CHARITY FOR

「あんしん・じしん・じゆう」は子どもの権利。あらゆる形態の子どもへの暴力の根絶と予防教育に取り組む~NPO法人CAPセンター・JAPAN

後を絶たない、虐待やいじめ、それによる自死などのニュース。学校や家庭といった閉鎖的な環境の中で、周囲のおとなたちがSOSに気づき、子どもの声に耳を傾け、サポートすることはできなかったのでしょうか。

今週、JAMMINが1週間限定でコラボするのは、子どもへの暴力のない社会とその実現を目指し、子どもとおとな、それぞれに向けて暴力防止のための予防教育プログラム「CAPプログラム」を行っているNPO法人「CAPセンター・JAPAN」。

「子どもは守られる存在ですが、しかし一方で子ども自身には力があるんだということを、子どもだけでなく周りのおとなたち、学校の先生や保護者、地域の方たちに向けても発信しています。
虐待やいじめによる自死などが明るみになって大きく報道されると、深刻なものだけが虐待やいじめと捉えられがちですが、そこに至るにはもっと小さな”芽”の段階がある。子どもは決して無力ではない。早期発見、早期支援には小さな芽の段階から体系立てて捉え、予防的に関われる人を増やしたい」

そう話すのは、CAPセンター・JAPAN事務局長の長谷有美子(はせ・ゆみこ)さん(56)。長谷さんと、事務局次長の重松和枝(しげまつ・かずえ)さん(56)にお話をお伺いしました。

(お話をお伺いした長谷さん(左)と重松さん(右)。大阪の事務所にて)

今週のチャリティー

NPO法人CAPセンター・JAPAN(キャップセンター・ジャパン)

家庭や学校、地域で子どもの安心・安全を守るために、教職員や保護者、地域のおとなや子ども自身に伝え、共に考える子どもへの暴力の予防教育「CAPプログラム」を提供し、子どもがSOSを出しやすい環境づくりや、暴力の早期発見・早期支援のための体制づくりを行っている。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2020/3/9/

子どもへの暴力防止の
予防教育プログラム普及のために活動

(幼児期の子どもへのプログラムの一場面。ポーズをつけて、皆で「あんしん・じしん・じゆう」と声に出す)

──今日はよろしくお願いします。まずは団体のご活動について教えてください。

長谷:
私たちは、アメリカで1978年に開発された「CAP (Child Assault Prevention、子どもへの暴力防止)プログラム」を日本で普及するために1995年から活動している団体です。日本では20年前から小・中学校、幼稚園・保育園を主な現場として、子どもとおとな(保護者、教職員、地域の方々)を対象にプログラムを提供しており、2019年3月までに556万人以上の方が参加しました。

就学前や小学校低学年、小学校高学年と年齢や発達に合わせた子ども向けプログラムと子どもを支援するおとなを増やすためのプログラムを提供するために、東京・大阪を中心にCAPプログラムの実践者を育成する養成講座を開催しています。一方で、全国に広がるネットワークを駆使し、子どもの人権研修などにも関わっています。

一貫して「子ども自身には力がある」ということを、プログラムを通じて伝えています。

(小学生を対象としたプログラムの一場面。「自分や友だちを助けるための“特別なさけび声”の練習をします」(長谷さん))

「子どもへの暴力」は、身近なところで起きている

(小学生向けプログラムの一場面。「あなたはどう思う?教えて」。子どもに問いかける)

──なぜ、「子ども自身には力がある」ことを伝えることが「子どもへの暴力」防止につながるのか、その辺を詳しく教えてください。

長谷:
「子どもへの暴力」というと、虐待やいじめをイメージされる方が多いのではないかと思います。しかし実は目に見えないかたちで、いろんな場所で起きています。皆さんの住んでいる地域でも起きています。

──「子どもへの暴力」と聞くと、やはり事件のようなイメージがあって、身近なイメージは正直湧きません。

重松:
暴力のイメージとして「殴る・蹴る」ということがあると思いますが、暴力はそれだけではありません。養成講座では参加してくださった方たちと「何が暴力なのか」を考えます。そうすると「暴力っていうほどじゃないかもしれないけど…」「ひょっとしてこれも?」と、いろんな意見が出てきます。

(地域で子どもを支える人たちのための、3日間24時間の講座「子どもへの暴力防止のための基礎講座」の講義の一コマ)

