小児がんなどの重い病気で長期入院する子どもたち。日々の治療や入院生活はつらく、決して楽なものではありません。
「入院中の子どもたちとその家族に、笑顔と勇気と心のケアを」。
その思いでさまざまなプログラムを海外からも取り入れ、子どもたちを支援してきたNPO法人「シャイン・オン!キッズ」が、今週JAMMINがコラボする団体です。2014年6月以来、2回目のコラボです。
団体創立のきっかけは、団体理事長のキンバリ・フォーサイスさんの息子で、生後間も無く小児がんと診断され、闘病の末に2歳を前に亡くなったタイラーくんの存在でした。
現在はトレーニングを受けた犬(ファシリティドッグ)を病院に派遣する活動や、ビーズを通じて闘病中の子どもたちの心をケアする活動を中心に、昨年からの新型コロナウイルスの流行によってより隔離されてしまった小児病棟の子どもたちのためにと、アイデアと熱意で人をつなぎ、新たな支援にも取り組んでいます。
活動について、事務局長のニーリー美穂(みほ)さんと広報の橋爪浩子(はしづめ・ひろこ)さんにお話を聞きました。
(お話をお伺いしたニーリーさん(左)と橋爪さん(右))
NPO法人シャイン・オン!キッズ
小児がん、重い病気と闘う子どもたちと家族に笑顔を届けるために、入院中の子どもたちに寄り添い、ビーズやファシリティドッグを介在したサポートを行っています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/6/28
(静岡県立こども病院にて、秋に引退予定のファシリティードッグ「ヨギ」。時々屋上まで、入院中の子どもと一緒にお散歩して気分転換することも)
──今日はよろしくお願いします。団体のご活動について教えてください。
橋爪:
小児がんなどの重い病気を抱える長期入院中の子どもたちに笑顔を届け、自己肯定感や前向きな気持ちを育む「心のケア」をサポートしています。
現在の活動のメインは、病院に特別なトレーニングを受けた犬を派遣する「ファシリティドッグ」と、「ビーズ・オブ・カレッジ」というプログラムです。どちらの活動も、病院での治療や薬とは異なって効果が目に見えてわかるものではありません。しかし日々の治療や入院生活に耐えている子どもの負担を和らげ、自信や勇気与えるものです。
(2歳の誕生日を迎える前にお星さまになったタイラーくん。闘病生活の中でも、いつも笑顔を絶やさなかった)
ニーリー:
団体の設立のきっかけは、生後1ヶ月になる前に急性リンパ性白血病と診断され、長い闘病を経て2歳の誕生日を目前に亡くなったタイラー・フェリスの存在です。
つらい入院生活の中でも、タイラーは笑顔を絶やすことはありませんでした。団体創設者であるキンバリとマークは、幼くして天国に旅立った息子の勇気と家族の経験を、同じように苦しみを背負う小児がんの子どもたちとその家族のためにポジティブに役立てたいと強く思い、2006年に「シャイン・オン!キッズ」の前身となる「タイラー基金」を設立しました。
(東京都立小児総合医療センターに勤める「アイビー」。医療スタッフの一員であり、コロナ禍にあっても感染対策をしっかりと行い病院に常勤している)
ニーリー:
二人は、日本では最先端の医療が受けられる一方で、患者や家族の「心のケア」の面では大きく遅れていることを知り、欧米で進む心のケアのプログラムを導入することでお世話になった日本の小児医療を支援したい、日本で闘病する子どもたちとその家族のために何かできることをしたいと活動を始めたのです。
当時まだ珍しかった病児とその家族が滞在できる施設の運営や心理士派遣などを行ってきましたが、現在は病院内のプログラムに重きをおいて活動しています。
(神奈川県立こども医療センターのファシリティドッグ「アニー」。入退院を繰り返す子どもと家族にとっては特別の存在)
(ファシリティドッグは、子どもと一緒に手術室や処置室へも付き添う)
──ファシリティドッグについて教えてください。
橋爪:
病院など特定の施設で活動するために専門的なトレーニングを積んだ犬です。看護師経験のある専門的なトレーニング積んだ「ハンドラー」とチームを組み、病院のスタッフの一員として勤務し活動しています。
タイラーの母であり理事長のキンバリが視察に訪れたハワイの病院で、犬が子どもたちの病室にいて、重篤な子どもたちが自分のベッドに犬を呼び寄せて明るい表情をしている姿を見て日本にも必要だと確信し、国内で初めてスタートさせました。
