コロナの流行で外出の機会が減り、ペット需要が増えたという話は皆さんも耳にされたことがあると思います。
今週JAMMINがコラボするのは、兵庫県西宮市でペットとの共生、いのちの大切さを発信してきたNPO法人「ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン」。2019年8月以来、2度目のコラボです。2000年に活動を開始し、今年、NPO法人になって20周年を迎えました。
行き場のない犬や猫を引き取って新しい飼い主を見つける保護活動を続けながら、ペットを正しく理解し飼育する人を増やしたいと、正しい知識や飼い方の発信にも力を入れてきました。また、トレーニングを通じて築かれた信頼関係をもとに「いのちの大切さ」を伝え続けてきました。
「今はペットを理解しきれていないことが本当に多いと感じています。お互いを理解できるようになって初めて、互いの幸せが実現できる。やさしい気持ち、思いやりの心を育てていきたい」
そう話すのは、事務局長の石本理佐子(いしもと・りさこ)さん(34)。活動について、西宮の施設にお伺いしてお話を聞きました。
(お話をお伺いした石本さん)
NPO法人ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン(PFLJ)
兵庫県西宮市を拠点に、人間と共に暮らす動物たちの幸福を願い、行き場を失った動物の保護活動を行いながら「命の大切さ」を伝えるために子どもたちに向けて教育活動や啓発活動を行っています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/11/29
(施設に入ってすぐのところに飾られている、PFLJを卒業し、幸せに暮らしている仔たちの写真。性格やライフスタイルなども踏まえ、新しい飼い主さんとのマッチングには注意を払っているという)
──前回のコラボではお世話になりありがとうございました。最初に、団体のご活動について教えてください。
石本:
犬猫の保護、新しい飼い主さんを探す活動を行いながら、トレーニングや育成、いのちの大切さを伝える啓発活動にも力を入れてきました。
20年間の活動の中で信頼を得て、この7月には認定NPOを取得しました。より多くの方に向けて、公益性の高い、私たちならではの情報を発信していきたいと思っています。
(施設内は事務所スペースの仕切りがなくなり、より広々とした雰囲気に。フローリングは前回のコラボで集まったチャリティーで張り替えられたそうです。すぐ近くに感じられることで、人にも犬たちにも、互いに安心感や幸せが生まれます)
──認定取得おめでとうございます。しつけ教室や出前授業などはコロナの間、どうされていたのですか?
石本:
犬猫の保護や譲渡は感染対策をしっかりした上で継続していましたが、感染拡大防止の点から当面はどこかを訪れたり施設を開放したりすることが難しく、イベントはすべてキャンセルになりました。
こんな時期だからこそ、本来であればセラピー活動などでたくさんの方に元気になっていただけたらよかったのですが…、どうしたものかと思案しつつ、リアルな場が難しいかわりに、オンラインでの動画の発信にも力を入れていました。
──そうだったんですね。
石本:
小学校や保育園を訪問して、犬と触れてもらうことでいのちの大切さを伝えてきた「いのちの授業」も対面での開催が難しくなってしまったのですが、クラウドファンディングで動画の制作資金を集め、より多くの方たちにいのちの大切さを発信したいと、現在撮影を進めています。
いずれにしても私たちとしては、20年の間にペットや関わってくださる方たちと築いてきた経験を生かしつつ、福祉の部分で社会に寄り添っていきたいと思っています。
(クラウドファンディングの動画撮影の様子。「保護犬ヨーゼフくんも実際に子どもと触れ合う様子などを撮影しました」)
(保護犬のトレーニング表。「ハウス」「アイコンタクト」「おて&おかわり」などの項目があり、保護犬たちは日々トレーニングに励んでいる)
──犬のトレーニングやそのノウハウの普及啓発に力を入れられているのがひとつPFLJさんの強みだと思うのですが、そこについてはどのような思いでご活動していらっしゃるのでしょうか。
石本:
正しいしつけが、お互いの豊かな関係を築いてくれます。「犬の言葉を正しく理解してほしい」とはすごく思いますね。
──どういうことでしょうか。
(「お手」のトレーニング。「お手」は、お互いのコミュニケーションにとって非常に大切だという)
石本:
