我が子のために。未来のために。
今週、JAMMINがコラボするのは、障がいを抱える子どもを持つ父親が集まってできた会、一般社団法人「福岡おやじたい」。
父親ならではの視点やネットワークを生かして、誰もがありのままで暮らすことができる社会のために活動してきました。
「普段働いているお父さんは最初、どうしてもわからないことが多く、子育てに参加しづらいところがあります。障がいを抱える子となるとなおさら。障がいを抱える子を持つ父親同士、悩みや不安を語り合いながら、より良い社会を目指せたら」。
そう話すのは、福岡おやじたいメンバーの財津英樹(ざいつ・ひでき)さん(50)。
活動について、お話を聞きました。
(お話をお伺いした財津さん。娘の環ちゃんと。今回のコラボデザインアイテムを早速身につけてくださっています!)
一般社団法人福岡おやじたい
障がいを抱える子どもたちの将来への貢献を目的とし、幅広く一般の方へ障がい全般に対して認知・啓発活動を父親を中心に行っている団体です。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2022/01/10
(2021年12月、「MAZEKOZEセミナー Part28」にて。立花高等学校の校長、齋藤眞人さん(通称「校長ちゃん」)によるセミナー「『同じであること』から『違いを知ること』へ」。「校長ちゃんのセミナーで1年を締めくくるのが毎年の恒例となっています。毎回、笑いと涙を誘うお話で、気づきを与えてくれます」)
──2018年のコラボでは大変お世話になりました。まず最初に、団体のご活動について教えてください。
財津:
知的障がいを抱える子どもの父親が中心となって活動している団体です。人権や差別といった問題を考え、障がいを抱える人が暮らしやすい世の中をつくるための啓発活動を行っています。
啓発活動は大きく分けて3つあります。
一つが、年に一度開催している大きな啓発イベントです。ゲストを呼んで講演をしていただく傍ら、福岡市内の障がいを抱える方たちのダンスや歌などを発表していただく場です。2022年は1月9日に『笑顔と絆のスクラム Part8~多様性が認められる社会を目指して~』を開催、今回で8回目を迎えます。
(2022年1月9日開催の『笑顔と絆のスクラム Part8~多様性が認められる社会を目指して~』の案内チラシ)
財津:
さらに2ヶ月に1度、障がい支援に関わる社会福祉士や議員の方など地域の専門職の方を呼んでのセミナーの開催、半年に一度、人権問題を中心に、弁護士の先生などを招いたシンポジウムや活動報告会も開催しています。これらの活動を通じ障がいを抱える人を取り巻く状況を広く伝え、改善を推進できたらと考えています。
現在の会員数は、準会員を含め26名。法人名どおり男性のみのメンバーで、親子ほど年の離れた71歳から42歳までの父親たち。年齢だけでなく、職業・職種・生活環境の違う「おやじたち」の集まりです。
──なるほど。
(2021年1月、「笑顔と絆のスクラム Part7」にて、ステージ上で挨拶をする「福岡おやじたい」理事長の吉田さんと息子の陸人さん)
財津:
最近は特に人権や差別問題の啓発へ力を入れており、半年に1回開催しているシンポジウムでは、2007年に佐賀市で起きた「安永健太さん事件(知的障がい者、身柄拘束死亡事件)」やハンセン病問題、触法(法に触れる行為)対応などを取り上げ、これらの問題に携わる弁護士の方を招いた講演を開催してきました。
「安永健太さん事件」は、知的障がいのあった安永健太さん(当時25歳)が、作業所からの帰り道に「車道を自転車で蛇行運転している」としてパトカーで追跡され、驚いて抵抗した安永さんが5人の警察官に取り押さえられ、亡くなった事件です。警察の追跡に本人もパニックになったのではないでしょうか。裁判の末、警察には無罪判決が言い渡されています。
──そうなんですね。
財津:
本人への接し方や質問の仕方に、果たして問題がなかったのか。特性を踏まえた上で接していたら、また違った結果になっていたのではないかと残念でなりません。
この事件に限らず、こういうことは結構起きているんです。障がいを抱える人の触法(法に触れる行為)について、あるいはこういったことが起きているんだということについて、もっと発信していく必要があると感じています。
