経済的な理由や不登校、地理的な理由などで十分な教育を受けることができない子どもたち。いわゆる「教育格差」が今週のテーマ。
低学力のまま大人になると、そのまま低所得の職業に就くケースが多く、子どもの頃からの「教育格差」が、大人になってからの「生活の格差」につながります。
子どもの置かれている環境が多様化する現代、その環境によって子どもが学びを諦めてしまったり、将来が左右されたりすることがあってはならないーー。
1人でも多くの子どもたちに、「学びの場」を提供するために、ICT(情報通信技術)を使った教材を制作し、教育の機会を与える活動をしているのが、今週のチャリティー先・NPO法人eboard(いーぼーど)。
元教師や塾講師など、学習支援の現場にいた先生たちが集まり、オリジナルで制作する「教材」に特化した学習支援活動をしています。
eboardの利用方法は、とてもシンプル。
eboardが作る学習用動画サイトは、無料で誰でもアクセスが可能。
個人はもちろん、子どもの学習支援を行うNPO団体や学校でも利用できます。
「ボランティアによる学習支援はリソース(人手)の限界がある。ICTを利用することで、学習が行き届かず困っているもっと多くの子どもたちに教育を届け、教育格差の課題解決を目指したい」。
そう話すのは、eboard創設者であり、代表理事の中村孝一さん。
詳しい活動内容についてお伺いしました!
▲eboard代表の中村さん。
NPO法人eboard(いーぼーど)
「学びをあきらめない社会の実現」を目指し、貧困や不登校・過疎化などにより学習機会が少ない子どもたちに、教育機会と環境を届ける活動をしています。
——活動内容について、教えてください。
私たちNPO法人eboardは、「学びをあきらめない社会の実現」をミッションに活動しています。
私たちが制作・運営しているオンライン教材「eboard」は、無料で提供している学習支援サービスで、インターネットが使える環境であれば、誰でも、どこでも無料で受けることができます。
1本あたり10分程の教材動画が、約2,000本あり、この開発・運営が活動の一つです。
具体的にはどんな動画なのでしょうか?
パソコンやタブレット、スマートフォンがあれば利用できます。
動画はドリル(問題)とセットになっていて、これを解きながら動画を見て、学びを進めていくことができます。
▲タブレットを使ってeboardで学習している生徒の様子。
動画を見るにあたって特に決まりはなくて、問題を解いてから動画を見ても良いし、わからないところだけ見ても良いし。
自分のペースで進めることができる、個別指導スタイルになっています。
▲こちらが動画教材「eboard」の実際の画面。動きもあって、とてもわかりやすい内容です。
活動の二つめが、eboardを使って学んでいる学習支援の現場で、しっかりと研修やサポートをして教育環境を整備すること。
これまでにeboardを使ってくださっている定時制高校のサポートや、地方の自治体が実施する「自学教室」などで学習の進め方のカリキュラムを一緒に考えたりと、子どもたちが学習に集中できる「場づくり」にフォーカスしてきました。
というのも、eboardという学習教材が整っているからといって、子どもたちが勉強に集中できるかというと、そういうわけではないからなんです。
もちろん、学習自体はeboardの教材を使ってしっかり学べるようになっています。
▲島根県益田市の公民館で中学生を対象に毎週行われる「eboard自学教室」。学習会の場づくりを行うのは公民館の職員さん。勉強を教えることはできなくても、映像授業を見て一緒に考えたり、声をかけてサポートを行っています。
しかし、「勉強の仕方がわからない」、「勉強をしたからといって何が変わるかわからない」という子どもたちに対して、意欲や環境の面でも学習に向かえるように働きかけをしています。
eboard教材は内容もしっかりしているので、導入してもらった地域や学校、教育委員会やNPO団体など学習支援の現場のスタッフの方が、必ずしも「勉強を教える」というノウハウを持っている必要はありません。
ただ、「場づくり」は、支援者の皆さんと協力して進める必要があります。
その地域や学校に根ざした運営ができるように、子どもの学習への促し方や、学習を進めるなかでの子どもへのサポートも含めて、スタッフの方たちに向けての研修やフォローも活動のひとつです。
▲公営塾にて、講師の方向けに行った研修の様子。子ども達に身につけてほしい力、それを実現できるカリキュラムや授業について考えました。
——学習支援現場の人たちが教えるノウハウを持っていなくても良い、ということですが、もしeboardの動画を見た子どもから「わからない」という声があった時はどうするのでしょうか?
