環境省の発表によると、2020年度に殺処分された犬猫の数は23,764頭(犬が4,059頭、猫19,705頭)。年々その数は減り、10年前と比較すると10分の1となりましたが、まだ課題が残っています。
今週JAMMINがコラボするのは、岡山で殺処分をなくすために活動するNPO法人「しあわせの種たち」。
「愛護センターに収容されている犬たちは、命を選別され、生かされるか殺されるかを決められてしまっている状態です。みんな同等な命なのだから、生かされ、本来生まれもった命を輝かせてあげる道を切り開いていきたい」と話すのは、理事長の濱田一江(はまだ・かずえ)さん(65)。
「純粋に生きる言葉を持たない犬たちに、教えてもらうことが本当にたくさんあります。
相手を思いやる心、素晴らしい出会いと感謝に包まれた時、喜びとともに頑張ろうという気持ちが湧き上がってくる。それは犬と人間だけでなく人間同士でもそうであって、思いやりの心を感じ、分かり合えた時に幸せが生まれてくると思っています。この活動を通じ、全国に『しあわせの種』を飛ばしたい」
そう話す濱田さん。活動についてお話を聞きました。
(お話をお伺いした濱田さん。抱いているのは殺処分対象だった「太郎」。今は濱田さんの愛犬として幸せに暮らしている)
NPO法人しあわせの種たち
岡山県動物愛護センターの登録ボランティア団体として、県の譲渡事業の協働を行うと共に、主に殺処分対象となった犬猫の最後の砦として保護し、新しい里親につなげる活動をしています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2022/4/11
(団体のメンバーに甘える、元野犬の「大地」。殺処分対象だった大地は、今では心を開き、笑顔いっぱい)
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
濱田:
岡山県動物愛護センターの登録ボランティア団体として、殺処分対象の犬猫をレスキューし、新たな里親さんに譲渡する活動をしています。
(収容当時の大地(写真左)と、現在の姿(写真右)。「大地と一緒に収容されたたくさんの野犬は処分されてしまい、この時なんとか助け出せたのは大地だけでした」)
濱田:
小型犬や子犬、純血種や健康で人馴れした仔は譲渡しやすく、「一般譲渡」になったり、他の団体さんも手を出してくださり、命がつながります。しかし、咬む犬、暴れたり威嚇したりする犬、人馴れしていない野犬、病気やケガのある犬、高齢犬などは収容された際に譲渡対象にならず、殺処分の対象となってしまいます。
殺処分対象の仔たちは、誰かが引き出してやらなければ殺されます。
私たちが最後の砦となって引き出して保護し、現在20名の預かりボランティアさんとともに、常時30頭ほどを自宅で保護し愛情をかけ、ケアやトレーニングを行い、責任を持って次の飼い主さんへとつなげています。
2014年に個人で活動をはじめ、2016年にNPO設立し、これまでに約400頭の殺処分対象だった仔たちを保護、譲渡してきました。
(「私にとって忘れることができない出会いとなった犬がいます。2015年2月、極寒のセンターで出会った『エルモ(イタリア語で”愛するもの”)』。フィラリア末期で心臓が肥大し肺を圧迫して水が溜まっていました。その時のエルモは推定5歳、去勢手術もされておらず、ましてやフィラリアは、飼主が予防してあげたらかかりません。こんなに苦しむことはないんです。この子の付けていた黒い首輪はボロボロでした。
検査の結果、絶対安静と投薬で少しでも延命出来たらという状態で、『最後は血水を吐いて苦しみながら亡くなることを覚悟しておいてください』といわれました。それが明日か2ヶ月先かは分からないが、ただ1年は持たないでしょうと。しかしそんなエルモが、引き出してから3年が経つ頃、なんとフィラリア陰転したのです!
