CHARITY FOR

情報を得ることで、DVや虐待などによる傷つきを、自分らしく生きるための「プラスの力」に〜NPO法人レジリエンス

情報を提供し、学びを通じてこころの傷つきをプラスに変え、自分らしく生きる力にしてほしい。そんな思いで活動するNPOがあります。今週、JAMMINがコラボするNPO法人「レジリエンス」。

「人と自分との境界線のとり方がうまく図れず、自分らしさより相手や所属を優先したり、相手に合わせてしまったり…。人は皆、さまざまな関係性の中でいろんな生きづらさを抱えています。情報を得ることで『もしかしたら違う生き方や選択肢もあるかもしれない』」というきっかけが生まれることもある。そんなツールを提供したい」。

そう話すのは、レジリエンス代表の西山(にしやま)さつきさん(53)。西山さん自身、過去にDVに苦しんだ当事者です。

「今すぐには使わないかもしれないけれど、いろんな道具を持っていたら、いつか役立つ時がある。道具箱の道具を増やすように、何かにつまずいた時、しんどい時にここでの学びが手助けになれば」。

そう話す西山さん。活動について、お話を聞きました。

(お話をお伺いした西山さん)

今週のチャリティー

NPO法人レジリエンス

DV(家庭内暴力)や虐待、モラハラ、その他さまざまな原因による心の傷つきやトラウマについて、情報を広げることでそこから脱し、新しくエネルギーを発揮してほしいと講演やワークショップ、研修を行っています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/3/28

傷つきからの回復のための
「こころのcare講座」を開催

(表参道の講座会場の様子。後ろにある本棚には、貸し出し用の関連図書が入っている。「講座の開催、書籍の貸し出しのほかにも、寄付のお洋服を選ぶことができたりピアサポートグループがあったりと、リソースセンターのような資源にもなっています」(西山さん))

──今日はよろしくお願いします。まずは団体のご活動について教えてください。

西山:
NPO法人レジリエンスの最初の活動は、2003年に代表の中島幸子がスタートした「こころのcare(ケア)講座」です。これまでに1000回以上開催してきました。

活動当初はDVのことが今以上に知られておらず、被害にあった方が加害者の元を離れると、そこで支援が終わってしまうことが少なくありませんでした。しかし実際のところ、被害を受けた本人の苦しみやつらさは加害者から離れたら問題が解決するわけではなく、ある意味そこから始まるともいえるのです。

DVだけでなく虐待、パワハラ、いじめ…、さまざまな傷つきについて、人が人を傷つけるということはなぜ起こりどんな影響をもたらすのか、自分や人を大切にするための方法を学び、回復のための心の手当てをできる場所を提供したいとスタートしました。

──そうなんですね。

現在では、この講座を開催するファシリテーターの養成研修も開催しているほか、性暴力被害者を支援する方に向けて、性暴力被害の傷つきや難しさを学ぶ研修プログラム「SAFER(セイファー)」も行っています。
また、DVや性暴力の予防啓発のために、広く一般に向けて講演活動にも力を入れています。

(仙台にて、トラウマに関する研修会を行った時の様子。「東日本大震災の後、東北では数年にわたり研修を行っています」(西山さん))

予約不要、途中退室もOK。
気軽に参加できる

(「レジリエンス⭐︎こころのcare講座」の講座資料。図を用いてわかりやすく解説しながら、書き込み式の資料なので自分の内側と対話するように自分を振り返ることができる)

──「こころのcare講座」について、詳しく教えてください。

西山:
レジリエンスが主催する「レジリエンス☆こころのcare講座」は、東京都内の表参道、四谷、そして京都の3つの箇所で、女性限定で定期開催しています。男女共同参画センター横浜、さいたま市男女共同参画推進センターからの依頼でも開催しています。

12回の連続講座で、人と自分との境界線やパートナーシップ、DVのさまざまな形態やトラウマへの対処法や周囲とのより良いコミュニケーションの方法などについて学びます。参加は予約不要です。

──レジリエンス主催の講座は予約をとられないのはなぜですか?

