「コミュニティFM」をご存知ですか?
放送エリアが区や市町村単位に限られ、地域により密着した情報を届けることができるコミュニティFM。そのため地域活性化や課題解決の役割を担うだけでなく、災害時にはよりピンポイントで的確な情報を市民に届け、防災の役割も果たします。
現在、日本全国にあるコミュニティFM放送局の数は334局(2021年3月現在、「日本コミュニティ放送協会」ホームページより)。阪神淡路大震災、東日本大震災、2度の大きな災害を経てラジオの役割が見直され、コミュニティFM放送局の数が少しずつ増えてきたといいます。
今週、JAMMINがコラボするのは、2016年に開局したコミュニティFM放送局「FM87.0 RADIO MIX KYOTO(ラジオミックス京都、NPO法人コミュニティラジオ京都)」。
大きな可能性を秘めたコミュニティFM。その魅力や活動について、パーソナリティーであり放送局長の木村博美(きむら・ひろみ)さん、同じくパーソナリティーでありスタッフの嵯峨根(さがね)さちこさんにお話を聞きました。
(お話をお伺いした木村さん(写真左)と嵯峨根さん(写真右))
FM87.0 RADIO MIX KYOTO(NPO法人コミュニティラジオ京都)
2016年に開局したコミュニティFM放送局。地域が抱える課題解決のために、「地域と大学の連携」をコンセプトに、京都市北区と上京区を主なサービスエリアとして、地域に密着したラジオ番組を放送しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/5/10
(NPO会員の皆さんとの交流会にて。「交流会ではいつも笑いが絶えません。2019年の交流会ではRADIO MIX KYOTO運動会を開催しました」(木村さん))
──今日はよろしくお願いします。まずはご活動について教えてください。
木村:
私たちは、京都市の北区と上京区の情報をメインに発信するコミュニティFM放送局です。
今やコミュティ放送局は全国各地にあります。立ち上げに至った思いや目的はそれぞれにあるので「コミュニティFM放送局とは何か」をまとめて定義することは難しいですが、私たちの認識としては、地域の細やかな情報を集めて発信し、平時より地域の方たちとネットワークを築き、ラジオを聴いて使っていただくこと。それによって地震や台風など災害時にも役立ててもらうことが役割だと思っています。
スマートフォンが普及し、インターネットがあればどこにいても情報が簡単にアクセスできるようなりました。一方で、東日本大震災の時に私自身経験したことでもあるのですが、家族や友人と連絡をとりたくても電話も携帯メールもつながらず、唯一SNS(Facebookやtwitterなどのソーシャルネットワーキングサービス)を通じてのみ安否を確認できたということがありました。
こういったことがあり、災害時に電話がつながらない、テレビやインターネットにアクセスできないといった状況下でも情報を受け取ることができるラジオが見直されました。
(スタジオルーム内のミキサー。@写真提供:堀井ヒロツグ)
──そうだったんですね。NPO(非営利組織)として運営していらっしゃるのは珍しいのではないですか。
木村:
そうかもしれないですね。同じ京都のコミュティFM放送局であり、開局当初からネットワーク局としてもお世話になっている「京都三条ラジオカフェ(FM79.7MHz)」が、実はNPO法人としてコミュニティFM放送局を開局した全国初の放送局です。それ以前はNPOでの開局は認められていませんでしたが、地域の人たちが自らラジオの電波をつかって情報発信していくというかたちを実現していくために、NPO法人として開局したと聞いています。以来、私たちもそうですがNPOとして運営している放送局も増えています。
(都道府県別のコミュニティ放送事業者数。一般社団法人日本コミュニティ放送協会「コミュニティFMの災害時における放送の確保について」より引用:https://www.soumu.go.jp/main_content/000680839.pdf)
(『SPLASH MIX KYOTO 木曜日』のパーソナリティをつとめる木村さん。@写真提供:堀井ヒロツグ)
──地域に密着したコミュニティFM放送局として、普段の番組で意識されていることはありますか。
木村:
防災としての役割もありますが、地域情報の発信拠点として、地域の特色を活かした番組や防災・災害・避難情報等を提供し、豊かで安全なまちづくりに貢献するということが私たちの大事な役割です。