…しかし大喜びしたのも束の間、後ろ脚の浮腫が酷くなり、苦しそうな状態が続くようになりました。エルモに何もしてやれない自分が本当に悔しかった。フィラリアにさえかからなかったら本当はお茶目で明るい元気な子だったと思います。
3年経った寒い夜、エルモは私の腕の中で逝ってしまいました。エルモはもっともっと生きていたかったんです。最期の時、何度も何度も私を見て、まだ生きていたい!一緒にいたい!というのが伝わりました。あまりに苦しそうな姿に、『もう楽になってもいいよ。エルモの良いようにしてね』といいました。『エルモといられて幸せだよ、ずっと大好きだから、ずっと一緒だから。エルモに会えてお母さんは本当に嬉しかった。エルモはお母さんの子だからね。ありがとう』というと、頷くように大きく頭を二度振って、旅立っていきました。
エルモはずっと無理をして、頑張っていたんだと思います。エルモ、ごめんねはいってはいけないというけれど、やはりごめんねと思う。でも、ありがとう。エルモと共に生きた時間、エルモからもらったたくさんの純粋な愛、一つ一つの仕草、表情、優しくキラキラした瞳…、全て、私の中で忘れることはありません。
エルモが最期に教えてくれたことは、ワンコは純粋に生きるということを最後まで諦めないということ。だから、人間の勝手で、明日も元気に生きていられるはずの命を奪うことは、何があってもしてはいけないんです」)
(収容された犬。「収容されている仔の瞳は不安と悲しみでいっぱいです」)
──収容される犬もそれぞれに種類も違えば、背景も異なるのですね。
濱田:
そうですね。収容されてすぐは、迷子犬の可能性もあるので飼い主さんの連絡を待ちます。昔はたった3日間でしたが、今は2週間の待機期間があります。2週間経ってもお迎えがなければ、その後どうしていくか、検査・審査されることになります。
──どのような検査・審査なのですか?
濱田:
全身の健康チェックと、審査については飼いやすさをチェックされます。ここで「一般譲渡」「特別譲渡」「譲渡不可」のいずれかが判断され、そこにしたがって動いていくかたちになります。
(犬を殺処分する殺処分機。中には二酸化炭素が充満しており、2〜30分苦しんだ末に死亡する)
濱田:
健康状態も良好で人に慣れていて飼いやすい仔、いわゆる譲渡しやすい仔たちは「一般譲渡」となり、岡山県の場合は愛護センターに併設されている愛護財団の方で譲渡会などを実施して里親さんを探します。ほとんどが子犬や小柄な若い仔、猫たちです。
「特別譲渡」については、検査・審査の時点で病気がある、高齢である、人馴れしていないなど何らかの問題はありますが、少し手をかけてあげたら譲渡できますよという状態の仔たちです。行政の判断で、条件付で飼うことのできる「譲渡可」の仔たちです。
(「犬舎の前の私たちに必死に訴えてくる姿に、胸が張り裂ける思いになります」)
──「譲渡不可」はいかがですか。
濱田:
「譲渡不可」になる最も大きな理由は咬むことです。
また「この仔は人馴れが困難だ」という判断をされた野犬も譲渡不可とされることがあります。激しく吠える仔や認知症が疑われたり、高齢で五感が衰えているために急に触られたことにびっくりして咬んでしまった仔、こわくて威嚇してしまった仔は、それだけで「この仔は咬む犬だ」とされて殺処分対象になってしまいます。
──「咬む=凶暴な犬」とみなされるということですね。
濱田:
そうですね。「咬むぐらい凶暴な犬を世に出すわけにいかんから殺処分や」ということです。だけど、本当に狂暴な犬なのでしょうか?物言わぬ仔たちに対して、なぜ咬むのかを察してあげる思いやりが必要なのではないでしょうか。たった一つの命なのだからもっと慎重に判断すべきだと思いました。
(殺処分決定となっていた野犬の「葵」。左の写真は収容当時、右は笑顔いっぱいの現在の姿)
(威嚇し咬みつくので、殺処分が決定していた柴犬の「愛」(写真左)と、現在の姿(写真右)。「引き出し保護後、女王様気質は相変わらずですが(笑)、今は愛嬌たっぷり、甘えん坊の愛されキャラに!」)
(センターの内部の様子。「初めてセンターに足を踏みいれた時の衝撃は今でも忘れられません。首輪をつけた犬たちも多く収容されています」)
濱田:
犬が咬む理由は、「こわい」が大きいです。
