CHARITY FOR

研究を通じて「マナティー」を守り、野生動物と人とが共存できる未来を築く〜一般社団法人マナティー研究所

海の生き物「マナティー」をご存知でしょうか。
ジュゴンとよく似た愛らしいこの生き物、詳しい生態は未だ分かっておらず多くの謎に包まれていますが、人間による乱獲や環境汚染によってその数が激減、絶滅危惧種(国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで「野生絶滅の高い危険性」があるとする危急種 (VU))に指定されており、共に生きる未来への道が模索されています。

今週、JAMMINがコラボするのは一般社団法人「マナティー研究所」。
代表の菊池夢美(きくち・むみ)さん(39)は、大学生の時、沖縄の美ら海水族館で出会ったマナティーに魅せられ、「マナティーのことがもっと知りたい!」と研究の道へ進みました。

東京大学大学院農学生命科学研究科でマナティーの研究を続け、2007年からはブラジルの国立アマゾン研究所と共に「アマゾンマナティー」の研究を開始。同時に、マナティーの減少をなんとか食い止めたいと地域の人たちへの啓発や教育活動にも力を入れてきました。2013年からは京都大学野生動物研究センターに所属してマナティー研究を続けています。

菊池さんはアマゾンでの経験を生かし、カメルーンでもアフリカマナティーの保全活動をスタートさせました。

マナティーの魅力、そして今マナティーが直面している危機について、お話を聞きました。

(お話をお伺いした菊池さん。ブラジルの「国立アマゾン研究所」にて、保護された幼いマナティーの水槽掃除を手伝っているところ)

今週のチャリティー

一般社団法人マナティー研究所

生物保全の象徴的存在である「マナティー」。マナティーの生態理解のための研究を発展させて、多くの人に彼らのことを知ってほしいと活動しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2021/3/15

「マナティー」の生態研究の傍ら
保全のために活動

(国立アマゾン研究所の水槽で、赤ちゃんマナティーがお腹を上にして浮いて眠っている様子。「ハニワのような胸ビレの位置がおもしろくて写真を撮りました。赤ちゃんは体が小さいので水面に浮きやすく、呼吸する時だけ器用に鼻を水の外に出していました。お腹に白い斑紋が入っているのがわかると思いますが、これはアマゾンマナティーの特徴。一頭ずつ模様が異なるのでこれをつかって個体識別しています」(菊池さん))

──今日はよろしくお願いします。まずは、団体のご活動について教えてください。

菊池:
生態が謎に包まれているマナティーを理解するための研究を進めつつ、研究成果を生かして環境教育を行う学術団体です。

──菊池さんはマナティーを研究されているんですね。

菊池:
はい。主に「バイオロギング」という手法で研究をしています。

(吸盤を使い、これからアマゾン川へ放流するマナティーの背中に行動記録の装置をつけているところ。「アマゾンマナティーは、ほかのマナティーとちがって皮膚がツルツルしているので、マッコウクジラの調査でも使われている吸盤を使っています」(菊池さん))

──どんな研究なのですか?

菊池:
対象の生きものに小型の機器をつけて行動などを記録するもので、比較的新しい分野の研究になります。アマゾンに生息する「アマゾンマナティー」の研究を最初に始めたのですが、アマゾン川は皆さんご想像する通り水が濁っていることもあり、目視で行動を観察するのはほぼ不可能です。バイオロギングを通じ、これまで見えてこなかったマナティーの水中での行動をとらえることができるようになってきています。

(アンテナと受信機を使い、浮力体ケースに組み込んだVHF発信機からの音を受信、どこに浮いているか探知する。「発信機からの音が大きい方角を探して、アマゾン川を移動しながら機器一式の場所を探して回収します」(菊池さん))

水中で暮らすほ乳動物「マナティ−」とは

(正面から見たアマゾンマナティー(©︎Rovelta)。「鼻の穴をあけて呼吸している様子がわかります。また、口には感覚の鋭いひげが生えています」(菊池さん))

──マナティーってどんな生き物なのでしょうか?