西山:
トラウマ症状を理解した支援の一つのあり方です。
トラウマを抱える方の中には、「当日行けなかったらどうしよう」といったふうに、予約が精神的負担になることがあります。できるだけ不安や負担を排除しようということで、「レジリエンス☆こころのcare講座」は事前予約も必要ないし、途中参加・途中退室もOK、いつ来ても帰っても良いというかたちをとっています。講座は一回あたりワンコイン(500円)です。

──講座にはどのような方が参加されるのですか。

西山:
DV被害の渦中にある方だけでなく、家庭内暴力のある家庭で育ちおとなになってからも苦しさを抱えている方、加害者から逃れた後、日常生活につらさを抱えて来られる方もいます。ほかにもパワハラやいじめで傷ついた方、付き合っている相手との関係がうまくいかない、メンタルの面で気になることがあるといった理由で参加される方もいます。DVやトラウマで苦しむ方の友人やご家族も参加されています。この問題に関心のある女性ならどなたでもご参加いただけます。

──そうなんですね。

西山:
ひとくくりにするのは難しい「生きづらさ」、それはもしかしたら講座に参加してくださる方たちだけでなく、誰しもが持ったり感じたりしていることなのではないでしょうか。それが何となくフタをして見て見ぬフリをしておけるサイズの時もあれば、環境やタイミングで、本人が「フタをあけてこの問題と向き合ってみよう」と勇気を出す時もあります。
どなたでも自分と向き合える講座の内容なので、ぜひ多くの方に気軽に参加していただきたいと思っています。

(講座や研修に参加が難しい人に向けて、様々な書籍も出版している)

情報を得ることで、
状況を客観的にとらえられる

(「レジリエンスでは被害にあった方のことを『被害者』でも『サバイバー』でもなく『☆(ほし)さん』と呼んでいます。被害にあった人は弱い人ではなく、つらい経験の中で『状況をなんとか良くしていこう』『今日一日なんとか安全に生き延びよう』とたくさんの力を使っている強い人たちなのです。その力は自分を輝かせる力にもなります。『キラキラと輝ける力をもっている人たち』というメッセージと敬意をこめて、レジリエンスでは被害にあった人のことを『☆(ほし)さん』と呼んでいるのです」(西山さん))

──誰でも参加できるんですね。

西山:
はい。毎回それぞれのテーマで開催した後はまた1から繰り返すので、12回の連続講座にはなっていますが、途中回から参加できます。興味ある回だけでも、同じテーマを何回受けくださっても良いと思います。先ほどお伝えしたように予約も不要ですし、途中参加・退室も自由です。

講座に来られない方には、講座内容をまとめた『傷ついたあなたへ』『傷ついたあなたへ2』というワークブックも販売もしています。家庭や職場など限られたコミュニティー内の問題はなかなか外に出づらく、本人も問題に気づきにくいということがあります。講座全体を通じて自分自身を点検し、もし暴力があるとわかった時にこころの手当てをする助けになればと思っています。

──自分の状況と、客観的に向き合えますね。

西山:
はい。情報を得ることで、少し安心できたり対策できたりすることがあります。

たとえばちょっとした失敗を何時間も責められる、大声で怒鳴られるなどという経験があった時に、加害者から離れた後も当事者はトラウマに苦しみます。また怒られるのではないかと極度に失敗を恐れるようになる、加害者とよく似た人物を街中で見かけた時に突然フラッシュバックが起きる、息苦しくなる、夜眠れなくなるといったさまざまな体の反応が起こります。

しかしこういった状況についても、体の中で何が起きているのかを知識として知ることで「これは正常な反応なんだ」とか「こういう理由でこの反応が起きていたんだ」と納得し、「私だけがおかしいわけじゃないんだ」と安心できて、そこから一歩前に進むことができます。

──なるほど。そういった学びが得られるのですね。

西山:
暴力の経験自体がトラウマとなるのではなく、暴力の経験によってその後起きる悪影響がトラウマです。
起きてしまった出来事は変えられません。なので、「出来事=トラウマ」としてしまうと、もうその状況は変えにくくなります。しかしトラウマの仕組みや体への仕組みを理解することによって、悪影響は和らげることができます。

