CHARITY FOR

行き場がなく処分される馬を一頭でも守り、看取りながら、馬に触れて感じた「命の尊さ」を一人でも多くの人に伝えたい〜NPO法人あしずりダディー牧場 命の会

高知県・足摺岬の近くの牧場で、行き場がなく殺処分の一歩手前だった馬たちを家族のように受け入れ、愛情を込めてお世話しているNPO法人「あしずりダディー牧場 命の会」が、JAMMINの今週のチャリティー先。

代表の宮﨑栄美(みやざき・えみ)さん(62)は、主婦から一転、「動物たちの命を守ること」を目標に、50歳を過ぎて団体を立ち上げました。

体を動かしたいと乗馬をはじめた宮﨑さんは、地元農業高校馬術部の乗馬だったパートナー「ダディー」がある時突然、熱中症で亡くなったことをきっかけに、人のために生きてきた馬たちがどのような最期を迎えているのか気になって調べるようになりました。すると多くの馬たちが人知れず処分され、馬肉として売りに出されている事実にたどりつきます。

「触れて温もりを感じ、近づいて癒され、目を見て心が洗われる。馬は、すべてを受け入れてくれる愛の存在です。一頭でも多くの命を守り愛情を込めて精一杯お世話をしながら、一方で彼らの存在を通じ、命の尊さを伝えていきたい」。

そう話す宮﨑さん。
活動について、お話を聞きました。

(お話をお伺いした宮﨑さん。別の乗馬クラブに移籍したポニーの「プチ」と。「現在は山口県の乗馬クラブで大切にされています。ダディー牧場にいた時から、かわいいアイドルホースでした。私が一番好きなショットです」(宮﨑さん))

今週のチャリティー

NPO法人あしずりダディー牧場 命の会

行先がなく処分されてしまう引退馬を受け入れ、命が尽きるその時まで、豊かに生涯をまっとうできるようお世話しています。そしてまた牧場の馬たちを通じ、動物や人間一人ひとりの命の尊さやその輝きを伝えたいと活動しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/7/12

行き先のない馬を引き取り、
最期まで共に過ごす

(馬たちが楽しみにしている食餌の時間。「腸の長い草食動物は常に食べ、腸を動かすことが良いとされています。食餌の準備をしているだけで皆ソワソワしはじめ、中には『早く!早く!!』と前肢をかいてアピールする子も(笑)。一頭一頭、年齢や体調に合わせて配合を変えたり、サプリメントやお薬を混ぜたりして、食餌の面からも日々の生活をサポートします。高齢で歯が悪い子には、大好物のニンジンも小さく刻んであげます」(宮﨑さん))

──今日はよろしくお願いします。まずは団体のご活動について教えてください。

宮﨑:
支援してくださる方たちとともに、元競走馬や元乗馬など、引退後に行き先がない馬を引き取り、最期までお世話をする活動をしています。同時にNPOとして、こういった馬を通じて子どもたちに命の温もりや尊さを知ってもらうための活動もしています。

現在、ダディー牧場には15頭の馬がいます。馬主さんからの「預託」というかたちと、「支援馬」というかたちで、馬主さんがいない馬でも一口3000円からここでの生活をご支援していただくかたちがあります。私にとって、馬はまさに家族同然。一頭一頭、毎日人間と同じ言葉で話しかけ、様子や体調を見たり感じたりしながら、共に暮らしています。

(2ヶ月に1度、蹄(ひづめ)の手入れのために牧場に装蹄師さんがやって来る。「馬たちも心得ていて、素直に削蹄に協力してくれます」(宮﨑さん))

「常に馬ファースト。
『馬が幸せか』を考えながら、愛情を持ってお世話する」

(牧場で、馬と過ごすかけがえのない時間。写真は今は亡き「セリア」。「馬はリラックスすると『砂浴び』という行動をします。とてもリラックスして、放牧を楽しむひととき。見た目ダイナミックですが、立ち上がる瞬間は馬たちの足腰の動きを知るバロメーターでもあります」(宮﨑さん))