わからない問題を子どもから聞かれて、その場ですぐに答えを導き出すことはできなくても、子どもと一緒になって解き方を考えたり、「学校の先生なら答えがわかるから、今度先生に聞いてみよう!」と、大人が一緒に解決策を考えてくれる。
それだけで、子どもたちにとっては「大人にも難しいんだな」とか、「一緒に考えてくれた」、「歩み寄ってくれた」、だから「がんばろう」と学習を進める上で自信にもなります。
——なるほど。
子どもたちが学ぶために、教材だけを提供されているのではなく、人間関係や環境も含めて、学べるきっかけや場所を提供されているのですね。すばらしいですね。
▲公民館で行われる「eboard自学教室」。先生や地域の方も参加し、地域ぐるみで子どもの学びをサポートします。
活動の3つめは、貧困や不登校、地理的な格差によって生まれる教育格差を埋めることです。
eboardで学習をしている子どもたちの背景はそれぞれです。
都会に住んでいる子どももいれば、地方に住んでいる子どももいるし、学校や自治体、NPOが運営する教室で利用する子どももいれば、自宅で利用する子どももいます。
また、eboardのユーザーには不登校や学校が苦手な子どもたちも多いです。
不登校の子どもたちのうち、何らかの支援を受けて「出席」となるのは3割程度。それも学習を伴わないものが多く、学習機会は全くと言っていいほど保障されていません。
中学卒業後は、定時制や通信制に通う子も多く、中退してしまう子、卒業後も就業できない子が多いのが現状です。
eboardは、こういった子どもたちへの学習の場となっています。
いずれのケースにせよ、学校の授業からしばらく離れていたり、貧困や地理的問題から一般水準のレベルについていけていなかったりする子どもたちにも、ICT(情報通信技術)を通じて、オンライン教材で個別の学習の場を提供できる。
ICTで質の高い学習を受けることができれば、学びをあきらめてしまうことも回避できます。
▲現場の先生と一緒に、学習の進め方や学習サポートの取り組みについて話し合うeboardスタッフ。
——中村さんが、子どもたちが「学ぶ」という点にこだわっていらっしゃるのは、どうしてなんでしょうか?
僕が「学ぶ至上主義」というか、人間は学んでなんぼだと思ってるんですね(笑)。
大人になってみて、働き方が上手い人って、学び方が上手い人なんですよ。
学ぶことをあきらめず、常に学ぶことに貪欲な姿勢さえ身についてしまえば、あとはテーマがなんであれ、変わらない。自分で道を切り拓いていくことができると思うんです。
学習を通じて、人生の基礎となる「学ぶ姿勢」を身につけてほしいと思っていて、そこに対して、コンテンツや良いノウハウを共有することで貢献したいと思っています。
▲eboardの活動をはじめて1年余りが過ぎたころ、10kgのお米とかわいらしい字でかかれた応援が届きました。「eboardのおかげで毎日が楽しくなります」というメッセージが。
——子どもたちに直接教えるのではなく、どうしてeboardのようなオンライン教材サービスを始められたのですか?
学習塾の講師や学習支援のボランティアをしていたんですが、一緒に勉強をしていくと、生徒たちの学力や行動って、ちゃんと変わっていくんですね。
一方で、自分が見ることができる生徒は限られているし、先生たちみんながみんな、生徒と良い関係を築いたり上手に教えられたりするわけでもありません。
あとは、途中で教室にこなくなってしまう生徒もいるんですよね。実際に「不登校だから家で勉強している」とか、「家庭で勉強できず、学力の遅れがひどい」という声もありました。
そんな子どもたちにも学べる環境を届けていくには、どうしたらいいか。
ICTを利用し、誰でも、どこからでも学べる教材を提供することで、学びをあきらめてしまっている子どもを減らすことができるのではないかという答えにたどり着きました。
現場の子どもたちと直接関わる機会は減りましたが、それでもたくさんの子どもたちの力になれるのではないかと思うと、自分の役割はこれでよかったんだと思っています。
——最後に、今回のチャリティーの使途を聞かせてください。
eboardの教材の制作には、恒常的に固定費がかかります。
けれど今回、JAMMINさんとのチャリティーでは少し難しい課題に取り組もうと思っています。学校や自治体など、予算がある場合は、eboardの利用にあたりお金をいただいて研修をさせてもらっています。
しかし、学習支援活動をしている団体のなかには、予算がなく、なかなか私たちが伺うことができない団体もあります。
今回のチャリティーは、こういった団体に向けて、eboardの使い方や子どもの学習方法などを伝える研修を東京や大阪など複数の都市部で実施するために使わせていただきたいと思っています。
——その先に学習支援を待っている子どもたちがいると思うと、とても意義のある研修ですね。
貴重なお話、ありがとうございました!
▲今回のコラボアイテムを着て、スタッフの皆さんでパチリ!
インタビューを終えて〜編集後記〜
子どもの頃って、学ぶことの大切さってそんなに感じないように思うんです。ゲームをしたり、友達とどこかへ行ったり…つい遊ぶことばかりに意識がいきがちなのは、私だけではなかったはずです(笑)。
でもやっぱり、今大人になって思うことですが、学ぶことは本当に大切。
それは学歴云々ではなく、何か目標に向かって集中して取り組む姿勢であったり、学ぶことを通じて少しずつ積むことができる成功体験であったりするのかもしれません。
「オンライン教材」、しかも「無料のサービス」を通して、誰でも、どこにいても質の良い教育が受けられるeboardのサービス。
インタビューを通じて、教材の制作はもちろん、研修等も含め、労力と情熱の要る活動だと感じました。
中村さんのお話にあった通り、「学ぶ姿勢」が人生の基礎になるというのは間違いのないことだと思います。
と同時に、子どもたちの未来に本気で取り組む大人たちがいること、そんな姿を子どもたちが目の当たりにすることこそ、子どもたちのこれからの人生にとって、大きな意味を持つように感じました。
オンラインだけではなく、「学びの場」を通じて地域や人々と子どもをつなぐeboardの活動。ぜひ、チャリティーにご協力ください!
▼eboard説明動画
“Learn to change, change to learn”. 「変わるために学ぶ、学ぶために変わる」。
eboardが発信する「学ぶことの大切さ」を表現したメッセージ。
このメッセージが、パソコン上でテキスト選択したときのように網掛け状態になっています。子どもたちが自らこのメッセージを選択し、未来へ向かって力強く歩んでいく様子を表現しました。
エッジの効いたデザインで、男女共に楽しんでいただけます!
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