菊池:
水中で暮らすほ乳動物で、生息する地域によって大きく3種類に分かれます。
アマゾン川に生息する「アマゾンマナティー」、アメリカから南米までひろく分布する「ウェストインディアンマナティー」、それからアフリカ西側に生息する「アフリカマナティー」の3種類ですが、見た目的には大きな差はありません。顔つきも似ています。アマゾンマナティーの体は黒っぽくてツルツルしていています。最もスリム体型とされるアマゾンマナティーでも体長は3メートル近く、体重は300〜500キロほどになります。

(ブラジルの国立アマゾン研究所で保護されている大人のアマゾンマナティー)

──大きいですね。性格はいかがですか?

菊池:
アメリカの観光地などで湖に入ってマナティーと一緒に泳げるツアーなどをご存知の方もいらっしゃるのではないかと思いますが、これはウェストインディアンマナティーの亜種「フロリダマナティー」です。彼らは人馴れしており、そこからマナティーに対して「優しい」「穏やか」「人懐こい」というイメージが抱かれがちですが、それはこの種に限った話で、野生のマナティーは基本的には繊細で臆病で、人の姿を見るとすぐ逃げてしまいます。人に寄ってくるということはまずないですね。

(アマゾン川での調査で、マナティーに装着した機器一式を回収する菊池さん)

体は大きいが繊細な草食動物

(ユニークなマナティーの歯。「マナティーは前歯のところに咀嚼盤(そしゃくばん)がついています。これをつかって植物をすりつぶしながら食べています。写真はメキシコのドルフィンディスカバリーで飼育されているウェストインディアンマナティーです」(菊池さん))

菊池:
現地で長年活動をしている研究者でも、野生のアマゾンマナティーを見たことがない人もいます。マナティーには大きな尾びれがあり、これをブンっと振って大きな推進力を得て、瞬発的に勢いよく進むことができます。ただ、速く泳ぎ続ける持続力はありません。普通は時速1キロメートルほどの速度で泳いでいます。人間の歩く速度よりもゆっくりです。

──かなりゆっくりで愛着が湧きますね(笑)。何を食べているのですか?

菊池:
マナティーは「ホテイアオイ」のような浮き草や水草、海草を食べています。私たちが食べる海藻のようなものをイメージされるかもしれませんが、厳密にいうと茎があって胞子で増える「藻類」ではなく、海中に生える「種子植物」を食べています。

──大きいのに草食性なんですね。

(国立アマゾン研究所のマナティーが飼育水槽でアマゾン川に生えるイネ科の植物(パスパルム)を食べている様子。野生のマナティーもこの植物を食べているという)

菊池:
体重の3割ほどの植物を食べることで体重維持できるといわれているので、300キロだとしたら1日90キロもの植物が必要です。そこでマナティーは昼夜問わず、えさ植物を探して動き回っています。

本来草食性であるはずなのですが、「アフリカマナティー」は魚を食べると言われています。実際にウンチを調べた研究では、魚を食べた痕跡が見つかったと報告されています。えさ植物を食べている最中に死んだ魚が口の中に入ってしまったのかどうなのか…その説明はつかないのですが、私はマナティーが積極的に魚を食べているわけではないと考えています。

というのも、体のつくりからして魚を追いかけるのには向かない生き物だからです。マナティーは魚を追いかけられるほど動きも速くないし、イルカのように魚をひっかけられるような鋭い歯もありません。

(マナティー(左)とジュゴン(右)の頭骨の比較イラスト。「ジュゴンの頭骨(右)を見ると、マナティーと比べて鼻から先の骨の角度が下向きです。この形はジュゴンが水底に生えているアマモなどの海草を食べるのに向いています。一方でマナティーの頭骨(左)を見ると、ジュゴンよりも鼻から先の骨の角度が上向きです。この形はマナティーが水面付近の浮草などを食べるのに向いています。骨の形を見ると、それぞれで食べるものがちがうということがよくわかります」(菊池さん))

人によって乱獲され、数が激減したかなしい現実

(国立アマゾン研究所に保護されてきたばかりの赤ちゃんマナティー。「衰弱してやせていて骨格が見えてしまっています。お母さんがいないとマナティーの赤ちゃんは育つことができません」(菊池さん))