──なるほど。それでシンポジウムや専門的な勉強会の開催を続けていらっしゃるのですね。
(2021年の「笑顔と絆のスクラム Part7」にて、リーダーと障がいのあるメンバーからなる「ホームランチーム」の作品発表の場。「ホームランチームとは、障がいの有無に関わらず、関わる人たちと楽しくシアワセになることを目的に活動しているチームです。福岡おやじたいのイベントでは、彼らが制作した作品を販売しています」)
(福岡おやじたいメンバーのメンバーと家族の集合写真。「コロナ禍でなかなか集まれなかったメンバー間の交流の一枚です」)
財津:
少しずつですが、街中で障がいを抱える方と出会う機会は増えてきたと感じます。
たとえば20年前は、電車に一人でずっとブツブツ言っている人が乗ってくるとその方の周りに50センチぐらいの空間ができていたのが、最近は「そういう人なんだな」という認知がされるようになり、距離がとられることも減ってきました。
知ってさえもらえたら、「こんな人なんだな、危険ではないんだな」と、不審者というような判断をされずに済みます。知ってもらうことは、非常に大切だと考えています。
──本当ですね。
(「笑顔と絆のスクラム Part7」にて。ダウン症のある娘を持ち、福岡県下の小学校を中心に講演活動を行う是松いづみ先生による講演の様子)
財津:
私の娘はダウン症があります。娘と一緒に街に出ると、彼女は多動なところがあって興味があることにダーッと走っていくんです。すると、そこに同じ年頃の子どもがいた時、最初はびっくりしてパッと引かれるような感じになることがあります。でもそれは普通の反応なんですよね。
そういう子がいることをまず知ることで「こういう人がいるんだ。そういう人なんだ」と慣れていくようなところがあるのではないでしょうか。
(「笑顔と絆のスクラム Part7」にて、全国の病院をまわり、病気の子どもたちを笑わせる大道芸人、大棟耕介さんによるクラウンパフォーマンス)
財津:
ただ単に「認めてください」と主張するのも何か違うと思っていて。自分たちのことばかりを主張したとして、たとえそれが通ったとしても、周囲の反感を買いながらとなると、じゃあ今度娘が一人で生きていかなければならなくなった時、果たして彼女が本当に楽しく生きられるのかと。
きっとそうではないですよね。反感ではなく、受け入れ、認め合う気持ちが大切なのだと思います。
親として「教育」にこだわるのはそこなんです。「皆に知ってほしい」という思いがあって、娘は普通の小学校に入れました。もしかしたら友達になることは難しいかもしれない。でも「こういう人がいるんだ」って知ってもらえたら、違いに対して過剰に反応せず、受け入れ合って互いが「普通に」生きられるという部分があるのではないでしょうか。
(イベントにあたってのミーティング風景。役割分担などを話し合う)
──そこの壁が今、まだまだありますよね。
財津:
はい。だからその壁を、できるだけ低くしたいと思っています。
このことは、何も障がいを抱える人だけの問題に限らないと思うんです。宗教、文化、国、考え方、見た目、性格…、皆それぞれ、違います。いろんな人が社会に存在します。それぞれが自分らしくあっていいはずなのに、自由を侵害されたり、安心に暮らせなかったり、差別を受けたりする人がいる。それが、社会全体の生きづらさにもつながっています。
(メンバーとその家族、皆で花火大会。「コロナ禍でなかなかメンバー家族で集まることが難しかった中での、貴重な1カットです」)
財津:
なんとなく薄々「そうなんだろうなあ」と感じていたことですが、娘が知的障がいをもって生まれてきたことで僕自身改めて考えさせられることがありました。まるごと、ありのままの相手を受け入れられる、多様性を認め合う社会のために、自分たちの活動を通じて「知ること」による気づきやきっかけを提示できたらと思っています。
(毎年4月2日の「世界自閉症啓発デー」での1コマ。「この日は福岡タワーが自閉症カラーの青色にライトアップされます。自閉症について広く認知してもらえるよう活動しています」)
(娘の環ちゃんと。バーベキューの時の1カット)