そのためには普段から、地域の方たちとつながりを築いておく必要があります。普段の関係性があるからこそ、有事の際に機能します。いかに普段から地域の皆さんに放送を聴いていただき、情報を提供していただけるか。「地域の方々に参加していただく」「一緒につくっていく」という点は意識しています。
それがあってこそ、コミュティ放送局として人々の生活に本当に役立てられるものになるのではないでしょうか。
嵯峨根:
開局して5年、まだまだ認知されていないので、地域の方に聴いていただけるような工夫をしています。「身近な人がラジオに出ていると聴きたいと思っていただけるんじゃないかな?」と思っていて、ゲストとして地域の方に出演していただけるコーナーを設けています。
(「番組にゲスト出演してくださったNPO法人『京都いえのこと勉強会』理事長の木本努さんは、小学校の同級生!何十年ぶりの偶然の再会から、この4月からは一緒に番組出演することになりました。ラジオを通じて、人のご縁を感じます」(嵯峨根さん))
──確かに!知り合いではなくても、よくお店の前を通るけどどんな人がやってるんだろう…とかどんなお店なんだろう…みたいなことが知れたら、すごく楽しいですね。
嵯峨根:
全国区の大きな放送局は、一つの番組に対して取材する人や台本を書く人がいて、パーソナリティーは話すことがメインです。しかし私たちは限られた人数で運営しているので、パーソナリティーそれぞれが情報を集め、番組作りから携わっています。
もっともっと距離を近くして、地域の方たちの方から「こんなんあるよ」とか「これを紹介して欲しい」などと情報提供やリクエストをどんどんしてもらえるような、生活の身近な存在に感じてもらえる番組作りをしていきたいと思っています。
情報を知ることで普段見ている街の景色が変わったり、生活がちょっといろどり豊かになったり。そんな番組を作れたらいいなと思いますね。
(今回のコラボ、実はJAMMINのアイテムを購入してくださった嵯峨根さんが、ご自身の番組に西田をゲストとして呼んでくださったことがきっかけです。2021年3月、放送後に嵯峨根さんと。トークはRADIO MIX KYOTOさんのサイトより視聴いただけます→URLクリックでページが開きます:http://radiomix.kyoto/episodes/episodes-24064/)
──個人がさまざまな情報発信できるYouTubeやインスタグラム、最近ではクラブハウスなどの音声アプリも広がっていますが、ラジオを運営される立場としてこういったサービスをどのように捉えられていますか?ライバル的な感じなのでしょうか?
木村:
ライバルとは思っていなくて、それぞれの良さを生かして活用していくことができれば、面白い広がりができていくのではないかと思っています。
コミュニティFMは誰でも開局できるわけではなく、国の認可(免許)が必要です。当然、法を犯すような内容だと免許も剥奪されます。一方でネットの発信はルールがない分自由ではありますが、信憑性に欠けたりすることもあります。リスナーの方が上手に使い分けて情報収集してくださったら良いのかなと思いますが、「地域に密着した正しい情報をより早く伝えられる」という点は、コミュニティFMの強みだと思っています。
(放送局にお伺いし、お話を聞かせていただきました)
(京都市北部を管轄する「北消防団」の予防広報班として、放送局のあるエリア・紫明学区の「紫明消防分団」と共に年末の火の用心夜回り活動に参加する木村さん)
──コミュニティFM放送局は災害時に情報発信の役割も担うということですが、もう少し具体的に教えてください。
木村:
地域密着だからこそ、市区町村、あるいは京都市内の場合は『学区』というより細かな単位で、停電や断水などの緊急時、必要な情報をピンポイントでリアルタイムに発信できます。
私たちの局で過去に実際にあったのは、「台風によって倒木が道を塞いで通行止めになっているので迂回するように」といった交通情報、停電している地域や避難所の開設情報の発信などです。
(地震発生時のフロー)
──コミュニティFMをつけているだけで、市民は最新の情報を得ることができますね。
嵯峨根:
緊急時は毎時、気象庁や京都府から送られてくる最新の情報を伝えられるようにしています。
さらに自治体とも連携していて、北区・上京区については区役所から直接割り込み放送ができる仕組みも整備されています。
──どんな仕組みですか?
