「結婚」と聞いて、皆さんどんなイメージを浮かべるでしょうか。
多くの人が幸せで明るく、祝福される前向きなイメージを浮かべるのではないかと思います。
しかし日本には、「一生一緒にいたい」というパートナーと巡り合っても、結婚を選択できない人たちがいます。日本には同性婚を認める法律がなく、そのために男女間であれば当たり前のようにできる結婚ができません。
それはまた、結婚して家族になることが認められず、家族であれば当然受けられるはずの制度や民間のサービスからも除外されることを意味し、肩身の狭い思いで生きて行かなければならないだけでなく、長年連れ添ったパートナーであってもそのことが認められないケースもあります。
今週JAMMINがコラボするのは、「Marriage For All Japan – 結婚の自由をすべての人に(以下『マリフォー』)」。日本での同性婚の実現のための法制化を目指して活動しています。
2019年2月、札幌、東京、名古屋、大阪の4つの地域で、同性婚の法制化を求める訴訟が起こされました(2019年9月には福岡も)。
同性婚の現状について、また活動についてマリフォーの代表理事であり弁護士の三輪晃義(みわ・あきよし)さんと、スタッフであり弁護士の森(もり)あいさんに話を聞きました。お二人はそれぞれ大阪、福岡での訴訟の弁護団の一員でもあります。
友人、恋人、家族や配偶者…、あなたにとって大切な人を思い浮かべながら「結婚という選択ができないことが何を意味するか」を考えながら、読んでいただけたら嬉しいと思います。
(「マリフォー」代表理事の三輪さん(右)と、スタッフの森さん(左)。2020年1月に大阪で開催されたイベント「セクシャルマイノリティと医療、福祉、教育を考える全国大会2020」の会場でお話を聞かせていただきました!)
一般社団法人Marriage For All Japan(マリッジ・フォー・オール・ジャパン)–結婚の自由をすべての人に
性のあり方にかかわらず、誰もが結婚するかしないかを自由に選択できる社会の実現を目指して活動している。略称は「マリフォー」。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2020/2/3
(2019年9月、福岡高等裁判所に向かう、九州訴訟の原告と弁護団員。左端は今回インタビューに応じてくださった森さん)
──今日はよろしくお願いします。同性婚の法制化のためにご活動されていますが、日本の現状について教えてください。
三輪:
はい。結婚をしようと思うと、婚姻届にハンコを押して役所に出しますよね。日本では、同性同士でそれをやると突き返されてしまいます。
なぜ、同性同士だとダメなのか。法律(民法)自体に明示的に同性同士の婚姻を禁止する条文があるわけではないんです。ざっくりいうと、民法に書かれた「結婚」が「男女を前提にしたもの」であり、だから「同性同士は認められない」という解釈がなされています。
しかし、民法のさらにその上にある「憲法」では「婚姻の自由」と「法の下の平等」が保障されています。つまり、同性婚を認めないのは人権侵害ですし、憲法違反にあたります。私たちは同性婚の一刻も早い法制化を目指して活動しています。
森:
そのためのアプローチとして、現在二つの方法で進めています。
ひとつが、国会への直接的な働きかけです。法律を作るのは国会です。国会議員の方のもとに直接伺って話をしたり、当事者の声を伝え、同性カップルの現状などを知ってもらう「マリフォー国会」という院内集会を議員会館で開催したりしています。
(香川在住の田中昭全さんと川田有希さんは関西訴訟の原告カップル。2019年8月、中国・四国地方で初の開催となった「丸亀レインボーパレード」(香川)にて))
三輪:
もう一つが、裁判を通じた働きかけです。国会が法制化に向けて動いてくれないのであれば、司法に訴えて「同性婚を認めないことは憲法に違反している」という判決が下れば、国会は法制化のために動かざるを得なくなります。
実際、2019年5月にアジアで初めて同性婚が法制化された台湾では、日本と裁判の仕組みの違いこそありますが、裁判によって「同性婚を認めないのは憲法違反である」という判決が下され、それによって法制化に至りました。
──そうだったんですね!
森:
昨年から、日本の5つの地域(札幌・東京・名古屋・大阪・福岡)で同性婚の法制化を求める裁判が始まりました。それぞれの場所で裁判が進んでいますが、マリフォーはこれらの裁判の支援もしています。
──海外では、同性婚が認められている国も多いのですか?