(2016年、大分シェルターシンポジウムにて、アメリカで活動するファミリージャスティスセンター理事・Alliance for HOPE international 理事長であり元サンディエゴ市検事のCasey Gwinnさん(写真左)、妻のBethさんと、レジリエンスのスタッフの皆さん)

「回復は人それぞれ。
その時々で、その人にとってのベストを見つけてほしい」

(「”All for one and one for all(皆は一人のために、一人は皆のために)”、”Believe your mosaic heart(あなたのハートにある色々な気持ちを信じて)”…トラウマに悩む人たちへの大切なメッセージです」(西山さん))

西山:
肉体的な暴力だけでなく、無視する・怒鳴りつける・行動を制限するといったことも暴力です。常にパートナーの不機嫌を恐れて機嫌を伺っている人も少なくありません。

加害者はいつも暴力を振るったり怒っているかというとそうではなく、暴力の後に優しい言葉をかけるという二面性を持ちます。しかしこの優しさは相手の本当の優しさではなく、相手が自分の罪悪感を下げるためや、相手を自分の元に留めるためのコントロールに過ぎないということを被害者の側が知っていたら、起きている状況を冷静に客観視し、どうするべきかを整理できます。

──確かに。情報が力になりますね。

(アートセラピーを開催した時の様子。参加者が作った作品にメッセージをつけ、ポスターに)

西山:
DVは混乱の中に閉じ込められる経験です。一人だと出口が見えず、どうしていいのかわからなくて同じところを行ったりきたりしてしまうことでも、誰かとつながって情報を得ることで、見える景色が変わってきます。すぐに、というわけにはいかないかもしれません。だけど「絡み合った糸が少しほぐれた」ということを繰り返しながら、少しずつ回復につながっていくと思っています。

ゴールはもしかしたら一人ひとり違うかもしれません。それぞれのタイミングもあるでしょう。しかしその時々で「自分にとってのベスト」を見つけてほしい。そのためのツールの一つとして、私たちの活動をぜひ活用してほしいと思っています。

(レジリエンスのリーフレットにも使っている女性のイラスト。「のびやかに安全に自由である感覚が伝わるイラストです」(西山さん))

西山:
たとえばこれまで、相手から「お前が悪いんだ!」と言われた時に「そうだ、私が悪いんだ」と思っていた人が、相手に言い返すという行動にはならなかったとしても、こころの中で「私は悪くない」と思えるようになったら、それも回復です。あるいは四六時中DVのことで頭がいっぱいだった人が、ある日ふと空を見て「きれいだな」と思えたとしたら、それも大きな回復なのです。

「加害者と別れた」というのは周囲から見るとわかりやすい回復ですが、目には見えなかったとしても、その人が何か自分のことを心地よく思えたり、自分にプラスの評価を持てるようになった時、それは大きな回復を意味するのです。

団体名にもなっている「レジリエンス(Resilience)」とは、英語でいろんなかたちの「力」を意味する言葉です。へこんだところから反発する力、回復する力、私たち一人ひとりの中に本来備わっている力で、逆境に置かれても、耐え抜く力や脱する力、新たなエネルギーを発揮する力です。マイナスの経験も、そこから何かを得てプラスに変えて、「これがあったから私はこうなれた」と思える自信や、本当の自分らしさを得ていく力。それは本来誰にもあって、人は皆、輝ける力を持っているのです。

(新型コロナ感染拡大に伴い、オンライン講座もスタート)

DVや虐待が差別されずに
サポートされる社会を

(団体を立ち上げた中島さん)

西山:
中島がレジリエンスの活動を始めた2003年は、「DVとは何か」を学べる場所もほとんどなかったし、何より加害者と別離した後のしんどさを癒す場所がありませんでした。
しかしまた一方で、これは現在もそうですが、女性の約3人に1人は配偶者からDV被害経験していると言われ(※)、多くの人が抱える身近な問題であるにもかかわらず、特殊な問題や一大事のように扱われてきました。

(※)内閣府男女共同参局「男女間における暴力に関する調査報告書 概要版」平成30年3月より→https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/h29danjokan-gaiyo.pdf

──確かにそうですね。

西山:
こういった社会的な背景もあり、渦中にある人が「もしかしたらDVを受けているかもしれない」とか「実は私は被害者なんだ」ということを周りに非常に言いづらい状況があると思います。私は、この社会は非常にやりづらいと感じています。