木村:
緊急時、スタッフが放送局にいればすぐに対応できますが、必ずしもそういう状況であるとはかぎりません。私たちが間に合わなかった場合、区役所から強制的に放送に割り込み、地域の方たちに災害情報を伝えられるよう回線を共有しています。また隣接する区についても、伝えた方が良いと判断した情報は取り上げてお伝えするようにしています。
(インタビュー中、スタジオに隣接する大谷大学の学生の方たちが番組『SPLASH MIX KYOTO 金曜日』を生放送中でした)
(開局当初より、放送エリアである京都市北区にある大学との連携番組を放送。「開局3周年記念特別番組では、普段交わらない他大学のメンバーが集合し、一緒に放送を行いました」(嵯峨根さん))
──防災としての役割以外にも、「地域と大学の連携」が放送局のコンセプトだそうですね。
木村:
開局当初より地域の財産である大学生との取り組みにも力を入れてきました。
京都にはたくさんの大学があり、日本各地から学生さんが集まります。しかし学生さんは地域との関わりやつながりが薄く、せっかく京都に住んで学んでも、京都のことを詳しく知ることがないまま、卒業後には離れてしまうということも少なくありません。
ラジオを通じて、京都に愛着を持ち、大学卒業後も京都で働きたい、暮らしたいと思ってもらえるようなきっかけづくりができたらと思っています。
地域の人や企業さんにとっても、若い世代との関わりはプラスになります。より活気あるまちづくりに貢献できたら嬉しいですね。
(嵯峨根さんがRADIO MIX KYOTOのスタッフとしてサポートした立命館大学の番組『じもラジ』。「最終回放送終了後に、大学生のみんなから大きなポップコーン容器にびっしりの寄せ書きをサプライズプレゼントしてもらいました!ラジオの経験を生かして、社会に羽ばたいてね」(嵯峨根さん))
(「開局翌年の2017年、初めて京都五山送り火の生中継に挑戦しました。左大文字保存会、消防署、消防団の皆さんと一緒に大北山に登山し、燃え盛る火床の間近から中継放送するという貴重な体験をさせていただきました。以来、さまざまなアプローチで五山送り火の特別番組を放送しています」(木村さん))
──今や本当にスマホ一つでさまざまな情報が得られるようになりましたが、お二人が思われる「ラジオの魅力」を教えてください。
嵯峨根:
ラジオは耳から言葉で入ってくるので、自分の空間を邪魔せず、自分だけにしゃべってくれているような親近感が湧きやすい点が魅力だと感じています。
私自身、パーソナリティーとして話す時は、対「皆さん」ではなく、ラジオの向こうで聴いてくださっている「あなた」、その一人に話しかけるように心がけています。
開局当初からパーソナリティーとして、一昨年からはスタッフとしても運営にも関わるようになりました。直接リスナーさんが見えるわけではないので、「聴いてくれているのかな」「どこまで届けられているのかな」と感じることもありますが、地域のイベントなどへ行った際に「さがねっちですか?」と声をかけてもらったりすると、聴いてくださっているんだな、とか身近に感じてもらえているんだな、と嬉しいですね。
(ゲスト出演者とリモートで話す嵯峨根さん。「緊急事態宣言が出た際、番組へのゲスト出演はリモートでお願いすることに。やむをえずの対応ではありましたが、放送の新たな可能性も見出せたような気がします」(嵯峨根さん))
──身近に感じられるだけでなく、パーソナリティーの方と実際に生活圏内で会えるというのは、コミュニティFM放送局ならではですね。
嵯峨根:
コロナの影響で飲食店さんも大変な思いをされているので、なんとか応援したいと昨年は地域のお店のテイクアウト情報をラジオで発信しました。すると「行ってきました!」と反応してくださる方がいたりして、本当に少しずつですが輪の広がりを感じています。
木村:
幼い頃からずっとラジオが好きで、京都に来る前は首都圏で主にパーソナリティーの仕事をしていました。ラジオは一人でいる時に聴いていることが多かったのですが、2011年に東京で東日本大震災に遭った際、毎日テレビをはじめとするありとあらゆる目に入ってくるメディアが震災の情報一色だった中で、点けたラジオからふと人の生の声が聴こえて、ほっと安心した自分がいたんです。
緊張が張り詰めた状態の中、夜一人で家に帰ってきてシーンと真っ暗な中ラジオを点けた時に、「人がしゃべっている」ということにすごく安心を覚えました。
(2020年、コロナ禍で様々な大会や行事の中止によって各種部活動等の発表の機会が減った中高生の発表の場として、北区役所と共に『部活応援!青春ラジオOn Air』を放送。地域の中学校、高等学校を訪れ、中高生の想いや仲間へのメッセージを電波に乗せて発信した)
──そうだったんですね。
木村:
当時からラジオの仕事をしていましたが、この時の経験からラジオの新たな可能性を感じました。人の話し声が聴こえるだけで、たとえ目には見えなくても人の気配を感じ、離れていても同じ空間で一緒にいるようなつながりを感じることができる。これはラジオだからこそできることなのではないでしょうか。
その後、京都へ引っ越してくる時に気になったことって、やっぱり生活情報なんですよね。
特に京都は観光の情報はたくさんありますが、地域に密着した情報を得ることは難しかった。その土地の暮らしぶりや住んでいる人が見えてくるような、日常の生活情報が流れてくるようなメディアが当時なかったので、京都に住んでいる人だけでなく「これから京都に住みたい」という人のためにも、地域に根付いた、ためになる情報を発信していけたらと思っています。
