CHARITY FOR

日本から姿を消したオオカミを復活し、豊かな森と生態系の回復、人と森との共存目指す~一般社団法人日本オオカミ協会

かつて、日本にも野生のオオカミが存在したことをご存知でしょうか。しかし、明治時代には絶滅したといわれています。

誰もが知る童話「赤ずきんちゃん」には、人を食べるオオカミが登場しますが、この物語に代表されるように、オオカミは長い間、「邪悪で人を襲う動物」というイメージで捉えられてきた歴史があります。
オオカミが絶滅した日本の森では、捕食者のいなくなった環境でシカが大量発生。農作物を食い荒らしたり、森林の草木を食べ尽くし禿山にしてしまい、その結果、土砂が流失したりといったさまざまな被害が報告されているといいます。

「今こそ、オオカミの再導入が必要」。オオカミを日本の森に復活させるために活動する一般社団法人「日本オオカミ協会」が今週のチャリティー先。スタッフの林貴士(はやし・たかし)さん(52)に、なぜ今オオカミが必要なのか、背景にどのような問題があるのか、お話を聞きました。

(お話をお伺いした日本オオカミ協会の林さん)

今週のチャリティー

一般社団法人日本オオカミ協会

オオカミに対する誤解と偏見を解き、生態を科学的に正しく伝え、オオカミの復活とこれによる自然生態系の保護や農林水産業の振興、獣害事故の防止を目指して活動している。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2020/7/20

オオカミを日本に復活させるために活動

(愛らしい子オオカミ)

──今日はよろしくお願いします。まずは団体のご活動について教えてください。

林:
私たちは、本来森にあった生態系を取り戻すために、オオカミの復活・再導入のための啓発活動を行っています。オオカミのことを正しく理解してもらうためのセミナーやフォーラムの開催や、他にも講演などに呼んでいただいてお話することもあります。全国に14の支部があり、それぞれ勉強会の開催や、県や市にオオカミ再導入に向けての要望書を提出するなどの活動も行っています。

(2019年12月、富士見市コミュニティ大学での「獣害から森を守る!ニホンオオカミの復活」講演会)

林:
近年、特にシカによる環境破壊が大きな問題になっています。「なぜシカが?」と思われるかもしれませんが、シカというのは目が届く範囲の草木をすべて食べてしまう生き物です。

シカは一夫多妻制のため、どんどん数が増えます。今、森にはシカを捕食する生き物もいませんから、その数はさらにどんどん増えていきます。過剰に繁殖したシカは草を食べ尽くし、木々の芽や皮を食べ、そうすると木々が枯れ、草木によって守られていた大地が裸地化します。このままでは、日本の森林は荒廃の一途をたどるでしょう。

(紀伊半島大台ケ原の白骨林の今昔。「1980年代からシカが全国各地で急増しています。低地から高山帯まで、その被害は甚大で、植生学会の調査によると国立公園など全国での調査箇所の48%で食害の影響があり、20%では林床の草本の著しい減少や土壌の流出など重度の影響が出ているといいますが、これに気がついている人は多くありません。美しい国土を守るためには、「増えすぎのシカ」対策が緊急に必要です。この写真は、伊勢湾台風(1959年)の被害を受けた後、シカに齧られて枯死したオオダイトウヒやウラジロモミの原生林の残骸です(場所は紀伊半島、三重県と和歌山県境にまたがる大台ケ原(東西5km、最高峰日出ヶ岳標高1695m))。この写真の中に移っている看板の中の写真にかつての森が写っていますが、元々は深山の昼なお暗い苔むした原生林でした。本来の風景は半世紀前に遡らないと出会えません。こうした光景は、ここだけの話ではないのです」(林さん))

林:
森林に草木がなくなるとどうなるか。昆虫がいなくなります。昆虫がいなくなるとどうなるか。それを捕まえて食べていた鳥がいなくなります。鳥がいなくなるとどうなるか。鳥を捕まえて食べていた小動物がいなくなります。