宮﨑:
引退した馬が過ごす「養老牧場」は全国にいくつかありますが、毎日のお世話の中でも最大限の労力をかけている、広く清潔な馬房には特に自信があります。日本中央競馬会(JRA)から視察に来られた方たちからも「日本で一番きれいな馬房」とお墨付きをいただきました。

通常、乗馬クラブなどの馬房は4畳ほどですが、馬は体が大きく、4畳という広さは人間でたとえると、少し大げさですが電話ボックスに入れられているような状態です。

しかし馬にとって、食事をしたり寝転んだり排泄したりする馬房が果たしてこの広さでベストなのかと常々感じていました。8月に施設移転の予定ですが、準備中の新厩舎では馬房を大きくしています。平均して8畳ほどあって、馬が自由に寝転がったり起き上がったりできます。

(現在使用している馬房。「地元のおじさんたちが手作りで一生懸命作ってくれました。暖かく清潔な厩舎は、雨の日も風の日も、熱い夏も寒い冬も、馬たちをしっかりと守ってくれています」(宮﨑さん))

──良いですね。

宮﨑:
それぞれの馬房も、コンクリートの床の上にゴムマットを置き、その上におが屑を敷くのが普通ですが、ダディー牧場では土の上におが屑を敷いてふわふわのベッドを作っています。自然の土なので、夏は涼しく冬は温かいです。
清潔さを保つことも常々意識しており、糞尿の掃除から水やえさのバケツも人間が生活するのと同じように綺麗にするように心がけています。

──宮﨑さんの愛が伝わってきます。

宮﨑:
見学に来てくださった方から、「手間がかかりますね」「お金がかかりますね」と言っていただくのですが、ここでは人間のエゴや都合ではなく、いつも馬の立場で「馬が幸せかどうか」を優先しています。だから、「馬が幸せですね」と言ってもらえたら嬉しいです(笑)。

(ダディー牧場はこの夏、四国最南端に位置する足摺岬(あしずりみさき)にほど近い松尾地区唐人駄場への移転を予定している。「現在、新しく立派な厩舎を建築中です。全19馬房の、広くて快適な馬たちのお家です。新生活のスタートが今から楽しみで仕方ありません」(宮﨑さん))

活躍できなければ、
処分され肉として流通する命

(亡くなった馬を見送る。「この祭壇は、2021年4月11日に亡くなった『セリア』のものです。その前日は、セリアくんの28回目のお誕生日でした。遠くに住む馬主さんが夜通し走って会いに来てくれ、元気な姿を見せてくれていましたが、まさかその翌日に倒れ、天国へと旅立ってしまうとは…。馬たちを何度見送っても『慣れる』ということはありません。苦しんでいる姿を見るのはつらいですし、看取る場所である養老牧場なので覚悟はしていても、やはり淋しい。でも『最期までよく頑張ったね』と見送ってあげる場所も必要ですし、その馬の生きた証を心に刻む、大切な仕事だと思っています」(宮﨑さん))

──行き先のない馬を引き取っているとのことですが、どういうことでしょうか。

宮﨑:
昔から馬の世界には「いなくなった馬の行先を追わない」という暗黙の了解がありました。
競馬で活躍する競走馬をはじめとして、第一線で活躍できなくなった馬が、その後人知れず処分され、馬肉となって売買され流通しているという事実があります。

馬は体が大きく、飼う上で広い場所が必要で、餌代などもかさみます。そのため犬や猫と違って、なかなか一般の人がたやすく保護したり飼ったりすることができません。
馬の世界で活躍できないなら、「生きるためにお金や場所や労力がかかるだけだから処分してしまえ」と殺されてしまうことがほとんどでした。

(「2019年12月、地元幼稚園の子どもたちをダディー牧場に招いて馬のお絵かきイベントを開催しました。みんなの一番人気は『ダディー』くん。子どもたち全員で、ダディーくんの絵を描きました。この時の楽しそうな子どもたちの写真を2020年の牧場カレンダーにしました」(宮﨑さん))

──条件つきの命なんですね…。

宮﨑:
そうです。私たちのような「養老牧場」と名のつく牧場がこういった馬を引き取り、最期の瞬間、看取るところまでお世話するだけでなく、「いらなくなったら捨てる」という社会のシステムを変えるために、こういった馬たちが社会で活躍できる場を模索しながら活動しています。