2010年に静岡県立こども病院、2012年に神奈川県立こども医療センター、2019年からは東京都立小児総合医療センターと現在は全国3つの病院にて、「常勤」というかたちで毎日通っています。そしてこの7月からは国立成育医療研究センターでも新たに活動をスタートします。
(昨年秋、虹の橋を渡った初代ファシリティドッグ「ベイリー」。「約9年間で延べ22585名のお子さんのもとを訪問し、笑顔と勇気を届けてくれました」(ニーリーさん))
──常勤なのですね。
橋爪:
はい。時々交流するのではなく、毎日同じ施設に勤務しています。そうすることで入院中のお子さんやご家族個々のニーズに応え、より深い関係性を築くことができると考えています。
今年新たに活動する国立成育医療研究センターの「マサ」に加え、静岡県立こども病院で秋に引退予定の「ヨギ」の後任として「タイ」もデビューの予定です。神奈川県立こども医療センターの「アニー」、東京都立小児総合医療センターの「アイビー」、4病院5頭体制でしばらく活動する予定です。
ファシリティドッグは最低60以上のコマンドを覚え、ハンドラーの指示に従い病棟内を適切に動きます。
お子さんの病状や病室内の環境も配慮しつつ、たとえば手術後の子には寄り添うように、元気な子には同じように活発な感じで付き添います。一人ひとりの状態に合わせながら子どもたちを癒し、支える役割を担っています。
(神奈川県立こども医療センターの「アニー」は、添い寝も得意)
──動物ならではの力ですね。
ニーリー:
そうですね。ドクターや看護師さんからも「ファシリティドッグがいると子どもたちから普段とは全く違う力が出る」「人間にはできないサポートをしてくれる」といった驚きの声をいただきます。痛い注射を打つ、嫌な検査がある、苦い薬を飲む…つらい治療の中で、「アニーがいるからがんばれる」「ヨギがいるから泣かずに手術に行けた」、お子さんやご家族からもそんな声をたくさん聞きます。
各病院で、ファシリティドッグとハンドラーは緩和ケアチームの一員であり、「心強い同僚」と表現してくださるとドクターもいらっしゃいます。子どもたちのつらく不安な気持ちを受け入れ、やさしく寄り添い、勇気を与えてくれる。ファシリティドッグの力を多くの医療者の方が認めてくださり、医療チームの一員として受け入れてくださっているのは本当にありがたいです。
──子どもたちにとって、特別な存在なんですね。
(「入院中のお子さんとその家族が皆で書いてくれたカードです。『アニー、ありがとう』『ずっとともだちだよ』『またあそぼうね』…、ファシリティドッグへの思いが伝わってくる、嬉しいプレゼントです」(橋爪さん))
橋爪:
そうですね。自分の周りにいるおとなたち、親御さんやお医者さん、看護師さんとはまた違う存在で、時にお兄さんやお姉さんであり、時に弟や妹でもある、かけがえのない特別な仲間であり友達であり、「自分のことをわかってくれている」と感じられる存在なのだと思います。
入退院を繰り返すお子さんもいますが、そんな時に「病院に行けば、またアイビーに会える!」と思えて、ちょっとだけ気持ちが楽になる。そんな効果もあると思っています。
中には、残念ながら闘病の末にお星さまになるお子さんもいます。しかし以前、あるお母さんから「ファシリティドッグがいたことで、入院が楽しかった思い出として記憶に残っています」とお手紙をいただいたことがありました。「子どもを亡くして10年近く経つけれど、我が子がベイリーと一緒に笑顔で写っている写真を見ると、入院中のつらい記憶や嫌な思い出を笑顔に変換することができた」と。
(入院中の子どもにとって、ファシリティドッグは家族や医師や看護師とは別の存在。「『しっぽの生えた仲間』です」(橋爪さん))
(ハワイ・マウイ島にある育成施設「アシスタンス・ドッグス・オブ・ハワイ」でトレーニングを受けるアイビー)
──ファシリティドッグは特別なトレーニングを受けるのですね。
ニーリー:
トレーニングとして特徴的なのは、学ぶことが良い経験になるように、できることをとことん伸ばすことです。できなかったことを罰することはありません。また幼少期からさまざまな年齢、職業、あらゆる境遇の方々と触れ合います。