「咬む犬」や「凶暴な犬」というと人馴れしていない野犬をイメージする方も少なくないかもしれません。しかし野犬については、とにかく人がこわくて仕方がなくて、目を合わせることもできずにただ震えていて、それでも人間が触ろうとした時に、唯一身を守る方法として口が出てしまうこともあるのです。収容された野犬は、人が近寄ったり、触ろうとするだけで、失禁、脱糞します。それぐらい怯えているんです。
そもそも、殺処分機があり死と隣り合わせの環境は、犬たちにとっては恐怖でしかありません。そこから出してあげるだけで安心して、表情が全く変わります。しかし、極限の恐怖の中で、身を守るために咬んだら「譲渡不可」と判断されて殺されてしまう。何の猶予もないんです。
なぜ咬むのか、こわさを払拭してあげたら咬まなくなるのではないのかなというところを、民間である私たちが関わることで示していくことも大切なことだと思っています。
(高齢の上、咬みつくとされ殺処分決定になった『じぃ太』。「心臓疾患を抱えながらも、現在は預かりママのもとで甘えん坊の可愛いおじいちゃんワンコに変身しています」)
濱田:
タオルだったら咬まれても痛くないので、咬みついても、撫でるのを止めることなくタオルでソフトに触り続けると、「咬みついてもやめてくれない。でも、この人は痛いこともこわいこともしないんだ」と、野犬は案外早く理解してくれます。
おやつをあげてみたり触ったりしながら、施設の職員さんに「ほら見て、この仔、咬まないよ。凶暴じゃないよ」というのを見てもらって殺処分を回避する。「この仔、こんなに優しくて賢い仔だよ」ということを限られた時間の中でアピールして、殺処分を回避します。
(収容された犬を抱きしめるボランティア(写真左)。「こわくて口が出る野犬の場合は、タオルトレーニングで咬まなくなる仔がほとんどです」(写真右))
濱田:
ただ、殺処分を回避して特別譲渡になったとしても、こういった人馴れしていない犬はなかなか引き取り手も見つかりません。また野犬の場合は、里親さまが決まっても当会で一時預かりをして、散歩に行けるくらいまでのトレーニングをしてお引き渡ししています。
なので、私たちは早い時点から「私たちが引き出さなければならない」という視点で、その仔との関わりを考えながら行動します。
(「収容時、全盲で腎臓などの疾患を抱え、動くこともままならなかった仔です。相当な高齢だと思われていて殺処分対象になりましたが、預かりママに『エルフィー』と名付けられ、愛情に包まれ、余命幾ばくもないと言われた中、8ヶ月もの神様がくれた奇跡の時間を過ごしてくれました」)
濱田:
野犬に限らず、どの仔もそうですが、引き取り手のない仔が施設にそう長くは置いてもらえないこと、お迎えに行った時にはすでに殺処分の後だったというつらい経験もしているので…。
とにかく早め早めに「新しい飼い主さんが見つかったらラッキーだけど、そうならないかも」という前提で、預かりボランティアさんの中でこの仔だったらどの家庭環境が最も適しているだろうか、誰のところに行こうか、あれこれシュミレーションしながら、なるべく先回りして動くようにしています。
──先々まで見据えていらっしゃるんですね。
濱田:
野犬は家族や仲間と集団で生活するため非常に社会性が高く、頭もよく空気を読みます。仲間たちの中で危険を排除し、安心できる環境を作って生きてきたので、危険や安全を察知する能力が非常に高い。なので、一度人を仲間とみなし、「ここは安全なんだ」と認識すると、目に見えて変わっていきます。ベストパートナーになれる存在だと思っています。
(里親さんと幸せに暮らす「ピース」君。「センターには猟犬もたくさん収容されます。猟期が終わったり病気になったりして、使い物にならなくなって棄てられる仔は皆、痩せたボロボロの姿です。ピース君は幾度かの手術や治療を乗り越え、里親さまのもとで幸せに暮らしています」)
(多頭飼育崩壊の現場からやってきた『夢羽』。「後ろ足が変形して上手く歩けない姿でしたが(写真左)、大手術を受け、今はしっかりと大地に足をつけてお散歩できるようになりました(写真右)」)
濱田:
私が初めて施設に入ったのは2013年の12月でした。犬舎に足を踏み入れると犬たちが一斉にワンワンと鳴いて、それが「ここから出して、助けて」というふうにしか聞こえなかった。その衝撃は今でも忘れられません。
