皆さんは、どんな子ども時代を過ごしましたか?どんな風に大人になりましたか?
中学や高校時代、「自分って何だろう」、「自分には何ができるんだろう」、そんなことに悩んだ時期はなかったでしょうか。
親や先生に反抗し、本当の自分を認めてほしいともがき苦しんだ時期はありませんでしたか。ずっと良い子を演じて、疲れてある日ぷっつりと糸が切れてしまったような経験はありませんか–−。
大人になってしまえば、記憶のどこかに追いやられ忘れ去ってしまうようなものでも、当時は悩んだり、憂鬱になったりした経験が、誰しもあるのではないでしょうか。
今回のチャリティー先はNPO法人D.Live。
「子どもがなりたい自分に向かって思いきり取り組める社会をつくる」ことをミッションを掲げ、「子どもの自尊感情(自己肯定感)」を育むことに特化して活動をしているNPO法人です。
今回は、代表理事の田中洋輔さんにお話をお伺いしました。
NPO法人D.Live代表理事の田中洋輔さん。
NPO法人D.Live(ドライブ)
滋賀県草津市を拠点に活動をしているNPO法人。子どもと子どもに関わる大人、両方へのアプローチを通じて「子どもの自尊感情」を養い、子どもたちが自信を持ってキラキラと夢に向かっていくことができる社会を目指しています。
——活動内容について教えてください。
子どもの「自尊感情」を育み、伸ばすための活動をしています。
成長過程にある子どもたちの心はとても繊細です。
自己肯定感を持てずにうつや不登校になってしまったり、自分や他人を傷つけてしまったり、最悪の場合、自殺してしまうこともあります。こういった問題に立ち向かい、活動を通じて子どもの自尊感情を育む場所を提供すること、また子育て・子どもへの対応に悩んでいる大人の方向けに子どもの自尊感情を育む方法をお伝えし、生活や教育の場で生かしてもらえるようにワークショップや研修を行っています。
また、今回のチャリティーアイテムをご購入いただいた際に同封させていただくのですが(※冊子がなくなり次第終了)、「自尊感情とは何か」を多くの人にしってもらうために「子どもの自信白書」という冊子の発行もしています。
D.Liveの活動を通じて、子どもが完全孤立することなく、夢や目標を持ち、自信をもって歩んでいけるようにサポートしたいと考えています。
——「自尊感情を育む場所」とは、具体的にどのような場所なのでしょうか?
私たちの子ども向けの活動に、「TRY部(トライブ)」があります。
月謝をいただくかたちで運営している教室で、現在は小学校5年生から高校2年生までの子どもたちが通っています。
不登校の子どもが多く、週に2回、毎週2時間ずつ「自分と向かい合う作業」をします。
「何がつらいのか」、「何がしたいのか」など、スタッフと対話しながら自分自身の不安や不満ややりたいこと書き出して、自分自身の本当の気持ちを見つけていきます。
TRY部の様子。子どもたちがLEGOを使って自分を表現しています。
——子どもたちはみんな抵抗なく参加してくれるんですか?
いいえ(笑)。最初は「やりたくない」とふて寝する子もいます。でも、今やりたくないなら、それはそれでかまわない。
まずは「その子自身」を受け入れ、見守ること。そうすることで、少しずつ心を開き、話してくれるようになります。
子どもにとっては、親や先生など近い場所にいる大人たちから得る「安心感」が何よりも大事です。
たとえ子どもの主張する通りに物事が進まなかったとしても、自分の意見を聞き、理解しようとする姿勢に「この人はわかってくれる」と安心感を持つと同時に、自分自身のことを肯定できるようになる。
そこが「どうせあなたにはできないから」、「やめておきなさい」と頭ごなしに否定されると、自分の気持ちに蓋をして、大人の顔色を伺ういわゆる「良い子」になってしまったり「自分はダメなんだ」と諦めてしまったりと子どもの自尊感情の低下を招く結果になりかねません。
親の言う通りにするから、ほめてもらえる。成績がいいから、認めてもらえる。本人の気持ちが本当は別のところにあったときに、子どもは自分らしく振舞うことができないのと同時に、自信を失ってしまうのです。
——子どもたちが自分の本当の気持ちを知ることにはどんな意味があるのでしょうか?