財津:
「気づきの種」というのかな。芽吹くかわからないしその度合いも人それぞれだけど、種を植えていくことができればと思っています。
うちの娘は普通の保育園に通いました。そうすると周りのお友達が、娘を分け隔てすることなく、できないこともごく当たり前のようにサポートしてくれてたんです。
娘が小学校に上がったある時、娘の学習参観に行くと、一人のお母さんから声をかけていただきました。その方がおっしゃるには、娘さんが足を骨折し、毎朝ギプスを巻いた状態で下駄箱で靴を履き替えるのが大変だったそうです。するとうちの娘が「荷物を持ってあげるよ」と毎朝、彼女を待って荷物を持ってくれたらしいんです。
──そうだったんですね。
(「家族で『うんこミュージアム』を訪れた時の一枚です。娘と妻と」)
財津:
お母さんは涙ぐみながら感謝してくださいました。僕もすごく感動しました。
娘は自分が周りの子たちから温かく受けてきたサポートを、ごく自然なかたちで、当たり前のこととして返しただけなんですよね。これも先ほどの「気づきの種」の芽吹きの一つだなと思って。すごく嬉しかったです。
うちの娘は「環」と書いて「たまき」という名前なのですが、「環」という言葉には「宝物」という意味ともうひとつ、生まれた時に障がいがあることがわかり「一人では生きていけないだろうから、人と人をつなぎ、やさしい思いが循環するような存在になってほしい」という意味合いも込めてつけた名前でした。
彼女の存在が親である私たちの希望や光になってくれているし、私たちが思う循環の、さらにその上を体現してくれているなあと頼もしく嬉しく感じています。
(「セミナー後の、懇親会という名の飲み会の様子です(笑)」)
ここからは、福岡おやじたいの他のメンバーの方にもお話を聞きました。
山根伸仁(やまね・のぶひと)さん(48)の息子の佑太(ゆうた)さん(13)は自閉スペクトラム症があり、知的遅れを伴う広汎性発達障がいがあります。
(山根さんと息子の佑太さん。「福岡おやじたいを通じて知り合ったホームランチームと一緒に初めて絵を描いた時の写真です」)
息子が自閉スペクトラム症(以下「自閉症」)だと気づいたのが、2歳後半から3歳くらいの時だったと思います。発語がほぼなく、目も合わず、異常にかんしゃくを起こす息子を見て「何かおかしい」と思いながら、抱っこしても泣きわめく息子に正直イライラしていました。
そう当時を振り返る山根さん。
どうすることもできなかった時、インターネットで「自閉症」という障がいの存在を知りました。
これだ、と思い一瞬呆然となりましたが、ようやく腑に落ちて、息子を抱っこする時に「言いたいことも言えずに大変だったね、もう安心していいよ」と心から思い、声がけしだしてから、彼のかんしゃくが激減しました。「ああ、言葉は話せないけど、本人はわかっているんだな」と思いましたね。
妻はずっと大変だったと思います。父親は昼間仕事に行って留守ですが、母親は一日中一緒にいて、障がいを持っていなくても大変な子育てをほぼ一人でやっていたのですから、感謝してもし尽くせません。
将来この子はどうなるのか、親が死んだ後生きていけるのか。漠然とした不安は今でもありますが、当時は今よりも大きな悩みでした。
親としてできることは何か、他に同じような子どもを持った親はどうしているのか…。いろいろと調べるうちに、お母さんたちが頑張っている親の会は全国に多くあるものの、お父さんたちが活動している会というものがほとんどない、ということもわかってきました。
そんな中、2015年に福岡おやじたいと出会った山根さん。
ほどなくして私もおやじたいの一員になっていました。
私もそうだったのですが、まず「知る」ことから始めないと、その情報にたどりつくことすらできない。いくら情報がインターネットなどにあっても、そのキーワード自体を知らないと障がいだということすら当人の親でも気づかない、ということなんです。
知ることではじめて動き出せる、仲間を見つけられる、いろんな情報を共有することができるんだなと。
福岡おやじたいは、広く一般の方にも自閉症というものを知ってもらうきっかけ作りをしていてすごく共感しました。活動の中でいろんな情報に触れる機会が増え、息子をいろんなことにチャレンジさせることもできるようになりました。そしてまた、同じような境遇の親御さんや一般の方にも息子のことや障がいとの向き合い方を知っていただけるようになりました。
