CHARITY FOR

孤立する10代の若者に、豊かな人とのつながりと、未来を生きる力を〜NPO法人D×P

全国には、23.9万人の不登校の中高生、4.2万人の高校中退、推計9万人の10代の無業者がいるとされ、また17歳以下の7人に1人が経済的に困窮した状況であるといいます。

不登校や中退、貧困や家庭内不和、虐待、いじめ、進路未定などによって起こり得る10代の孤立。さらに未成年の場合は、支援の網の目からもこぼれやすく、セーフティネットにもつながりにくい現実があります。

今週JAMMINがコラボするのは、NPO法人D×P(ディーピー)。
「ひとりひとりの若者が、自分の未来に希望を持てる社会」を目指して活動しています。

活動を始めたのは、2004年に起きた「イラク人質事件」で人質となった今井紀明さん。
無事解放され、日本に帰国した後に待ち受けていたのは、「自己責任」「税金の無駄遣い」といったバッシングの嵐でした。

社会復帰後に出会った、孤立した10代の若者たちは、イラクから帰国後に居場所を見失っていた今井さん自身の姿と重なりました。「人とのつながりで、新しいセーフティーネットをつむぎたい」とD×Pの活動をスタートします。

「『困っている時に、誰かがそばにいてくれた』という経験は、その先の人生で、経験としていつか何かにつながり、生きる希望につながると信じている」

そう話すのは、広報・ファンドレイジング部の熊井香織(くまい・かおり)さん。
活動について、お話を聞きました。

(お話をお伺いした熊井さん)

今週のチャリティー

NPO法人D×P(ディーピー)

10代の孤立を解決するために活動しています。
既存のセーフティネットでは拾い上げられなかった10代と出会い、社会につなげていく役割を果たしています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2022/11/21

10代の孤立を解決するために
学校の中・オンラインで活動

(定時制高校で行っている、ボランティアの大人と高校生が対話する授業「クレッシェンド 」。「簡単なゲームやワークを通じて話のきっかけをつくります」)

──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。

熊井:
10代の孤立を解決するために、学校の中での活動と、トークアプリ「LINE」を使ったオンラインでつながりをつくる活動をしています。学校の中では、定時制高校で居場所事業の運営と、高校生がさまざまな大人と対話する独自のプログラム「クレッシェンド」を行っています。

オンラインでは、LINEを使って進路相談を受け付ける「ユキサキチャット」という事業を行っています。

──「10代の孤立」とはどういうことでしょうか。

熊井:
貧困や虐待など、さまざまな困難から孤立してしまう若者がいます。
生活のためにアルバイトをして、学業との両立が難しくなって中退したり、進学を諦めたり、あるいはそもそも十分に食べるものがなく、気力や体力がなく、将来を描くことが難しかったり、引きこもってしまう子もいます。

多くのケースにおいて、保護者からのサポートがほとんど得られず、働いて得たお金を保護者に取られてしまうケースもあります。日々を生きるのが精一杯な上に、学校に通わなくなると居場所もなくなり、どんどん孤立していってしまいます。

(食糧支援を受け取った若者の声。「久しぶりに自分を大切にすることができた、と話していました」(※ご本人の許可を得て掲載しています))

「こんな生き方もあるんだ」。
さまざまな大人のあり方や価値観を、若者たちに届ける

(「クレッシェンド」は全4回の授業。「継続して同じメンバーが参加し、関係性を深めます」)

熊井:
D×Pの活動は、10代の若者と大人が対話する場「クレッシェンド」からスタートしました。定時制高校で授業の一つとして取り入れていただいているもので、「コンポーザー」と呼ぶボランティアさんたちと生徒が交流する場です。4回で1セットになっていて、小グループに分かれて対話するかたちです。

「この人になら自分のことを話してみてもいいかな」と思えるような関係や、「人と関わってよかった」と思える経験をつくることを目指しています。

(「クレッシェンド」に関わるボランティア「コンポーザー」は、20歳〜45歳までの様々な背景を持つ大人。「何かを教えるのではなく、『否定せず関わる』『ひとりひとりと向き合い学ぶ』姿勢を大切に関わります」)