──お話を聞いているだけで愛らしい様子が伝わってきますが、数が減っているそうですね。

菊池:
マナティーは水深3メートルぐらいのところに生息しています。つまりそれは簡単に言ってしまうと「すごく人間のそばで暮らしている野生動物」であるということなんです。

調査ができないので生息数がはっきりとわかっていないのですが、アマゾンマナティーの生息数はIUCNレッドリストデータでは3,000〜80,000頭と記載されています。アマゾンマナティーは生息する各国で法律によって保護されていますが、食べるためや観光用の飼育動物としての密漁が続いており、生息数は減り続けています。

アマゾンマナティーに関しては、数が激減した理由がはっきりしています。実は1935年から1954年までにマナティーの大乱獲がありました。産業が発展していく中で、工場のベルトコンベアーやホースといった工業用製品を作るにあたりマナティーの丈夫な皮膚が重宝されたのです。年間7,000頭のマナティーが20年近くに渡って乱獲され続けました。

──ええっ!

(ペットボトルや容器などのゴミが捨てられているペルーの街の近くの川岸。「アマゾンでも環境汚染が深刻な問題になっています。こうしたゴミは川にもたくさん浮いていて、とても回収しきれない量です」(菊池さん))

菊池:
アマゾン川流域で暮らす方たちにとって、マナティーの肉は貴重なタンパク源でした。それまで普通に食べてきたものを「数が減ったから獲らないで」といわれてもなかなか難しいところがあり、現在は法律で捕獲が禁止されていますが、なかなか守られていない現実があります。

また、ブラジルのアマゾン地域では「子を連れた母親のマナティーの肉がおいしい」という迷信があり、母親だけ捕獲されるケースも少なくありません。

マナティーは1回の出産で1頭の子を出産、その後3年間は授乳しながら母と子で行動を共にするという研究報告がされています。2頭ははぐれることがないよう鳴き声で互いにコミュニケーションをとっています。一緒にいる3年の間、おそらくですが母親は子どもに食べていいものといけないものとかどう暮らしていくかを教え、その後、子マナティーは独り立ちします。

(保護したアマゾンマナティーを野生に返すため、放流の際の一枚。「国立アマゾン研究所のメンバー、マナティーの飼育担当者のスタッフ、そして元マナティーの密猟者で現在は調査員として参加している方、地域の漁師さんたち…、みんなで一緒に記念写真を撮りました」(菊池さん))

──そうなんですね。

菊池:
しかし「おいしいから」と母親だけが捕獲されてしまった時に、子マナティーはたった一人取り残されることになります。アマゾン研究所でも、孤児になった子マナティーが年に10頭近く、多い時はもっとたくさんの数が保護され飼育水槽で育てられていました。

10頭と聞くと少ない数に聞こえるかもしれません。しかしこれはあくまで地元の人や研究所のスタッフが見つけて保護することができた数です。実際はもっと多くの子マナティーが、母親と離れ離れになって取り残されていると考えられます。

──母親を失った小さな子マナティーは生きる術がありませんよね…。

菊池:
そうですね。地域の方たちにマナティーのことを正しく知ってもらい、保全の意識を持ってもらうことが大事だと考えています。

(アマゾンマリティーを放流する際、川沿いの学校の子どもたちと。「日本人は私が初めてということで珍しさもあってか、みなさん仲良くしてくれて嬉しいです」(菊池さん))

アフリカでも、マナティーの数が減っている

(カメルーンのディザンゲ地域にある「Ossa湖」。「ここはアフリカの中でもアフリカマナティーの生息密度が高いといわれています。地形の特徴からいつも天気は曇りで、青空を見ることがありません。湖の水質は泥で濁っていて、水中のマナティーを見ることはできません」(菊池さん))

──アフリカマナティーも数が減っているのですか。

菊池:
アフリカマナティーも数が減っているのがわかっていますが、何が原因でこんなに減ったのか、はっきりした理由はわかっていません。土砂崩れで閉じ込められて死んでしまったとか、ちょこちょこといろんな報告はありますが、それでも激減の理由にはならない。

