CHARITY FOR

児童養護施設で暮らす子どもたちが「愛されている」と感じられる関係性を〜児童養護施設「星美ホーム」(社会福祉法人扶助者聖母会)

日本全国には600を超える児童養護施設があり、虐待やネグレクト(育児放棄)など、何かしらの理由によって家族で暮らすことが難しい2歳〜18歳までの子どもたちが暮らしています。

全国の児童養護施設に入所している子どもたちの数は32,605人(2019年11月)。家庭に戻るまで、あるいは18歳で施設を退所するまで、子どもたちはここで過ごし、家庭復帰や自立のための支援を受けます。

「子どもたちは、望んで児童養護施設に来るわけではありません。それでも、大人になった時に『ここで育ててもらってよかった』と言ってもらえるような、前向きな支援をしたい」と話すのは、今週JAMMINがコラボする児童養護施設「星美ホーム」スタッフの伊丹大輔(いたみ・だいすけ)さん(44)。

活動について、お話を聞きました。

(星美ホームのスタッフの皆さん。写真後列左から5人目が、お話をお伺いした伊丹さん)

今週のチャリティー

児童養護施設 星美ホーム(社会福祉法人扶助者聖母会)

児童福祉法に基づく児童養護施設。子どもたちの明るい未来のためにさまざまな取り組みをしながら、小さな声に耳を傾け、寄り添いながら養育、支援しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2022/5/23

親と暮らすことができない子どもたちと
家庭的な環境で生活

(リビングでくつろぐ子どもたち。「安心できる空間の中で日常生活を送っています」)

──今日はよろしくお願いします。最初に、星美ホームについて教えてください。

伊丹:
1948年より運営している定員100名の児童養護施設です。事情があって親と暮らすことができない子どもたちと、家庭的な環境で生活しています。

施設の定員は大規模ですが、生活は6人以下のお部屋に分かれ、それぞれ一室で生活が完結するようになっています。小規模でより家庭に近い環境で生活できるようにしています。

──マンションのようなイメージなんでしょうか。

伊丹:
そうですね。本体施設は真ん中に職員の部屋があって、職員はここで情報共有しています。

(ご飯を食べる子どもたち。「温かい食事を、温かい空気感の中で食べられるように意識しています」)

──6人以下とのことですが、そのメンバーはどのように決定するのですか。

伊丹:
短い縦割りのかたちをとっています。原則お部屋のメンバーの変更はありませんが、関係性を築くのが難しかったり、問題があった場合などは臨機応変に対応しています。一つのお部屋に対し、3人以上の職員が担当し、共に過ごしています。

(「子どもたちは一般家庭と変わらない生活を送っています。自由な時間には、それぞれ好きなことをして過ごします」)

子どもたちが「大切にされている」と感じられる「通じる愛」を

(クリスマスの夜、サンタさんのプレゼントを楽しみに眠りについた子どもたちの枕元にプレゼントを。「日常生活において、普段のかかわりはもちろん、イベントなども大事にしています。子どもたちが『大事にされている』と感じてもらえるような支援を心がけています」)

──子どもたちと日々の生活をともにする中で、意識していらっしゃる点はありますか。

伊丹:
子どもと職員の関係性を重視しており、子どもたちが帰ってきたい場所であること、そんな雰囲気の場であることを大事にしています。

星美ホームの理念は「通じる愛」です。
大人たちが子どもを大事にしているだけでは足りなくて、それがきちんと子どもに伝わっていること、子どもが「大切にされている」と実感できる支援こそ大事にしないといけないよ、ということです。

(「子どもたちも、職員のお手伝いをしながらおやつやご飯などを一緒に作ることもあります。そのような時間も大切にしています」)

伊丹:
「子どものため」とは言いつつも、良かれと思ってやっていることがひとりよがりで、ありがた迷惑になっていないか、余計なお世話になっていないか、いつも振り返りながら寄り添いたいと思っています。

ただ、どんなに関係性を築いたとて、本当の家族ではありません。職員の退職もあれば、お部屋の配置替えをする場合もあります。子どもたちもいずれはここを退所していきます。ジレンマや難しさを感じることもありますが、それでも「あなたは大切な人、必要な人だよ」と伝え続けながら、ともに築いた関係性が本人の生きる力にもつながっていくということを信じてやっていくしかないと思っています。

(個室の様子。「みんなが集えるリビングもありますが、個室で自分の時間、空間を確保することもできます」)

