原因不明、治療法未確立の難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)をご存じですか。
体を動かす運動ニューロン(神経系)が変性し、徐々に壊れてゆく難病です。意識や五感は正常で、知能の働きも低下することがないまま、身体のあらゆる箇所の筋肉が萎縮して徐々に身体が動かなくなり、歩くことも話すことも食べることも、最終的には自力で呼吸することすら困難になってしまいます。
その進行は早く、平均寿命は2〜5年とされていますが、人工呼吸器の装着によって延命が可能です。
2010年11月、31歳の誕生日を目前にALSと診断された「HIRO(ヒロ)」こと藤田正裕(ふじた・まさひろ)さん(42)。
外資系広告会社「マッキャンエリクソン」のプランニングディレクターとして働いていたHIROさんは、「広告代理店で働く自分がALSになったのには、何か理由がある」と、一般社団法人「END ALS」を立ち上げ、ALSを一人でも多くの人に知ってもらうことで、ALSを終わらせる治療法や治療薬の開発へとつなげたいと活動してきました。
ALSによって体の自由が奪われると、最終的には目を使ってのコミュニケーションしか残されていません。
2012年に人工呼吸器を装着したHIROさんは今、最後のコミュニケーションの手段である目さえ動かなくなってしまう「TLS(TOTALLY LOCKED-IN STATE、完全な閉じ込め状態)の恐怖と闘っています。
6月21日の「世界ALSデー」に向けて、今週、END ALSさんと約1年半ぶり、5回目のコラボをしていただくことになりました!
HIROさんの今の思い、そして楽曲や映像を通じ、HIROさんやALSをもっと多くの人に知ってもらいたいと活動する、HIROさんの長年の友人でもあるJesseさん(41)、Lucas Valentineさん(40)、山本亮介さん(40)のお三方にもお話を聞きました。
(HIROさん。先週、一足お先にお届けした今回のコラボアイテムを身につけて写真を撮ってくださいました!)
一般社団法人END ALS
日本だけでなく世界中にALSの認知・関心を高めるとともに、厚生労働省や医療研究機関などに対し、迅速な治療法の確立と、ALS患者が可能な限り普通の生活、あるいは生活の向上ができるように働きかけることを目的に2012年9月に設立されました。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2022/6/20
(お兄さんご家族と。「アメリカから帰国して会いに来てくれました」)
最初に、アンケートにご回答いただくかたちで、HIROさんに近況をお伺いしました。
──HIROさんの近況を教えてください。
HIRO:
瞼が重くてコミュニケーションをとるのが大変。瞼が重くて眼を動かしづらく、だんだん目を開けているのが辛くなってきた。
──今の主なコミュニケーションの方法、日々の生活(1日の流れ、楽しみにしていること、逆にいやなことなどあれば)の様子を教えてください。
HIRO:
コミュニケーション方法は、瞳を動かしてYES or NOで答える。
楽しみにしていることは、訪問入浴、好きなテレビを見る、兄家族が会いに来てくれる時、リハビリとマッサージ。
嫌なことは、コミュニケーションが通じない時や、月に2回の訪問ドクターの時にやる処置。
(「大好きな車椅子に乗っている僕」)
──コロナによる環境や生活の変化、また意識の変化などはありましたか。あれば教えてください。
HIRO:
家族やケアスタッフに対して、「誰もコロナになるなよ!」って思っている。
コロナ禍になってみんなに対面で会えなくなったのは寂しいけど、リモートで会ったり活動できているから我慢できる。
(HIROさんの自画像をNFT(デジタルアート)に出展した時のイベントでの集合写真。「僕は映っていませんが、友人とインスタライブでつながり参加しました」)
──リアルで会ったり活動したりすることと、リモートで会ったり活動したりすることは違いますか?違うとすれば、どんなふうに、何が違うと感じていらっしゃいますか。
HIRO:
リアルに会っている時に、楽しいこと、大変だったこと、悲しいこと、苦しいことなど、同じ空間で過ごすからこそ感じられることがある。
──今、最も大きい感情はどんな感情ですか。
HIRO:
みんなに、思っていることを伝えられないのが悔しい。
(毎年会えるSnowManとのツーショット)
──ALSに関して、HIROさんが今、最も知ってほしいことや伝えたいことは?