「命を大切に」と子どもに教えるわりには、いらなくなったものを排除する大人の身勝手さ。子どもたちはそこにたくさんの疑問を感じながら大人になっていきます。このような疑問がない社会を作ることこそ、本来私たち大人の役目ではないかと思います。

──確かに。

(「JRAよりお話があり、熊本から種牡馬を引退してダディー牧場に仲間入りした『ダノンゴーゴー』です。アメリカ生まれ、『ダノン』の冠名で知られるダノックスに初重賞をもたらした名馬です。元種牡馬だけあって、結構気が強く噛み付いてくるので要注意ですが、おやつをもらう際に大口を開けて食べようとするお茶目な一面も(笑)」(宮﨑さん))

宮﨑:
ただ、引退後の馬については、昔に比べて状況は良くなっています。競馬場が社交場として広く一般に受け入れられるようになり、女性ファンも増えました。単純に成績の良し悪しではなく「この馬が好き」とそれぞれの馬にファンがつくようになり、ひと昔前のように簡単に馬の処分ができなくなったのです。

さらにインターネットやSNSの発達で、馬のファン同士の交流や情報交換も盛んになりました。「引退したあの馬が今どうしているか」「今どこの牧場にいるか」といった情報の発信・収集も活発になり、引退した馬をうかつに処分することができなくなってきています。

──現役を退いた後も動向に注目される方が少なくないのですね。

(G1で活躍、2015年NHKマイルカップで優勝した「クラリティスカイ」。「父親の『クロフネ』もG1で勝利した、競走馬としては正真正銘の血統のある馬です。いざ迎えて一緒に生活すると、他の馬と同じように甘えん坊な一面やお茶目な一面、好き嫌いもあって、大きなレースを勝ち抜いてきた強靭なスタミナや力は全く見せない、ごく普通の愛らしい馬です。人は作り上げた幻想でその馬を見ますが、彼らはそんなこと関係なく生き、どんな命もただただ愛しいのだということをつくづく感じます」(宮﨑さん))

「勝ち馬が、いつまで経っても勝つ世界」

(「『ウェンディー』ちゃんはダディー牧場唯一のアングロアラブ種の女の子で、長い間乗馬クラブで働いてきました。年齢的にはまだ年老いてはいませんでしたが膝に水が溜まり、治療しても完治しないことから乗馬クラブを出されることになったようでした。当時縁のあった乗馬クラブの厩務員さんから『何とか助けられないか』という相談があり、インターネットを通じて寄付金を募り、買取・輸送の費用を捻出、ダディー牧場の支援馬として会員を集めました。現在では泣く子も黙るゴッド姐ちゃんとしてダディー牧場に君臨する女帝です(笑)」(宮﨑さん))

宮﨑:
競走馬に関していえば、ただ競馬のために、競走馬になるという目的で年間6〜7000頭の新たな命が誕生しています。
しかしその中で、競走馬になることができ、さらに活躍できる馬はごくごくわずかです。適正がないと判断されて赤ん坊の時に殺される馬もいます。あるいは勝てない馬は、その馬を産んだ母馬も一緒に屠殺場に送られて馬肉になることもあります。

一方で競走馬の場合、功績を残した馬は、牡馬も牝馬も次なる優秀なサラブレッドを生むために「種馬」「繁殖馬」として重宝されます。高いものになると一回の種付け料が何百万、何千万という世界です。…そうやって競走馬として走る以上に、人間が馬でお金を儲けてきました。

つまり、勝ち馬がいつまで経っても勝つ世界で、負けて成績を残せなかった馬は、いつまで経っても本当にみじめな状態で、生まれても踏み台にされ、大事にされることもなく処分されてきました。かなしいことですが、このようなことが常識としてまかり通ってきた事実があるのです。

