毎年3月21日「世界ダウン症の日」に向けてコラボいただいている日本ダウン症協会さん。 JAMMINとのコラボは今年で7回目となりました。
今年の「世界ダウン症の日」のテーマは「WHAT DOES INCLUSION MEAN?(インクルージョンって何?)」。
「インクルージョン」、日本語に直訳すると「包括」。多様性を認め合いながら、それぞれが自分らしく主体的に生きられる社会、ってどんな社会でしょうか。
皆それぞれ好きなものや得意なことが異なるように、輝ける場所や方法は一人ひとり異なるし、年齢によっても変わってきます。
どんな時も、自分の存在が受け入れられ、居心地よく感じられるコミュニティがあって、「行ってきます!」と心踊らせて出かけられる場所があるように。そんなことを表現したくて、今回の「3つあるシリーズ」のモチーフは「靴」に決定しました!
23あるペアの靴のうち、一つだけ3つ描いたのは、「メダル」。ダウン症のある人たちの暮らしを周囲の人たちが温かく見守る様子、挑戦や社会参加に「ありがとう」を表す象徴として描くとともに、ダウン症の特徴である「21トリソミー(23対ある染色体のうち、21番染色体が通常より1本多い3本ある状態)」を表現しています。
「靴」のモチーフにあわせて、2家族にインタビューをさせていただきました。
(2月26日に開催された世界ダウン症の日キックオフイベントでの一コマ)
公益財団法人日本ダウン症協会(JDS)
1995年に発足した、ダウン症のある人たちとその家族、支援者で作る会員組織。ダウン症の啓発や情報提供を行い、ダウン症のある人たちとその家族のより良い暮らしを目指して活動しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2022/2/28
最初にインタビューさせていただいたのは、愛媛県に住む井上舞珠(いのうえ・まいみ)さん(31)、2歳になったばかりの息子の創太(そうた)くん。昨年から少しずつ歩くようになった創太くんは、ご友人から贈ってもらった素敵な青い靴を履いています。
(井上さんご家族。ご家族で着てくださっているのは、2021年のJAMMIN×日本ダウン症協会コラボの『乾杯デザイン』のTシャツ!「去年の3月21日、世界ダウン症の日に自宅で撮った写真です。創太は9か月くらいまでなかなか笑ってくれない人でしたが、最近では笑顔満載!この時初めて3人の写真をセルフで撮ったのですが、創太のいい顔が撮れました」)
井上:
1歳10ヶ月ぐらいから歩き始めました。本当に少しずつだったので、どの時点を「歩き出した」というかは難しいけれど、最初に立ち上がってくれた時は、本人の「立ちたい!」という強い意思を感じて、特に嬉しかったです。
おじいちゃんおばあちゃんたちも日々の成長をすごく楽しみにしてくれていて、毎日動画を共有しないと「体調崩したの?」と連絡があるぐらいです(笑)。コロナ禍の子育てですが、ありがたいことにたくさんの人に気にかけてもらい、大きな不安もなく日々を過ごさせてもらっています。
(2021年の大みそかに、お父さんと遊ぶ創太くん。「創太は父ちゃん大好きで、絵本を読んでもらったり、一緒にぐるぐる回ったり、お風呂で歌を歌ってもらったり…一緒にいるといつもニコニコ。もちろん父ちゃんも創太が大好きで、一緒にいる時間が長い私より、創太の日々のいろいろな変化を発見しています」)
──ダウン症であることがわかった際に、不安などはありませんでしたか?
井上:
成長がゆっくりであるということは心構えできていたので、子育ての中で何かショックということはこれまで特にありません。ただ、生まれた頃がちょうどコロナが日本でも感染拡大しだしたタイミングで、その面での不安と、創太は心疾患があったので、そちらへの不安が大きかったです。
──そうだったんですね。創太くんがダウン症であることはどの時点でわかったのですか?
井上:
生まれてから「ダウン症かもしれない」といわれました。その後大きな病院で検査して、ダウン症であることがわかりました。
──その時はどんなふうに思われましたか?
