2013年11月にJAMMINを創業し、今年で丸8年になります。
「チャリティーをもっと身近にしたい」という思いでスタートした「チャリティー×アパレル」の取り組み。この8年間で時代はめまぐるしく変化し、以前に増してチャリティーや社会課題へ関心を持つ人が増えてきたと感じています。
同じように、「誰もが楽しめるかたちでチャリティーに参加できるように」と、「イベント」という切り口から、でチャリティーを身近にするために活動してきた方がいます。
今週JAMMINがコラボするNPO法人「プロジェクトサンタ」代表の矢野舞(やの・まい)さん(40)。スコットランド・エディンバラに留学中に見た、参加者がサンタの格好をして一同に走り、病気の子どもたちをラップランドにいる本物のサンタクロースに会わせるという「サンタラン」に衝撃を受け、帰国後、「日本でも実現したい!」と奔走します。
大阪で2009年に初開催された「大阪グレートサンタラン」は、その後毎年大阪城公園で開催され、一番多い年は1万人を超える参加者が集まるビッグイベントに。
「クリスマスだけでなく、年間を通じて応援する側もされる側も関係なく、チャリティーで両者が笑顔になるしくみをつくりたい」と、2017年に「プロジェクトサンタ」を立ち上げます。
活動について、お話を聞きました。
(お話をお伺いした矢野さん)
NPO法人プロジェクトサンタ
病気と闘う子どもたちとその家族を応援するために、何かを我慢するのではなく、楽しみながらチャリティーに参加できるしくみを作りたいと活動する団体です。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/10/4
(ガチャガチャ設置のきっかけとなった医師の先生と一緒に。「私たちの活動は、現場の皆さんに支えられています」)
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
矢野:
病気と闘い入院している子どもたちとその家族を応援している団体です。現在の具体的な活動の内容としては、病院に入院中の子どもたちが喜んでくれるガチャガチャを設置したり、付き添いのお母さんに一杯のコーヒーを届けたりしています。
入院中の子どもたちやその家族を対象に活動していますが、昨年からの新型コロナウイルスの感染拡大によって、感染症対策のために訪問支援が制限されました。遊びや学習のボランティアさんなどが入ることが難しくなり隔離された小児病棟で、ガチャガチャは病院関係者の方に運営していただけるので、病院からも「子どもたちが数少ない楽しみの一つとして喜んでいる」という声をいただいています。
新しく設置したいというお声もいただくようになり、今はメインの活動となっていますが、私たちとしては、応援する・される側に関わらず、どちらも楽しく笑顔になれるような寄付の循環を作り、今後全国の病院にも広げていくことができたらと思っています。
(ガチャガチャをひく子ども。「ガチャガチャひけるよ!と声がけすることで痛みを伴う治療にも、グッと頑張れる子どもたちが沢山いるとの声以外にも、現場のスタッフさんの運用方法の工夫により、薬がなかなか飲めない、お風呂に入らない、ご飯が食べられない、院内学級に参加できない、リハビリが痛くてできない等、子ども達の状況に合わせて頑張る力を貸してくれているとの感想もいただきました」)
(「大阪グレートサンタラン」の様子。「参加者が1万人を超えて、一番人数が多かった2014年の様子です。大阪城公園内をぐるっと一周するコースです」)
──この団体を立ち上げられる前は、チャリティーランを企画されていたそうですね。
矢野:
私たちの団体は、「大阪グレートサンタラン」というチャリティーマラソンのイベントから生まれました。毎年12月、参加者全員がサンタの格好をして大阪城の周りを走り、参加費の一部が入院中の子どもたちへのクリスマスプレゼントになるという取り組みで、2009年より開催しています。
もともとは、留学で訪れていたエディンバラ(スコットランドの首都)で、サンタの格好をした人たちが一緒に走り、その参加費の一部が闘病中の子どもたちのために使われるというサンタランを偶然目にして「日本でもやりたい!」と思ったことがきっかけでした。
どうにか日本でも開催できないかと職場などでもあちこちに声をかけたりしていたのですが、ある時「OSAKAあかるクラブ」さんという大阪を明るくするために活動している団体にメールで企画を持ち込んで実現したのです。
(2011年のサンタランにて、会場にはトナカイの姿も)
矢野:
母が、OSAKAあかるクラブの初代キャプテンを務められていたやしきたかじんさんのファンで、彼がテレビ番組で「新しく団体を立ち上げたので、今後チャリティーなどもやっていきたい」とおっしゃっていたのを観て、「この団体さんならサンタラン実現できるんじゃない?問い合わせてみたら」と言ってくれたんです。