自分自身の気持ちに気づくと、変わるんです。
たとえば、不登校の原因を探ってみる。実は「本当に学校に行きたくない理由」を理解し、把握している子どもは多くないんです。
「なんとなく学校に行きたくない」、「どうしても朝起きられない」、「学校に行きたいけど、行こうとするとお腹が痛くなる」。本人たちもはっきりした理由に気付いていなくて、つらい思いをしていることが多いです。
最初からポンと簡単に答えが出てくるわけではありませんが、ひとつひとつの「嫌なこと」や「やりたくないこと」を書き出して、その理由を探っていくと、本当の自分の気持ちにたどり着く。
「型に縛られたくない」、「気を使いすぎて疲れる」、理由はいろいろです。
「これが嫌だったんだ」、「これができなかったんだ」、そんなことに一つひとつ気付いて、思いを言葉として具現化したときに、「そうだったんだ」と納得しできるのと同時に、解決すべき課題に対しては「解決するために何ができるか?」という次のステップに進むことができます。
TRY部での一コマ。生徒の作業を見守るスタッフ。
——なるほど。
実際に、TRY部の活動を通じて自分が抱えていた本当の思いに気付き、「マイプロジェクト」というTRY部で実践しているカリキュラムで、自分の課題を乗り越えて自信を取り戻し、今では生徒会をやっている子もいますよ。
——「マイプロジェクト」ですか?面白そうですね。どのようなカリキュラムなのでしょうか。
自分で目標を立て、実践する。自分でプロジェクトを起こし、行動するのが「マイプロジェクト」です。
毎月「マイプロジェクト」を実践し、1カ月経って経過・結果を皆の前で発表する。
もちろん、うまくいかないプロジェクトもあります。でも重要なのはそこじゃない。
目標を持ち、そこに向かって行動していくなかで、心境の変化を経験したり、それまでは踏み出せなかった一歩を踏み出したりすることができる。そこで自尊感情も育まれていくし、子どもたちにとっては、新しい自分に出会う大きな挑戦なんです。
その時々の状況で子どもたちを支え、励まし、共にゴールを目指す伴走者のような存在でありたいと思っています。
「D.Live(ドライブ)」という名前には「目的地に向かって一緒に出かけようよ」、そんな思いが込められているんです。
ただ、僕たちが示すのは、答えではなく、あくまで「選択肢」。
目的地はここだと僕たちが断言するとか、目的地までぴったり寄り添って一緒に行くというわけではありません。最後に道を決めるのは自分自身。だからこそ、一人ひとりの悩みや個性を尊重し、選択肢のメリットとデメリットを伝えたうえで、最終的な判断、最終的な目的地へは本人一人で行ってもらうようにしています。
目的地に向かって一緒に出かけようよ、でも自分だけの目的地を見つけたら、そしてその時、そこを目指す十分な力が備わっていれば、そこからは一緒に乗っていた車を降りて、本人が自分の足で歩んでいく。それが僕たちが目指すかたちかもしれないですね。
マイプロジェクトを発表する生徒。プロジェクトを通じて、生徒たちも徐々に変化し、成長していくのだそう。
——田中さんは、そもそもどうしてこのご活動を始めようと思われたんでしょうか?
