓にも影響を及ぼし、治療が遅れると最終的には死に至ります。
熱帯熱マラリアはアフリカで流行していて、毎年マラリアによって命を落とす人たちの95%はアフリカ地域の人たちです。
▲マラリアのリスクのある国(2010年)。(出典:厚生労働省検疫所「FORTH」)
——いかに「熱帯熱マラリア」が脅威のマラリアであるかを示すデータですね。
アジアで流行しているマラリアはどんなマラリアなのですか?
私たちが活動している東南アジアで流行しているのは、三日熱マラリアや四日熱マラリア、卵形マラリアです。
三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵型マラリアは早期の発見と薬の投与で大事には至りません。
——早期の発見が大切なんですね。
そうでうね。
ただ、一つ気をつけておきたいのは、薬に耐性のある原虫が出てきて、薬を投与しても効果がない場合が出てきてしまうこと…。マラリアによる死者がなくならない一つの原因です。
——日本に住んでいるとマラリアとは縁がないと思うんですが、どうしてマラリアは日本には無いのでしょうか?
マラリアが発生する背景にはどんなことがあるのですか。
日本も、戦後まではマラリアがあったんです。
マラリアが発生する場所を考えてみると、貧困地域なんですね。要は、マラリアは「貧困地域の病気」と言えるんです。
▲写真はインドネシア北スラウェシ州マナド周辺トンバツにて。インドネシアでもマラリアの発生はジャカルタなど都市部ではなく、田舎のインフラの整っていない地域で発生しています。
——確かに…住宅街やオフィス街に発生するイメージはないですが、その原因を考えたことがなかったです。
なぜ貧困地域で発生するのでしょうか。
インフラが整っていないのが大きな原因です。
マラリアを運ぶ蚊が発生しやすいのは、下水や汚水、水たまりなど汚い水がずっと放置された場所。
下水設備が整っておらず、水たまりや池などがあると、蚊が卵を産みやすく、ここにボウフラ(蚊の幼虫)が発生し、マラリア発生の原因になります。
雨期には牛の足跡に貯まった水だけでマラリア発生の原因となってしまうことさえあるんです。
——逆にいえば、下水設備が整うと、蚊の発生場所自体が減り、マラリアが減っていくということでしょうか?
そうですね。
蚊の発生自体を減らすことができれば、当然マラリアの発生を予防できますが、マラリアが流行しているインドネシアやインド、タイとミャンマーの国境などの田舎の貧困地域では、下水が整備されておらず汚水の貯まった池や水たまりがいたるところにあるのが現状です。
——そこにボウフラが発生し、蚊になってマラリアを運ぶということですね。
あとは、こういった貧困の地域は医療施設の設備がしっかり整っていないことが多く、それも原因のひとつです。
簡易的な血液検査の精度が低く、誤診により必要な人に薬が届かないこと、24時間体勢で患者を診ることができないことも、マラリアの発生を食い止められない原因としてあげられます。
▲蚊帳の配布の様子。2016年、セネガルにて。
マラリアは、予防できる病気です。
蚊に刺されないことが一番なので、服装に気をつけることや、蚊帳を張ることなどはとても効果的です。マラリア原虫を運ぶハマダラ蚊の活動時間が夜なので、就寝中に蚊帳を使用するのはすごく有効なんです。
——確かに、刺されなければ感染しませんよね。
でも、蚊ってなかなか活動範囲を制御できないところもありますよね。
もし刺されてしまった場合はどうなってしまいますか?
万が一マラリアに感染した場合も、早期に発見できれば、投薬によって治療できます。
だから、マラリアが流行している地域の人たちが、「マラリアにかかるリスクがあることを自覚し、日常的に気をつけて行動するだけでも、マラリアは防ぐことができるんです。
▲セネガルの地方のヘルスセンターに常備されている薬と簡易検査キット。
——なるほど。蚊に刺されないように気をつけること、「ちょっと体調悪いな…風邪かな?」というときは検査を受けること。それだけでも全然違いますよね。
「マラリアにかかるリスクがある」と自覚しなければならないのは、マラリアが発生する地域の人たちだけではありません。
アジア内で人の行き来が増えるなかで、日本人にとっても、マラリアは決して無関係な病気ではないんです。
——…そう言われてみれば確かに、海外旅行から帰国した人がマラリアに感染していたというニュースをたまに見かけます。
そうですね。
アジアやアフリカなどマラリアが流行している地域に旅行に行くときは気をつけてほしいのはもちろんなのですが、日本国内にいても決して他人事ではないということを意識して欲しいと思います。
▲毎年4月25日は世界マラリア・デー。2030年のアジアでのマラリア制圧に向けて、毎年イベントが開催されます。今年は4/25に東京・銀座にて開催!(詳しくは団体ホームページよりご確認ください)
実は、世界で「潜在的にマラリアにかかる可能性がある人たちは32億人いると言われているんです。
つまり、全人口の二人に一人がマラリアにかかるリスクがある。
マラリアは、それぐらいおそろしい病気なんです。「海外で流行している病気でしょ、関係ない」と思わずに、日本国内にいても、マラリアについて知っておいてほしいと思います。
私たちは、2030年までにアジアからマラリアをなくす活動、「ゼロマラリア2030キャンペーン」の活動をしています。
様々な取り組みのなかで、主に東南アジアのマラリアが流行している地域で、現地の人たちにマラリアへの意識啓発を行うことも私たちの役割のひとつです。
——具体的にどのように意識啓発をしていらっしゃるんですか?