重松:
社会全体として、おとなが子どもの持つ力を信じられておらず「子どもだから」という理由で「何もできないでしょ」「なんとかしてあげる」という思いで接してしまっていること。それが結果として子どもの力を奪ってしまうのです。
「子どもには力がある」と知ることが、子どもにとっては自己肯定感や自信を育む一方で、周囲のおとなにとっては、子どもを信じ、その力を最大限に活かすための働きかけにつながっていくのです。

──なるほど。

(「子どもへの暴力防止のための基礎講座」にて、「子どもの暴力ってなに?」のディスカッションで書き出された言葉。「いじめ」「体罰」「性暴力」などの言葉の他に「居残り」「給食の食べ残しの対応」「親の期待・エゴ」などといった言葉も。参加者同士のやりとりで多くの気づきが生まれるという)

「あんしん・じしん・じゆう」は
子どもにとって特別に大切な3つの権利

(小学校1、2年生までのプログラムの一場面。「人形劇を通して、知らない人に出会ってこわい思いをしたら何ができるかを一緒に考えます」(長谷さん))

重松:
おとなは、多くの場合良かれと思って、そしてちっとも悪いと思わず「この子のために」とその子の力を奪ってしまいます。大げさだと感じるかもしれませんが、「人権の侵害」になることを意識すべきです。

──「人権」ですか?

重松:
そうです。

──どういうことでしょうか。

重松:
子どもに、そしておとなに対しても人権とは「人が元気に生きていくのに絶対に必要なもの」と伝えています。そして、その中でも子どもに特別に大切な3つの権利が「あんしん(安心)・じしん(自信)・じゆう(自由)」です。

子ども向けのプログラムでは、「”あんしん”ってどんな時?」「”じしん”はどんな時に感じる?」と問いかけ、皆で「あんしん・じしん・じゆう」を考えながら「元気に生きていくために誰にも取られたくないものが権利だよね」と伝えています。

つまり、子どもの「あんしん・じしん・じゆう」が脅かされた時、それは立派な人権の侵害になるのです。

──すごい!わかりやすいです。

(おとなワークショップの様子。子ども対象プログラムの模擬体験(相談ロールプレイ))

重松:
社会的に無力と捉えられがちな幼児期の子どもであっても、本人が「あんしん・じしん・じゆう」のいずれかでも感じられていれば、危機が迫った時、『あんしん・じしん・じゆうがなくなっている』と感じ、それを危機だと認識できて圧倒的に対処できるようになる。SOSを発信することができるようになります。
そういうふうに捉えていくと「何が暴力なのか」も見えてきます。

──どういったことが暴力になるのでしょうか。

長谷:
極端な話をすると、親戚の子どもにあった時、迷いもなく抱っこしたり頭を撫でたりスキンシップをとる人がいますよね。触れられるのが嫌な子どももいますので、これも人権の侵害になる可能性があるのです。自分のからだは自分のもの。その子のことは、その子が決める。触れてもいいか、よくないか、誰が触れていいのか、それを決められるのはその子自身なのです。

(インタビューではご活動について、また「子どもへの暴力とは何か」について、丁寧に教えてくださいました)

──なるほど…!

長谷:
おとなが子どもの気持ちはさておいて「ありがとうは?」「こんにちはっていいなさい」などと諭したりすることがあります。その時、その子がどう思っているかは尊重されません。

重松:
子どもが「いじめられた」「いやな触り方をされた」と訴えても、おとなは「気のせいだから気にしないようにしなさい」とか「周りの人にいってはいけない」などといったりします。本人が思ったり感じたりしていることがあるのに、感覚を内に閉じ込めるように閉じ込めるようにした結果、子どもは嫌なことを嫌だといえなくなってしまう。「自分で決める」という感覚が奪われてしまう。それによって、暴力に遭う可能性は非常に高くなってしまうのです。

──自分を押し殺し、我慢してしまうのですね。

重松:
周囲のおとなから「相手のことを考えてごらんなさい」とはいわれても「あなたはどんな気持ち?」と問われることがこれまでなかった。背景には、「自分は我慢してでも、人のためにするのが良い」という風潮があると感じています。

──確かに…。

長谷:
CAPプログラムを実施することで、子どもとおとなが「あんしん・じしん・じゆう」に対する共通の認識を持てるようになります。そうすると話し合うことができるようになり、助け合えるようになります。そこが大切だと思っています。

──なるほど。だから子どもとおとなの両方に向けてプログラムを実施されているのですね。

(おとな向けのワークショップの様子。おとなも安心・自信・自由のポーズを実際にやってみて、子どものけんりについて考えているところ)