当時は、一度に何十頭もが殺される殺処分機が週に2回稼働していました。「動物愛護センター」といっても、生かすための施設ではなく殺すための処分場だったんです。
(殺処分機に収容した犬たちを向かわせるボタン。「このスイッチを押すと、自動で壁が動きます」)
濱田:
実際に殺処分される様子を見たことはありませんが、施設の犬舎には通路を挟むように犬が入る檻が並んでいます。
スイッチを押すと自動で檻の前面が奥に動き、犬は檻に押されるように真ん中の通路に追い込まれます。さらに通路も後ろのステンレスの壁が前に向かって動き、犬はどれだけ抵抗しても、その先にある殺処分機に押し込まれていきます。
殺処分機の中は二酸化炭素が充満し、2〜30分もがき苦しんで亡くなります。死んだ後はそのまま自動で焼却炉に流され、焼かれて骨になります。
(ガスを入れるスイッチがついた機械。ここで殺処分機の様子を見られるようになっている)
──そんな…。
濱田:
明日殺処分されるという仔たちの部屋では、みんなで体を寄せ合い、静かなかたまりになっていました。この仔たちは自分の命が絶たれることを知っているんだと思いました。
私はそれを見て、身動きがとれなかった。「この仔たちを全員連れて帰ります」と言うと「犬舎にはいっぱい犬がおるんよ。この仔たちは救われても、また新たに収容されて、その仔たちは処分されるんよ。あんたどこまで連れて帰れるん?できないでしょう」とセンターの職員さんに返されました。
今日この仔たちを連れて返っても、別の日にはまた殺される仔たちがいる。なぜこのようなことが起きているのかという理不尽さへの怒り、自分の無力さ…、しばらくは立ち直れませんでした。
殺処分機が稼働しているのは毎週火曜日と金曜日でした。
殺処分機が稼働している日は行きたくないし、前日に行くと次の日処分される仔たちを目にすることになるし、つまりどの日も行きたくないんです。でも、何かしないと変わらない。行きたくなくても行かないと、一頭も助けることはできない。毎回、重い気持ちで行っていました。
(譲渡会の様子。「春と秋、年2回譲渡会を開催します。メンバーたちがフリマや色々な企画をして毎回盛り上げてくれています!」)
(収容された犬たちにシャンプーをしているところ。「収容犬たちは生まれてから一度もシャンプーなどしてもらったことが無いかのような状態です。私たちはできるだけ快適に過ごさせてやりたくて、シャンプーのためにもセンターに通っています。人馴れしていない犬でもシャンプーしたら笑顔になってくれたり、ぐんと気持ちが近づくことがあるんですよ」)
濱田:
当時はセンターの方に何を訴えても、「この状態で、一体どうするん?なんぼ助けたって、どうせ殺さんといけん」という意識でした。挙げ句の果てには「(人馴れしていない)野犬は、殺された方が幸せよ」と。生かされるチャンスすらない。それが許せなかった。「死んだ方が幸せ」なんて、誰が決めて、あなたたちは何を見てそれが言えるん?って思いました。
──そこからどんなふうにして、今のしあわせの種さんのようになられたのですか。
濱田:
センターとの話し合いを重ねながら、2015年には岡山県知事に宛てて嘆願書も届けました。
県民ボランティアとして関わらせていただく意味は、少しでも良い方向に向かうために、行政に沿う事だけでなく、気づいたことや要望、案などを行政に意見を言える立場であるということ、まして命の現場にかかわる者たちは一番に命を尊び、それぞれの立場から意見交換をし、殺処分を少しでも減らせることを優先し、改善していかなければならないと考えたからです。そのための具体的な提案を書かせていただきました。
(センターから引き出しの日、甘えて職員さんに飛びつく仔。「暗かったセンター自体が、今はとても明るくなった」と濱田さん)
濱田:
そのあたりから個人としてではなく法人化して仲間を募っていこうと考え始め、2016年にNPOを設立しました。センターとも何度も話し合いを重ね、譲渡事業を少しずつ進めていただき、野犬や病気がある、高齢であるなどの理由で当初は「問題がある」とされ譲渡対象から外れていた仔たちも、期限付きではありますが「特別譲渡」の枠に入れて、里親募集をしてくれるようになっていきました。
──そうだったんですね。