HIRO:
ALSがどれだけ残酷か。
治療法がないのに進行し続けていくことへの恐怖。
──藤田正裕として、言いたいこと・伝えたいことは?
HIRO:
ALSを終わらせるために、これからも俺だからできることをやっていく。
(友人と一緒にスタートしたインスタチャンネル @hirofujita_als)
──明日、ALSから解放されたら、HIROさんは何をしますか。
HIRO:
先ずは思いっきり息をする、いっぱい水を飲む、自分で動く。
その後にやりたいことは山ほどある。
──記事を見てくださっている方へ向けて、メッセージをお願いします。
HIRO:
いつもEND ALSを応援してくれてありがとうございます。
どんな小さなことでも良いので、みなさんが出来ることを、ひとつ行動してくれたら嬉しいです。これからも応援よろしくお願いします。
(「現在、僕の脳波を感知できる機械がありませんが、近い未来に僕の脳波を感知してコミュニケーションツールとして使える機械が開発されることを願っています。去年まで脳波のデータを取っていた時の様子です」)
ここからは、ALSの治療法を求めて集まり、音楽や映像を通して活動するクリエイティブプロジェクト(インスタアカウント @hirofujita_als)から、Jesse(ジェシー)さん(41)、Lucas Valentineさん(40)、山本亮介(Saga)さん(40)のお三方に話を聞きました。
(Jesseさん(写真左から二人目)、そのすぐ隣、仮面をかぶっているのが山本さん、Lucasさん(写真右端))
──どのようなプロジェクトですか?
Lucas:
音楽や映像、カルチャーを通してHIROやALSをもっと知ってもらうのがメインテーマです。 楽曲、MV、ショート動画などを制作し、主にネット上で発信をしています。直接関わってる皆は、HIROの高校からの友達が多いです。クリエイティブな環境に居る人たちが多いので、自然と曲作りや映像などがメインとなります。
山本:
曲・映像を手がけたE.D.O.は、2000年代に活動していたヒップホップグループです。Jesse Mcfaddin、Shen(Def Tech)、Sonshi MC、Gucci Science、Saga、Lucas Valentineで構成されています。
Jesse:
E.D.O.のメンバーの6人中4人がHiroと同じ学校だったので、Hiroの現状をART、MUSICを通してALSを拡め、彼をサポートする為にInstagramを手伝ってます。
(スタジオ収録での1枚)
山本:
プロジェクトの目標は音楽・映像を通して見てくれた方々にHIROやALSに対して僕たちと同じ感情を引き起こすことです。
言うまでもなくALSの病気を知っていただくことから始まりますが、もう一歩、僕らのように「自分も何かをしたい」という気持ちを起こすことを目標としています。
このプロジェクトの特徴的なところは、「コラボ」と称していますが、HIROのリーダーシップのもと彼との付き合いが20年以上ある「仲間」が活動を進めている点です。よりHIROに近く、そして友人であるからこそのパッションやモチベーションを、END ALSのムーブメントに注ぎ込むことができるところに可能性を感じてスタートしました。
──プロジェクトが始まったきっかけは?