「社会性」という言葉の延長線上に
暴力を受けた時にイヤといえない環境が

(小学生向けプログラムの一場面。「子どもたちが自分で思ったこと、感じたことをさまざまに発表してくれます」(長谷さん))

重松:
幼少期にすでに、自分が本当に思っていることやしたいことが閉じ込められ、行動だけでなく心までもコントロールされてしまっています。このことが結果として、さまざまな暴力に遭いやすい環境を生み出してしまっているのです。「社会性」という言葉の延長線上に、暴力を受けた時に「イヤだ」といえない環境が生まれてしまっているのです。

──なるほど…。

重松:
分かりやすい例があります。3~5歳の就学前の子ども向けプログラムでは、「スコップを取られる」というロールプレイングを行うんですね。

自分がスコップで遊んでいると、無理やり「ちょうだい」といわれた。みんなならどうしますか?と問いかけると、多くの子どもたちが「仲良くしないといけないから貸してあげる」あるいは「後で貸してあげる」といいます。「貸さない」という子はいないんですね。周囲のおとなから常々「仲良くしなさい」と教えられているからです。幼児期の段階で、すでに「いや」ということがわがままとか自分勝手だと捉えられているんですね。

長谷:
多くのおとなは人とうまくやっていくために、良かれと思って「仲良くしなさい。スコップを貸してあげなさい」といってその場を収めようとするでしょう。

でも、もし貸したくなくて「イヤだ」といったら、たとえば泣き出す相手の姿を見て「相手にも気持ちがあるんやな」ということを学ぶ機会にもなったでしょう。「貸して」といった相手も「自分の欲しいものが全部手に入るわけではなんだな」と学ぶ機会になったでしょう。そんな学びの機会さえ、おおむね、おとなのその場の「安心・自信・自由」が優先されてきたことによって奪われてしまっているのです。

重松:
子どもがどうするのか、それは周りが決めることではなく、子ども自身が決めることだし、本来子どもには、その力があります。おとなが介入して勝手に決めつけたりコントロールしたりすることは、子どもの力を奪うことになるのです。

(障がいのある子どもへのプログラムの一場面。「いや」という練習をしているところ)

「被害者だけでなく、加害者にも、
そして傍観者にもならない」

重松:
プログラムを実施した後、「ついさっきまで、自分は友達の”けんり”を取っていたと思う」といってくれた子がいました。呼んで欲しくないあだ名で呼ばれて、それが嫌で相手を叩いてしまったということでした。

すべての状況に当てはまるわけではありませんが、「あんしん・じしん・じゆう」が何らかの理由で奪われた時に、それが引き金になって他の誰かの「あんしん・じしん・じゆう」を奪ってしまうケースもあります。

長谷:
「被害者にならない」ということだけでなく、「加害者にも、そして傍観者にもならない」ことが、このプログラムの目的でもあります。一人ではないんだということ、助け合う力があるんだということ。一人ひとりがそう思えることが、状況を変えていくきっかけになるのではないでしょうか。

──なるほど。

(「『子どもへの暴力防止のための基礎講座』の終盤では、子どもの安心・自信・自由のために、私たちおとなには何ができるかを考えます」(重松さん))

重松:
教育の現場へ行くと、先生から「あの子が問題なんです」「あの子さえ何とかなってくれたら」という声も聞かれます。しかし「この子が問題だ」という視点で見ている限り、その子が自らの力を発揮できる状況にはならないでしょう。家族との関係や貧困など、何らかの状況で自分の力が十分に発揮できない背景があって、力を感じるためや憂さ晴らしのために問題行動を起こしていることもあるのです。

──どんな子であっても、おとなは対等な立場で話に耳を傾けることが大切ということでしょうか。

重松:
というよりは、そもそも日常が対等ではないと思いますね。社会の状況の中でいうと、子どもは多くの場合において「穴の中に落とされた状況」だということをおとなたちが知ることが大切だと思います。おとなが立っている地面に穴が掘られていて、その中にいるのが子どもたち、という状況があると思っています。

だからこそ、おとなは力をどう使うのかをよほど意識しないといけません。力の使い方が問題なのです。おとながむりやり穴から地上に引っ張り上げたところで、子どもが自分の力を感じることができなかったら、きっと穴の中に戻ってしまうでしょう。

長谷:
大切なことは、「どうすればこの子が力を発揮できるのか」を考えることだと思います。ただ一方で、人ひとりができることには限界があるので、公的な支援や子ども支援の団体さんなどにも目を受け、地域でつながって皆で支えていくことが大切なのではないでしょうか。

(CAPのプログラム案内のチラシ)