(「『しっぽいち』というイベントに春と秋に出店しています。しっぽいちは里親さま方も遊びに来てくれて、ブースは卒業犬たちでいっぱいに!私たちもとっても楽しみなイベントです」)
(「今では毎日、担当のセンター職員さんが犬たちと関わって下さいます」)
濱田:
ボランティアを始めてから最初の3年間は本当に闘いの日々でした。「よう喧嘩したよな」と笑い合える日がくるなんて、今でも信じられないくらいです。
目の前にたしかにある命、その仔は懸命に生きているのに「助けてやりたい、引き出させてほしい」と訴えても「もう殺処分決定だから」と冷たく返されたこともありました。「この仔は今、ここで生きていて、目の前で聞いてるんですよ!」って。怒りや無力感で身体が引きちぎられるようでした。
…その仔たちのことは、今も思い出しては涙が出るし苦しいです。重い重い十字架をいくつも背負って、今があるんです。
(「センターに直接、お迎えに来てくださった里親さまご家族です。このご縁から当会のメンバーにもなって下さり、預かりボランティアをしてくださっています」)
濱田:
いくら叫んでも訴えてもわかってくださらない、行政の方は処分した方が良いと思っているのだと思ったし、行政を憎みました。でも、活動を始めて半年ほどで気づいたんです。「命を殺すことに日々携わる、職員さん方や業者の方々のその精神的な負担はいかほどだろうか。悪いのは行政でなく、身勝手に犬や猫を捨てる人間たちなんだ」と。
憎んだり批判したりだけではなく、「私はそうは思わんけどな」と思うことであっても、まず一番はセンターに収容された仔たちが生かされるために、行政側の考えや立場も尊重し、信頼を少しずつ築きながら、どう手を取り合っていけるかを何度も対話しました。行政側も努力してくださって、少しずつ良い方向に向かっていきました。
(「県外のご夫婦が岡山まで面会に来て下さり、咬みつくといわれていた仔の里親になって下さいました。『命(めい)』ちゃんと名付けられ、今では全く咬むこともなく甘えん坊さんになりました」)
濱田:
何より今、センターはびっくりするほど明るくなりました。
「こんな犬、一生かけても人に慣れんよ」と言っていた職員の方が、今は一生懸命、犬を慣らしてくださって、「こんなに散歩できるようになったんよ」と嬉しそうに教えて下さったり、施設の中で笑顔が増え、皆やさしくなりました。
今、岡山県が発表している犬の殺処分数は、昔のように殺処分機で殺された数ではなく、センターの中で自然死した仔、治る見込みのない怪我などのため安楽死した仔などの数字です。処分機はもう何年も動かしていません。
そして何万という数字から収容数がここまで減ったのは、本当に行政の力だと思います。犬を捨てようとセンターに持ちこんだ方を説得したり、家まで出向いてなんとか誰かに譲渡できないかと話し合われたり、地道な努力が実り、減ってきているのではないかと思います。
(「センターに収容中の仔や保護犬にお花をつけて可愛い写真を撮って、たくさんの方にこの仔たちの可愛さを知ってもらおうと始めた『tanetane.smil.project(たねたねスマイルプロジェクト)』。お花をつけるとみんな笑顔になるんです。JAMMINさんの今回のデザインを見た時、このプロジェクトと一緒だ!これしかないねと皆で話しました」)
(濱田さんと暮らす愛犬・太郎と保護犬たち)
濱田:
活動を始めた頃、「あの素人は、どうしようもない犬ばっかり引き出す。譲渡しやすい仔を引き出せばいいじゃないか」という批判もありました。確かに素人であるのは間違いありません。でも私は、殺される犬をどうしても諦めきれず、誰にも見向きもされず消されていく命たちを1頭でも多く連れて帰りたいと思ったんです。
──やめたいとかしんどいと思われたことはないですか。
濱田:
いちばんつらいのは、あの仔たちですから…。あの仔たちの命に私のつらさなんて関係ない。その思いはずっと変わらずあります。
私がやめてしまったら、いちばんつらいあの仔たちはどうなるのか。自分がつらいなんていうのは何の理由にもならないんです。悲しいことに助けても助けても、次から次へと収容されてくる犬や猫たちがいます。まだ、動きを止めるわけにはいきません。何もしなかったら無力だけど、私は微力であっても動き続けると決めたのだから、そして、その微力がもっと集まれば、もっと大きな力にもなれるはずだと信じています。