(「夏休み、コロナ禍で遠出もできず、久しぶりにホームランチームのリーダーと一緒に絵を描いた時の写真です。2022年の干支・トラを描きました」)
もう一人、宮内健(みやうち・たけし)さん(42)の息子の蒼(あおい)さん(13)は、生まれてすぐに視神経低形成(片目は全盲・片目は弱視)の症状が見つかり、また成長過程で検査の結果、自閉症スペクトラムと診断されました。
(宮内さんと息子の蒼さん。北九州の海を訪れた際の一枚)
障がいが分かった時、私自身はポジティブにとらえましたが、妻は自身を責めたり将来を悲観したりしている時期がありました。
同じような境遇の方や私たちよりも大変な環境の方などの状況も目の当たりにしながら、これから先、自分自身や子どもがどのようなかたちで人と触れ合っていくのか、どんな社会的立場で歩んでいくべきなのかなどを考えることがありました。
同じように障がいのある子どもを持つ父親の集まりである福岡おやじたいを知り、メンバーに加わった宮内さん。
セミナーやイベントなどを通してさまざまな方々の思いや熱さに触れ、僕自身、これからの活動で沢山の人の心を紡ぐお手伝いをできたらいいなという気持ちが強くなりました。
それと同時に息子に対しても、やりたいことを通して自分の思いや気持ちを誰かに届けることの素晴らしさや意義を教えていこうという気持ちが強くなりました。
最後に宮内さんは、次のように話してくださいました。
私は障がいに対して、自身が向き合うスローガンを「障がい者も生涯者」としています。
障がいがあってもなくても、同じように「生涯を生きる」という上で何ら変わりない、尊重されるべき一個人です。
遠いようで近く、近いようで遠いのが障がいです。それぞれの方に特徴や才能があるように、障がいを持つ方たちにも必ず才能があります。常日頃から生涯を共に生きていく生涯者として意識し、フォローし合える優しい社会になっていくといいなと日々感じています。
(天草旅行に行った際の一枚)
(イベントの受付もお父さんたちで行う。「2021年1月のイベントは、感染症対策も万全の体制で行いました」)
今回のチャリティーは、障がいを知ってもらい、理解を深める啓発活動のための資金として活用されます。
「メンバーそれぞれ仕事をしながら、この活動をしています。
長く活動を続けていくために、そしてまた一人でもたくさんの方に障がいのことを知ってもらうために、ぜひ応援いただけたらと思います。
そしてまた、僕たちの活動を通して、問題を抱え、悩んでいるお父さんお母さんの受け皿になれたらとも思っています。つながり合っていくことができたらうれしいです」(財津さん)
ぜひチャリティーアイテムで応援していただけたら幸いです!
(「笑顔と絆のスクラム Part7」終了後に、スタッフ全員で記念撮影。団体カラーの青いTシャツに、前回2018年にコラボしていただいた時のコラボデザインがプリントされたTシャツを着てくださっています!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
2018年以降2度目の福岡おやじたいさんとのコラボ。前回のコラボの時は保育園生だった財津さんの娘の環ちゃんが小学生になっていると聞いて驚きました!
子どもの成長は本当に早いです。孤立や差別、いじめ…社会の問題はどうでしょうか?改善しているでしょうか?前に進んでいるでしょうか…?!
前進のためには、私たち一人ひとりの意識が大切です。
小さなところから、足元から、「共に生きる未来」の種を一緒に植えてきませんか。
「父」の文字に見立て、クロスした月桂樹の枝とリボンを描きました。
月桂樹の花言葉は「私は死ぬまで変わらない」。家族の変わらない絆と愛情を表現しつつ、リボンで福岡おやじたいのつながりやコミュニティが架け橋となって明るい未来を築いていく様子を表現しました。
“You smile, I smile. It is the circulation of happiness”、「君が笑うと私も笑う。これが幸せの循環」というメッセージを添えています。