たくさんの方々と良い経験を積むので、人と共に過ごすことが大好きになります。この過程を、特に病院内で繰り返すことで、”病院は楽しいところ” というポジティブな学びが得られます。
ファシリティドッグは、人との活動が得意な系統から、さらに個々の適性も十分見た上で選ばれます。5頭とも仕事が好きで楽しんでいて、月曜日の出勤の朝は病院に行くのが待ちきれない様子です(笑)。
──チームで活動するハンドラーさんも、医療資格を持っている方に限定されているそうですね。
(入院中の子どもの骨髄穿刺(こつずいせんし、腸骨に針を刺し、骨髄液を吸引すること)に付き添うこともある)
橋爪:
病院のリクエストに応じ、臨床経験5年以上の看護師資格を持つ方に限定しています。ハンドラーが医療的なケアに直接関わることはありませんが、犬と一緒に行動しながら、見た目ではわからないさまざまなことをその都度判断して動いています。
「病室に入り、子どものそばに寄り添う」という流れ一つをとっても、子どもたちはそれぞれ医療機器に囲まれていたり免疫力が低下していたりするので、一人ひとりの治療や体調に差し障りのないアプローチ、病状や治療状況によって注意しなければならないことがあり、医療的な視点でその都度適切な判断が必要になります。主治医や医療チームとの連携も必須なので、医療の知識と経験が必須です。また感染対策に関する知識も重要です。
子どもたち一人ひとりのカルテも共有しているので、病状に合わせてどう接するかだけでなく、どのようにすればより効果的にお子さんの治療やモチベーションに役立てられるかも考えながら行動しています。
(ファシリティドッグ育成における国際な先駆けである「アシスタンス・ドッグス・オブ・ハワイ」で経験を積んだトレーナー2人と、国内の専門家によるアドバイザリーボードともに国内初の試行的ファシリティドッグ育成を開始。2頭のファシリティドッグ「タイ」と「マサ」が誕生した)
(『ベイリー、大好き セラピードッグと小児病院のこどもたち』(岩貞るみこ/著・澤井秀夫/写真、小学館、2011年)は、初代ファシリティードッグ「ベイリー」と闘病中の子どもたちの心温まる物語。
「本の中のエピソードにも出てくるゆづくんとの写真です。ベイリーとゆづくんの特別な心のつながり、ハンドラーの森田の一途な思い…、すべてが詰まったこの写真は、私個人にとってシャイン・オン!キッズの活動の原点を感じるものです。団体から私に声がかかった当初は、1ヶ月だけのアルバイトの予定でしたが、団体のプログラムを知れば知るほどその素晴らしさ、影響力の大きさに魅了され、もっと世間に伝えていきたいと広報担当になり、もう10年所属しています」(橋爪さん))
橋爪:
時には手術室まで同行することもあります。手術前の麻酔は不安でこわいものです。そんな時、ファシリティドッグがそばにいることは大きな安心感を与えます。親御さんにとっても我が子の手術はとても心配ですが、泣き叫んだり嫌がるのではなく、和やかで落ち着いた雰囲気で手術へ向かえることは特別です。「ファシリティドッグがいてくれてよかった」という声を本当に多く聞きます。
──犬がいることが力になっているのですね。
橋爪:
そうですね。日本のすべてのこども病院で活動し、子どもたちに笑顔と勇気を届けられたらと思っていますが、ただやはり、資金面などさまざまな面でのハードルがあり、導入を広げていくという面ではまだまだ大きな壁があると感じています。現在、啓発活動や学会等での発表などを通してこの活動を広めていくことにも力を入れています。
(「ファシリティドッグは、動物の福祉を重視し、国際基準によって1時間のお仕事後は1時間休憩します。毎日朝夕の散歩は欠かさず、週末は犬本来の楽しみを大切に、山や海などで思いっきり遊びます」(ニーリーさん))
(「ビーズ・オブ・カレッジ」のプログラムで、闘病中の子どもがつないだビーズ。ビーズ一つひとつに意味があり、小児がんの子どもが一回の入院で集めるビーズの数は、一人平均して900〜1000個にもなるという)
──「ビーズ・オブ・カレッジ」について教えてください。
ニーリー:
ビーズ・オブ・カレッジ(”Beads of Courage、勇気のビーズ”)はアメリカでスタートしたプログラムで、入院中の子どもたちが医療スタッフと一緒に色とりどりのビーズをつなぎながら、治療や検査を記録し、治療に前向きに取り組めるよう導くものです。