シカの過剰採食によって森林を含む植生が消失し、各地で裸地化が進み、多くの野生生物が棲み家や食べ物を奪われて絶滅に追い込まれ、生物多様性が低下しています。また貴重な土壌の流失、山地の崩壊も発生しています。

日本の森は生態系が完全に狂ってしまっているのですが、シカが増えすぎた原因として、生態系の頂点捕食者のオオカミを絶滅させてしまったこと、そしてシカを狩猟する人(ハンター)が減ったことが挙げられます。
私たちは「こわい」「襲われる」といったオオカミへの誤解を解き、オオカミを再導入することでもともと日本にあった生態系を取り戻すために活動しています。

(「日本オオカミ協会」会長であり東京農工大学名誉教授の丸山直樹さんの著書『オオカミ冤罪の日本史―オオカミは人を襲わない』(JWA自然保護教養新書、2019)。「本書はオオカミの真実に迫るために、これまで定説のように扱われてきた「オオカミ人食い」に関する事件を、関係文献を参照しながら根気よく検証した仕事です。その方法は簡単です。文書を鵜呑みにしないで、現代のオオカミに関する科学的な知見と照合しながら検証すること、また事件当時の様々な歴史的な事実と照らし合わせて、その周辺や背景を含めて多方面から総合的に解釈することでした。この作業の結果、驚くべき発見がありました。オオカミに関する誤解を解いてオオカミ再導入を一日も早く実現しましょう。オオカミ復活の必要性については良く分かっているのだが、人食いが心配だからとためらっておいでの方は是非とも本書のご一読をお勧めします」(林さん))

オオカミを再導入したアメリカの国立公園では、
豊かな自然と生態系が戻ってきた

(オオカミ再導入により、豊かな生態系が戻ったイエローストーン国立公園)

林:
オオカミの不在によって自然のサイクルに影響が出ているのは日本だけではありません。アメリカにある四国の約半分の面積の広さの「イエロストーン国立公園」では、オオカミの不在による悪影響が顕著に出ました。オオカミがいなくなったことで「エルク」と呼ばれる大型のシカが大繁殖してポプラなどの若芽を食べ尽くしてしまい、生態系が大きく乱れたのです。
事態を深刻に受け止めた行政は、1995年に8頭のオオカミを公園に放ちました。するとどうでしょうか。生態系が以前のかたちに復元され、野には緑が、川には豊かな水が戻り、姿を消していた、ビーバーやカワウソなどの小型の哺乳類が戻ってきたのです。

(イエローストーン国立公園にて、オオカミウオッチングに会員約10人とともに出かけたときに偶然出くわした光景。「オオカミがバイソンを川に追い詰めて捕殺するが、グリズリー(ハイイログマ)が出現、獲物を横取りされています。クマに適わないオオカミはクマの隙を狙っては取り戻そうとするがうまくいきません。やがてグリズリーは飽食し、次にアメリカクロクマが朝食に参加。グリズリーは容認。でもオオカミは入れてもらえず…、そんな珍しい光景です」(林さん))

──なぜですか?

林:
絶滅したオオカミに代わって頂点捕食者となっていたコヨーテがオオカミに駆逐されたため、その餌となっていたネズミなどは激減を免れました。また、ポプラの葉や皮を食べて生活するビーバーも、失われていた棲み家を取り戻したのです。

(オオカミウオッチングの様子)

──なるほど…すべてがつながっていたのですね。

林:
シカは自分たちでその数を制御できません。どんどん増え、被害が激増します。自然のサイクルの中で、シカの数をコントロールしていたのはオオカミだったのです。
2020年現在、イエローストーン国立公園内にはおよそ100頭のオオカミがいて、その生態系を守り続けています。