(「大切にしていた『ルック』が亡くなった際の写真です。ルックは去勢をしていない牡馬のまま25歳でダディー牧場にやってきました。奥歯が抜けてしまって、いつも『キュッキュ、キュッキュ』と歯茎を鳴らし、左右にステップを踏んでいるお馬さんでした。牡馬の割に線が細く、よくお腹の調子が悪くなったりと体調を崩しやすい子で、体調管理には特に気を付けていましたが、2021年1月に体調を崩した時は本当にひどく、点滴や投薬で治療を続けていました。やっと良くなったと思った矢先に亡くなってしまい、これからもっと良くなると思っていただけに、本当につらかったです」(宮﨑さん))

──活躍できずに乗馬クラブに行く馬もいるんですね。

宮﨑:
乗馬クラブに行けば安心かというとそういうわけでもありません。中には、馬の最期まで面倒を見るところもあります。ですがやはり馬のお世話にはお金がかかるので、ここでも役に立たないと判断されると、多くのケースで処分されます。殺して馬肉として売れば、少しでもお金が手に入る。馬は本当に、最期の最期まで絞り取られているのです。

人間が馬で得た儲けを自分の懐に入れるのではなく、馬に還元していけば、今の社会でもっと馬が活きる環境やしくみを増やしていくことができると考えています。
馬と人とが触れ合える環境、馬糞を生かした農業…、より自然なかたちで自然を循環していくことができるのではないでしょうか。

(「『コスモス』くんは乗馬を楽しんでいらっしゃる馬主さんから『高齢になり乗るのはかわいそうになったから』とお預かりしているお馬さんです。ずっと『なんておとなしい馬なんだろう』と思っていたけれど、ところがどっこい、配置換えをして高齢・肢元の弱いグループに入れてみると、元気に動き回って皆から敬遠され、仲良くしてもらえません(涙)」(宮﨑さん))

「ありのままでいいんだよ」。
高齢馬「コジロー」が教えてくれたこと

(宮﨑さんと『コジロー』)

宮﨑:
ダディー牧場に「コジロー」という推定31歳の馬がいます。元々の健康手帳がないので、正確な年齢は分かりませんが、もっと高齢だと思われます。コジローは競走馬として生まれましたが、日の目を見ずに乗馬クラブへ移されて、長きに渡りあちこち乗りまわされました。言ってしまえば幸薄い一生だったかもしれません。それでも体力があったのでしょう。生きながらえ、良い馬主さんに巡り合って私たちのところにたどり着きました。

そんなコジローが、いつも教えてくれるんです。すべてを伝えてくれるんです。「そのままでいいんだよ、ありのままでいいんだよ。何もしなくてもすばらしいんだよ」と。今は認知症の症状が進んで自分の馬房がどこかもわからないコジローですが、作業の合間にふと、彼が歩いていたりくつろいでいたり‥すべてを受け入れて一生懸命生きている姿が目に入った時、ただただ、言葉にならない感動であふれるのです。

──そうなんですね。

(コジローくん(写真手前)の放牧風景。「他のお馬さんが草を食べていようとゴロゴロ砂浴びをしていようと、寝たければそこで寝る、究極のマイペースなお馬さんです(笑)。写真のコジローくんの口元をよくご覧下さい。舌が少し出ているのが分かるでしょうか。馬の舌は口内のサイズより大きいらしく、口元の筋肉が衰えてくる高齢馬は、舌を収めることが難しいようです。逆に言えば、ゆるゆるの口元になるほどご長寿であるということであって、喜ばしいことですね」(宮﨑さん))

宮﨑:
馬はエゴで飾るのでも主張するのでも相手を説得しようとするのでもなく、ただそこにいてくれます。馬の姿を見た時、頭ではなく心で感じるメッセージがあります。

人はつい頭で考え、エゴや不満、不安や「こうしなければならない」という意識を抱きがちです。それは果たして「本当の自分の声に耳を傾けて生きている」と言えるでしょうか。

それよりも、ただ「今この瞬間が素晴らしい」と思える。すべてを受け入れ、感謝し、「自分はこのままでいいんだ。ありのままでいいんだ」と気づく。私は馬によってそれを感じ、癒されました。忘れていた「自分を信じること」を思い出し、目覚めさせてくれる力が、馬にはある。「ああ、これが馬の力なんだ」と思いましたし、一人でも多くの人が、馬に触れることで、何か自分の本質に触れ、「私は私のままでいいんだ」と本当に自分を取り戻すような、そんなきっかけを作ることができたらと思っています。