プログラムを通じて子どもと医療者との対話が増え、子どもたちが感情を表出する機会も多くなり、また子どもの病気に対する理解も深まることで治療が進みやすいという効果も見られます。
日本国内では私たちが24の病院で実施していますが、”Arts in Medicine、アートによる介在療法”とも言われ、欧米を中心に世界の260以上の病院に導入されています。実際アメリカでは研究により効果が報告され、エビデンスに基づいた社会心理的アプローチとして注目されています。
──どのようなプログラムなのですか。
橋爪:
入院中の子どもたちは日々、漠然とした不安を抱えています。大人であれば、この入院や治療が何のためで、いつ検査をして、結果次第でこうなる・こうするといったふうに治療の全体を把握し、理解や納得しながら進んだり振り返ったりすることができますが、特に幼い子どもにはそれは難しいですよね。
(子どもたち一人ひとりがつないだビーズは治療の記録、そして勇気の証)
橋爪:
このプログラムでは、最初に自分の名前をアルファベットのビーズでつなぎ、毎日治療の記録として「ビーズ日記」をつけます。その日記をもとに定期的にビーズをつないでいきます。
治療一つひとつにビーズの色や種類が決められています。たとえば「入院した時」は黄色のビーズ。「輸血を受けた時」は赤いビーズ、採血や注射、管など「針を刺した時」は黒いビーズ、化学療法は白のビーズ…というかたちです。
ニーリー:
中には特別なビーズがあります。
「手術を受けた時」は星のかたちをしたビーズ。「放射線治療を受けた時」は暗闇で光るビーズ、あるいは「これは本当にがんばったよね」という特別な出来事、それは子どもによってさまざまですが、たとえば髪が抜けて皆に会いたくなかったけどがんばって院内学級に行ったとか、具合が悪かったけど階段を上がったとか、そんなふうに本人が何かチャレンジした時には、国内のとんぼ玉作家さんが寄贈してくださった、手作りの「がんばったねビーズ」などです。
子どもたちが1週間に受け取るビーズの数は大体25個ほどで、小児がんの子どもが一回の入院で集めるビーズの数は、一人平均して900〜1000個にもなります。つながったビーズを実際手に取るとすごく重みを感じるほどです。
──そんなにたくさんのつらい経験に耐えているんですね…。しかしビーズによってつらい日々を乗り越えてきたということを可視化できるのは嬉しいし、勇気づけられますね。
(治療を記録した「ビーズ日記」をビーズ大使さんと振り返りながら一つひとつ紐に通していく)
橋爪:
そうですね。ただ「ご褒美」としてビーズを手渡すのではなく、本人が経験したことへの「証」として、子どもたちの勇気や頑張りを讃えるものとしてビーズを手渡すことを意識しています。あくまでも子どもたちが頑張ることや目標を決める、そこが「ご褒美」との違いで、子どもの自己肯定感を上げることが期待できます。
子どもたちは、私たちが「ビーズ大使」と呼ばせていただいている、このための研修を受けてくださったドクターや看護師さん、心理士さんなどのもとで振り返りながらビーズを紡ぐ作業をします。
この「振り返りながら」が特徴です。つらい治療やしんどいことがあった時は、そのことで精一杯ですよね。その日のうちに「今日こうだったね」と確認するよりは3日、1週間と時間を置いて振り返ることで、たとえば「今はもう痛くないよ」とか「もうつらくないよ」「顔がすごく腫れていたけど、今もう引いたよ」といった風に、本人が「自分は乗り越えられたんだ」「もう大丈夫なのだ」と思えるのです。
──なるほど。
橋爪:
そうやって客観的に振り返りつつ、それがかたちになることで、本人の中でつらかった経験もストンと腑に落ちて、やがて自信へとつながっていくのです。つらいことも自分は乗り越えられた。だからもし次にまた治療を受けることになっても乗り越えられるんだ、と立ち向かう勇気が湧くのです。
(「小さいお子さんは、保護者の方と一緒にビーズをつなぎます。ビーズ大使さんと振り返りながら紐に通していくことで、保護者の方の気持ちも落ち着きます」(橋爪さん))
(コロナ禍において、より隔離された状況に置かれている小児病棟の子どもたちに、オンラインで工夫を凝らしたさまざまなワークショップを届ける「シャイン・オン!コネクションズ」をスタート。「英語番組でお馴染みのエリックさんのプログラムは、子どもたちに大人気です」(ニーリーさん))