熊井:
大人の方が、過去の経験や自分の考えなど通して生徒と対話する時間もあります。その対話を通じて、生徒が「こんな生き方もある」「こんな考え方もあるんだ」と感じることもあります。団体スタッフだけだとどうしても世界に限りがあるので、さまざまな背景を持つボランティアさんに関わっていただくことを大切にしています。

また、高校生が定期的に様々な人とつながることができる場として、居場所事業も運営しています。日々の雑談の中で、相談が生まれることもあります。必要な時には、サポートにつなげられる場所になっています。ここから派生して、生徒のニーズに合わせて仕事体験も行っています。

──「いろんな大人と出会える」ことは、若者たちの将来を見据えたご活動なんですね。

熊井:
そうですね。ただ、将来を考えた時に「就職」だけが答えではありません。
本人がやりたいと思ったことを、大事にできること。10代という大切な時期に、困難や社会の状況によって発揮できていないかもしれない可能性や選択肢を、広げられるようにしたい。ひとりひとりが希望を持てる社会を目指して活動しています。

(仕事体験ツアーの様子。「仕事体験ツアーは、生徒のニーズに合わせて実施しています。就きたい仕事がある場合は理解を深められるように、まだ模索中の場合は考えを広げられるようにとツアー先の企業の方にご協力いただき企画しています」)

オンラインの進路相談ではコロナ以降、
食糧や現金の支援も

(「ユキサキチャット」を案内するチラシ。「全国にカラオケ店を展開する『コロッケ倶楽部』さんにチラシを貼っていただきました。大学や高校にチラシやカードを設置いただくなど、協働も増えています」)

熊井:
2018年からは、LINEによる進路や就職の相談窓口「ユキサキチャット」を始めました。
代表の今井のツイッターに、ダイレクトメッセージで進路の相談が来たことがきっかけです。相談が増えてきたことと、10代の進路、進学や中退に関して気軽に相談できるオンラインのサービスが当時はまだほとんどなく、組織的にやろうとスタートしたのが始まりです。

──どういった相談があるのですか。

熊井:
「中退を考えている」「進学したいけどお金がない。どうしたらいいか」といった相談や、「親が学校に行けというけど行きたくない」といったさまざまな相談があります。

相談員から情報提供を行い、ひとりひとりに合わせて相談に乗ります。自殺相談や若くしての妊娠・出産など専門的な内容になる場合は、その分野で専門的に活動されている団体におつなぎすることもあります。

(「進路相談でやりとりを続けていた方からのメッセージです。ユキサキチャットは、1ヶ月〜2年など、長くやりとりを続けている方も多いです」(※ご本人の許可を得て掲載しています))

熊井:
現在、LINEの登録者は累計9千人を超えました。登録だけしてすぐに相談されない方もいるため、2022年に入ってからの新規の相談は、これまでで900人ほどです。

──LINEで相談できるんですね。

熊井:
はい。相談員としてスタッフが9名おり、基本的には一人の相談者に対し、担当を決めて相談に乗るかたちです。同じスタッフが担当します。中には専門的は対応が必要なケースもあるので、相談員同士で1日に2回、会議をしながら相談に乗っています。

新型コロナウイルスが流行し出した2020年5月からは、緊急支援として食糧支援と現金給付の受付もスタートしました。
まずは目の前の生活の土台を支えることが大事。そこの安心感がないことには、次の一歩がなかなか踏み出せないからです。そこから、生活に困窮した若者からの問い合わせが一気に増えました。

(D×Pの食糧支援の発送数の推移(D×Pホームページより抜粋))

──ただでさえ脆弱な立場だった若者たちが、コロナによってもっと窮地に立たされてしまったのですね。

熊井:
2021年は、一人につき最大3ヶ月の食糧支援、現金給付を行いました。

サポートをした半数は就職したり福祉サービスにつながったりと生活が改善したものの、なかなかどうしても改善が難しいというケースもありました。
その状況を細かく見てみると、親を頼れないだけではく、障害を持っている、家族の介護があるなど複数の課題を抱えているケースも少なくありませんでした。長期的な支援が必要なため、ケースによっては1年間の食糧支援を行える体制をつくりました。

(コロナ禍で困窮する若者からの相談を受けたことから、食糧支援をスタート。食糧を詰めるスタッフの皆さん)