井上:
ダウン症については、私が以前放課後等デイサービスで働いている時に知っている子がいたし、友達のお姉さんもダウン症があるときいていたので、特に抵抗や拒絶はなかったです。それよりも心臓の心配の方が大きかったですかね。
周囲にどう思われるかなと思ったりもしましたが、おかげさまで本当に恵まれ、かわいがってもらっています。
(生まれて間もない頃の創太くん。「産院で『ダウン症かもしれない』と言われ過ごしていた時の写真です。放課後等デイサービスなどでも働いたことがあったのですが、『私が今まで経験してきたことって、もしかして創太に出会うためか!』と妙に納得できたのを覚えています。産院を退院後、大きな病院で心疾患が見つかりNICU(新生児特定集中治療室)に1ヵ月ほど入院しました。私も毎日、NICUに通いました」)
──出産・子育てが、コロナの流行の時期がちょうどかぶっているんですね。そんな中の子育ては大変ではありませんか。
井上:
「ダウン症のある子の親である」ということが、たくさんの人とつながるきっかけになりました。なかなか外出もできない中でママ友を作ることも難しいなと思っていたのですが、SNSでダウン症のある子を持つお母さんのコミュニティとつながれたことをきっかけに、今では毎日のようにおしゃべりしています。
子育てに関する悩みや日々のたわいない話から、zoomでつないで皆で一緒にパンを焼いたり、それぞれおでんをつくったり、裁縫したりする方もいました。息子がダウン症だったからこそつながれた出会いで、はじめての子育て、さらにコロナ禍で孤独に感じるかもしれなかったところも乗り切ることができています。
──そうだったんですね!
井上:
偏見じゃないですけど、ダウン症のある子どもをもつ親御さんは皆さん本当に褒め上手で。一緒にいて楽しいし安心するし、私より少し年上のお母さん方が多いので、先輩ママとして本当に頼りになっていて、こういう方たちと出会えたことは、自分の人生にとって大きな財産だと感じています。
(ダウン症のある子どもを持つお母さんたちの集い、通称「D-mama club」。「月に1回ほど、タイミングの合うメンバーでオンラインでつながって楽しいことをしています。それまではダウン症のある子の親になったという特別感をどこか感じていましたが、ここでのママたちと出会いによって、ダウン症のある子の親になったことは特別なことではなく全然普通のことだと感じることができました。あとは、ママたちのエネルギーと愛の大きさに圧倒されました!今では何でも話せるお母…、いやお姉さんのような存在です(笑)」)
(「インタビューを受けた10日後、公園でこの靴を履いて2、3歩歩けました!これからハイカットの靴でインソールを作ってもらうことにはなると思いますが、この靴で歩く姿を見ることができ、記念になってよかったです」。今回のデザインには創太くんのこの靴も描かせていただきました!探してみてくださいね)
──創太くんのファーストシューズについて教えてください。
井上:
出産祝いでいただいたものです。この靴をいただいてすぐにダウン症があることがわかったので、その時は「この靴が入るうちに歩けるようになるかな?」という思いも頭をよぎったのですが、今ちょうどピッタリ!履いて歩くことは難しいですが、寒い季節ですし、かっこいいので防寒として身につけています。
(創太くんの1歳の誕生日に、自宅にて。「わが子の1歳の誕生日ってこんなに感慨深いんだと感動しました。想像していなかったことがたくさんあって盛りだくさんの濃い1年でしたが、とにかく私たちの息子として生まれてきてくれてありがとう!という思いでいっぱいでした」)
──今回のコラボデザインのモチーフが「靴」なのですが、これから創太くんも、成長していく中で靴を履いていろんな場所へ行き、いろんな人に出会っていかれると思います。親として期待されることや望まれることはありますか。
井上:
遠い未来のことをあえて深く考えはしていませんが、本人が好きなことを見つけて、楽しく健康で生きてくれたらいいなと思います。きっとこの子が大きくなる頃には、社会も今よりもっと良くなっているだろうなという期待もあります。
私はたまたま、ダウン症というスペシャルニーズが必要な子の親になることができました。だから、より良い未来に向けて、自分ができることがあったらやっていきたいなと思っています。
彼がいてくれることで周りの人たちがやさしくなれます。皆から愛されながら、きっとこれからも、周りの環境が良い方向に変わっていけばと願っています。
(2021年のクリスマスにて。「何度見ても笑える、この笑顔がたまりません。これからも創太にはたくさん笑わせてもらえると期待しています。そして今日も、たっぷりの愛を創太へ…!」)
もうひとかた、三重に住む竹花和真(たけはな・かずま)さん(14)とお父さまの利郎(としお)さん(50)にお話を聞きました。
(和真さんと、お父さんの利郎さん。「2018年に行ったハワイ旅行での1枚です。ダイヤモンドヘッドの頂上まで登りきりました。どこかへお出かけすると必ず1回は『おうちへ帰る!』と言う和真でしたが、ハワイだけは1回も言いませんでした(笑)」)
和真さんは、1年前に始めた陸上の短距離走で2021年の「全国ダウン症アスリート陸上競技記録会」に出場。幼い頃から体を動かすことが好きで、陸上だけでなくボウリングも大好きなのだそうです。
──和真さんは陸上を始められたきっかけを教えてください。
竹花:
小学校の運動会のかけっこも、いつも最下位ではあるんだけどそれほど遅いわけではなくて、まあまあ良い感じでついていってるなというのがありました。
じゃあ一回走らせてみるかなと思って、「みえ障がい者陸上競技協会」の練習に体験で参加したら、本人も気に入ったようで、そこから続けています。協会の役員や大学生のボランティアが指導されていて、先輩会員のお兄さんお姉さんと皆でワイワイ練習するのが楽しいようですね。
(2021年に宮崎で開催された全国ダウン症アスリート陸上競技記録会に出場した和真さん。「出場したエンジョイリレーでは、50メートルを8人で合計400メートルを走りました。和真はアンカーの一つ前の第7走者としてトップでバトンをつなぎ、黄色チームの優勝に貢献しました」)
──陸上を始められて、何か変化はありましたか?