その後あれよあれよと言う間に話が進んで開催が実現しました。
第一回目の開催は200名ほどの方が参加してくださり、毎年少しずつ規模を大きくしながら続けてきました。一番多くご参加いただいた年は、2014年の11,000人です。
(サンタランでの一枚。「OSAKAあかるクラブのメンバー以外にも、ボランティアさんなども一緒に運営してくださっていました」)
──すごい人数ですね!皆で一緒にサンタの格好をして走ったら、圧巻ですね。
矢野:
「皆でサンタの格好をして走る」という見た目のインパクト、また当時はこういった「ファンラン」と呼ばれる、皆で同じテーマで楽しく走ろうという活動自体がブームだったこともあって、多くの人に認知していただきました。
一年目は開催までに時間もなく寄付というかたちで病気の子どもたちのために活動している団体に集まったお金を届けましたが、2年目からはもっとわかりやすく目に見えるかたちで届けたいと思い、当時会議場で働いていて医学会を担当していた経験から、小児科の医局に連絡を取り「実はこんなことをやりたいので、協力してもらえませんか」と頼んで、集まったお金で直接プレゼントを買って届けるようになりました。
(初めて直接プレゼントを届けた2010年、病院訪問をした際に、病院の皆さんと。「プレゼントを届けたほか、老朽化したツリーを新しくして欲しいという希望があったので、当時一番大きなツリーを購入し、病棟のプレイルームに寄贈しました。海外みたいに枝が折れそうなぐらいたくさん飾りがついたツリーにしよう!と準備しました」)
(2015年、訪れたシアトル・チルドレンズ・ホスピタルにて。「見学させてもらっている際に出会ったボランティアの方々。子どもたちだけでなく訪問者の私にも声掛けしてくださりフレンドリーでした」)
矢野:
サンタランが広まっていく一方で、年に一度のクリスマスだけでなく、一年を通じて入院中の子どもたちを楽しく応援する取り組みができないかと考えるようになりました。そこで、サンタランとは別に「プロジェクトサンタ」を立ち上げたのです。
──そうだったんですね。
矢野:
「大阪グレートサンタラン」を続けてきた中で、少しずつ小児病院の先生や看護師さん、子どもたちと関わりが生まれていました。また楽しいことでチャリティーに巻き込む面白さややりがいも感じ、もっと日常的に、身近で気軽にチャリティーに参加できることを作っていきたいと思いました。
2015年にアメリカ・シアトルにある子ども病院を訪れた際、現地企業の協力を得て、入院中の子どもに付き添うお母さんたちに無料でコーヒーをサービスしているのを知りました。
(アメリカ・バージニア州生まれのコーヒーチェーン「Greenberry’s COFFEE」の協力を得て実施したティータイムプロジェクトの様子。「コーヒーも美味しいのですが、個人的にはスコーンも美味しくてオススメです」)
矢野:
「『おつかれさま』と自分のために淹れてくれたたった一杯のコーヒーが、入院中の子どもに付き添うお母さんたちの気持ちを救うこともある。そしてお母さんが笑顔になれば、子どもを笑顔にすることもつながる」というスタッフの方の言葉に感動し、「日本でもできないかな」と思いました。エディンバラでサンタランを見たときと同じ発想です(笑)。関わりのあった病院の看護師さんたちに相談してみると「ぜひやって欲しい」と言ってくださって。2017年に始まったのが「ティータイムプロジェクト」です。
(神戸のスペシャルティコーヒー専門店「LANDMADE」さんもティータイムプロジェクトに協力。「どうしても病室を離れられないご家族のために、院内で出張配達もしました」)
矢野:
地域のコーヒーショップさんに協力していただき、関西のいくつかの病院で実施しました。その際、「お子さんのために」と、かわいい歯ブラシセットとかマスクケース、ペットボトルの上にとりつけるカバーなど、一緒に小さなお土産をお渡ししていました。
というのも、付き添いのお母さんの中には、子どもを病室に置いて自分だけがコーヒーを飲んで休むことに罪悪感を覚えるという方がいらっしゃったのです。あるいは家で家族の帰りを待つ入院中の子どものきょうだいさんのために、何か喜んでもらえるちょっとしたお土産があればいいなと思って用意していたんです。
(「コーヒーを飲んだご家族からのメッセージです。コメントにこちらが励まされました」)
(「当初は景品を直接入れる予定でしたが、希望の景品を揃えるうちにカプセルに入りきらないものも増えてきて、番号札をいれている病院も多いです(笑)」)
矢野:
それとは別で、小児科の先生や看護師さんたちが、入院中の子どもたちが日々の治療をがんばったご褒美に、キラキラしたシールや小さなおもちゃを自前で用意して渡しているという話も聞いていました。何かそこをサポートできないかとも思っていて。
