CHARITY FOR

生まれた場所にかかわらず、その人の持つ力が最大限に引き出される健康な社会に向けて。課題解決のためのリーダーシップを育てる〜公益財団法人アジア保健研修所

どんな場所で生まれようと、本人の力が発揮され、夢や希望に向かって健やかに生きられること。生きるための選択肢を持てること。

肉体的にも精神的にも、そして社会的にも「健康に生きる」、それはすべての人間に与えられた権利であるにもかかわらず、世界を見ると、未だ貧困や紛争、社会的差別などさまざまな問題が原因で健康とはほど遠い暮らしを余儀なくされている人たちがいます。
最近では、ミャンマーでの大きなデモのニュースに心痛めている人も多いのではないでしょうか。

今週、JAMMINがコラボするのは公益財団法人「アジア保健研修所(AHI)」。1980年より、アジアの国々から地域の課題解決のために活動する保健ワーカーを研修生として招き、6週間の研修を通じてリーダーシップを育ててきました。これまでに研修を受けた人は1000人を超えます。

「『研修』といっても、その内容は参加する人たちに任せ、6週間のプログラムを参加者みんなで作り上げていきます。知識を学ぶとか議論するということだけでなく、国や文化、宗教の異なる人たちが寝食を共にする中で、『リーダーシップとは何なのか』、本人なりの気づきを得てほしい。異文化に身を置くことで、立場の違う人の意見に耳を傾けたり、受け入れたりする気づきが生まれたら」

そう話すのは、事務局長の林(はやし)かぐみさんとスタッフの谷村尚子(たにむら・なおこ)さん。活動について、お話を聞きました。

(お話をお伺いしたお二人。写真右から二人目、ピンクの服を着ているのが林さん、写真右端が谷村さん。AHIのスタッフの皆さんと)

今週のチャリティー

公益財団法人アジア保健研修所(Asian Health Institute, AHI)

愛知県日進市で、アジアの草の根の人々が健やかな生活を送ることができるように、さまざまな課題に直面しているアジア各地の村々で活動する現地の人を研修生として受け入れ、リーダーシップを育成しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/4/12

毎年、アジア各地より10数名の研修生を受け入れ

(研修の様子。アジア各地から集まった研修生が、座り込んでじっくり議論。お互いの地域での活動や課題などについて意見を交わす)

──今日はよろしくお願いします。まずは、団体のご活動について教えてください。

林:
はい。国際研修を主な事業として活動しています。アジア各国の村で課題解決のために活動している現地のワーカーを年に一度日本に招き、リーダーシップ育成のために合宿形式で6週間の研修を行っています。

この6週間は、私たちが一方的に教えるというものではありません。極端にいうと何をするのか、そのメニュー作りから研修生の皆さんで作り上げてもらいます。6週間の研修で得たものを国に持ち帰り、それぞれの活動のフィールドで生かしてもらうことを目指しています。

(研修中の一コマ。グループになってNGO、行政、住民グループのそれぞれの役割について議論を交わし、発表し合う。「みんなの意見をまとめる作業は簡単ではありませんが、発見も多いです」(谷村さん))

林:
ここで学んだ人たちは私たちにとっても重要なリソースです。研修後は学び合いを続けるパートナーとして、引き続き関係を築いていくことにも力を入れています。
アジア各地から私たちの合宿所に毎年10数人の研修生が集まります。日本国内では、研修生たちが暮らす地域の背景や状況を知ってもらうために講座や出前授業などを開催し、日本で暮らす人たちが、社会の様々な課題を知り、何かに気づき、学びを広げるきっかけを提供しています。

──希望すれば誰でも参加できるのですか?

谷村:
40年に及ぶ活動の中で、アジア各地のさまざまな団体と長年に渡りパートナーシップを築いてきました。リーダーシップの養成というかたちで団体の活動の発展のお手伝いもできたらと考えているので、一人で活動している人ではなく、団体なりグループなりに属して活動している人を招いています。

(研修の後、それぞれの国に帰国して活動する元研修生たちとも継続してコンタクトを取り続け、AHIのスタッフが現地を訪れてワークショップ開催のサポートをすることも。こちらの写真はスリランカにて、参加型ワークショップの準備をする元研修生とAHIのスタッフの皆さん)

本人の気づきが、リーダーとしての成長のきっかけに

(真剣に議論する研修生。背景を異にする相手だからこそ、対話が生まれる)