マナティーが生息する河川域には大型のダムが多く建設されており、もしかしたらそれによる環境破壊や生息地の断絶が、生息に何らかの影響を及ぼしている可能性があるのではないかと考えられています。

──そうなんですね。

またアフリカに関していえば、地域の方たちが間違った情報でマナティーを害獣とみなして捕獲してしまうということも起きています。
先ほどアフリカマナティーが魚を食べている痕跡があるとお伝えしましたが、地域の漁師の方たちが「自分たちの大切な魚を盗み食いするから」という理由で、また漁網に混獲されたマナティーが網を破って逃げた際、網の修理費用が負担になるからという理由で積極的に捕獲される傾向があるのです。

害獣駆除にもなるしお肉としてもおいしくて、売るとお金にもなる。そうやってマナティーが捕らえられています。マナティーを守っていくためには、地域の方たちが正しい情報を知り、意識を変えていく必要があります。

(2020年、カメルーンでワークショップを行った時の様子。ミドルスクールの学生を対象に熱帯雨林や生物の紹介。菊池さんは英語で話し、現地のNGO団体のスタッフがカメルーンの公用語であるフランス語に通訳するかたちで進められた)

保全のためには、
「持続可能であること」を意識することが大切

(「ブラジルの国立アマゾン研究所がマナティーの野生復帰をする時は、川沿いの村の人たちに生きているマナティーを見てもらうお披露目会をしています。都市部から離れたアマゾン川沿いの村には水族館も動物園もありません。こうしたお披露目会がマナティーを見る唯一の機会となっていて、子どもから大人まで、数百名が集まるお祭りのようなイベントになっています」(菊池さん))

──どのような啓発をされているのですか?

菊池:
「生身のマナティーを知ってもらう」ことは非常に大切です。ブラジルでは、国立アマゾン研究所が保護したアマゾンマナティーを野生に戻す際、地域住民の方たちにもそれを見てもらっています。マナティーはこんな姿をしているんだよ、人間みたいに鼻の穴から肺呼吸しているんだよといったことをまず知ってもらう。
さらに地域の子どもたちに向けてマナティーを描くワークショップを開催したり、放流するマナティーの名前を地域の方たちと一緒に考えたりしています。そうすることで湧いてくる親近感があると思います。

──なるほど。

菊池:
地域の方たちの間でも「マナティーってかわいいよね」と話題の中心になり、意識は確実に変わってきています。

もう一つは、やはり今起きていることを正しく知ってもらうこと。「数が減っていて、これ以上獲ってしまうともういなくなってしまうから、どうか協力してほしい」ということを地道に伝えることです。

(2019年、ブラジルの「マナウス日本人学校」でワークショップを行った時の様子。マナティーやアマゾンの森に生息する生物を紹介し、最後に皆で自由に生物の絵を描いて紹介し合った)

──皆さん、理解してくださるのですか。

菊池:
アマゾン川沿いで自然とともに暮らしてきた方たちはその分、自然へのリスペクトがとても高い方が多いです。アマゾン川の漁師さんたちが誰よりも川を大切に思っているのではないかと思います。バナナ一本を採るにしても、その一本の木に感謝する。そんな意識を持っている方が多く、「実はこうなんだ」と話すと、多くの方が理解を示してくれます。

マナティーを獲っていた漁師の方が、当時の経験や知識、情報を生かして、今はマナティーを生かすための調査に協力してくださっています。

──すごいですね。

菊池:
そうですね。これは本当に、国立アマゾン研究所の方たちのコツコツと地道な努力だと思います。
何度も足を運び、地域の方たちの理解を得られるように物事を進めること。上から押しつけるとかやってあげるという姿勢ではなく、同じ目標のために、地域の方たちと「持続可能な関係性」を最初に築くというこの姿勢は、私も本当に感銘を受けましたし、学ばせてもらいました。

(アマゾン川での調査にて、マナティー調査チームの皆さんと。2007年に最初に訪れてから、関係は途切れることなくずっと続いているそう)

「マナティー研究者として、私ができること」

(カメルーンでの保全事業の様子。「アフリカマナティーの生態調査と保全プロジェクトを進めています。写真は、水中の音を録音する装置を湖に沈めようとしているところ。これでマナティーの鳴き声を録音し、個体数調査をしようとしています」(菊池さん))

──アフリカではいかがですか?