ニーリー:
昨年からの新型コロナウイルスの流行により、小児病棟は以前に増して隔離された状況に陥りました。感染防止対策が優先され、子どもたちの社会的孤立が深刻化しているのです。感染リスクを避けるために保護者の方でさえ面会を制限され、それまでは遊びや学習のボランティアさんがたくさん入っていた病院もこういったことが一切なくなってしまいました。
ファシリティドッグはハンドラーが看護師ですし、ビーズ・オブ・カレッジは医療職の方がビーズ大使として活動してくださっているので活動は途切れることなく続いています。むしろボランティアの方や他の団体皆さんが入ることが難しくなった分、需要が増加しています。
この深刻な状況下で私たちにできる支援を模索するために、昨年3月に関わりのある23の病院に緊急アンケートを実施しました。すると、長期入院中の子どもたちの置かれている状況が浮き彫りになりました。「笑わなくなってしまった」「病室から楽しいことがなくなって、小さい子は泣き叫んでいる」「思春期の患児は外出や一時退院ができず、もう限界を超えている」という回答もありました。
…それまで保護者の付き添いが自由に行えて、様々な分野のボランティアさんが入られて楽しいことがあった病院さんほど、コロナで外部との接触が遮断されてしまい、困っていらっしゃる印象を受けました。
──そうだったんですね。
(病院にて、ワークショップを告知するポスター。こちらは現代美術家・しゅんさくさんによるアートワークショップの告知)
ニーリー:
実は以前から団体としてリモートワークを積極的に取り入れており、普段から感染対策が必要な病室の子どもたちにもオンラインで英語レッスンや異文化体験などを届けられないかと準備をしていたところでした。コロナによってそのニーズが加速し、オンラインでも笑顔を届けることができるはずだと現場の方たちに尋ねてみると、「何もないよりはあった方がいい!ぜひトライしたい」と言っていただきました。
ただ、リモートで何かを届けるにも、病院に子どもたちが使えるパソコンやタブレットなどのデバイスがあるわけでもないし、インターネット回線を拾うsimカードやwifiがあるわけでもありません。つながりのある方や企業さまにも声をかけつつ、クラウドファンディングや緊急の助成金も申請し、ありがたいことに70台のipadと20台ほどのプロジェクターを手に入れ、OriHimeという遠隔操作ロボットも9台レンタルすることができました。
ご希望いただいた18の病院にこれらのデバイスをお渡しし、専門家や学生ボランティアと協働し、独自のオンラインワークショップを子どもたちに届ける「シャイン・オン!コネクションズ」というプログラムを新たにスタートしました。
(オンラインワークショップの撮影現場。トリックが覚えられるマジックショーを配信中!)
──どんなワークショップを開催されているのですか?
ニーリー:
現在約15のコンテンツを行っています。ファシリティドッグが子どもたちの元をオンライン訪問したり、みんなで一緒にレゴを作って多様性を学んだり、オンラインで絵本作家の先生と一緒に絵を描いたり粘土をしたりと多種多彩です。
最近では院内学級の先生とのコラボも始まり、科学実験や工場見学なども開始しました。
医療現場からの反応も良く、リアルなつながりが遮断され状態で、外部とつながることがこんなに大きな力になるのだと予想以上に手応えを感じています。画面の向こうでお子さんも本当に楽しんでくださっているようで、中には「入院して一度も笑わなかった子が笑うようになった」という声もあり、オンラインの可能性を実感しました。
病室の子どもたちにとって、ただでさえ入院による生活環境の変化の影響は大きなものです。さらにコロナによって拍車がかかり、外の世界とのつながりが遮断され、楽しいことがどんどん排除されてしまった。それを打開する一つの方法として、通信付きタブレットが一つあれば、免疫力が下がってクリーンルーム(無菌室)にいる子どもでも、コロナに関係なく外の世界とつながることができるのです。
(ワークショップにはZoomを利用。一方的に伝えるのではなく、オンラインでつながった子どもたちと双方向の対話も楽しむ。バイリンガルの高校生と英語で交流も)
──まさに、外とつながる「窓」ですね!