たとえばですが、飼い主さんが犬の顔まわりを「よしよし」とペチペチと触ることがありますが、犬の気持ちになってみてください。あまり良い気持ちはしていないと思うんです。
犬は、言葉と手があって初めて「飼い主さんから褒められている」と認識します。顔を触わるだけでは、褒められているんだとつながらないんですね。
しつけ教室では「自分の子どもに例えてみてください」とお伝えしているのですが、お子さんを褒める際、黙って顔だけペチペチすることはしませんよね(笑)。笑顔や声、ボディタッチ、これら全部セットになっていると思うんです。
(スタッフさんに体を拭いてもらう、セントバーナードの「ヨーゼフ」くん。飼い主さんの事情により、生後1歳半でPFLJにやって来た。こうやって体を預けられるのも、信頼関係が築かれているからこそ)
──確かに。
石本:
犬と接する時、すべて人間として置き換えてみるとよくわかります。
撫で方ひとつをとっても、頭をワシャワシャされるのと、ゆっくりやさしく撫でられるのと、皆さんはどちらが嬉しいでしょうか。
頭をワシャワシャされると髪の毛が乱れるとか落ち着かないという方もいるし、ポンポンとやさしく触ってもらったり撫でてもらったりした方が心地よく感じる方もいるかもしれません。
ベースとしての知識があれば、あとは飼っている犬の性格に合わせて、どんなふうに触られたらうれしいのかは飼い主さんにしかわからないことでもあるし、性格を見極めながら接してあげてほしいと思います。相手が人間だったらそんなことないのに、いざペット相手になった時に人の態度が変わることがあって、そこはできるだけ避けられたら良いのかなと思っています。
(トイレのトレーニング中。「ワン、ツー、ワン、ツー」と声をかけ、決められた場所でオシッコをする)
(施設には保護猫も。こちらは「シェリ」ちゃん。「生まれて間もない時にカラスに目を突かれたのか、目はほぼ見えていない」とのことですが、まるで見えているかのようにキャットタワーや壁に軽快によじ登って遊んでいました)
石本:
「しつけ」と聞くと、吠えないとかお利口にするとか、さまざまなイメージがあると思いますが、大事なことは「信頼関係を築くこと」です。
しつけ教室では「お手」を大切にしています。単なるひとつの芸ととらえられがちですが、実は「お手」は非常に重要なんです。
──そうなんですか?
石本:
「お手」で犬が人に預ける肉球は、血管が集中した非常大切な部位です。敏感な犬にとっては触られるのが嫌な場所でもあります。しかしだからこそ、この部分をあえて「人に預ける」という動作をとることは、飼い主を信頼し、信頼関係を築くことにつながるのです。
室内で犬を飼うことがスタンダードになりましたが、外出から戻った時に足を拭いてあげたい、まめに爪を切ってあげたいという飼い主さんも少なくありません。そんな時のためにも「お手」は重要なのです。
(しつけ教室の様子。「PFLJのしつけ教室では人と暮らすために必要なしつけや問題行動に対処するための内容を学びます」)
──なるほど。拭いたり爪を切ったりしてあげたい時に噛まれたり吠えられたりが続いてしまうと、関係性にも影響が出てきてしまいますしね。
石本:
「お手」をした犬に対して、怒る人はきっといないですよね。飼い主さんや他の人から褒めてもらったり笑顔が見られたりした時に、犬もリラックスしたり、ポジティブな気持ちになることができます。
せっかく触れ合いを求めて犬を飼ったのに、犬の習性を知らないと、「家族なのに、これをしてあげたいのになぜ嫌がるんだ」ということが起きてしまいがちです。そしてどこかで関係に歪みができてしまいます。
何かあった時に「自分はこう思ってやっているけど、犬はもしかすると嫌がっているんじゃないか、相手のことを正しく理解できていないんじゃないか」と、一人よがりにならず、パートナーとしての姿勢、犬の言葉を正しく理解しようとする姿勢はとても大切です。
(石本さんと愛犬の「ジェミニ」ちゃん。ジェミニちゃんは10歳。もともとは段ボール箱に入れられて捨てられていたところをPFLJに保護された犬で、今では石本さんの大切なパートナー。「僕もかまってよ〜」とヨーゼフくんが見つめています(笑))
(ヨーゼフくんは、近所の保育園の子どもたちにも大人気!お散歩の途中、みんな窓越しにヨーゼフくんを興味しんしん。ヨーゼフくんが動くたびにわーっと歓声が上がり、ヨーゼフくんも嬉しそう。窓越しの交流を楽しみます)
──最近は動画でのこういった情報発信にも力を入れていらっしゃるそうですね。
石本:
はい。保護犬の日常をただ流すのではなく、なぜ今このような声がけをしたのかとか、おやつのガムをかじらせることにどんな意味があるのかとか、何かにつけて解説を加えながら、犬の習性や飼うにあたっての正しい知識を発信しています。