それならばただご褒美として手渡すだけでなく、子どもたちが自分でアクションできるほうが楽しいんじゃないかと思い、最初に大阪大学医学部附属病院にガチャガチャを設置してもらったんです。そうしたら、あるお母さまから「他の病院にもおいてほしい」という声をいただきました。昨年からはコロナの流行で病院への出入りが制限される中、ガチャガチャは人が出入りする必要がなく景品さえ補充できれば運営が継続できるので、入院中の子どもたちにとって数少ない楽しみの一つになっているというお声をいただいています。
──子どもはガチャガチャ、好きですよね。
(ガチャガチャの景品の例。「景品のなかでも子どもたち人気なのが、光りモノです。このブレスレットも光るのでアタリ景品です!」)
矢野:
そうですね。「入院前からガチャガチャが好きだった子が、病院の中でもガチャガチャができることに目を輝かせて喜んでくれた」「手術して全然笑わなかった子がガチャガチャという言葉を聞くと笑顔を見せ、好みの景品が当たると大喜びしてくれた」「何が当たるかわからないワクワク感が、治療に前向きになれるエネルギーを与えてくれる」といった声をいただいています。
一旦設置さえしてしまえば、あとはそれぞれの病院の方針に沿って、良いように使っていただいています。何か大きな治療の前後だけでなく、たとえばリハビリをがんばったとか、子どもたちの日々のがんばりに連結して使っていただいているようです。
(子どもたちが喜ぶ、ちょっとしたお土産たち。「ラッピングの資格を持ったメンバーがいるので、マスクケースや歯ブラシセットも可愛く包装してくれました」)
──景品はどんなものを用意されているのですか?
矢野:
最初はガチャガチャのケースに入るサイズの消しゴムや文房具、シールなどを取り揃えていたのですが、今は各病院の要望も伺いながら、景品の大きさにこだわらなくて良いようにカプセルの中には番号札だけ入れているところも多いです。エコバッグやペンセット、流行りのキャラクターのティッシュやミニハンカチなど、さまざまです。
病院によって方針や子どもの傾向なども異なるので、それぞれヒアリングで希望を伺ってから景品を揃えています。だんだんこちらも「こんなものが良いんだな」と経験と知識が増えてくるので、新規に設置する病院では「こういうものが喜ばれています」と提案もしています。
現在は大阪大学医学部附属病院(大阪グレートサンタランで設置)、大阪府立急性期総合医療センター、大阪市立大学医学部附属病院、神戸大学医学部附属病院、京都府立医科大学医学部附属病院の5病院に設置していただいています。今後全国に増やしていきたいと思っています。
(「一度にある程度の量をドカン!とまとめてお送りするので、景品棚を作ってくださっている病院さんもあります。アンパンマン、すみっコぐらし、ミニオンはどこの病院でも子どもたちが喜んでくれる、ハズレなしのキャラクターです」)
(病院訪問をしていた時の一枚。「子どもたちが喜んでくれたら、と真剣な大人達はみんなサンタさんだなと思います」)
──ガチャガチャの本体や景品の資金は、どうやって捻出されているのですか?
矢野:
皆さまからのご寄付がメインです。今は人がたくさん集まるイベントの開催が難しいですが、サンタランのように楽しみながら参加できて、なおかつチャリティーできるイベントやしくみを今後打ち出していきたいと思っています。
──応援する側もされる側も「楽しくなれること」がご活動のベースなんですね!
矢野:
そうですね。チャリティーをする側に「してあげる」とか「してあげた」感があると、受け取る側も負担です。
私自身、「チャリティーしている」という感覚はなくて、ただ楽しいことを追求している感じです。サンタランでクリスマスプレゼントを届け始めたのも、おもちゃを一つひとつ店頭で選んで100個とか大人買いするのが面白くて。
(みんなでサンタの格好をして、子どもたちへの贈り物を選んでいた年もありました。何故このおもちゃが良いのか、真剣な即席プレゼンが売り場で繰り広げられていることも…」)
矢野:だから続けられていたんだと思います。「自分が楽しくて」したことで、もし相手も笑顔になってくれたらラッキーだな、という感覚ですね。
我慢してやっていても続かない。楽しくないと続かないし、本気で面白いと思っていないと人を巻き込みにくい。私はそう思っています。
──矢野さんがチャリティーに対し「楽しく」にこだわる理由を教えてください。
矢野:
カトリック系の中高に通っていたので、10代の頃から寄付や募金が身近でした。その中で特に印象的だったのが、「おにぎり弁当」という募金活動です。昼食のお弁当におにぎりだけ持っていって、おかず代を寄付しましょうという毎週の活動でした。
(グレートサンタランで集まったチャリティーは、入院中の子どもたちの夏祭りにて、クジ引きの景品としても活用!)