──なるほど。

重松:
おとなが「私が満足」と感じる支援ではなく、子どもが「自分には力があるんだ」と感じられる支援であること。そのためには「地域みんなで支えていくよ。あなたは大事な人やからね」という意識が大切だと思います。

「子どもはこうするものだ」「子どもはこうあるべきだ」「子どもに正しいことを教えてあげる」という固定概念が、子どもからすでに力を奪っている可能性があるのだということを、頭の隅に置いておいてもらえたらと思いますね。

──力を奪うつもりがなく「こうした方が良いよ」とか「こうしないといけないよ」とつい、いってしまいそうで難しいですね…。

重松:
人間なので、軸がブレたり間違ったりすることもあります。子ども支援の活動をしていると「この子の家庭はしんどいから、私が何とかしてあげなきゃ」とか、子育てで我が子に対しても「自分はこういう風に育ってきたから、子どもにもこれがいいはずだ」などと思いがちです。でも、果たしてそれが本当に子どもが望んでいることなのか。常々「どう?」と確認してもらえたらと思います。

長谷:
おとな同士の関係であれば、相手と何かをしたり勧めたりする時に「どう?」と聞くのは当然のことですよね。なのに、相手が子どもになった途端「従って当然」とか「聞いても仕方ない」という風になってしまっていると思います。

(「日頃から楽しいことも、嬉しかったことも、ちょっといやだったことも話せる環境があることで、子どもは困ったことをおとなに話すことができます」(重松さん))

児童養護施設でのプログラム実施も

(児童養護施設でのプログラムの一場面)

長谷:
児童養護施設などでも研修をさせていただく機会が増えています。虐待やネグレクトなど、何らかの暴力を受けた子どもたちはそれらの影響が日常生活のさまざまな場面に、多様な形で現れます。それに対して周囲のおとなは「子どもの問題」としてつい意見しがちです。そこに危機感を抱き、研修を実施してくださっています。

重松:
ある施設の職員さんが、「このプログラムを実践することは、施設の文化を変えること」という感想をくださいました。それまでは「かわいそうな子どもたち」が施設を退所した後、社会でもしっかりやっていけるように、良かれと思ってあれやこれやと意見をしたけれど、そうではなく「一人ひとりが自分の感覚、自分の力を信じて生きていくことができる」ようにするためには、おとなたちがそれまでのやり方を一旦手放して、新たな文化をつくっていかなければならない、と。

文化が根付くには時間が必要ですが、おとなと子どもの間で「あんしん・じしん・じゆう」の共通の認識があれば、話し合い、助け合っていくことができると思っています。

(東京都世田谷区から委託を受けて開催した保育士に向けての研修の様子)

チャリティーは、予防教育を広めるための資金となります!

(2015年6月に山口県山口市で開催された公開セミナー「障がいのある子どもへの暴力防止」)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

長谷:
子どもが安心して暮らすことができる社会を作っていくためには、周囲のおとなたちの理解と協力が不可欠です。一人でも多くの方にCAPプログラムや予防教育のことを知っていただきたく、各地域で公開講座を開催するための資金として使わせていただきたいと思っています。

子どもの力になりたいと思っていたり、漠然とした不安を抱いていたりする方は決して少なくありません。しかし、子どもの状況やまた暴力の予防のために日常でできることを知らない方たちがほとんどです。公開講座を通じて、子どもが安心して暮らせる地域を広げていけたらと思います。

──貴重なお話、ありがとうございました!

(各地のCAP活動実践者の皆さん。2019年6月、CAPスペシャリストの研修にて)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

人権は「あんしん・じしん・じゆう」。すごくわかりやすい!と思ったのと同時に、果たして知らぬ間に誰かの安心・自信・自由を奪ってこなかったか、脅かしてなかったか、ふと疑問に思いました。(お話を聞きながら「どきっ!」とすることが何度もありました…!)

まず自分の力を信じ、意思表示がしっかりできること。そして相手が子どもであろうとおとなであろうと、相手の力も信じること。簡単なようで、実は意外とできていないことだと感じました。
皆さんは、いかがでしょうか?ぜひこの機会に、一度考えてみていただけたらと思います。

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一本の木の枝から、いろんな種類の草花が元気いっぱい生えています。
子どもたち一人ひとりに個性や背景があって、皆それぞれが大切な存在なのだということ、また、周囲のおとなたちのさまざまな支援を受け、子どもたち一人ひとりが生き生きと輝く様子を表現しました。

「あんしん」「じしん」「じゆう」の言葉をストレートに描きました。

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