──6週間の研修ということは、1ヶ月半ですよね。かなり長期なので、その分内容も濃くなるでしょうし、共に過ごす中でさまざまな関係性も育まれるのではないですか。

林:
そうですね。国や文化が異なるのはもちろん、それぞれの活動の内容、背景や課題、解決のためのアプローチの方法も異なる人が集まります。たとえば児童労働の問題に取り組んでいる人もいれば、女性差別の問題や薬物依存、HIVの問題に取り組んでいる人もいます。

「それぞれ活動のテーマが全然違うのに、じゃあ何をするの?」と思われるかもしれませんが、表面上は異なる問題でも、根本にある貧困の問題、その構造については、突き詰めて考えていくと共通しているところがあります。意見を交わす中で、自分の活動や視点、思いとは全く違うように感じた相手の意見にも、共感したり、共通性を見出したりするようになります。それぞれの活動や自分の目的と照らし合わせながら、研修を進めていきます。

(手作りの道具を使って、議論がわかりやすくなるように工夫。こちらの写真は、ひとりの人の健康が守られるために必要な条件について考えるセッション)

谷村:
研修生は6週間、3人部屋で共に過ごします。あえて違う国、異なる宗教や文化の人同士が同室になるようにしています。共に過ごす日々の中で得る気づきは、その後の活動や人生に大きな力になるからです。

6週間もあると、少しずつ一人ひとりが生きてきた環境や習慣、文化の違い、それぞれの我も当然出てきます。それを目の前にした時に、どのような行動をとるか。相手を批判して終わるのか、受け入れるのか、話し合ってルールを決めるのか…。何が最善ということではなく、本人が自分自身の「自分はこういう風に思うんだな」といったことに気づき、成長するきっかけにもなります。

──確かに、住み慣れた環境ではなかなかそんな意識になるような出来事はありませんよね。

(研修期間中、研修生たちの食事はボランティアさんが担当。ボランティアさんとの間にも温かい交流が生まれる。スパイスを効かせた料理が研修生たちに人気。「研修生が自国の調味料を持参するのはあたりまえの光景です(笑)」(谷村さん))

谷村:
研修は英語で行われます。そうすると、最初は英語が堪能な人がリードして存在感も大きくなるのですが、次第に英語は訥々(とつとつ)とした語り口でも、経験の確かさで信念を持って話す人や、誰も見ていないようなところで努力しているような人が、次第にグループ内で尊敬を集めていきます。研修生の間のダイナミズムが変化していくのも、6週間という長さがあるからこそだと思います。

「研修に参加したらこうなる」というわかりやすい成果は挙げづらいところがありますが、大なり小なりの気づきをその後のそれぞれの活動なり人生なりに生かしていくこと。6週間の研修を通じてその人の中に残ったものが、何かしらその人にインパクトを与えるものになればというのが狙いです。

(研修中は、チームの一員としてプログラムや研修生の生活をサポートする国際研修インターンを募集。写真は、インドやパキスタンなどで食べられるパンの一種「ロティ」の手作り教室を開催した時のもの。食文化を知ることも、相手を知る重要なツールの一つ)

「私の足を切らないで」。
団体創立のきっかけは、ネパールである女性が発した一言

(2013年、研修を終えたパキスタンからの研修生に研修修了書を手渡す創設者の川原啓美さん)

──非常にユニークなご活動ですが、なぜ、こういった活動を始められたのですか?

林:
団体を創設した川原啓美(かわはら・ひろみ、1928〜2015)は医師でした。クリスチャンだった彼は、「あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい」というキリストの教えを自らの生き方としても目指したいと若い頃から考えていました。そして、1976年にネパール中部の病院で3ヶ月働きました。

ただ一人の外科医として日々忙しく働いていた川原のもとにある日、二日間かけてある夫婦がやって来ました。

26歳の妻の右膝には大きな腫瘍がありました。診察すると、それは骨まで達しているがんであることがわかり、川原が「命を守るためには、至急右足を切断しなければならない」と伝えると、彼女は次のように答えました。

「切らないでください。死ぬのは悲しいことですが、私が死ねば夫には新しい妻が来てくれて、夫を助け子どもたちの世話をしてくれるでしょう。でも私が足を切断したら、命は助かっても、家事も何もできない。そうしたら貧しい我が家は全滅するかもしれない。私にはそんなことはできない」と。

(ネパールの病院にて、外科手術を行う川原さん。多くの患者は貧困に苦しみ、病院にたやすく来ることができない人たちだったという)

林:
自分の命よりも家族を思う彼女の言葉に、川原は大きな衝撃を受けました。彼女の選択の潔さに触れ、自分の命を犠牲にしても誰かを守りたいという姿勢に「かなわない」と感じたそうです。貧しく弱い立場にある女性、助けるべき相手が、実はこんなにもすごい力を持っていたのです。