(保護犬の「うー」。「人を見ると威嚇し唸って、手を出すと咬みつこうとする仔で殺処分対象となっていましたが、センターから引き出して家に連れて帰ったその日から、威嚇も咬みつきもなくなり、お笑い系のお茶目な仔になりました。これが本来の姿だったんだと思います」)
濱田:
犬や猫は言葉を持たない生き物ですが、毎日彼らからたくさんの力をもらって、たくさんの言葉を聞いて、笑顔にしてもらっています。みんなそれぞれに性格や感情があって、甘えたり、拗ねたり、焼きもちを焼いたり…幼稚園の先生になったみたいな気分です(笑)。
一緒に暮らすことで本当に生活が豊かになって、彼らがいなければ私は本当に寂しい生活をしてるだろうし、だらだらしてるんだろうなと思いますよ(笑)。そんな大きな支えとなってくれる存在と一緒に暮らせるということが、いかにありがたく幸運かを日々感じています。
(犬たちと一緒にドッグランへ)
濱田:
自分以外のものに対する「思いやりの心」を持つこと、「命を尊ぶ」ことを、犬たちが教えてくれました。この問題にかかわらず、今地球上で起きている環境破壊のことや戦争…、人間たちはあまりにも思いやりの心を持たずにやりすぎているのではないかと思っていて。
人間の知恵は、こんなことに使うためにあるのではないと思うんです。「気に入らないから殺せ」「いらないから殺せ」は知性や理性を持つ者のすることではないと思います。
人間同士でも、また動物に対してや自然に対しても、「自分だけは特別」と思わずに、思いやりの心を持って、互いに輝きながら生きる地球をつくる一つのきっかけ、「しあわせの種」に、なってくれたらいいなと思っています。
(里親さんのもとで幸せに暮らす2匹。「人馴れしておらず、殺処分対象となっていた一族の中の2頭、『イッチー』と『ニコ』です。それぞれ別の里親さまに引き取られ、2年後に再会。お互いに再会を喜ぶ姿に感動しました」)
(「猫は一般譲渡になったり、猫の団体さんが引き出してくれますが、時々、極度に人馴れしていない、病気や何か問題があるとして殺処分対象になる仔がいます。そんな時は当会でお世話させていただいています。メンバーたちもそれぞれに地域猫などを保護しており、私のところにも常時7~8匹がいます」)
(「犬を引き渡す際は、メンバーたちが直接、里親さんのもとへと伺います。県外の里親さまには、メンバーたちで協力してリレー搬送します。直接里親さまのお宅まで伺ってお会いすること、環境を確認することも大切なことだと思っていますし、アフターフォローもしやすくなります」)
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
濱田:
チャリティーは、レスキューした保護犬の医療費や訓練費の一部などに充当するため、また団体の活動を知っていただくための啓発資金として活用させていただく予定です。ぜひ応援いただけたら幸いです。
──貴重なお話をありがとうございました!
(メンバーの皆さん。「譲渡会にて、休憩中の一枚です」)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
しあわせの種さんに送っていただいた写真を見てびっくり!引き出して保護された仔たちの、なんと表情が変わったことでしょう。怯え、寂しそうだった目が、いきいきと輝いています。言葉を持たない犬や猫だからこそ、人以上に敏感に、愛を感じとるのかもしれません。
犬や猫の問題だけでなく、今地球上で起きている戦争をはじめとするさまざまな問題に直面する時に、「相手を思う心」を持つこと、そして自分が興味のあることや動けることを起点に行動することが、たとえ微力であっても無力ではなく、問題解決への道につながる。濱田さんがそう話してくださったことがとても印象に残っています。
いろんな仔たちの、やさしくリラックスした表情を描きました。
一頭一頭が尊く輝くいのち、一頭一頭が未来に大輪の花を咲かせる、しあわせの種たち。
そんなメッセージを表現したくて、それぞれのいのちと共に、やさしく咲く花を描いています。
“Your future is bright and beautiful”、「あなたの未来は、明るく美しい」というメッセージを添えました。