──LINEで相談すると、食糧支援と現金給付が受けられるのですか。

熊井:
必ずしも全員に食糧と現金を届けるわけではなく、オンライン面談で生活の状況を伺い、必要なサポートをしています。食糧や現金の支給が必要だと判断した場合は、食糧は本人のご自宅へ、支援金は本人の口座に振り込む形で届けています。

ただ、これもケースバイケースです。
たとえば多額の借金を抱えた若者に現金給付をしたとしても、解決にはつながりにくいこともあります。その場合は債務整理を一緒に考えたり、福祉サービスにつないだりといったことも行っています。

(コロナによる緊急支援では、食べ物だけでなく生理用品や歯ブラシなどの衛生用品もストック。「若者が我慢していることもあるため、希望があればすぐに届けられるようにストックしています」)

「『自分でなんとかしないといけない』という
自己責任のような雰囲気がある」

(「食糧支援を届けた若者から、手紙が届くこともあります。手描きのイラストが添えられていました」(※ご本人の許可を得て掲載しています))

──10代にして「親を頼れない」状況というのを、もう少し詳しく教えてください。

熊井:
それぞれ状況は異なりますが、虐待や貧困、ひとり親家庭などの背景があることが少なくありません。
親に頼れないことを誰にも言っていないという子も多いです。学校にスクールワーカーが入っていたり先生に相談できたりするところもありますが、それでも言わないという子もいます。

──なぜでしょうか?

熊井:
相談してきた若者を見ていても感じるのですが、「もっとがんばらないと」という雰囲気があるのかなと思います。客観的に見て明らかに大変な状況でも、「自分はまだまだがんばれると思っていた」「もっと他に大変な子がいると思うんで」という子もいます。

背景には、「自分でなんとかしないといけない」という、自己責任のような雰囲気があると感じます。

(児童養護施設で育ったAさん)

熊井:
私たちがサポートしたAさんは、児童養護施設で育ち、18歳で施設を出てからは社員寮のある会社で働いていました。
しかし体調を崩して退職し、社員寮も出なければならなくなりました。
生活のためにアルバイトを始めますが、コロナ禍でなかなか思ったようには働けず、相談に来た時の全財産は8,000円でした。

20歳のBさんがユキサキチャットで相談をくれたのは1年前です。
親との経済的なトラブルがきっかけでした。地方で暮らす彼女は、高校3年生の時、卒業を目前に学費が支払われていないことがわかり、進学を諦めて学費のためにアルバイトを始めました。しかし稼いだ6万円の給料のうち、4万円を親にとられてしまっていました

「親元から離れたい」と、家を出ることにしたタイミングで相談があり、食糧支援と現金給付でサポートしました。「病院に行くのにお金を給付してくれたり、食糧や生理用品を送ってもらって助かった」と話していました。
聞くと、生活のお金を工面するために服などを売っていたそうです。地域にある相談室にも連絡をしてみたものの学費の相談には応じてもらえず、「ユキサキチャットに相談する時も、返事がもらえるか不安だった」と話していたのが印象に残っています。

(親との経済的なトラブルからD×PとつながったBさん)

孤独を抱えた10代の若者が、
イラク人質事件でバッシングを受けた自分の姿と重なった

(今井さんの自宅に届いた批判の手紙。「100通以上の批判の手紙が届きました」)

──D×Pは、イラクで人質の経験がある今井さんがスタートされました。どういった思いがあったのでしょうか。

熊井:
D×Pの創業者の一人であり、理事長の今井紀明は、2004年に起きた「イラク人質事件」の当事者です。高校生だった彼は、イラクの子どもたちの医療支援をしたいと紛争地だったイラクへ渡航し、そこで人質として拘束されてしまったのです。

人質から解放されて帰国すると、「自己責任」「税金泥棒」や「頼むから死んでくれ」といった大きなバッシングに遭いました。それが原因でPTSDになり、引きこもるようになりました。

(D×P理事長の今井紀明さん)

熊井:
しかし、高校の恩師や自分のことを否定せずにそのまま受け入れてくれた友人との出会いによって、再び「社会とつながりたい」と思うようになったと聞いています。

今井が社会人になってからスタートしたのが、誰でも参加できて、互いに否定せずに夢を語り合う場です。これが、私たちの活動の一つ「クレッシェンド」の前身です。

その後、通信制高校の先生から「いじめや不登校によって、高校を卒業せず中退する子が多い」という話を耳にしたり、実際に学校を中退したり不登校の10代の若者と出会い、「自己責任」と否定された、イラクから帰国した当時の自身の姿が重なったんです。