伊丹:
施設長は職員に対して、「子どもがいるときは職員室にいないで、子どものところに行ってほしい」といつも言っています。

物理的に同じ空間にいるというのはもちろんそうなのですが、何気ない時にそばにいて、「いつでも頼っていいんだよ」「あなたは一人じゃないんだよ」とそっと伝えられるような存在でありたい。なかなか良い関係ばかり築けるわけではないし、時にはつらい思いをすることもあります。でもそれを乗り越えた時に、本当の意味での強い関係性を築くことができると思っています。

(子どもに寄り添うスタッフ。「対話と納得。職員の考えを押し付けるのではなく、子どもの考えを尊重し、一緒に悩み考えてくことを大切にしています」)

施設にいる間に
「どれだけ関係性を築けるか」が重要

(「生活は少人数単位に分かれていますが、全体で集まる時間も大切にしています。施設内での運動会やバーベキューなどを積極的に実施しています」)

──さまざまな事情から児童養護施設にやってくるということですが、子どもたちの様子について教えてください。

伊丹:
親からの虐待との関係はわかりませんが、職員を挑発したり、周りが嫌がることをわざとやる、いわゆる「試し行動」をとる子も多く、愛着に課題を感じる子どもが少なくないという事実はあります。適切な時期に、適切に愛されることがなかったのだということが見て取れます。

子どもによって出し方は異なりますが、かまってほしくてアピールしたり、非社会的行為などの問題行動もあります。
さまざまな研究から、親から虐待やネグレクトを受けた子どもがその後、脳の発達に影響があることがわかっています。星美ホームで暮らす子どもたちの3割ほどが、定期的に精神科に通院しています。

(令和3年8月に建替えた本体施設。「新しくなった建物での生活が始まっています」)

──問題行動が起きた時はどうされるのですか。

伊丹:
担当の職員だけでなく、心理士や精神科医の方も入ったケース会議を毎週行っています。専門家と連携しながら多角的に状況を判断していきますが、「職員との関係性」は非常に大切になってきます。

問題が起きることは避けられません。しかし社会に出る前であれば、私たちがSOSを受け止めることができます。問題を起こしたからといって、罰を与えたりすることはないし、なぜそういうことをしてしまったのか、一緒に考える関係性を大切にしています。

──そうなんですね。

(過去に開催したクリスマス会の一場面。「毎年、子どもと職員が一緒になってクリスマスの劇を作り上げます。季節ごとの行事も、共に過ごす大切な時間となっています」)

伊丹:
社会に出た後、何があっても頼ることができる家族の存在や、いつでも帰ることができる実家は、誰にとっても心強いものですよね。施設で暮らす子どもたちのほとんどが、そのような後ろ盾が何もない状態です。
親のことをよく思っていなくても、それでも親を嫌いになれない、どこかで期待している自分がいる。「なんで自分はこうなんだろう」というわだかまりが整理されずに心の中にあると、何かあった時に踏ん張り切れず、崩れてしまうような印象があります。

「こうすれば良い」という明確な答えがあるわけではありませんが、信じて積み上げていく以外に方法はないと思っています。

──難しい課題なのですね。

(夏の海水浴。「子どもと職員が一緒に思い切り楽しむ体験もたくさんします。思い出は大きな力になります」)

伊丹:
施設を出た後、元気に頑張っている子ももちろんいます。しかし一方では、精神的な疾患を抱えたり、仕事が続かない、悪いことをして逮捕されてしまうなど、社会のサイクルにうまく乗っていくことが難しい子が多いのもまた事実です。

施設にいる間は何の連絡してこなかった親御さんが、就職した途端に子どもに連絡をしてきて、経済的な搾取をしようとしたことも過去にありました。うまく関係を再構築できれば良いですが、それが難しいという時には「親御さんとの関係を整理する」ということも一つの選択肢であり、我々ができる支援の一つでもあるんです。

──確かに。

伊丹:
こういったことも含め、やはり子どもたちが施設にいる間に「どれだけ関係性を築けるか」が重要になってくると感じています。
もう一つ、星美ホームでは、施設以外での社会体験を通じて子どもたちが社会性を養う機会を設けることも大切にしています。

(畑での農業体験。「多くの支援団体さまや企業さまからもご協力・ご支援をいただき、子どもたちはさまざまな体験をすることができています」)