──まさに、馬の力ですね。

(仲良しの馬たちのグルーミング。「自分では届かない首筋や背中、たてがみなどを甘噛みします。お互いを気遣い、優しく労わり合う姿に、『あぁ、仲良く安心して暮らしているんだな』と、心の奥が温かくなります」(宮﨑さん))

親子の縁を感じた「由美子」。
肉になるはずだった命が、人を癒し感動を与える存在に

宮﨑:
少し前に保護した「由美子」という馬がいます。由美子はダディー牧場から30分ほどの場所にある肥育牧場(肉として出荷するために、たくさん餌を与えて大きくする牧場)の最後の一頭でした。余談ですが、聞いた話によると肥育牧場の中には、肉として高値で売買することを目的に、殺すことがわかっていながら妊娠させ、お腹の中で大きくなった胎児もろとも出荷するケースもあるそうです。

──そうなんですね…。知りませんでした。

宮﨑:
ある日、牧場を経営していたおじいさんが、「この子を出荷したら牧場を辞める」と。私は定期的に訪問し、牧場に来てから5年の歳月、ずっと由美子を見守ってきました。どんどん大きくなっていよいよ肉として市場に出されることが決まった時、「由美子をなんとか助けてやりたい」と思いました。いつものように無邪気に私に寄ってくる由美子を見て、不思議ですが馬と人間という関係性を超えて、由美子に対して親子の縁のようなものを感じたのです。「由美子は、肉になるべきではない」と強く思いました。

(宮﨑さんと「由美子」。「北海道でトレーニングを積む由美子に会いに行った時の一枚です。預託先『ノースポールステイブル』のご主人・蛭川さんに曳き馬をしてもらっています。肥育牧場で育った由美子は、北海道へ行くまで人を乗せることをしてきませんでしたが、数か月の調教でここまで急成長するとは驚きでした。北海道の美しい環境の中で、由美子は元気に調教に励みました」(宮﨑さん))

宮﨑:
助けるからには、世間から忘れられた存在になるのではなく、にぎやかな生活をさせてやりたい。由美子なりに生きる目的や意味を作ってあげたいと思いました。

由美子は希少な「ブルトン」という品種です。体重は800kgから1tと大きく、力持ちだけど温厚でやさしい性質。なので、馬車を曳く馬として特別な調教を受け、たくさんの人に愛されながら活躍できないかと思いました。
クラウドファンディングでたくさんの方に支援していただき、集まったお金で由美子を買い取り、北海道で馬車馬としての調教を受けました。その後十勝の施設で活躍し、一生懸命に走る姿は多くの人を魅了しました。

馬肉になるはずだった由美子が、人々を癒し、感動をくれる存在になった。それはすごく嬉しいことでした。

(「由美子に会うために再度北海道を訪れた際、馭者(ぎょしゃ)修行に行ったスタッフの馬車に乗りました。もちろん馬車を曳くのは由美子です。雪の上を走るソリ、ドクタバギー、ビクトリア馬車とさまざまなものを曳くことのできる馬に成長していました」(宮﨑さん))

「愛を持って接することで、世界が変わる。
それを教えてくれたのが馬だった」

(「牧場の馬たちは皆、それぞれの気の合う仲間たちと暮らしています。今は亡きセリアくんと、葦毛のホープくんは共に高齢・肢の弱いグループエリアで、とても仲良しでいつも一緒に毎日を楽しんでいました。ホープくんのお部屋に遊びに行くセリアくん。一体何のお話をしていたんでしょう?」(宮﨑さん))

──宮﨑さんの馬への愛が伝わってきますが、一方で現状に対して、怒りや憎しみは湧きませんか。モチベーションは何ですか。

宮﨑:
当初、馬たちの置かれている悲惨な状況を知れば知るほど「なぜこんなことができるんだ、こんなことをするなんて信じられない」と怒りや憎しみの感情が湧きました。
しかしやがて「怒りや憎しみは何も生まない」ということに気がついたんです。怒りはさらなる怒りを生み、憎しみは憎しみを増長させる。それは「破壊」のエネルギーでしかありません。