被害を伝えたら、自分がコミュニティーから排除されるのではないか。「かわいそう」と言うだけで相手から一線を引かれてしまうのではないかといった不安が、この問題をより見えづらくしているところがあるのではないでしょうか。

──確かに。

西山:
人は誰も皆、いろんな関係の中でこころの傷を抱えている可能性があります。表面的な部分だけにとらわれず、気負わずにこころの問題に触れられる場所があるということはひとつ非常に大切だと思います。

「助けて」といえない、それはそこに安心を感じていないからです。「助けて」というSOSを、大袈裟にとらえられたり否定されたりするのではなく「そうだったんだね、よく耐えたね」とか「こんな方法もあるみたいだよ」とフラットに受け入れられたら、そのような社会はもっと楽で生きやすいのではないでしょうか。

「こころのcare講座」以外にも各地で講演させていただいているのはまさにここで、しんどいことや困っていることを安心して吐露できて、差別されずにサポートされる社会のつながりを増やしていきたいからです。

(講座でのアートに使用した蝶々。「参加者には好きな色の蝶々を選んでもらいます。後ろにマグネットを付け立体的に仕上げます。好きな色を選んだり、指先を使う作業は『今ここにいる』ことを可能にします。つらい経験をしていると、過去に振り戻されたり、未来の不安が強くなったりします。『今ここにいる』ことは、私たちにとって大切なことなのです」(西山さん」)

西山:
アメリカでは、キャビンアテンダントやネイリスト、美容師など接客業の方がDVについて正しく学ぶ機会があるそうです。お客さんから「実はこんなことがある」と話された時に、聞く側が正しい情報を持っていれば、話す側も安心を感じられるし、それによってSOSを拾い、その後の支援にもつなげられる可能性も高くなります。

このテーマに限らずですが、障害や病気、セクシャルの問題などもなかなか受け入れられない現実があります。でも「いろいろあって、どれも良いじゃん。苦しさがある時は、互いに助け合っていこう」という社会、そのためにも「私が私を大切にできる」社会が広がっていけばと思いますね。

(熊本でもこころのcare講座を広めるための研修を開催。研修の合間のオフショット)

チャリティーの使い道

(オンラインの「こころのケア講座」の一コマ)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

西山:
レジリエンス主催の「レジリエンス☆こころのcare講座」は、たくさんの方に気軽に参加してほしいという思いから1回500円で開催しています(さいたま市での開催は無料、横浜市での開催は600円)。

講座開催の場所は、書籍の貸し出しを行っていたり寄付のお洋服を選ぶことができたり、ピアサポートグループがあったりとリソースセンターのような資源にもなっています。今回のチャリティーは、この場所を継続して運営していくための資金、また昨年からのコロナの影響もあり、オンライン講座にも力を入れているのですが、その製作費として活用させていただきたいと考えています。

オンライン動画の制作は、撮影だけでなく編集にも膨大な時間と労力がかかるのですが、よりたくさんの方に情報を知ってもらうための有効なツールと考えています。ぜひ応援いただけたら幸いです。

──貴重なお話をありがとうございました!

(「もしよかったら、私たちの活動を知ってください。そして企画を応援していただけたらとても嬉しいです」(西山さんと中島さん))

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

情報を得ることで自分の置かれている状況が俯瞰できて、どうすれば良いかが見ええてくる。これは本当によくあることだと思います。でも情報を得るためには、自分がどういう状況にあるのか、何に困っていてどんなことを知りたいのかを一つひとつ言語化しておく必要があります。そんな時に「こころのcare講座」のように、気負わずカジュアルに参加できる場があることは、大きな力になるのではないかと思いました。

・レジリエンス ホームページはこちらから

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カゴの中にあふれんばかりの星屑を描きました。
どんなことがあっても侵されない、屈することのない、その人自身の「輝き」。一人ひとりがそれをひとつずつ見つけて拾い集め、生きる糧や希望にする様子を表現しました。

“I will be counting stars for the rest of my life“、「残りの人生、私は星を数え続ける」というメッセージを添えました。

Design by DLOP

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