2017.6.18 | CATEGORY : THE FACTORY
JAMMINは京都にある会社。
歴史と文化が根付いたこの街ならではのものづくりに、新しさをプラスして発信できないかと、日本伝統のアイテムに注目しています。
そして、目をつけたのが「手ぬぐい」。
新しさを出しつつ、古き良き伝統のスタイルも残したい。
そんな思いで手ぬぐいについて調べていくと、「注染手ぬぐい」という独特の染め方をする手ぬぐいにたどり着きました。
今回「注染手ぬぐい」を依頼したのは、京都の隣・大阪にある『ナカニ』さん。
創業51年目を迎える老舗の手ぬぐい工場です。
4月の陽気が暖かいある日、堺市にあるナカニさんの工場を訪れました。
対応してくださったのは、ナカニ広報の藤浦泉さん。
(広報・営業担当の藤浦さん。ご自身も注染手ぬぐいの大ファンなのだそう)
『注染手ぬぐい』の工程や歴史について、詳しく教えていただきました。
TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
『注染手ぬぐい』の「注染」とは、字のごとく「染料を注ぐ」スタイルで手ぬぐいを染める方法。
ナカニは、大量生産が当たり前、商品は全て同じものができて当たり前の現在、多くの手ぬぐいもまたプリント染めが主流になりつつある中で、あえて職人による手作業にこだわり、1枚1枚風合いが異なる、愛着の湧く商品を作り出しています。
ナカニのある大阪府は、注染発祥の地とも言われ、もともと染め工場軒を連ねる地域でした。
しかし、戦後の大量生産・大量消費の波に押されて手ぬぐいの需要は減り、ひとつ、またひとつと工場は消え、今では片手で数えられえるほどになってしまったのだそうです。
手ぬぐい自体の歴史は古く、なんと飛鳥時代にまでさかのぼるのだそうです。
包んだり、拭いたり、巻いたり。いろんな用途に使え、何度も洗えて乾きやすい。
日本人の生活に馴染み深かった手ぬぐい。
全国に工場がありましたが、大量消費の波と共に需要が減り、現在、産地三大地域とされているのは東京・浜松・大阪の3地域で、手ぬぐい職人さんは現在、全国で100人もいないのだそうです。
注染は、明治時代、大阪の商人が「1枚ずつではなく、1度にたくさん染められないか」と考えて編み出された染め方だという説があります。
「1疋(ぴき。2反(25メートル程)に相当)」ある長い布を、手ぬぐいの長さにじゃばら状に丁寧に折り返して重ね合わせた束に、上から染料を流し込み一気に染め上げることで、一度に25枚の手ぬぐいを染めることができます。
手染めならではの風合いと愛らしさが魅力的な注染手ぬぐい。
染め上がるまでの工程を見せていただきました。
さっそく、迷路のように入り組んだ工場のなかへ。
使い込まれて味のある器具たちが並んでいます。
最初に案内してもらったのは、「板場」と呼ばれる糊置きの工程。
ここでは、手ぬぐいのデザインの「色をつけない部分」に、1枚1枚、海藻と土でできたペースト状の糊を載せていきます。
木枠の版の上から、木へらで手ぬぐい1枚ずつ丁寧に糊を載せ、折りたたんではまた糊を載せて…を繰り返し、重ねていきます。
糊が染料の染み込みを防ぐので、糊が載った箇所には染料は染み込んでいきません。
端から見ていると何気なくやっているように見えるのですが、糊を載せた布をじゃばら状に重ねていくので、糊付けされた部分がきちんと重なっていないと、仕上がりに大きなズレが生じてしまいます。
また、手ぬぐいは生地によって固さや糸の太さ、打ち込みが異なるので、ムラなく糊付けしていくのは、職人の技が光る、とても難しい作業なのだとか。
さて、糊付けしてじゃばら状に重ねられた布は、次の工程・「壺人(つぼんど)へ。
ここは「染め」の作業場です。昔、染料が壺に入っていたことから、「壺人」という名前がついたのだそうです。
サンプルの通りに仕上がるように、まずは「土手」を作り、載せた液体の染料が必要な箇所以上に広がらないようにします。
土手のなかに、早速染料を注ぎます。
液体を載せたとき、足元のペダルを使って、液体を下からシューッと吸い取るようにします。
素早く染料を下から吸い取ることで、何層にも重ねられた布のなかで染料が横に広がったり、にじんでしまうのを防ぎます。
上からと、下からと。両面から2回に分けて染めることで、中までしっかりときれいに染め上がります。
ナカニ勤続10年の職人・板橋(いたはし)さん。染めのスペシャリストです。
複雑な色の配合や染め方は、簡単ではなく、とても奥深い世界。
日々試行錯誤していますが、難しいからこそ、職人魂に火がつきます。
仕上がった手ぬぐいを手にしたお客さんの喜ぶ笑顔が、何よりのやりがいなのだそうです。
色と色がふんわりとにじんで重なり合う、なんともやさしい染色です。
染め上がった手ぬぐいは、次の工程へ。
「川」と呼ばれる洗い場で、染料を洗い流します。
まさに「川」という名前の通り、昔は実際の川で作業をしていたのだとか。
真水で余分な染料と糊を洗い流します。
その後、大きな脱水機で脱水。
ここまでくれば、仕上がりはもうすぐ!