──今はアプリを使えば、全国どこにいても、聴きたい地域のコミュニティFMを聴くことができますもんね。
木村:
そうですよね。「京都に住みたいけど、どんなところなんだろう」とか「京都の生活情報が欲しい」という方にも聴いていただいて、移住の参考や後押しになれたら嬉しいです。
(2016年5月22日、開局式典での一コマ。スタッフや関係者、学生パーソナリティーの皆さんとの集合写真)
(2018年7月、北区の新大宮商店街の夏祭りに参加。「イントロクイズを開催し、地域の皆さんとの交流を深めました」(木村さん))
──そういうふうに考えていくと、コミュニティFMは本当に可能性のあるツールですね。たとえば不登校や引きこもりがちの人が、物理的に部屋から出ることは難しくてもラジオで外の世界とつながりを感じられたり、地域が限られているからこそ「どこどこで子ども食堂をやるから、ボランティアさん募集してます」とか「食材募集してます」などといった情報発信もできるかもしれないし、地域課題の解決のために広く用いることができるツールでもありますよね。
そしてどんどんつながりが生まれた先に、住んでいる地域のことを昨日よりもちょっと好きになって、誇りや自信に感じたりするということもあるように思いました。
(コロナ禍で地域の病院が防護服が不足し困っているとの情報を受け、放送とSNSで情報を拡散。RADIO MIX KYOTOからも防護服を送ると共に、医療従事者への感謝と応援メッセージを放送した)
嵯峨根:
本当にそうだと思います。ここを通じて地域の交流が生まれていくといいなと思いますし、それがコミュニティFMの役割だとも思います。
送ったメッセージやリクエストをリアルタイムで取り上げてくれたり読んでくれたりする一方で、ラジオは対面ではないので、ある種そのユルさも良いのかなと思っていて。双方の距離感が測れるツールだなと思っています。直接コミュニティにつながるのはハードルが高くても、まずはラジオで間接的につながってみる。そしてもっと関わりたくなったら、直接つながっていくことができる。
とっかかりとしての手軽さや身近さを生かしつつ、つながりやすさを生んでいたけたらと思いますね。
──確かに。
(2019年、開局3周年記念として3日間連続特別放送を実施。最終日には「北区民ふれあいまつり」に参加し、地域の声を現地から生放送で伝えた)
──今後の目標を教えてください。
木村:
メディアとして地域の情報発信に力を入れていくのはもちろん、やはりコミュニティFM放送局として「つながり」づくりにも力を入れていきたいです。
この地域に限らず、地域の開発が進められる一方で、「シャッター街」と言われるように、昔からある商店が活気を失いつつある現実があります。だけど情報を丁寧に探っていくと、その中にすごく面白いお店や知る人ぞ知るお店があったり、すごい活動をしている方がいたり…発見にあふれているんですよね。
ただ、それがそれぞれ別で点で起きているから、街の中にいてもなかなかそれを知ったり関わったりする機会がない。点と点をつなげて線にしてつなげていく、街に眠っている宝を掘り起こして地域を活気づけられる、そんな放送局になれるようこれからもさらにチャレンジしていきたいです。
嵯峨根:
「ラジオミックス京都」という名前にも込められている通り、私たちがミキサーになって、地域の新たな魅力やパワーを発信していきたいです。
ここに来れば地域の情報がなんでもあって、必要としている人にピタッとはまる情報を提供できるような、ハブのような場所になれたらと思っています。
(放送局には、地域のさまざまなフライヤーが置かれた一角が。これだけでもたくさん地域情報がゲットできて楽しいですね)
(地域で開催された「紫竹まつり」にて、司会進行役を担当。「学生団体の神輿や盆踊り…、地域の方たちと一体となってお祭りを盛り上げました」(木村さん))
──最後に、チャリティーの使い道を教えてください。
嵯峨根:
地域の学生さんたちをはじめ、地域の方たちと一緒に企画・出演する番組を作っていくための資金として活用させていただきたいと思っています。ぜひアイテムで応援いただけたら幸いです。
──貴重なお話をありがとうございました!
(パーソナリティーの鈴木諭子さん、学生パーソナリティー工藤みのりさんも一緒に。「ラジオから笑顔をお届けします!」)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
テレビや新聞だけでなく、インターネットを通じてさまざまな形で情報にアクセスできる今だからこそ、まるですぐ側で語りかけてくれるような「ラジオ」の魅力が再認識され、さらにはコミュニティFMの可能性が広がりつつあるのだと感じました。
適度な距離感で人と人が、人と思いがつながり、新たな魅力ある地域をつないでいくのではないでしょうか。
古いラジカセやラジオ、スマホを描きました。いずれもラジオが聴けるツール。世代を超え、ラジオを通じてコミュニケーションやつながりが生まれる様子を表現しています。
“Mixture of cultures”、「文化の融合」というメッセージを添えました。
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