現地の人たちとマラリアを運ぶ蚊の幼虫(ボウフラ)の発生源を記した地図を作って「あ、こんなところに蚊がいるんだな」とか「自分の家の近所は水たまりが多いから、蚊に刺されないように予防しなきゃ」とか。
そんなふうに本人たちが「マラリアにかかるかもしれない」と自覚できると、やはり予防につながります。
こうやって一人一人がマラリアを知り、予防への意識を高めることは、2030年までにアジアのマラリアを制圧するためには、重要です。
▲インドネシアにて、蚊の発生状況の調査風景。
この「ボウフラ発生源マップ」の延長で、蚊避けの「防虫菊」を植えるという企画があるんです。
——「防虫菊」ですか?
はい。防虫菊と聞いてもあまり馴染みがないかもしれませんが、「蚊取り線香」の原料になっているハーブなんです。
——なるほど!日本人にも馴染みのある蚊よけアイテムですね。
そう。たとえばこれを現地の人たちと植えながら、「マラリアがどんな病気で、どんなふうにこわいのか」、「自宅の近所のどこらへんで蚊が発生しているか」、「もし感染を疑われるような症状があれば、どうすれば良いか」などを深く知ってもらうためのきっかけ作りになればと思っています。
——なるほど。
4月25日は、WHOが制定した「世界マラリア・デー」です。
未だ多くの人が命を失っているマラリアの制御・根絶を目指して、マラリアが発生している地域の現状や根絶のための取り組みを知ってもらう機会として、2007年に制定されました。
▲世界マラリア・デーに合わせて、東京メトロの車内に意見広告を掲示した2016年。
「世界マラリア・デー」に賛同・参加できるアクションとして、ぜひマラリアゼロに向けて、今回のチャリティーにご協力してくださると嬉しいです。
——まだ企画中ということですが、防虫菊を植えるなら、今回のチャリティーでどのぐらいのアクションが起こせるでしょうか?
防虫菊のタネは、一袋350円ほどです。今回、50,000円をチャリティーで集めたいと思っていますので、タネに換算するとおよそ150袋購入することができます。
1箇所あたり3袋ずつ植えていくとして、50箇所に防虫菊を植えることができます。
——JAMMINのTシャツだと、1枚につき700円のチャリティーなので、防虫菊が2袋購入できますね!
防虫菊のタネに限らず、現地の人たちの心のなかに「マラリアに対する知識と自覚」の種を植え、育てていくご活動、応援しています!
▲マラリア予防啓発の歌を歌う長島さん(中央)と子どもたち。2015年2月インドネシアにて。
インタビューを終えて〜編集後記〜
「聞いたことはあるけど、どんな病気かはよく知らない」。マラリアに対して、多くの人が持っているイメージではないでしょうか。
私自身、今回の取材で日本も過去にマラリアが流行していたことを知り、驚きました。
これからやってくる暑い夏。日本で蚊を刺されても、しばらくかゆいだけですが、もし蚊が病気を運んでいて、刺されることで病気に感染してしまったら?最悪、大事な人や自分が死んでしまったら?
…そんな風に考えてみるだけで、マラリアの深刻な状況がイメージできます。
マラリアのない世界を創るために。
皆様、ぜひチャリティーにご協力ください!
Malaria No More Japan のホームページはこちら
“Small things become large things”、小さなことの積み重ねが、やがて大きな力になる。そんな思いを表現しました。
これは、一歩一歩、小さなことを着実に。マラリア撲滅を目指して活動を続けるMalaria No More Japanの思いでもあります。
言葉の周りは、防虫菊同様に虫除けの効果のあるレモンユーカリやゼラニウム、バジルなどのハーブで囲い、ボタニカルで大人っぽい雰囲気に仕上げました。
※今回は「世界マラリア・デー」を記念して、キャンペーンカラーのオレンジも限定でご用意しました!
(BASIC T/WHITE、BAG/WHITEのみ)
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