大きな脱水機で脱水した手ぬぐいは「伊達(だて)」と呼ばれる乾燥の工程へ。
まだ裁断されていない、長い長い手ぬぐいは、高さ7メートルある高い高い天井から吊り下げるようにして干し、乾燥します。
ナカニでは昔は天日干しをしていましたが、今は天日干しのような環境の専用の部屋で干しています。
色とりどりの手ぬぐいが天井から垂れ下がった伊達干し部屋。できたての手ぬぐいたちが、うれしそうにヒラヒラと揺れています。
夏場だと、30分ほどで乾いてしまうのだとか。
手ぬぐいの乾きやすさ、さすがです!
いよいよナカニでの最後の工程、「畳み」へ。
長い長い生地を、検品しながら一定の長さで折り返し、たたんでいきます。
ここからは整理屋さんに運ばれ綺麗にプレスされ指定の長さに裁断され、またナカニへ戻ってくるのだそうです。
あとは一気に裁断すれば、手ぬぐいの完成!
一通りの工程を見せていただいた後、今回ナカニさんにお願いするJAMMINオリジナル手ぬぐいの色や素材を相談させてただきました。いろんな手ぬぐいサンプルを見ながら、打ち合わせ。
打ち合わせスペースには、ナカニさんのオリジナル手ぬぐいブランド「にじゆら」の手ぬぐいがずらり。
注染手ぬぐいならではのやさしくやわらかな風合いがとっても魅力的。ついつい手にとってしまいます。
オリジナル手ぬぐいを相談しがてら、藤浦さんに「注染手ぬぐいの魅力」についてお伺いしました。
注染手ぬぐいの魅力は、何と言っても使い方が自由自在であること。
その人のライフスタイルに合わせて、何にでも早代わりしてくれるんです。晒し生地は吸水性速乾性が良いので、台所仕事にはもちろん、ハンカチやタオル代わりにもなるし、お弁当包みにしたり、サッと羽織れるから、ケープ代わりや日よけにもなります。
最近は、流行りのヘアターバン的な使い方もおすすめです。
手ぬぐいの柄は、折り畳む場所によって違った雰囲気になるから、1枚でいろんな表情が出せる。おしゃれに疎い私でも「おしゃれ!」と言われます(笑)。ヘアターバンといえば、髪の毛を留めて洗顔した後、そのまま顔を拭くこともできる。本当に便利なんです(笑)。
手ぬぐい1枚が、日常の行動を助けるいろんなアイテムに変身してくれるから、たくさん物を持つ必要がなく、ミニマリストさんにもおすすめです。
(手ぬぐいコースターと手ぬぐいで包んだティッシュボックス。いつもと違った雰囲気を演出!)
たくさん使えて気にせず洗える。端が切りっぱなしになっているので乾くのも早く、衛生的に使える。
日本人の知恵が詰まったアイテムだと思います。なかでも注染手ぬぐいは、あたたかい色合いはもちろんですが、手ぬぐいならではのふんわりと優しい素材感があってすごく使いやすい。
私は注染手ぬぐいが大好きです。
ガンガン使えてガンガン洗える。忙しい毎日のなかで遠慮なく使えそうですよね。
お弁当包みに、タオル代わりに、ランチョンマットやストールとして…。
まずは、自分の好みのスタイルで手ぬぐいを取り入れて、彩りのある生活をエンジョイしてみませんか?
…かくいうこれを書いている私も、藤浦さんに教えてもらった「手ぬぐいヘアターバン」にすっかりハマってしまい、今も絶賛手ぬぐいヘアターバンスタイル!
見た目もかわいくて、髪が落ちてこないうえに額の汗も吸収してくれるので実用性もバツグン!
もちろん手ぬぐいの存在は知っていましたが、これまでは使い方がわからず、実際に使ってみたことはありませんでした。しかし今、思うことは…
「もしかしたら…手ぬぐいには「こう使うべき」っていう使い方なんてきっとないのかも。手ぬぐいは、自分の生活を、自由に、自分らしく楽しませてくれるアイテムなのかも!開眼!」
「こんなに使いやすいなら、もっと前から使っておけばよかった!」とも思いました(笑)。注染手ぬぐいならではの、ハリとコシがありながらやわらかく心地よい素材感も、そう思わせてくれる一因かもしれません。(使い込んでいくうちに、よりやわらかく馴染んでいくそうです!)
ぜひ、あなたも自分だけの「お気に入りの使い方」を見つけてみてください◎
取材協力:株式会社ナカニ