ニーリー:
海外にもコネクションがあるので、今後はハワイとつないでファシリティドッグの育成施設をバーチャル訪問したり、アフリカのサバンナとつないでリアルタイムで砂漠を歩くキリンや象の姿、雄大な景色を病室の子どもたちに届けるワークショップを開催したいと思っています。
入院中でもさまざまな興味を持ち、想像力を使い、夢が生まれて未来につながっていく。子どもたちがワクワクして、その可能性を最大限に広げてもらいたい。そんな思いでプログラムを開発しています。
(小児がんサバイバー、あるいは通院中、特に思春期のAYA世代を対象としたワークショップ「Camp Courage for Survivors(キャンプカレッジ)」は2021年に5年目を迎えた。「コロナ感染拡大の影響を受け、昨年より対面ではなくオンラインでつながる企画に変更しました。それにより、それまで参加できなかった地域のみんなとも時間を共有できるようになりました。遠隔で収録したNHK Eテレの『パプリカ』の企画は、離れていてもひとつのことを完成させる素晴らしさやひとつになれるすばらしさを実感する出来事でした」(ニーリーさん)→<NHK>2020応援ソング | パプリカ「入院中のみんなへ」)
(闘病中の子どもたちのために、選ばれし国際派エグゼクティブ16人のアマチュアボクサーたちが闘う「エグゼクティブ・ファイト・ナイト」プレイベントにて、参加者の皆さんの集合写真。「このチャリティーイベントは、ボクサーの方たちが事前に交流した子どもたちのためにトレーニングを積み、チャリティーボクシングに挑みます」(ニーリーさん))
──「子どもに笑顔を届ける」という目的のもと、手段に固執せず常に新しさを持って活動されていると感じました。ここには何か団体として哲学というか、思いがあるのでしょうか。
ニーリー:
理事長が息子を亡くしたことをきっかけに日本にそれまではなかった新しいものをいろいろと持ち込んできました。「壁はあって当たり前、どの業界でも新しいことを始めるのは大変だから、困っている人がいるのならばむしろ挑戦していこう」という意識や雰囲気はありますね。
橋爪:
環境の変化に迅速に対応し「まずはチャレンジしよう!」という精神で活動をしています。ミッションを常に意識して「できる人ができることを」と、というフットワークの軽さがあって、困っている人がいたら「何かできないか」を考えてすぐ動く、挑戦するというのが団体のスピリットとしてあります。
ニーリー:
そうですね。挑戦を躊躇しないというか、理念やかたちにこだわるのではなく、柔軟性を持って「できることがあったらどんどんやっていこう」というスタンスです。
それはやはり、闘病中の子どもたちやご家族に、少しでも笑顔を届けたいから。それこそが私たちの活動の目的なので、そのためにこれからもずっと走り続けていくのだと思います。
(スタッフの皆さん。「2019年、年に1度の全体ミーティングの後に入院中のお子さんに向けた動画メッセージを録画した際の一コマです」(ニーリーさん))
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
ニーリー:
チャリティーは、コロナ禍においても引き続き入院中の子どもたちに笑顔を届ける活動資金として活用させていただきたいと思います。
私たちの活動は、皆さまからのご支援や国内外の助成金などによって成り立っています。以前はチャリティーイベントなどを積極的に開催していましたが、コロナによって対面でイベントを開催することが難しくなり、活動のニーズは高まっているものの資金調達が追いついていません。ぜひチャリティーアイテムで応援いただけたら幸いです。
──貴重なお話をありがとうございました。
(2018年10月16日に開催された、初代ファシリティドッグ「ベイリー」の引退セレモニー。「関わってきたお子さん、ご家族、医療従事者、支援者の皆さんのほかに、ハワイの育成施設からもスタッフたちが来日しました。引退後も後任犬のアニーとともに”名誉ファシリティドッグ”として病院に顔を出し、悠々自適に横浜市の自宅で暮らしていましたが、12歳9ヶ月で虹の橋を渡りました。きっと今頃、お星様になった子どもたちと一緒に、毎日楽しく過ごしていると思います」(橋爪さん))
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
入院によってさまざまなことが制約されてしまう子どもたちにとって、ファシリティドッグの存在はどれだけ大きいものだろうかと思います。それも時々ではなく毎日その施設にいてくれる。たとえ会えない日があったとしても、「仲間がいる」と感じられることは、どれだけその人の気持ちを強くしてくれるでしょうか。
インタビューを通じ、お二人の熱意と行動力を強く感じました。これからも活動が広がり、一人でも多くの子どもとご家族に笑顔が届けられるよう願っています!
目の前にいる人に全幅の信頼を寄せ、リラックスして寝そべる犬の姿を描きました。
犬の手には紡いだビーズが。目には見えないけれど深く結ばれた絆や愛情、それよって輝きを増すいのちの尊さを表現しました。
“Born to shine”、「(人も動物も、いのちはすべて)輝くために生まれてきた」というメッセージを添えました。