菊池:
2019年より地球環境基金の助成を受けて、カメルーンの「アフリカ海生ほ乳類保護団体(AMMCO)」と協力してアフリカマナティー保全事業を行っています。マナティーが漁網にひっかかる、漁網を壊してしまうということも起きているので、それを防ぐために、地元の漁師の方たちがマナティーの通り道ではないところに漁網を設置することを推進したり、混獲しにくい方法を伝えるなど正しい情報で事前に事故を防止するためのワークショップなどを開催しています。

私が現地に赴いて第一線で活動するというよりは、現地の研究者や団体と協力して研究データや情報を提供しながら専門的な視点から保全のアドバイスをしつつ、地域の方たちをどう巻き込んでいくかといったことも話し合いながら進めています。

──そうなんですね。

(カメルーンの小学校にて、クレパスをプレゼントすると大喜びの子どもたち。「とても喜ばれました。みんなの笑顔がかわいいです」(菊池さん))

菊池:
私が思うに、現地の人が課題を「自分たちの問題だ」と認識して進めない限り、本当の意味での課題解決には至らないのではないでしょうか。そのためにマナティー研究者として私ができることがあると思っています。

研究者として研究に必要なデータを入手する努力をしつつ、現地で必要とされている情報を提供していくこと。研究成果はたいてい英語の論文で発表されるので、英語圏でない人は読めません。それに論文はたいてい有料です。研究者として、現地の人が求める正確な情報をシェアすることで、現地の人たちが主体となって問題解決するためのサポートができると考えています。

──現地の方の反応はいかがですか。

菊池:
ブラジルと異なり、最初はマナティーの保全への賛同も少なく抵抗もありました。しかしプロジェクトも2年目に入り、ありがたいことに少しずつ協力者が増えてきたと感じています。現地の団体が地元の人たちと一緒に定期的なパトロールを始め、毎年数件あったマナティーの混獲がゼロになりました。

現地の大学と協力し、調査研究を進める若い世代の学生さんたちをこのプロジェクトに巻き込むことができたのも、今後大きな糧になると思っています。現地の学生さんたちは、プロジェクトを通じて最新の研究方法や研究資材に触れることができます。そのことで彼らの知識や専門性のレベルが上がり、やがて自分たちの力で、マナティーの生態解明と共存のための次世代を担ってくれるようになるでしょう。

──素晴らしいですね。

(菊池さんの取り組みは、2017年、ドキュメンタリー番組「情熱大陸」でも紹介された)

人と野生動物、共存の未来に向けて

(ブラジルのアマゾン川沿いの村の子どもたち。「国立アマゾン研究所のプロジェクトに協力している村ということで、後ろの看板には『マナティーと友達』と書いてあります。子どもたちは初めて見た日本人の私に、マナティーのことをたくさん話してくれました.そして看板のところに連れて行ってくれて『マナティーが好きだ』と教えてくれました。この子たちはもう大きくなっていると思いますが、彼らがマナティーと共に生きる選択をしてくれるといいなと思います」(菊池さん))

──マナティーと人は、共存できますか。

菊池:
言い換えれば「なぜマナティーが絶滅したらいけないのですか?」という問いかけに、皆さんはどんな答えを出すでしょうか。
マナティーだけではなく世界中の希少動物についても同様に、どうして絶滅したらいけないのか、そこにどんな考えを持っているでしょうか。

私はマナティーに惹かれて研究をスタートし、そこから野生動物の保全,保護、共存について考えるようになりました。常に「何とかしたい、何とかしなければ」という気持ちがあります。その理由は「マナティーやその他の生きものに絶滅して欲しくないから」です。

(夏休みの子ども向けワークショップの様子。「マナティーでも行っているバイオロギング研究を紹介し、実際に調査で使っている機器を使う体験をしてもらいました」(菊池さん))