これまで保護犬猫を預かる「シェルター」としての役割がメインでしたが、住宅街の中にあるという立地も生かしつつ、今後はペットの力を借りながら、人を豊かに幸せにする福祉の分野に力を入れていきたいと思っています。
(愛嬌たっぷりのヨーゼフくん。大きい!体重は50キロを超えるそう)
──具体的にどのようなことでしょうか。
石本:
たとえば、この8月にここに来た保護犬・セントバーナードの「ヨーゼフ」くんは、この大きさなのでお散歩中もかなり目をひいて(笑)、近所に住むご高齢の方や小学校の警備員さんと仲良くなっていたり…、いろんなところで友達を作っているんです。
ヨーゼフくんに触れた方から「おかげで今日1日幸せやわ」「今日も頑張れるわ」と言っていただくこともあって。ペットは私たちに癒ししかくれない存在です。だから、保護施設としてだけではなく、この「触れ合い」を通じて、人の生活をより良く、豊かにするお手伝いができたらと思っています。
──素敵ですね。
(猫のスペース、日差しを浴びてまったり。シェリちゃんとあんちゃん)
石本:
2000年に団体を立ち上げて21年になりますが、「ペッツ・フォー・ライフ」という団体名の通り、私たちの活動は「ペットは一生の友。ペットをひとつの架け橋に、彼らの力を借りて、人の生活をより良くしたい」という思いからスタートしました。
そのためには、彼らのことも理解しないといけません。今はペットを理解しきれていないことが本当に多いと感じています。お互いを理解できるようになって初めて、互いの幸せが実現できる。やさしい気持ち、思いやりの心を育てていきたいと思っています。
(「地域の教育活動にも参加し、中学生を対象にした『トライやるウィーク』の受け入れも積極的に行っています。今年は2つの中学校に訪問してトライやるウィーク講習を行い、PFLJのお仕事の内容やしつけの大切さを伝え、体験学習もしてもらいました」)
(前回のコラボで施設を伺った際に、愛らしい姿で私たちを魅了した「ダン」くん。素敵な飼い主さんが見つかり、今は幸せいっぱいに暮らしているとのこと!
飼い主さん:「ダンが我が家に来て、1年4ヵ月が経ちました。もうすっかり我が家の次男になっています。大好きなお兄ちゃんのお尻にお顔を乗せて寝てみたり、とても甘えん坊さんです。お散歩中もダンのアイコンタクトで沢山のお友達が出来ました!ダンは人を惹き付け、皆を笑顔にすることができるとても魅力的な優しいワンコです。我が家に来てくれて、本当にありがとうね」)
石本:
保護活動の傍ら開催してきたしつけ教室やいのちの授業、セラピードッグ活動などはすべて、「思いやりの心を育みたい」という思いで続けてきました。
警視庁が公表している「動物虐待事犯統計」によると、全国の警察が2019年に摘発した動物愛護法違反容疑の件数は105件、検挙人数126人と統計のある2010年以降最多となりました。動物の遺棄が最も多く、そのほかには食事を与えず不衛生な環境での飼育や殺傷行為などがあります(2020年は動物虐待事犯102件、検挙人数117人)。
動物虐待が犯罪や家庭内暴力など人間に対する暴力の予兆としてあるともいわれています。もともと団体立ち上げの主旨として、動物と触れ合い、いのちの大切さ伝えることで、犯罪を減らし、よりよい暮らしにつなげていきたいという思いがありました。
動物を通じて思いやりの心を育むことは、私たちの大きな使命だと考えています。
──そうだったんですね。
(コロナ以前は定期的に開催していた「いのちの授業」の様子。「ドクタードッグと犬の正しい接し方を学び、いのちの大切さ・思いやりや慈しむ心を育むことができます」)
石本:
言葉を通じないペットを相手に思いを馳せることで、相手が人に変わった時にも、思いやりの気持ちを持って接してほしい。将来の担い手である子どもたちに、少しでもいのちの大切さや慈しみを伝えたい。それはもしかしたら、10伝えて0.5感じてもらえるぐらいのこともかもしれませんが、それでも何か一粒、種を落とすことができたらと思っています。
今「いのちの動画」を制作中ですが、動画は全世界どこからでも観ることができます。兵庫から世界に向けて、やさしい心、慈しみの心を発信していきたいと思っています。
(姉妹で保護された「うた」ちゃん。同じく施設にいる「うみ」ちゃんと、卒業した「うる」ちゃんの3姉妹そろって生後1ヶ月のところを野山で保護された。「昨年の12月に市の動物管理センターからやってきたのですが、かなり怖い思いをしたようで、スタッフに慣れたのもつい最近です。うたはここ最近、こうしてすぐ側に来て体をぴとっとくっつけてくれるようになりました」)