過酷な自然体験の中で
気づきや自信を得る野外活動

(自分を乗り越える挑戦、「星美ホーム百名山」での一枚。「海抜0メートルから山頂を目指します。大変な思いをして得た達成感は、やがて大きな力になると信じています」)

──星美ホームさんは、野外活動に力を入れられているそうですね。

伊丹:
お伝えしたような課題がある中で、子どもたちには挑戦や、やり遂げる経験でしか得られない自信を得てほしいと思っています。厳しい自然の中で自分を乗り越え、新しい自分を発見してほしいと毎年夏に野外活動を実施してきました。

中学生男子を対象に実施しているのが「星美ホーム百名山」です。2005年からスタートし、代々受け継がれながら、これまでに45の山を制覇しました。約8日間の旅で、その年の参加者がチームとなって道中は徒歩で移動し、宿泊はキャンプ場などを使い、食事も自分たちで用意するのが基本です。すべて計画通りに進むとも限らないので、道の駅や私有地、公園などに許可をとってテントを張らせてもらうこともあります。

──チャレンジングなプロジェクトなんですね。

(「自分の足で登ってきたからこそ、感性も研ぎ澄まされます。絶景を見たある子は、「神様って本当にいるのかもしれないね」とつぶやいていました」)

伊丹:
日常生活だったら嫌になったり面倒くさくなって逃げてしまうようなことを、最後まで向き合ってみること、挑戦してみること、苦しくてもやり抜いてみることで、何か得られるものがあると思います。
引率する職員は、時に安全確保のためには介入しますが、それ以外は基本的に子どもたちが主導権を持って進んでいきます。失敗もありますが、それもまた大きな学びだと捉えています。

自然と対峙する過酷な旅を進んでいく中で、しだいに子どもたちの顔つきが変わっていくんです。参加するまでは「行きたくない」「山なんて登りたくない」といっていた子たちが、やりはじめると本気になって、引率するスタッフも驚くほどの力を発揮するようになるんです。

──すごいですね。

(「百名山以外にも、琵琶湖を歩き切る『琵琶湖一周プロジェクト』や、中学生女子を対象にしたプログラムなどもあります。どれも、自然の中で挑戦するプログラムになっています」)

伊丹:
道中を共にする同じ参加者のメンバーや職員が、一人ひとりの努力やがんばりを具体的に伝えていく中で、本人の中にも「自分ってがんばれるのかもしれない」「やればできるんだ」という気づきや自信が育っていくのです。

──自分を見つめつつ、周りから気づかせてもらうこともあるのですね。

伊丹:
そうですね。同行する職員にとっても、子どもたちが普段、日常では見せない表情や姿、変化が大きな学びになっています。最初はバラバラだったグループが次第に信頼関係を築き、一丸となってゴールを目指す姿にはいつも感動させられます。

終わってからも、「あれキツかったよね」「がんばったよね」と共通の話題が生まれて、職員との関係性の構築にもなります。卒業した子どもたちとも、「あれ、まだやってるの?」「あの時、ああだったよね」と話題にもなるし、「やってる時はつらかったけど、あれ、やった方がいいよ」とアドバイスをくれたりもします。楽しいお出かけや思い出は普段、お部屋の方でたくさん経験して、キャンプやアウトドアは、ちょっと大変だけどがんばってみよう、あえて大変なことに挑戦してみようという位置づけです。

(「少し頑張れば乗り越えられる体験をしていくことで、新しい自分を発見できることがあります」)

「ここにいる子どもたちが精一杯、
一生懸命生きていることを知ってほしい」

(「みんなと一緒にいろいろな場所に行くことは、たくさんのことを経験することにつながります」。写真は野球の試合観戦に訪れた際の一枚)

──これまでに接した子どもたちの中で、伊丹さんが印象に残っている子はいますか。

伊丹:
百名山を経験したことをきっかけに山登りの楽しさを覚え、施設を出た後、世界中の山に登っている子がいます。…そうやって自ら道を切り開いていくケースもありますが、あまりうまくかなったケースの方が、正直印象に残っています。

施設にいる間はまがいなりにも生活できます。だからこそ、社会に出て何か問題が起きてしまったということを聞くと、「もうちょっと何かしてあげられることはなかったのか」「できることがほかにもあったのではないか」という問いは、正直ずっとあります。