この経験から川原は、人は誰しもに必ず秘められた力や天から与えられた賜物(たまもの)があって、それが引き出されて発揮できるような社会こそ本当の意味での「健康な社会」といえるのではないかと考えるようになったのです。そして帰国後、1980年にAHIを設立しました。

──そうだったんですね。

(奥に写っているのは、川原さんが外科医として訪れたネパールの村の病院)

谷村:
団体名に「保健」という言葉が入っているので、医療や衛生に関する専門知識の研修をしていると思われることもあるのですが、そうではありません。私たちが意図する「健康」とは、かならずしもそこだけに限りません。
生まれた場所や環境、性別が理由でやりたいことができなかったり、差別を受けたり、生きることが脅かされたりすることがないように。心身ともに健康に、その人がその人の力を発揮して生きていけるように。
そのために地域の人たちに働きかける「保健ワーカー」を増やしていきたいのです。

──なるほど。それで団体名が「保健研修所」なのですね。

(団体創立から41年、元研修生がAHIで学んだことを自国に持ち帰り、新たなリーダーシップを育成する動きも出てきている。写真中央の女性・スランギさんは18歳の時にスリランカの漁村でAHI元研修生によるトレーンングを受講してリーダーシップを学び、その後女性のエンパワーメントに取り組むグループを結成。現在は女性が犠牲になりやすい家庭内暴力や飲酒問題の防止のために活動している)

「リーダーシップとは何か」は
参加者一人ひとりが見出すもの

(日を追うにつれ、お互いに考えを言い合える関係性や安心感が生まれる)

谷村:
私たちの研修はリーダーシップ育成を目的としていますが、では果たして「リーダー」とは、「リーダーシップ」とは何でしょうか。

──難しいですね。人によって、またタイミングでもその定義は異なるような気がします。

谷村:
そうですよね。私たちは研修で、あえて「リーダーシップとは何か」を定義しません。それは研修に参加する一人ひとりが感じ、考えて得ていく答えだと思うからです。

(パキスタンにて、日本で経験・体感した参加型研修を、地元NGOの若手スタッフやボランティアを相手に行なう元研修生・ムジャヒッドさん。「母国での研修に日本で学んだ手法を用い、参加者が自発的にいきいきと学ぶことができる場を広げています」(林さん))

谷村:
ある卒業生が、こんな話をしてくれました。
「どんなことが学べるのだろうと不安とワクワクを抱えて日本にやってきた。すると研修は想像とは異なり、座学でリーダーシップを教わるわけでもないし、毎日自分たちで掃除や料理をする。あれっ?と思って、この研修でいうところのリーダーシップとは何だろうかと思っていた。

でも、次第に日が経つにつれて、その時その時で自分や自分の周りの人たちにとって何が良いのか、そのためにどういう立ち振る舞いをするのか、どういう関係性を作っていくのか、常に自分に問いかけながら描き出していくような営みがリーダーシップなのではないかと思うようになった」と。

──わあ、すごい気づきですね!

(「健康が守られない」背景にある課題は複雑。保健分野だけでなく、さまざまな分野の人たちとの連携が必要。写真は、紐を使って課題と関連分野のつながりを見える化するゲーム。解決のための視野を広げる)

林:
私たちの研修は、グローバルに活躍するリーダーの育成を目指すものではなく、参加した一人ひとりが、自分たちの活動するコミュニティで発揮するために、それぞれ自分にとっての「リーダーシップとは何か」を発見する場になればと思っています。

──異なる環境に身を置くことで、自分自身を見つめ直し、そこで何を感じ、どう行動するかが実践できる研修なのだなと感じました。参加者の主体性を維持するために、研修で意識していらっしゃることはありますか。

谷村:
研修生はここで学んだ後、自分たちの国に帰り、それぞれの地域社会をよくするために活動していく人たちです。だから、研修中ではどんな場面でも「自分たちの中から声を出してもらう」ことを意識しています。

明らかに答えが分かっていたり見えていたりするような場合も、こちらがそれをいうのではなくて、とにかく待つこと。「これはもう答えが出ないよ」とか「もう答えを言ってもいいんじゃないか」という時もあります。それでも待つこと。延々と待つこと。進まないように感じる時もとにかく待ち続けて、自分たちの言葉や感覚を見つけてもらうようにしています。

「自分たちの中から声を出す」ということは、地域社会を変えていく活動の原理だと思います。そうでないと、どこかから誰かがやってきて全部支援してくれたら、その時は一見状況が改善したように見えても、長続きしません。持続可能な支援を考えた時に「自分たちがどうしたいか」「どういう方法ならできるのか」をしっかり考えていく必要があります。