──最後に、石本さんにとってペットとは何でしょうか。
石本:
今日ここに一緒に来ている愛犬の「ジェミニ」もそうですが、「パートナー」ですね。
人との関係を彼女につないでもらうこともあるし、彼女がいることで落ち着く犬もいます。他の保護犬たち、彼らもそれぞれ皆、私の大切なパートナーです。そばにいてくれて、私たちが何かすると必ず反応をかえしてくれます。
保護してしばらくは懐かない仔もいます。でも、「誰も引き取り手がなかったら、私が飼うんだ」ぐらいの気持ちで、しっかりお互いにパートナーになった状態で、新しい飼い主さんにバトンタッチしたい。そうじゃないと、信頼関係をちゃんと築けていない、私のことを怖がっていたり怯えていたりする仔を抱えて「いや、いずれ慣れますから」といっても、何の説得力もありませんから。
(今年9月に新しい家族が見つかったもなかくんとビルマくん。
飼い主さん:「我が家では3歳と6ヶ月の2匹を譲り受けました。2匹で毎日仲良く遊び、お腹を見せて眠る姿は日々の癒しです。動物の命を預かる責任はありますが、家族が増え、賑やかで楽しい生活になりました」)
石本:
ただ、新たに飼い主さんになる方たちにお伝えしているのは、たかだか数ヶ月一緒にいるだけでここまで信頼関係を築くことができるのだから、家族になったらもっとですよと。
保護犬を迎え入れてくださる多くの飼い主さんは「懐いてくれるかな」という不安や躊躇を抱えています。でも、最初にきちんと人間と信頼関係が築けたら、一緒に過ごす時間の中で、もっともっと素晴らしい関係性が生まれていきます。だからこそしっかりとトレーニングして、パートナーになること、信じてもらうことが大事だと思っています。
(入り口の柵にかけてある、支援者さんが作ってくれたというタペストリー。犬や猫の姿と共に、一つの線でつながったハートが。まさにPFLJさんのご活動そのものだと感じました)
(子どもたちが犬に絵本を読み聞かせる「READプログラム」。「読み間違えても、小さな声でも、犬は笑ったり間違いを指摘したりせず、そばで落ち着いて子どもたちの声を聴きます。子どもたちの苦手意識を克服し自発的な行動や自信にもつながるほか、犬にも本を見せるなど、相手を思いやる行動が自然と見られるようになります」)
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
石本:
前回のコラボ時のチャリティーで床をきれいに張り替えさせていただきました。ありがとうございました。その後、コロナの自粛期間に大掛かりな改装をして、それまではスタッフが事務作業をするゾーンと保護犬たちが遊べるゾーンが仕切られていたのですが、犬たちがどこでも自由に行き来できるようなかたちにしました。
コロナが落ち着いたら、触れ合いイベントなども開催したく、人もペットも互いの存在を身近に感じながらのびのびと過ごせる、開放的な空間づくりを引き続きしていきたいと思っています。今回のチャリティーは、保護犬猫がのびのびと安心・安全に過ごせるエリア拡大・整備のための資金として活用させていただく予定です。
──貴重なお話をありがとうございました!
(石本さんと犬たちと。犬たちがすぐそばにいる。それだけで、ゆったりとやさしい空気が流れ、自然と笑顔になれる空間でした!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
2年ぶりに西宮のPFLJさんにおじゃましました。施設内は手入れが行き届き明るくスッキリしていて、保護犬も皆のびのび。前回お伺いした時もそうでしたが、本当にアットホームでゆったりした空気感がPFLJさんの魅力です。
私たち自身もペット(猫)を飼うようになって、ただそこにいるだけで空間がふわっと和む感じや、寄ってきてくれる時の限りない癒やし…どれだけパワーをもらっているかを改めて感じています。だからこそ、わかった気にならずに、死ぬまで彼らのことを理解し、知り続けければならないと今回のインタビューで改めて感じました。
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ペットと人が過ごすワンシーンを描きました。一緒にいれば、より豊かな人生を築くことができる。お互いに愛を注ぎながら、穏やかで幸せな時間が紡がれていく様子を表現しています。
“Life is precious. You give me all the love you have”、「共に歩む人生は貴重だ。あなたは、あなたが持っているすべての愛を私にくれる」というメッセージを添えました。