僕自身が、不登校だったし、引きこもりでした。
小学1年生のときに、学校の先生に「君には理解できないよ」と言われたことがきっかけで、「大人はずっと敵だ」と思っていました。
「大人には自分のことなんてわからない、見返してやる」。そう思って「結果を出すしかない」と部活に打ち込みました。復讐心みたいなものですよね。
親の言うことも先生の言うことも聞かなかった。成果を出し続けることで、大人たちに自分を認めてもらおうと必死でした。
つまり、成果にしか自分のよりどころがなかったんです。「1人でがんばる」ってことをずっとやっていたんです。
結果が出るうちはいいんです。「成果を出している自分」を周囲にアピールできるので。。
でも、ある日結果が出なくなる。
それまで成果がよりどころで、そこに自分のアイデンティティーがのっかっていたわけだから、挫折しました。大学生になって、「素のままの自分で大丈夫」と思える仲間に恵まれたおかげで少しずつ社会に出られるようになりましたが、それまでは不登校で引きこもりだったんです。
保護者向けの講演会で講演をする田中さん。自身の経験を生かし、精力的に活動しています。
——そうだったんですね。今のご活動には、ご自身の体験が大きく関わっているんですね。
不登校とか引きこもりってネガティブなイメージで見られることが多いんですが、僕自身はそうではなかったんです。
周りからしたら、不登校で引きこもっているから「あの子はやる気がない」とか「かわいそう」とかって言われるわけです。でも、そうじゃない。
やる気も、がんばりたい気持ちもあった。だけど、それがうまく出せなかったし、どうしていいかわからなくて、自信が持てなかった。
車で例えるなら「アクセルを踏みながらブレーキをかけている」、そんな状態でした。
「あのとき、こんなサポートがあったらよかった」という自分自身の思いを、D.Liveの活動に詰め込んでいます。
「学校に足が向かない、でも不登校だからと言って不登校児童のためのスクールに通うのは少しハードルが高い…」、そんな子どもたちの居場所を作りたいと思っています。
——最後になりましたが、今回のチャリティーの使途を聞かせてください。
D.Liveにはまだ、腰を据えて活動できる事務所がありません。
2017年の3月を目処に、滋賀県草津市内に一軒家を借りて子どもの居場所兼事務所にしたいと考えています。開放して、不登校の子どもたちの居場所となるだけでなく、子育てに悩むママさんや地域の方たちとのつながりの場にしたいと思っています。
新しい出会いや取り組み、これまでになかった何かが生まれる場になってくれたらうれしいです。今回のチャリティー資金は、そのために使わせていただきます。
——わかりました。今後のご活躍も楽しみにしています!
TRY部の生徒とスタッフの皆さん。今回のコラボTシャツを着ていただきました!
インタビューを終えて〜編集後記〜
私の通った高校は、クラス分けが成績順でした。成績が上から順番にクラスに振り分けられ、成績が良いクラスと悪いクラスとで何かと待遇が異なるように感じたものです。
「勉強ができない=ダメな生徒」というレッテルを貼られるのが怖くて、テスト前は夜明け前まで勉強し、テスト当日は食事も喉を通らないほど緊張していました。
「このままでは、いつか自分はだめになる」。そう思い、ある日を境に勉強をパタリと止めてしまいました。
成績はみるみる下がりましたが、外に出ていろんな人に出会い、様々な価値観に触れました。たくさんアドバイスをもらい、目標もできました。「成績じゃない、自分は自分のままでいいんだ」と自分を肯定できるようになりました。
今回、田中さんのお話を聞き、自分自身の学生時代を振り返ったとき、あの時の経験は「自尊感情」を育むための大切な行程だったんだと改めて気付きました。
幸いにも良い出会いやタイミングが重なり、答えを見つけ、ポジティブな方向に持っていくことができたもものの、行き詰まり、悩み、打ちひしがれていたあの時期、そのまま殻にこもり、心の扉を閉じてしまう可能性も十分にあった。決して他人事ではなかったと感じます。
子どもの自尊感情を育むD.Liveの活動を通じて、1人でも多くの子どもが生きる喜びを見つけ、ワクワクすること、キラキラすることに向かって夢を描き、そこに突き進んでいくことができるように、皆さんもぜひご協力ください。
「Mine(私のもの)」と書かれたスーツケースのなかには、壮大な宇宙が広がっています。
「あちこち探さなくても、あなたはもう既に無限に広がる宇宙のような可能性を持っているんだよ」というストーリーを表現しました。
“To love oneself is the beginning of a life long romance”. まずは自分を愛することで新しい世界が拓け、愛のある人生が始まる。そんなメッセージと共に。
ほら、あなたのスーツケースはそう、あなただけのストーリーと愛で満たされています。
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