「困難や生きづらさを抱えた彼らのために、何かできることはないか」と、2012年に「D×P」を立ち上げ、活動をスタートしました。今日に至るまで、「否定せず関わる」ことを大切に活動しています。

(大学の卒業式にて。仲間との出会いによって社会や人とのつながりを取り戻していった)

「誰かがそばにいてくれたという経験は
いつか、何かにつながっていく」

(定時制高校での授業後の写真。「ボランティアの参加数はのべ830人、寄付サポーターは2600名を超えました」)

──とはいえ、支援の現場ではもどかしさなどもあるのではないでしょうか。

熊井:
ここで出会う多くの若者たちが、否定された経験をしてきています。否定することは、本人の可能性をせばめてしまうことにもつながりかねません。

「こう思う」とか「これがやりたい」といった時に、その言葉の裏にどんな背景や価値観があるのか、それを探っていくこと。相談にのっていく中で就職した、生活状況が改善したなど変化が見えることもありますが、目に見えては何も動かない時間もあります。そんな時間も大切。スタッフは「信じて待つ」ということも大切にしています。必ず、本人にとって良いタイミングがあると思っています。

(2019年に大阪マラソンの寄付先団体となったときの写真です。当時のスタッフやインターン卒業生、寄付者のみなさまなど、さまざまな方が一緒に寄付を集め、走ってくださいました)

親との関係性、就職活動…、なかなか本人が動かないことにはどうしようもないこともあります。連絡が急に途絶えたりすることもありますが、ある時「進学先が決まりました」とか「夢に向かって一歩動き出しました」と連絡をくれたりする。そんな時は嬉しいですね。

私が個人的に思うこととして、目に見えた劇的な変化はなくても、「困っている時に誰かがそばにいてくれた」という経験は、その先の人生で、経験としていつか何かにつながっていくのではないかということ。すぐにではなかったとしても、本人の希望につながっていくと信じています。

(大阪の定時制高校でクレッシェンドが終わった後の写真。「参加した生徒から写真をとろう!と声をかけられ、スタッフ・コンポーザー・生徒の記念撮影です」)

「夢と可能性を掛け合わせていく」ための支援を

(「『クレッシェンド』では、夢を画用紙に描くワークがあります。夢は、未来に対する期待だと考えています」)

──最後に、メッセージをお願いします。

熊井:
10代は、いろんなことが経験できるとても貴重で大切な時間。それが経済的な事情をはじめさまざまな理由からなされないことがあります。

大人と子どもの狭間で、未成年だからこそできないとがあったり、制度の狭間で抜け落ちてしまうようなこともあり、そういった若者を、私たちはこれからもサポートしていきたいと思っています。

「D×P」の意味は『Dreams times possibility』、「夢と可能性を掛け合わせていく」ということ。本人と周囲の環境や関係性、この二つがかけ合わさっていくことで、どんどん世界はひろがっていきます。実際に若者たちと接していると、皆キラキラしていて、それぞれにいいところがたくさんあって。私が知らないことをたくさん知っていて、すごいなと思いますね。

(定時制高校で行う居場所事業。「生徒が自由に過ごせる場を、始業前と放課後に開いています」)

──チャリティーの使途を教えてください。

熊井:
保護者に頼ることができずに困窮する若者に対して、安心できる土台を整えるための食糧支援を行っています。

この年末に若者たちにごはんを届け、またその際に無料の進路相談を受け付けるために、困窮した若者たちへの食糧購入のための資金として活用させていただけたらと思っています。ぜひ、アイテムで応援いただけたら幸いです!

──貴重なお話をありがとうございました!

(「2022年6月27日に、D×Pは設立10周年を迎えました!D×Pの活動を応援していただけると嬉しいです」)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

10代。知識や経験をこれから積んでいくという段階、これから社会に出ていくという時に、ただでさえいろいろと不安定な状況なのに、頼れる後ろ盾がなかったら、それはどれだけ不安なことでしょうか。

一歩一歩、自分を信じて生きていく。それが未来へとつながっていく。振り返ると自分もそうでした。自分がそう歩んできたように、新たに未来へと踏み出す若者の一歩を応援しませんか。

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