森:
2001年にオランダで実現したのを皮切りに、北欧やヨーロッパ、アルゼンチンやブラジルなどの南米、カナダやアメリカなどの北米、オーストラリアやニュージーランド、南アフリカなど現在約30の国や地域で同性婚が認められています。
ですが日本では、法律上の性別が同じだと、結婚という選択肢をとることができません。
なお、同性婚という時の”同性”は、”法律上の性別が同じこと”をいうので、カップルの片方がトランスジェンダーであったりして「自分たちは同性同士ではない」と思っておられる場合も、”法律上の性別が同じ”となると結婚できず、不安定な状況に置かれてしまいます。
(大江千束さんと小川葉子さんは、東京訴訟の原告カップル。2019年11月、衆議院議員会館にて開催された「マリフォー国会」にて、同性婚の早期の法制化などを訴えた)
(2019年4月、東京地方裁判所に向かう東京訴訟の原告ら)
──現在、札幌・東京・名古屋・大阪・福岡にて、13組のカップルの方たちの裁判が進んでいます。お二人はそれぞれ大阪と福岡の裁判の弁護団の一人でもいらっしゃいますが、この裁判について教えてください。
三輪:
2019年2月14日に、日本で生活する同性カップルが各地で一斉に国を訴えました。裁判は各地で別々に進みますので、この先、争点や判決が異なってくることもあり得ます。大阪は、現在3回目まで裁判を終えています。2020年2月7日に、大阪地方裁判所で4回目の裁判があります。
各地の弁護団で情報交換をしていますが、札幌の裁判では、裁判所が国に対して「結婚が男女間にだけ認められている目的や手段の合理性を裏付ける資料を出せ」とか「同性婚を認めることによってどのような影響が生じるのか」といった質問を投げています。大阪の裁判所は今のところそこまでの積極的な働きかけはありません。
(裁判の後の報告会にて、裁判の報告を行う関西の裁判の原告と弁護団員。写真中央はインタビューに応えてくださった三輪さん。裁判は専門的な内容も多いため、毎回終了後に報告会を設けて何が行われたかのかを説明するという。「世論を届けるためにも、ぜひ裁判に来ていただきたい」と三輪さん)
──訴えはどのような内容なのですか。
三輪:
私たちは「同性婚を認めないのは憲法違反だ」という主張をしています。
民法には、「同性同士は婚姻できない」とか「婚姻は男女だけのもの」といったようなはっきりした記載はありません。同性婚が認められない理由として、国が説明するところによると「民法の規定を見たら、夫とか妻とか夫婦とか、いかにも男女のペアを意味しているような言葉が散りばめられているので、同性婚は認められていない」という解釈をしているようです。
私たちは、夫とか妻とか夫婦とかいった文言だけを理由として同性婚を否定するのは間違いで、憲法がなぜ婚姻の自由や法の下の平等を定めているのかを踏まえて検討しなければならないと主張しています。
──なるほど。
三輪:
私たちが目指すのは「同性婚の法制化」であって、裁判は一つの手段だと考えています。
国会が動いて法律ができてくれたら良いのですが、いつまで経ってもその気配がありませんでした。そこで一斉訴訟と動いたわけですが、マリフォーとしては、国会を動かすために国会議員への直接的な働きかけをする一方で、国会に動いてもらうための今回の裁判の支援もしています。
また、法律を作るためには市民の声がとても大切なので、裁判や同性婚に関する情報の告知や宣伝、イベントの開催など広報を通じた社会への働きかけも重視しています。当事者の訴えはもちろん重要ですが、いろんな人に興味を持ってもらうことが、結果として国を変えていくことにつながっていくと考えているからです。
(写真前列中央に写っているのは、全米の同性婚実現の立役者、エヴァン・ウォルフソン氏。2019年8月、マリフォーも後援し福岡で講演会を開いた際の一枚。エヴァンさんを囲んで)
(2019年12月、「マリフォー国会」でスピーチを行った、トランスジェンダー男性の杉山文野さん。杉山さんの戸籍は女性。10年間付き合っていると彼女とは、見た目は男女のカップルでも「戸籍上は同性」ということで婚姻関係をとることができない。精子提供を受けて授かった子どもを守るためにも、同性婚の法制化を求めている)
──日本では東京都渋谷区をはじめとした自治体で「同性パートナーシップ制度」という制度が導入されていますが、これは同性婚を認めるものではないのですか?