Lucas:
元々は「HIROの為に曲を作ろう」というシンプルなアイディアから始まりました。何かしら売り上げを立てて、寄付とか出来たら良いよね、ぐらいなテンションで。だけど気付いたら、周りからも関わりたいと言う声が上がってきて、せっかくなので大勢で何かしよう!と輪がどんどん大きくなりました。
(「MVの収録現場でJesseが『せっかくスタジオに集まったんだから、昔の曲やってみない?』と言い、メンバーが歌詞を覚えていないことに気づいた瞬間の一枚です(笑)」)
山本:
プロジェクトのスタートは一年半ほど前になります。
2020年、END ALS x P.H.A.S.E 2(※)のイベントでJesse、Shenと僕が久々に顔を合わせました。そのイベントで3人で15分ほどの軽いライブをやる予定でしたが、コロナの影響で突如キャンセルとなりました。そこで自分が二人に「HIROの曲を一曲やらない?」と日常会話のようにアプローチをかけたことがきっかけとなり、そこから「せっかくなら14年ぶりにE.D.Oの曲を共にリリースしよう」というところまで至りました。
(※)P.H.A.S.E.2(フェーズツー)は、先駆的なグラフィティアーティストで、2019年12月にALSによって命を落としている。生前ヒロさんを応援し続け、2020年6月にはコラボTシャツを発売した
Jesse:
きっかけは、Hiroのため以外何でもありません。
(2020に開催されたEND ALS x P.H.A.S.E 2のイベント会場にて)
──皆さんのモチベーションを教えてください。
Jesse:
HIROがまたサッカーボールを蹴れるようにって本気で夢見てます。これが僕のモチベーションです。
Lucas:
HIROやALSのことをいろんな人たちに知ってもらうのも勿論そうですが、このプロジェクトをきっかけに「自分も何かやりたいな」とか「自分も人助けしたい」といった気持ちを引き出せたら良いなと思います。 そしてまた、よりたくさんの人に知ってもらうことで、この病気の効果的な治療法が見つかることを願っています。
山本:
モチベーションは、プロジェクトをスタートした1年半前と信じがたいほど何一つ変わらないです。
モチベーションの高い人間が次の人のモチベーションを上げ、その人が次の人のモチベーションを上げるという連鎖反応の形で、現在も一人と気を抜くことなく制作に励んでいます。
メンバーの多くも自分自身も何十年と曲を作り続けていますが、ここまで大事にしてきた曲は僕自身は初めてで、メンバーからもそういった雰囲気を感じています。練習、レコーディング、ミュージックビデオ、インスタ…、何百回と同じ曲を聴いてきましたが、不思議と聞き飽きることがありません。
ミュージシャンの中で「絶対嘘はつくな、曲中に必ずバレる」というセオリーがあります。今回は曲だけではなく、プロジェクト全体が真実のストーリーであり、参加したメンバー全員の歌詞、パフォーマンス、制作、全ての面で嘘一つなく、それは皆が、心からHIROとALSに強い思いを寄せていたからに他ないと思います。
(END ALS x P.H.A.S.E 2のイベントには、リモートでHIROさんも参加)
──HIROさんへ、メッセージをお願いします。
Jesse:
I’ve got your back for life.
Lucas:
改めてメッセージとかなかなか照れくさいですが、6月21日にリリースされるMVを楽しみにしてて。最高だから。
山本:
毎日のように届くたくさんの人からの励ましの言葉。それを送った全ての人と僕らの送りたいメッセージは同じです。
「早く元気に」「負けずに頑張って」「HIROなら打ち勝てる」「元気になったらまた飲みに行こうな」「HIROに毎日元気をもらってます」「ALSの治療法が一日でも早く見つかることを願っています」。今回一つ身に染みたのは、こういう気持ちを抱いてる人は、HIROのところに直接届いている数の何十倍、何百倍といること。
また近い内遊びいくよ。
──今、このページを見てくださっている読者の方たちへ、メッセージをお願いします。
Lucas:
END ALS.