大きな悪を感じたとしても、探せばその中に何か善があるはずです。愛は中立なものだからです。状況を変えるためには、怒ったり憎んだりするのではなく、愛を持って接する以外に方法はありません。

相手を色眼鏡で見たり、「あなたたちは恥じるべき人間だ」と罵ったりするのではなく、悪だと感じる事象の中の善をとらえ、祈りを込めて臨まない限り、悪が善に翻(ひるがえ)ることはないのだと思います。

──本当に、そうかもしれませんね。

宮﨑:
そうやってまずは自分の周りをポジティブな波動に変えていく。一人ひとりがそうしていくことで、世界は必ず変わっていくと信じています。

人々は日々忙しく、生活や仕事、情報に追われて自分を見失いがちです。しかし本当の自分に気づきその声に耳を傾けて、愛をもってそれを行動に移していくこと。

最初は勇気が必要ですが、一人ひとりが胸騒ぎするような喜びや好きなことを生き方にすることで、周りにも幸せを与えていくと私は思っています。「自分らしく生きられる」ことの集合意識が「平和」なのだと思います。私にとって、それが「馬」でした。活動を通じて、これからもポジティブな力を伝えていきたいと思います。

──もしかしたら馬は、まだ自分自身でも気がついていないような「本当の自分」の存在を認識し、その声に耳を傾けてくれる存在なのかもしれませんね。馬がそうしてくれるから、馬をきっかけに本当の自分に気づくことがあるのかもしれません。

(「『ダンケ』との出会い、別れ…。馬は『怒っているぞ!機嫌が悪いぞ!』という時、耳を後ろに倒す、いわゆる『耳を絞る』というリアクションを見せます。馬主さんによると、ダンケは過去に人に嫌な思いをさせられた経験があったそうで、よく耳を絞る行動をしていました。でも毎日接していると、彼はパフォーマンスで『機嫌が悪いんだからな!』としているだけで、本当は機嫌が悪いこともなく、怒っていることもないチャーミングなお馬さんだということがわかりました。とても食いしん坊で、餌の時間には足踏みして喜ぶかわいい馬でした。しかし馬にとって大切な蹄の病気となり、薬で眠らせることとなりました。短い家族としての生活でしたが、優しい馬主さんに見守られながら、彼の穏やかな生活の時間を共有できたことは、私にとってとても印象深い出来事でした。写真は暖かな日差しの中、くつろぐダンケくんに寄り添う私です」(宮﨑さん))

「忘れていた『自分を信じる力』を、
馬が教えてくれる」

(宮﨑さんの乗馬のパートナー「ダディー」。「乗馬を始めた頃、地元農業高校馬術部でパートナーとなってくれたダディーは7歳で亡くなりました。その子に敬意を表し、初めて迎える自分の愛馬の名前は『ダディー』にしようと心に決めていました。私が牧場を始めるにあたり、迎えた愛馬・ダディーは、7歳で亡くなった初代ダディーの分も一緒に私といてくれています」(宮﨑さん))

──宮﨑さんは、50を過ぎて活動を始めたそうですね。

宮﨑:
はい。それまでは夕飯を作って夫の帰りを待つ普通の専業主婦でした。悪い人生ではなかったと思います。しかし心のどこかで「どこか違う」と感じていました。乗馬をはじめて馬と出会い、人生を癒され、人知れず処分される馬がいることを知りました。

今では、この活動を始めたのは遅すぎたと思うぐらいです。ここにたどりつくまでにさまざまな苦労や不安もありました。だけど不思議と、「馬がついているから大丈夫」と思えるんですね。

──本当に大好きなことを、本当に大好きな馬と一緒にやっていられるからこそそう思えるのですね。

宮﨑:
今の世の中、多くの人が「自分はつまらない人間だ」と思い込み、小さな殻に閉じこもり、自分を制限しながら生きています。本来は無限の力を持っているのに、そのことを忘れているんです。そうじゃないんだということを、あなたの命には無限の可能性があるのだということを、私はこれからも、馬と共に伝えていきたいと思っています。