森:
当時大きく報道されたので、「日本でも同性婚ができるようになったんだ」と思っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、これはあくまで「自治体が二人の関係性を認める」というものであって、法的効力を持つものではありません。したがって、その自治体では関係性がいくらか尊重されるとしても、家族として法的な効力が認められるかというと、そうではないんです。
──そうなんですね。
森:
逆に、なぜ法的効力を持たないこの制度があれだけ大きく報道され、全国的に導入する自治体が増えているのかということを考えると、やはり同性同士が「結婚が認められない」という現実がある中で、この制度によって「公に関係が認められる」ということが、法的な力はなかったとしても、大きな意味があるものだったからだと思います。
──なるほど。法的にはもちろん、社会的にもまだまだ同性同士の関係が認められていないということが逆に見えてくるということですね。
(マリフォーが主催するイベント「しゃべろう同性婚」。当事者だけでなく様々な立場の人が集まり、同性婚への疑問や不安、思いを語り合う、「対話を通じ、新たな気づきが生まれることもある。何よりも同性カップルや同性婚が特別なものではなく、身近にあるものだと感じてもらえたら」(森さん))
(東京訴訟後の報告会にて。原告と弁護団員の皆さん)
──結婚ができないことで、当事者の方たちはどんなことに困っていらっしゃるのでしょうか。
三輪:
夫婦であれば当然受けられるべき社会保障が受けられない、片方が亡くなった時に残されたパートナーが相続を受けられないといったことがあります。
ほかにも、パートナーが事故に遭って意識不明の状態で救急搬送されたりした時にも、法的に家族として認められてないので、長年生活を共にしている相手でも、病院側から「家族でない人に病状を話せない」といわれたり、代理で意思決定したりすることができない場合もあります。
森:
また、外国籍のパートナーと日本で暮らすには在留資格が必要ですが、同性同士の場合は配偶者ビザを得ることができず、安定的に日本で暮らすことができなかったりもします。
──パートナーとして、家族として暮らしているのに社会的にそれが認められない。つらいし、しんどいですね。
三輪:
また、子どもの問題もあります。
同性同士でも子どもを産んで育てることは可能ですが、同性婚自体が認められていないために、「産みの母親」のパートナーと子どもとの間に法的な関係が認められず子どもが不安定な立場に置かれています。
こういった法的な問題だけでなく、社会の中で無視され続けていること自体が同性カップルの尊厳を傷つけているといえます。
(2019年7月の「名古屋レインボープライド」にて、マリフォーのブース。用意した横断幕には、結婚の自由の平等を求める多くの人たちからの寄せ書きが集まった。この記事の最初に掲載している写真はその横断幕)
(北海道訴訟の原告ら)
──難しい課題ですね。
三輪:
現在の結婚に関する法律では、同性カップルが個人として尊重されておらず、平等に扱われていません。法律は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」(憲法14条1項)という平等原則にしたがって作られないといけないものなのに、そうなっていないのです。
──三輪さんは、どんな思いでご活動されているのですか。
三輪:
10年20年前と比べると、同性カップルをとりまく環境は随分良くなってきていると思います。残された大きな問題が結婚の問題です。
昔と比べて同性カップルが暮らしやすくなったのは、暮らしやすい社会を目指して頑張ってきた先輩たちの賜物です。僕たちもそのバトンを引き継ぎ、次の若い世代のために同性婚をなんとしてでも実現したい。そして誰もが自分に自信を持って、平等に生きていける社会を作っていきたいと思っています。
──ご活動の原動力となっているのは、どのような感情なのでしょうか。
三輪:
「責任感」と「怒り」です。
「責任感」というのは、今日も同性愛やバイセクシュアルの赤ちゃんの命が誕生しているわけで、「その子たちが将来胸をはって生きていくためにも平等な社会を残さないといけない」という思いです。
「怒り」というのは、今日明日亡くなるかもしれない当事者が、同性婚ができる社会を知らず、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダーとして社会から祝福されることなく亡くなっていく、そのような状態が放置されていることに対する怒りです。「生まれながらにして不平等な人生を送ることを強いられるような社会をよくも放置できるな」、そんな思いもあります。
(2019年4月、「東京レインボープライド」の「結婚の自由をすべての人に」グループの参加者の皆さん)
(2019年10月、「性の多様性」を祝福し、分かち合うイベント「関西レインボーフェスタ」にて。関西訴訟の弁護団員である寺野さん(写真左)、大畑さん(写真右)、三輪さん(右から二人目))
森:
若い世代を中心に、LGBTへの偏見は減ってきています。同性婚については、20代、30代では、7割を超える人たちが賛成、中には、約9割が賛成しているという調査もあります。