Jesse:
ALS及び難病は小さな変化が物凄くでかい進歩だと僕は思ってます。今か、子どもたちの代になるかは分からないけど、僕はALSは治ると信じています。色んな人にALSサバイバーの現状を知ってほしいです。
山本:
ALSの発症率は10万人に1人から2人です。そして45歳以下になると100万人に1人から2人になります。これは大体沖縄県全体に一人と同じぐらいです。ですが、HIROの言葉を借りると「あなたは特別じゃない」。
ヒロは自分自身をさらけ出し、もしあなたやあなたの身近な人がALSと診断されてしまった時のためにALSとはこういう病気なんだということを命をかけて発信しています。まずは彼の行為に目をそむけず、ALSという病気を知っていただき、「ALSって何?」と検索していただくような小さい行動にさえ僕らは喜びを感じます。HIRO自身も同じかも知れません。
現在、そして未来のALS患者さんたちに向け、HIROが書いた本、『99%ありがとう: ALSにも奪えないもの』(藤田正裕著/ポプラ社/2013年)からの一言をシェアさせてください。
迷惑
ALSのドキュメンタリーを見るとよく聞く言葉、
「迷惑かけたくないから」。僕も正直、ALSと診断されてから、
「俺の存在って迷惑なのかな」とほぼ毎日考えてしまう。そりゃ、すべてのことを周りに頼らないといけなくなると、
そう感じるのは仕方がない。
そのうえ、事実、迷惑だとは思う。しかし、極力そう考えないようにしないとやってられなくなる。
ヘンな話、「ある程度の迷惑をかけるのは当たり前」と
患者自身が受け入れないといけない。とはいえ、わがまますぎると人は離れていく。
絶妙なバランスが求められる。
ちなみに、僕は、気が引けるし、怖いし、心苦しいけど「迷惑かけるのだけは恐れない!」
。。。。ようにしてる。お許しを。
山本:
ヒロは僕自身に迷惑をかけた訳でもなく、HIROからしたら「何偉そうなこと言ってんの?」と思われるかも知れません。
だけどヒロからもらった勇気、モチベーション、インスピレーション、人生の価値観等は計り知れません。こういった恩返しの方法もあるということも忘れないでください。
ありがとうございました。END ALS.
(2019年、山本さんがHIROさん宛に書いた曲の収録中の、お気に入りの一枚。暗闇の中で光る”END ALS”目のデザインは、2018年にJAMMINとコラボしていただいた時のもの)
6月21日の「世界ALSデー」を含む6/20〜26の1週間、JAMMINのホームページからアイテムをご購入いただくと、1アイテム購入につき700円がEND ALSへとチャリティーされ、1日でも早くALSの治療法を確立するため、ALSの治療に関する研究を進める大学や医療機関への研究資金となります。
6/21には、今回インタビューさせていただいたE.D.Oの皆さんが “TAKE YOU THERE”をリリース。こちらもぜひチェックしてください!→@hirofujita_als
END ALS.
ALSを終わらせるために。
ぜひ、応援お願いします!
(今回のコラボデザインのTシャツ(左)、DLOPLINEデザインのロンT(右)を身につけてくださったJesseさん。いずれのアイテムも2020/6/20(月)〜26(日)の1週間、JAMMIN SHOPページ:https://jammin.co.jp/c/charityforより購入いただけます。アイテム購入ごとのチャリティーは、ALSの治療法を見つけるための研究資金となります!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
1年半ぶり、5回目となるEND ALSさんとのコラボ。確実に、着実に過ぎていく時に抗うことはできない。刻一刻と症状が進行する恐怖と闘っているHIROさん。二度とは戻ってこないこの瞬間に対して、自分には一体何ができるのか、改めて考えさせられます。
コラボの度に感じることは、HIROさんとやりとりをさせていただく度にパワーをもらうということ。
生きる強さを、HIROさんから教えてもらいます。
与えられた今日を生き抜くだけでなく、ALSを終わらせるために、私たち一人ひとりにも何かできることがあるはず。ぜひ、一緒に輪に加わっていただけたら嬉しいです。
“END ALS. I’m still alive”、書き殴るようなデザインには、「ALSを終わらせる」という強い意志を込めました。
“ALS”という闇を”END”という一筋の光が切り裂き、やがて覆い尽くし、消し去る様子を表現しています。