(研修が終了し、帰国の日に抱き合って別れを惜しむパキスタンとスリランカから参加した研修生。6週間を共に過ごす中で、意見の相違やぶつかり合いを経験しながらも互いに成長し、育まれる深い絆ははかり知れない。男泣きする研修生にスタッフももらい泣き)

「自分が良ければ良い」では、
明るい未来は築けない

(年に一度のオープンハウスは、地元の人たちにAHIの活動やアジアの村々が抱える課題について知ってもらう日。「各国の踊りからゲーム、屋台からお灸まで。アジアを丸ごと体感・体験の一日です」(谷村さん))

林:
日本で暮らしていると、「途上国」や「貧困国」と聞くと自分とは関係のない世界のことのように感じる人もいるかもしれません。しかし今の時代、物質的には豊かであるはずの日本でも、皆なんとなく生きづらさや窮屈さを抱えています。

「自分だけ良ければいい」を乗り越えて、違いを受け入れ認め合い、少しの思いやりを持って接する人が増えていけば、それは日本も途上国も同様に、抱える課題が違っていても、同じように良い方向に向かっていくのではないでしょうか。

──確かに。環境破壊や自然保護に関しても言えることですね。

(小学校での出前授業の様子。「アジアにはどんな国がある?」、文化の違いや格差の問題をみんなで考える)

林:
世界の国々が同時に直面した新型コロナウイルスの流行はある意味、世界の構造やあり方を露わにする出来事だったのではないでしょうか。日本でもワクチン接種がスタートしましたが、「誰でも望む人は、ワクチンを接種できる」ということが希望であり理想です。
しかし世界的に見ると、裕福な国がワクチンを囲い込み、貧困国には届かない現実があります。ここからも、世界のパワーバランスや構造をイメージしていただきやすいのではないかと思います。

そしてもう一つ、今の状況から学べることがあります。自分はワクチンを打ってウイルスに感染しなかったとしても、町中で感染が広がっていたら、いつまでたっても旅行や食事に出かけることはできません。「自分だけよければいい」という考え方、「自分ファースト」は少しずつ通用しづらくなっているのではないでしょうか。

(学校に行く機会がなく、字を書くことができないバングラデシュの女性たち。「『あなたたちは字が書ける。だけど書いて忘れてしまう。私たちは字が書けない。だけど心のノートに書いて忘れない』と彼女たちは言いました」(林さん))

チャリティーの使い道

(2020年に参加予定だった研修生たちとは、オンラインで定期的にミーティングを開催。「オンラインでのコミュニケーションは時に難しさもありますが、そんな制限をも学びに変えたいと思っています」(谷村さん))

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

谷村:
毎年秋に開催してきた研修ですが、2020年はコロナの影響で開催することができませんでした。昨年来日予定だった研修生たちとは定期的にオンラインで集まって研修の準備を進めてきましたが、まだまだ先が見通せない状況が続く中、今年の秋の開催も見送ることにしました。渡航できるようになるまではオンラインでの研修を行い、対面がかなうようになったら皆で集まって、それまでの学びをさらに深める機会を設けるというかたちで進める方針です。

通常、参加者の渡航費は先方の団体と半々で、ひとり当たり約5~6万円を私たちが負担していますが、次回の開催についてはコロナ禍という特例として全額私たちが負担することにしています。今回のチャリティーは、このように、研修生を招くための資金として活用させていただけたらと思います。ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

(2019年に開催された研修に参加した皆さんの集合写真。「6週間の研修生の学びの体験を、スタッフやインターン、ボランティアの皆さんと支えます」(林さん))

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

6週間も一緒に過ごしたら、どれだけいろんな事が起こるでしょうか。それが暮らしたことのない国で、まったく背景の異なる人同士だったらなおさらです。自分の持っている知識や立場、自国の習慣やしきたり、変なプライドみたいなものも全部一旦脇において、ただ人間同士として関わり合っていく時間。まさに「ダイバーシティ」を全身で感じ、吸収できる研修なのだろうなと感じました。ここで一旦丸ハダカになって素になるからこそ、その後に発揮されていく大きな力があるのかもしれません。

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玉ねぎ、カブ、ニンジン、サツマイモ…。様々な野菜が太陽の光と土の恵みをいっぱいに受けて元気に育っています。異なるルーツや背景を持つ者が集まり、時にぶつかったり寄り添ったりしながらも共に成長する研修の様子を表現しています。

“You have power over your mind”、「あなたには、自分が思う以上の力が秘められているよ!」というメッセージを添えました。

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