(日本オオカミ協会が主催した「日・米オオカミふぉーらむ 2017」では、イエローストーン国立公園の公認ガイドであるスティーブ・ブラウン氏を招き、「スティーブ・ブラウン氏が語る帰ってきたオオカミ! 増え過ぎたシカを減らし生態系の回復を実現した北米イエローストーンの成功物語」と題して講演を行った)

悪者扱いされ、挙句の果てに絶滅した
オオカミの歴史

(凛々しいオオカミの姿。体胴長は100〜160cm、肩までの体高60〜90cm、体重は25〜50kg。ヨーロッパでは、野生のオオカミは人間に駆逐され姿を消した。しかし絶滅が危惧され、保護対象として殺すことを違法とした国が出てきたことによって数が少しずつ増えつつある)

──日本のオオカミの話を聞いたことがなかったので、日本にもともとオオカミはいないものだと勝手に思っていたのですが、日本にも昔は野生のオオカミがいたのですね。

林:
明治時代までは存在したということが文献でわかっていますが、人の手によって絶滅に追いやられました。

──どうしてですか?

林:
日本に限らず、オオカミは世界各地で長きにわたって迫害された歴史があります。西洋ではオオカミは悪魔のような扱いを受けてきました。背景にはキリスト教があります。キリスト教の世界では、オオカミは悪や闇の象徴とされてきたのです。

日本では明治時代、政府は西洋文明を取り入れ、「西洋に追いつき、追い越せ」と必死でした。「オオカミがいたら西洋の人たちにバカにされてしまうのではないか」。政府がそんなことを思っていた時、北海道で大雪が降り、お腹をすかせたオオカミが食べるものがなく軍馬を襲うという事件が発生しました。

「こんな生き物は殺してしまおう」。政府は報奨金を出してオオカミの捕殺を激励しました。オオカミの数は激減し、やがて絶滅してしまったのです。

──そんな…。

(オオカミは雌雄のペアを中心とした平均4〜8頭ほどの群れ(パック)を形成し、群れはそれぞれ縄張り(100〜1000平方キロメートル)を持つ)

林:
奈良県の東吉野村には、最後のオオカミの記録が残されています。20年ほどかけて、日本のオオカミは残さず絶滅してしまったのです。

かといって、すぐにシカやイノシシ爆発的に増え、被害が出てきたわけではありません。なぜなら当時はまだ、狩猟するハンターがたくさんいたからです。しかし現在、狩猟者の高齢化が進み、後継者もおらず、シカやイノシシの個体数の調整は完全に行き詰まった状態にあります。それに伴って、全国的な被害が深刻化しています。現在、農林業被害だけでも年間200億円を超えていると言われており、そのうちシカとイノシシによる被害は半数以上を占めています。

──しっぺ返しがきたのですね…。

林:
食べて減らそう、ということで狩猟した肉を食べるジビエが昨今ブームですが、牛や豚、鶏は生産がオートメーション化されているために安定したコストで消費者に提供することができますが、どこにいるかわからないシカを罠にかけて捕まえて、それを食用に流通させるというのはあまりにコストがかかり課題も多く、普及は極めて困難だと思います。

(山梨県北杜市武川町の中山間地域にて、獣害対策のために設置された電気柵と防獣ネット)

なぜ、オオカミの再導入が必要なのか

(シカの被害によって流れ込んだ土砂。「高知県の名峰三嶺のフスベヨリ谷は山腹の大崩壊で埋まってしまい、かつての幽谷の美は今や見る影もありません。崩壊した山腹の名前はシカザレと命名されました。シカによる食害で荒れた山腹が大崩壊を起したからです」(林さん))

林:
シカが山の緑を食べてしまうことによって起こるのは農林業被害だけではありません。植生破壊によって土壌を支えている木々が枯れ、山崩れや土石流などの土砂災害が発生しやすくなるなど、私たち人間の生活に直接関わるような自然生態系の被害も年々激しさを増しています。