菊池:
「地球上の生物は自然の中でつながりあっている」というのは学校の教科書で学ぶことですが、マナティーが自然の中で何かの役に立っているのかと問われると、わかりません。もしマナティーが絶滅したらどんなことになるのか、それは絶滅してみないとわからないのです。

絶滅してもすぐには何も変わらないかもしれないし、数百年たっても目に見える変化はないかもしれません。すでにたくさんの生物が絶滅し続けていますが、それで私たちの生活は変化したかどうか、よくわからないですよね。

ですが私は、マナティーといっしょに生きていける世界がいいです。ただ「これをしたら今すぐ問題が解決できる」という方法は一つもないんですよね。だから長い目線で、共存のために努力していく必要があると思っています。

(アマゾン川の調査にて、同じく研究者のディオゴさん(写真左)と。「食べ物の買い出しに、小さな商店へ入った時の写真です。私が活動を続けられたのは、ディオゴという素晴らしいパートナーに出会えたからです。彼は良き共同研究者であり、私の親友でもあります」(菊池さん))

──確かに、難しい問題ですね…。

菊池:

「共存」ということでいえば、それは常に「ちょっとした我慢」なのかなと思っています。人間関係も同じですよね。相手を思いやり、「自分さえ良ければいい」というのではなくて、地球に暮らす人間以外の他の生物に対しても、ちょっと我慢して譲る姿勢が大切なのではないでしょうか。

子ども向けのワークショップを開催すると、一人ひとり自分なりに考えて答えを出してくれたり向き合ったりしてくれて、そういう姿を見ると未来は明るいと感じます。自分も諦めずにこの問題と向き合っていこう、と前向きなパワーをもらいますね。

(「アマゾンが大好き」という菊池さん。写真はブラジルのアマゾン川にて。水の流れのないところでは水面が鏡のようになっていて、アマゾンの森がまるで水中にまで広がっているように見える)

チャリティーの使い道

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

菊池:
二通りの使途を考えています。
ひとつは日本国内での環境教育ワークショップ開催のための資金です。コロナの影響もあるのでオンラインでの開催をしたいと考えています。この動画に字幕をつけることで、日本だけでなく、海外の人たちにも見てもらえたらと考えています。

もう一つは、アフリカでマナティーに魚網を壊されてしまった地元の漁師の方たちの魚網修理をサポートする資金、また現地の人たちのマナティーへの理解を進めるために無料配布している、マナティーに関する情報を掲載した冊子の印刷資金として使わせていただきたいと考えています。
700円で3冊が印刷できるので、ぜひチャリティーにご協力いただけたら幸いです。

──貴重なお話をありがとうございました。

(「マナティー研究所」のメンバーの一人、冨田明広さんと一緒にワークショップを開催した際の一枚。アマゾンの先住民族「ヤノマミ」が食べるキノコについて紹介しているところ。「私たちの活動は必ずしも集まる必要がなく、メールやオンライン、そしてイベントでお手伝いしてくれる人に来てもらう、というように活動しています」(菊池さん))

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

知れば知るほど、見れば見るほど愛着が湧く、不思議なマナティーの魅力。お話を聞くまでは馴染みのない生き物だったのですが、写真を見せていただきながら説明を聞いていると、なんとも癒し系の姿にほわわ〜んとやさしい気持ちにしてもらいました。
しかし、マナティーの置かれている状況、取り巻く環境は待ったなしです。私たち人間が自然の環境や関係性を変えてしまったのなら、私たちの手で、それを再び取り戻し、築いていく必要がある。そう改めて強く感じたインタビューでした。

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愛らしいマナティーの姿を抽象的な植物と描きました。
マナティーを守ることは自然を守ること、自然を守ることはマナティーを守ること。豊かな自然にあふれた地球を後世へと残していこう、豊かな循環の中で私たち人間も調和して生きていこう、そんなメッセージを表現しています。

“Know, think, talk, action”、「知って、考えて、話して、行動しよう」というメッセージを添えました。

Design by DLOP

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