竹花:
和真は言葉でのコミュニケーションが難しいのですが、先輩メンバーたちに暖かく迎え入れてもらっているおかげで本人が楽しみながら続けられているし、2〜3時間ある練習時間は弱音も吐かず、みんなと同じメニューを最後まで頑張っています。見よう見まねでかたちから入るので、フォームの見栄えはよくなりましたね。
陸上も好きなんですけど、ボウリングはもっと好きなんですよ。陸上の練習は月に1回ですが、ボウリングは週に3回、教室に通っています。最高スコアは233です。
──ええー!すごいですね。ボウリングはいつからされているんですか?
竹花:
小学5年の3月から始めましたので、もうすぐ3年になります。今使っているマイボールは4つめになります(笑)。有酸素運動で足腰も鍛えられるので、陸上のトレーニングにもなっているんではないでしょうか。
(「ボウリングの練習は、プロボウラーの指導のもと1回6ゲームを投げます。投球フォームもだいぶカッコよくなりました」(ボウリング場の許可を得て撮影))
──体を動かすのが好きなんですね!
竹花:
そうですね。小さい時に心臓の手術を受けましたが、それを差し引いてもとても活発で、外で遊ぶことが大好きな子でしたね。
──親として、どのような思いで応援されているのですか?
竹花:
今通っている特別支援学校の中学部には運動系のクラブや部活動がないので、その代わりに体力づくりを兼ねて練習しています。本人は陸上もボウリングもどちらも大好きで、褒められるとますます張り切るタイプですので、自信をつけてくれればと思っています。
ボウリング教室では地元の他の子どもたちに混ざって違和感なく練習していますし、ボウリング場の年配の常連さんたちも和真の顔を覚えてくださって、声をかけてもらったりお菓子をもらったりしています(笑)。
(和真さんが通っている「久居ボウリングセンター」のボウリング教室のお友達と、水曜日のレッスンを担当している大西憲一プロと一緒に)
──地域の方や同世代の方たちとも出会える場なのですね。
竹花:
そうですね。たまたま陸上とボウリングが好きで続けていますが、自分の好きなことや得意なことを伸ばして、それがちょっと自慢できたり、何かいやなことがあった時にストレスの発散になったり、生活を豊かにしてくれたらなという思いがありました。
趣味を通じて交流の幅がもっともっと広がっていけば、新たな出会いや可能性も広がるのではないでしょうか。
あとはダウン症のある人は太りやすい傾向があるので、肥満対策としても効果があると思います。
(自宅での和真さん。「学校でテーブルの拭き方を習ってきて以来、テーブル拭きを頼むと頑張って完璧に拭きあげてくれます」)
(「宮崎の大会に行く直前、新しいスパイクを履いて2人で自主練習をしました。和真は余裕の表情ですが、父は足がつる寸前です(笑)」。今回のコラボデザインには和真さんのスパイクも描かれていますよ!)
──陸上ではスパイクを履くんですね。
竹花:
昨年のダウン症陸上競技記録会に参加する1ヶ月前に初めて手に入れたものです。最初はスパイクが必要ということもわからなくて、大会のプログラムを見て慌てて購入しました。スパイクに慣れるために大会前に二人で自主練をした時は、私が和真についていけなかったですね(笑)。
──和真さん、速いんですね!