──伊丹さんが星美ホームで働くようになったきっかけは何だったのですか。

伊丹:
私はもともと会社員をしていて、19年前に星美ホームの職員になりました。
子どもたちと野球やサッカーをして遊んだり、料理は得意ではありませんでしたが子どもたちのためにご飯をつくったり、洗濯や掃除をしたり…職員になって最初の頃は「これが仕事なんて、なんて楽しいんだろう」と思いました。

しかし年数を重ねるうちに、社会に送り出した子がうまくいかないという話を聞いたり、施設にいる時にも「何かうまくいかない」ということがあって、それは一体何なんだろうと考え始めて、今もその答えを探している感じがします。…きっと明確な答えや解決策はなくて、悩みながらずっと今日まできたのかなと思っています。

(「地域の方との交流も大切にしています。町会のお祭りにも参加させていただき、交流を深めています」)

──私たちが、何かできることはありますか。

伊丹:
「児童養護施設という場所があるんだよ」ということを、まず知っていただけたらと思います。そこにいる子どもたちは悪い子なんじゃないか、暗い子なんじゃないかというイメージで見るのではなく、中には本当に「その状況の中でよく生きてきたね」という子もいて、ここにいる子どもたちが精一杯、一生懸命生きていることを知ってほしい。偏見なく、こういう世界があると知ってもらえたらと思います。

ひと昔前に比べて減りはしましたが、それでも施設出身者であることが否定的に受け止められることがあって、施設を出た子が一人暮らしのためにアパートを借りる際、施設の出身であることがわかると、大家さんから「施設出身者とわかっていたら貸さなかった」などということを言われることもありました。

理解を示してくださる方がいる一方で、「施設はよくない子が行くところ」というようなイメージがまだあると感じます。そんな部分が払拭されたら、子どもたちにとっても今よりも少し生きやすい社会になるのではないでしょうか。

(本体施設建替え前のホール、「サローネ」。「サローネは、みんなが集うことができる貴重な場所でした。老朽化による建替えに伴い取り壊されましたが、新たなサローネを建築予定です。写真は創設者の記念日にみんなで集い、特技などを発表している場面です。安心して自分を表現できる場としても大いに活用されていました」)

子ともだちに新しい経験や世界を届けるチャリティーキャンペーン

(「高校を卒業して、新たな門出を迎えた子どもたちを盛大に祝福します。施設を退所した後も、つながりが切れることはありません。気軽に訪ねて来られる施設でありたいと思っています」)

──最後に、チャリティーの使い道を教えてください。

伊丹:
チャリティーは、子どもたちの野外活動を実施するための資金として活用させていただく予定です。
児童養護施設自体は国および自治体からの補助金で運営されていますが、先ほどお伝えした百名山をはじめとする、子どもたちが経験を得るための野外活動については、特別にお金が出るわけではなく、自分たちの中でやりくりしていかなければなりません。

今回のチャリティーで、子どもたちに新しい経験や世界、自分を知るきっかけを届けたいと思っています。ぜひアイテムで応援いただけたら幸いです。

──貴重なお話をありがとうございました!

(「2022年4月に新任職員さんの歓迎会の際に施設前で撮影しました。職員数も多くなりましたが、みんな子どもたちのことを想い、明るく元気に働いています」)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

社会的養護下の子どもたちというテーマでは、これまでJAMMINで何度かコラボをしていただいたことがありますが、児童養護施設は今回が初めて。日々ともに生活する中で、きれいごとでは済まされない、大変なことやつらいこともたくさんあるのではないかと思います。

「生活の場」であるだけでなく、社会に出た後、一人ひとりが自分の足で立って人生を歩んでいくための「自立支援の場」でもあるのだということを改めて強く感じました。

・星美ホーム ホームページはこちらから

09design

月にかけたハシゴに手をかけ、今まさに月に向かって登ろうとする人とそれを助ける友達を描きました。
「あなたのいのちは尊く、あなたが思っている以上にあなたは可能性に満ちた存在だよ」、そんなメッセージを表現しています。

“You are doing better than you think you are”、「あなたが思う以上に、よくできているよ!」というテキストを添えました。

チャリティーアイテム一覧はこちら!

・過去のチャリティー一覧はこちらから

logo-pckk                

SNSでシェアするだけで、10円が今週のチャリティー先団体へ届けられます!
Let’s 拡散でチャリティーを盛り上げよう!
(広告宣伝費として支援し、予算に達し次第終了となります。)