──自然災害が増えていますが、シカによる被害によってなお状況を悪化させてしまうのですね。

林:
オオカミが日本の森の生態系に復活すれば、シカの過剰な繁殖を防ぐことができ、それによって起こる様々な被害を未然に食い止めることができます。抱えている課題の多くが、オオカミの再導入によって解決できるのです。1日も早い再導入が必要だと考えています。

(増えすぎたシカによって森林が次々と枯れ、森林の消失が進み、生態系破壊が進行しているという)

──なるほど。

林:
シカを悪者にしたいわけではありません。そしてシカだけが悪者なわけではありません。この状況を作り出したのは、私たち人間です。

シカは生きるために塩分が必要で、冬場に道路が凍らないように撒く塩化カルシウムをペロペロと舐めているのですが、行政の中にはこわいことを考える人がいて、「そこに毒を入れてシカを殺そう」という意見もあるぐらいです。でも、いくらシカが被害を出しているからといって、それはどうでしょうか。そもそも、オオカミを絶滅させて生態系をめちゃくちゃにしたのは我々人間です。毒を食べさせて不特定多数を殺そうなんて、自然の摂理にますます反した道を突き進むことになります。

──数が増える一方で、シカもますます追いやられていくのですね…

林:
私はこの活動に参加して25年になりますが、10年ほど前に長野に移住してりんご農家になりました。そこで実際にシカやイノシシの農作物被害に遭い、改めてオオカミの再導入が必要だと感じました。

自然、そして生態系は本当にバランスよくできています。しかし、その生態系を僕たち人間が壊してしまった。私たち人間のためだけでなく自然のためにも、失われた生態系を取り戻していくことが大切だと考えています。

(林さんのりんご園でも、シカによる農作物被害は深刻。「りんごの苗木が鹿の食害に遭ったり、雪の多い年にはりんごの新芽が多数食害に遭います」(林さん))

──西洋でオオカミが悪魔のように扱われていたということですが、日本以外の国では、再導入は行われているのですか?

林:
はい。EUでは特にその流れが進んでいます。「オオカミを再導入しよう」というよりは、「絶滅危惧種の個体の数を増やし、絶滅する生き物を無くしていこう」という流れですね。本来その土地に暮らしていた生き物であれば、それがどんな生き物であっても共存の道を考え、一緒に仲良く暮らしていこうという動きです。それまでは殺されていたオオカミも殺されなくなって安定した生活を送っていますが、人が襲われたというニュースは一件も聞きません。ちゃんと共存できているんですね。

(2012年4月26日、オオカミ復活の署名94,468筆を環境大臣および農林水産大臣に提出)

オオカミ導入の壁となる
「赤ずきんちゃんシンドローム」

(2019年4月、東京で開催された「絶滅したオオカミの役割を探る展」)

──一方で反対の声もあるのではないですか。

林:
あります。「オオカミなんて導入したら、人が襲われる」「食べられる」と心配する声があります。僕たちはこれを「赤ずきんちゃんシンドローム」と呼んでいますが、「オオカミはこわい生き物だ」という刷り込みから抜け出すことができず、頑なに否定されることもあります。

崩壊の危機にある日本の生態系を救うためにはオオカミの再導入が必要ですが、「こわい生き物だ」「人を襲う」といった誤ったイメージが、残念ながらそれを阻んでいるのです。

役所の担当の方にも「人を襲うのではないか」と取り合ってもらえません。「ヨーロッパやアメリカでも再導入が増えているんですよ」と説明するのですが、「アメリカは土地が広いから話が違う」と言われるので、今度は「ドイツは日本より狭いですが、再導入がうまくいっていますよ」と伝えても、やはり危険だからと取り合ってもらえません。