竹花:
宮崎の大会では、60メートル走が11秒04、100メートル走は18秒96でしたが、もっと速いライバルが何人もいました。速く走る技術を身に付けられればもっとタイムを縮められると思いますが、「ダウン症あるある」の優しい面が競技中にも出るのか、突然周りの人に合わせてペースを落としたり、遠慮して進路を譲ったりするので、見ているこちらがハラハラしますね(笑)。
宮崎から帰って学校に結果を報告したら、校長先生から全校生徒の前で改めて表彰していただきました。陸上競技協会の練習会でも結果を報告させていただいて、メンバーのお兄さんお姉さんから「すごいね!頑張ったね」と褒めてもらって、自信がついたようです。
(「宮崎の大会で、最初の種目の60m走を走り終えメダルをもらった和真です。満面の笑みで得意げに戻ってきました」)
竹花:
和真がダウン症であるとわかった時はなかなか受け入れられなかったし、小さいころはいろいろと将来の心配をしたりもしました。しかしある程度成長してきた中で、彼が得意なことを楽しく続けていけたらいいなという気持ちが強くなっています。
将来の選択肢も少しずつ見えてきました。支援学校を卒業した後は何らかの形で働くのだろうなと思っていますが、自分に合った働き方をしながら、余暇として、スポーツでも何でも、好きなことを楽しむ人生を歩んでくれたらなと思います。仕事だけでも余暇だけでも困るんですけど(笑)、自分が好きなことや合うことを見つけて、どちらも楽しみながら生きていってくれたらなという思いがありますね。
きっとつらいことも出てくるかもしれませんが、その時に好きなことがあれば、気分転換にも逃げ場にもなってくれるのではないでしょうか。
我々もそうですが、皆何でも器用にできるわけじゃないですよね。それぞれ得意なこともあれば、苦手なこともたくさんあるし。「個性」といえばありきたりかもしれませんが、良いところを伸ばしながら、のびのび成長してくれたらと思っています。
(ダウン症陸上競技記録会の60メートル走にて。12番のゼッケンをつけているのが和真さん)
(世界ダウン症の日キックオフイベントにて、今年のコラボデザインのお披露目!)
(新たに登場したエプロンもお披露目。モデルは日本ダウン症協会理事の水戸川さん親子)
いかがだったでしょうか?
毎日、新しい1日を、お気に入りの靴を履いて出かける場所や出会える人がいるように。趣味や好きなことに打ち込み、そこでまた広がる経験と世界があるように。そんな願いを込めて、今回のコラボデザインを作成しました。
コラボデザインアイテム購入ごとのチャリティーは、日本ダウン症協会主催の世界ダウン症の日キックオフ配信イベントの技術費、ダウン症啓発ポスターの印刷費、また全国にポスターを配布するための送料として活用されます。
3月21日の世界ダウン症の日に向けて、今年も盛り上げていきましょう!
(新代表理事長の玉井浩先生(写真右端)と記念撮影。2018年のコラボでは、ダウン症のある人の健康や老いをテーマに、医師である玉井先生にインタビューさせていただきました。その時の記事はこちら→https://jammin.co.jp/charity_list/180213-jdss/)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
“Diversity is being invited to the party, Inclusion is being asked to dance(ダイバーシティとはパーティーに招待されること、インクルージョンとは一緒に踊ろうよと誘われること)”。
昔、ネットで見つけてなるほどと思った言葉で、毎週いろんな団体さんのお話を伺う中でことあるごとに思い出しては意味を考える言葉です(ダイバーシティコンサルタントやインクルージョンストラテジストなどとして知られるVerna Myersさんの言葉)。
招待して終わりとか、こちらはやることはやったから終わり!ではなくて、それぞれのタイミングやそれぞれのペースで、遠慮や緊張なく、自由に「一緒に楽しめる」ことにフォーカスして、対等な関係性、時間、社会が築かれていくといいなと改めて感じました。
お話を聞かせてくださった井上さん、竹花さん、ありがとうございました!
・日本ダウン症協会 ホームページはこちらから
・世界ダウン症の日2022 JDS公式サイト
キックオフイベントはこちらからご視聴いただけます▼
恒例の「一つだけ3つあるシリーズ」。
2022年の日本ダウン症協会の「世界ダウン症の日ポスター」のテーマに合わせ、スケート靴やシュノーケリングの足ひれ、スパイク…いろんなスポーツの履物だけでなく、みんなが街中に出て行く時に必ず履く、靴を描きました。
どこに行くのかな?誰に会いに行くのかな?…街の中に溶け込み、楽しく暮らす様子が伝わってくるようです。
一つだけ3つ描いたのは、「メダル」。ダウン症のある人たちの暮らしを周囲の人たちが温かく見守る様子、挑戦や社会参加に「ありがとう」を表す象徴として描きました。
“What does inclusion mean?”、今年の世界ダウン症の日のメッセージを添えています。