これから若い世代になればなるほど、どんどん同性婚法制化への可能性自体は増えていきますが、一方で今の若い世代は、「権利主張すること」に嫌悪感を抱いていたり、諦めを持っていたりすることも多いように思います。
少し話が脱線しますが、日本で同性婚法制化を目指すにあたり、敵は「ホモフォビア(同性愛を否定すること)」ではなく「権利フォビア」にあるのではないかと感じています。
──どういうことでしょうか。
森:
日本の風土として、「寄り添っていきましょう」はあるけれど、実際に権利を訴えることになったら、途端に動きが鈍くなってしまう。「権利」とか「主張」となった途端に、抵抗感が出てしまうのです。
「法律で決まっているからしょうがない」「わざわざ言うのは迷惑」という諦めの意識が先行する社会は、何も同性婚だけに限ったことではなく、未来がないと思うんですね。
私自身は法律家として、「不平等や」「おかしい」と感じていることを変えたいと思っています。そしてまた「おかしいことをおかしいと気づき、国会を動かしたり、裁判をしたりして変えられる」という経験を、日本という社会が、未来のためにも積んでいくことが大切だと思っています。
(「マリフォー国会」では、国会議員の方たちに原告らが話をして、同性婚を求める思いや実情を伝える。右手前は九州訴訟の原告)
──なるほど。
森:
この活動は、皆さんから「がんばってください」と言っていただくものではなく「一緒にやりませんか」だと私は思っています。
「同性同士が結婚できないのはおかしいんじゃないか」と思ったら、お友達や家族に話すとか、国会議員の方に手紙やメールを出したりするとか、もし当事者でカミングアウトしていない方でも、匿名で連絡したりすることもできます。「特別な誰かがやる」のではなく、一緒にやっていくことができたら、一緒に立ち上がれたらと願っています。
「すべての人に平等に結婚という選択肢が与えられる」ことは、どこか遠くにいるかもしれない同性を愛する人に限った話ではなく、「身近な誰かの幸せの選択の機会を応援するもの」だと思ってもらえたら、変わっていくのではないでしょうか。
(2019年6月、オリジナルウェデングのプロデュースを手がける「CRAZYWEDDING」(株式会社CRAZY)が主催する、同性同士の結婚式を無料でプロデュースするイベント「CEREBRATION WEEK for all」にて、もう一人のマリフォー代表理事であり、弁護士の寺原真希子さん(写真右から二人目)がゲスト登壇。他の登壇者の方たちと。「同性婚の話は、日本が個々人の事情に応じた生き方を許容し尊重する社会へ移行していけるかの一つの試金石」(寺原さん))
(2019年11月、東京・霞が関の議員会館近くにてマリフォー国会のチラシを配布した時の1枚)
──最後に、今回のコラボのチャリティーの使途を教えてください。
森:
国会議員の方たちに向けて開催している「マリフォー国会」のための資金として使わせていただきたいと思っています。
「マリフォー国会」は、同性婚法制化のために国会議員の方へ直接働きかける集会です。まずは実際に当事者の方たちに会っていただき、リアルに結婚したいという声、困っているという声を聞いていただいて、身近に感じてもらうことがねらいです。
昨年に1度開催し、今年は2回の開催を目指しています。
このムーブメントは東京だけで起きているのではないんだと知ってもらうためにも、議員会館に各地から今回の裁判の原告の方や弁護団員などを呼びたく、今回のチャリティーはそのための資金として使わせていただきたいと思っています。ぜひ、チャリティーアイテムで応援いただけたら嬉しいです。
──声が届き、すべての人が結婚という選択肢を持てる社会になるといいですね!貴重なお話をありがとうございました。
(1969年、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン」を警察が踏み込み捜査、その場に居合わせた同性愛者などが警官に立ち向かって暴動となった「ストーンウォールの反乱」。それから50年の2019年6月、暴動のあった「ストーンウォール・イン」前で、メンバーの皆さん、弁護団員の皆さん、支援者の皆さんと!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
「○歳までに結婚したい」とか「子どもは○人欲しいなあ」といった話を一般的によく耳にしますよね。しかし、正直深く考えてみたことがありませんでした。結婚をしたいという願いは誰もが抱いてもおかしくないはずなのに、それが「異性間」に限られているなんて…!そして次の瞬間浮かんだのは「それってかなり変じゃない?」という超素朴な疑問でした。
否定的な意見もあるかもしれません。でも異性愛がどうとか同性愛がどうとかいう以前に、ただただ単純に誰かを好きになって結婚したいと願うこと、それが偶然異性であれば認められて、同性であったら認められないなんて、そんなおかしくてかなしいことがあってもいいのか、と私は思いました。
結婚する自由・しない自由がすべての人に平等に与えられるように、ぜひ今回のコラボを応援いただけたら幸いです。
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