(2013年8月、親子連れを対象に閉校された木造校舎の2教室を借りて、1室はオオカミの遠吠えなどをBGMとしてパネル展示(オオカミの生態、海外でのオオカミ再導入の紹介、シカの被害状況、当協会の提言など)を行い、もう1室はシアター(丸山先生のポーランドでの活動レポート、日本におけるオオカミを求める動きをまとめた番組の紹介、海外のオオカミの映像など)やたくさんの絵本、書籍・資料の閲覧を行った。「300名以上の方々にご参加いただくことができました」(林さん))

林:
しかし、朗報もあります。
僕たちは3年に1度、オオカミ再導入に向けての市民の意識調査を行っていて、不特定多数の方にアンケートを実施しています。10年ほど前まではオオカミの再導入に反対の声の方が多かったのですが、前回の2016年の調査では「再導入に賛成」が46%、「再導入に反対」が11%、残りの4割が「わからない」という回答でした。

(アンケート調査結果。調査を行う毎にオオカミ復活賛成が増え、反対が減っていることがわかる。アンケート調査詳細についてはこちらから

──少しずつ受け入れられてきているのですね。

林:
そうですね。それを受けて行政も少しは動いてくれたらとは思うのですが…、そう簡単ではないですね。うがった見方かもしれませんが、シカやイノシシによる被害を避けるための電気柵の設置のために補助金を出すとかハンターを増やすために地元の猟友会に何かするといったことは、利権があってお金が動きますが、しかしオオカミを再導入したところで、お金も動かないし誰も儲からないから話が進まないということもあるのではないかと思っています。

(様々なアーティストがオオカミ題材に描いたり、造作したりした作品を一同に集めた「おおかみアート展」)

「オオカミは人を襲わない」

(「スポニチ九州版」に掲載した団体広告)

林:
「オオカミを森に放ったら、人を襲うのではないか」。この意識が、オオカミ再導入の最も大きな壁です。しかし、オオカミが人を襲うということはまずありません。

オオカミは臆病な生き物で、人前に姿を現すということをしません。アメリカのオオカミが住む森の近くに住んでいた会員によると「遠吠えは聞いても、姿を見たことは一度もない」ということでした。ただ、たとえば人間が餌付けしようとしたとか、そういったことで噛まれたというケースはあります。

(仲良しのオオカミきょうだい)

──自然の摂理に従う限り、人を襲うことはないということですね。
オオカミを復活させることによって、今度はオオカミが増えすぎたり、捕食されすぎてシカが減りすぎたりということは起きませんか?

林:
オオカミを復活させると、数はある程度までは増えるでしょう。オオカミは一夫一妻で毎年出産します。家族や仲間が4、5頭~10頭で群れを成して行動しますが、オオカミは縄張り争いをする生き物です。グループ同士で闘争が起きた時、まさに一家残虐で、どちらかが完全に勝利するまで、生死をかけて争います。なので、縄張り争いがある限り、自然の摂理からいって数が増えすぎるということはありません。

──日本のオオカミは絶滅してしまっているので、日本の森に復活させるには、どこかから連れてくることになりますよね。そうすると、在来の生態系を壊すのではないかという声もあると思うのですが、そこはいかがでしょうか。

林:
日本に生息していたオオカミは日本の固有種ではなく、北半球の広い地域に分布する「ハイイロオオカミ」というオオカミです。もともと日本にはオオカミがいたわけで、同じDNAを持ったオオカミを連れてくるので、外来種として生態系を乱すような心配はないと考えています。

(ハウリングする子オオカミの愛らしい姿)

──なるほど。

林:
生態系の頂点捕食者の不在によって、シカが激増している。そのことによって、自然のサイクルが破壊されています。オオカミが戻れば、もとにあった自然のサイクルに戻すことができます。自然って本当にすごくうまくできていて、絶妙なバランスを保ってきたのに、人間がそのバランスを崩している。ただ戻そうよ、ということです。