矢野:
そうはいっても中高生なので、お弁当は親が用意してくれるのでそもそも自腹でおかずを買っているわけではありません。だから「おかずの分を寄付してね」っていっても全然集まらないんです。中高生で、皆欲しいものもたくさんあるし、しかも毎週のことだし。そうすると一人10円とか20円で、クラス中集めても1000円いくかどうかという世界なんですよね。そのような経験があったので、私にとって寄付とは「何かを我慢してすること」というイメージでした。
エディンバラでサンタランを見た時、この「何かを我慢してすること」という私の寄付感がひっくり返りました。「無理をしたり我慢したりするのではなく、こんなに楽しくやれるチャリティーの方法があるんだ!」と。その体験が大きくて、やっぱり「楽しいかどうか」が自分の中ですごく大事ですね。
(「サンタさんとの写真撮影企画を、子ども服ブランドの『ブランシェス』さんと行った時の様子です。ちびっ子にはサンタさんが大きくてびっくりするのか泣かれることも多かったです」)
(「これから『ひらパー』で行うチャリティー企画のテーマは、子どもも大人も大好きな『しゃぼん玉』の予定です!みんなでびっくりするくらいたくさんのしゃぼん玉を飛ばして、楽しい空間を一緒に作れたらと思っています!」)
──「楽しい」って自分ごとなので、そこにチャリティーが乗っかって広がっていくとすごく良いですね。
矢野:
実は今、大阪府枚方市にある「ひらかたパーク(通称ひらパー)」さんと一緒に、新たなチャリティー企画を進めているところです。地元の方たちに愛されて来年110周年を迎えるひらパーさんが、「110周年を機に、地元に長く貢献できるチャリティーイベントができたら」とおっしゃってくださって、私たちも参加者の方たちも、チャリティーを受ける方もひらパーさんも、皆が笑顔になれる楽しいイベントを作っていきたいと思っています。
──良いですね。もっともっと広がっていくといいですね。
(「今年開催予定のひらパーさんとの企画では、飲食店でお得なメニューを食べることでチャリティーに参加できるサンタバル(12月1日~5日開催)とのコラボも実施の予定です」)
(スタッフの一人・加藤さんは、自身のお子さんの入院経験から、プロジェクトサンタの活動にに賛同したという。「写真は子どもが入院中、同室の仲間と一緒にプレイルームで過ごしている様子です。テレビゲームをしたり、おもちゃで遊んだりとても楽しい時間です。投薬をしていても血液検査の数値がよければ点滴スタンドを押してプレイルームに入れました。治療中でも子どもたちは前向きで、楽しいことを見つけるのがとっても上手です」)
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
矢野:
チャリティーは、ガチャガチャを新たに病院に設置するための資金、またガチャガチャの景品購入のための資金として活用させていただきたいと思います。
──子どもたちの笑顔につながると思うと、ワクワクしますね。
矢野:
そうですね。ぜひアイテムで応援いただけたら嬉しいです。
(活動に携わる皆さんのお写真。「コロナが落ち着いたら集まって、皆で写真を撮りたいと思っています!」)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
幼い頃、何が出てくるかわからないガチャガチャが大好きでした。
レバーを回してカプセルを引いて、何が当たったんだろう…というあのワクワク感。全然期待していたものと違うものが出てきて残念に感じたりもするのですが(笑)、それも込みですごく楽しかった思い出があります。
入院生活、病院という空間で生活が何かと制限されてしまう子どもたちにとって、ガチャガチャはまさに夢がたくさん詰まったカプセルではないでしょうか。
キャンプ中のサンタクロースの日常を描きました。人が集まる象徴としてティピ(テント)を、人を笑顔にする存在の象徴としてサンタの面影を描き、団体の活動を表現しています。
“A gift of happiness”、「幸せのギフト」というメッセージを添えました。