(乗馬クラブで、ダディーに続く2頭目のパートナー『アルファー』に乗る宮﨑さん。「たくさんの馬たちとの関わりの中で、『いつの日か自分の牧場に、たくさんの縁に導かれてやってきた馬たちと暮らす!』、そんな夢に輝いていた頃の私です。諸事情によりアルファーは手放してしまいましたが、彼を大切にしてくれるパートナーの元で幸せに暮らしています。アルファーの背中に乗りながら描いていた夢に少しでも近づけているのか、常に今の自分に問いかけています」(宮﨑さん))

チャリティーは、馬の健康管理に必要な
「歯のケア」のために使われます!

(「ダディー牧場ではどんなに作業工程が多くても、一日に最低一度は全頭に触れ、怪我はしていないか、どこか異常が起きてないか、馬体をチェックしています。馬は物言わぬ動物なので、ちょっとした変化にも私たち人間が敏感にならないといけません。放牧後のお手入れもとても大切にしています。手で触れることは、馬体のチェックだけでなく、一頭一頭の今日の機嫌を感じ取ったり、何が好きで何が嫌いかを把握したりする、日々のコミュニケーションの一環だと考えています」(宮﨑さん))

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

宮﨑:
ダディー牧場では、馬たちが病気にならない環境を整えることが何よりも大切だと考えています。そのために清潔な環境や食事を用意し、健康を管理するのは当然のことです。

その時に一つ、馬の「歯」のケア・治療は非常に重要になります。馬は年をとると歯が伸びてくる時間が速くなるのです。歯が伸びてくると、噛み合わせが悪くなったり歯茎に当たって傷になったり膿んだりして、食べられなくなったりもするし、首や目にも影響が出たりします。しかし不調の原因が歯にあると気付かぬまま元気な体を痛めつけて死を早めてしまうということもあります。

──確かに人間も、かみ合わせが悪くなると首や肩が凝ったり頭が痛くなったりとあちこちに症状がでてきますね。

(歯のケアを受ける馬。「歯のケアは2年に1度のペースで行っています。その他にも期日を問わず、特に原因が思い当たらないけれど体調が悪くなった馬たちには歯のケアを行っています。費用が高額なため、特定の馬主さんがいない支援馬たちの歯のケアは、ダディー牧場の資金から賄っています」(宮﨑さん))

宮﨑:
ダディー牧場では2年に1度、歯を専門に見る獣医さんに診てケアしていただいていますが、こういったケアが行き届かない小さなクラブの馬たちにも、歯のケアを受ける機会を発信していきたいと考えています。馬たちにとって、お腹が減っているのに食べられないほど苦しいことはありません。健康に噛めるようになって幸せになってくれたら、それ以上に望むことはありません。

歯のケアの大切さを他の牧場主さんにも改めて意識づけしたいという意図もあり、今回のチャリティーは、こういった馬たちの歯の治療費として活用させていただきたいと思います。

──貴重なお話をありがとうございました!

(2019年3月、創立記念の会にて。「馬体をお手入れする張り場で、牧場スタッフや会員、役員の皆さまと一緒にお食事会を行いました。奥から顔を覗かせているのは、今年亡くなったルックです。『何をやってるの?』と私たちを見ていました」(宮﨑さん))

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

宮﨑さんの馬への深い深い愛情をとにかく感じるインタビューでした。
と同時に、馬や人といった事象を超えて、馬を通じて宮﨑さんが感じ取り、出会ってきた「愛」そのもの、そこへの信頼や信念も強く感じました。
さまざまな情報に溢れ、何が正解かもわからないような昨今ですが、もしかしたら生きるとはもっともっとシンプルなことなのかもしれません。
ダディー牧場にいつか訪れてみたいです!お馬さんたちにも会いたいな。

・あしずりダディー牧場 命の会 ホームページはこちらから

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馬と、馬にやさしく触れる人の手を描きました。

馬に触れることで相互に生まれる温かい感情、本当の自分への気づきやリスペクトを表現しています。
“Life, the gift of nature, love, the gift of life”、「命は自然の贈り物。愛は命の贈り物」というメッセージを添えました。

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