今年に入って世界中で新型コロナウイルスが流行したため大きく報道されることはありませんでしたが、実は昨年、家畜業界で豚コレラが大流行しました。それが野生のイノシシにも感染して大騒ぎになったのです。
実は豚コレラは日本では絶滅していて、今回のウイルスは中国から入ってきたものだといわれていますが、感染は全国の養豚場に広がりました。一つの養豚場で一頭でも豚コレラに感染していると、同じ施設の豚は皆殺されてしまいます。殺処分された豚は14万頭以上にも上ります。

(スロバキアでは、オオカミの生息地域では豚コレラの流行は記録されていない。「オオカミは病気の動物を好んで捕獲するためオオカミの生息地域では感染症が広がりません。豚コレラ対策としてもオオカミ復活は急ぐべきなのです」(林さん))

林:
オオカミは強そうに見えますが、そこまで強いわけでも足が速いわけでもないので、病気やケガによって弱った個体を好んで捕獲します。その結果、動物たちの間での感染症の拡がりを未然に防ぎ、動物たちの命を守る「自然のお医者さん」の役割を果たしていたのです。もしオオカミがいたら、罪のない14万頭もの豚が殺処分される必要はなかったでしょう。

各国ではより強力なウイルスの感染・流行も懸念されています。一刻でも早くオオカミを復活させることは、健康な生態系を守ることにもつながるのです。

──今後、団体としてのビジョンはありますか。

林:
少しずつオオカミの再導入が認知されてきているので、団体としては、たとえば最初にオオカミをどこに、何頭放った時にどんな影響があるかといったシミュレーション作りにも力を入れていきたいと思っています。

実際に再導入した際のイメージを具体的にして、そのメリットを一人でも多くの方に知っていただき賛同していただくことで、より大きな声を行政に届けたいと思っています。

(「絶滅したオオカミの復活で伊豆の森と海の生態系を守る!と」題して伊豆高原駅やまもプラザ商店街で行われたオオカミ展の様子。オオカミと人の関係、オオカミの生態、シカ食害の実態、オオカミ等身大模型パネルや写真の展示のほか、オオカミの遠吠え視聴やオオカミグッズの販売を行った)

チャリティー使途

(2018年11月18日、松本市で開催した講演会の様子。SBC信越放送で35年続くラジオ番組「武田徹のつれづれ散歩道」のパーソナリティである武田徹さんが駆けつけ、長野県茅野市の民話「作じっさとオオカミ」を語った。「武田さんは『日・米オオカミふぉーらむ 2017in長野』に参加して活動に共感し、日本オオカミ協会の会員になってくださいました。事ある毎にオオカミの必要性を番組でお話してくださいます。そのお陰で番組のリスナーさんへのオオカミへの理解が深まっています」(林さん))

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

林:
オオカミへの誤ったイメージが、再導入を阻んでいます。今回のチャリティーは、新聞や雑誌、電車などに広告を載せ、オオカミの正しい情報を広めるための広告費として使わせていただきたいと思っています。ぜひ、チャリティーアイテムで応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

どこか遠い国の生き物のようなイメージだったオオカミ。昔は日本にも生息していたことや、絶滅によって生態系に大きな影響が出ているということについても初めて聞き、とても驚きました。人々の暮らしと森とが切り離された今、森や野生の生き物の異変を感じとることはなかなかできませんが、その影響はじわじわと出てきているのでしょう。

失われた生態系を元通りにすることはなかなか難しいかもしれませんが、元通りに近づけるための努力は、少なくとも私たちにできることではないでしょうか。

・日本オオカミ協会 ホームページ

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星を見上げるオオカミの親子を描きました。
オオカミは決して凶暴で悪い動物ではなく、他の野生動物や私たちと同じように森や自然を愛し、健気に生き、また森を豊かにしてくれる存在であることを、かわいらしいタッチで表現しています。

“For wolves, nature and humans”、「オオカミのために、そして自然と私たち人間のために」というメッセージを添えました。

Design by DLOP

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