CHARITY FOR

「楽しい!」で市民と自然と博物館をつなぎ、自然に親しむ思いを深める〜NPO法人大阪自然史センター

突然ですが皆さん、「博物館」に対してどのようなイメージを持っていますか?
「ちょっと敷居が高い」という印象を抱いている方も、少なくないのではないかと思います。

大阪にある「大阪市立自然史博物館」。この博物館の「友の会」が母体となって立ち上がったのが、今週JAMMINが一週間限定でコラボするNPO法人「大阪自然史センター」。

「ここをきっかけに、自然って楽しい!ということを、一人でも多くの方に知ってもらいたい」。そう話すのは、大阪自然史センタースタッフの上田裕子(うえだ・ゆうこ)さん。

毎年11月には、博物館と協働で「大阪自然史フェスティバル」を開催、大阪だけでなく全国各地から自然を研究するサークルが集まり、市民と交流する場を設けています。

活動について、お話をお伺いしました。

(「大阪市立自然史博物館」の入り口には、クジラの骨が3体も。いずれも大阪湾岸に打ち上がったクジラだという。毎年開催される「大阪自然史フェスティバル」では、このクジラの下で、各地から集まった様々な生き物や植物を研究するサークルが出展する)

今週のチャリティー

NPO法人大阪自然史センター

「社会と自然と博物館をつなぐ」をミッションに、大阪市立自然史博物館友の会や「大阪自然史フェスティバル」、ミュージアムショップの運営、様々なワークショップ等を企画している。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

博物館と協働で、自然を愛する気持ちを育む

9月末、大阪市東住吉区の長居公園にある「大阪市立自然史博物館」へ伺いました。

(迎えてくださった、大阪自然史センターの上田さん。着ているのは、ミュージアムショップでも販売中のアンモナイトTシャツ。おしゃれです!)

館内をぐるっと案内してくださいました。

(おおーっ!入るとすぐにナウマンゾウとヤベオオツノジカの実物大模型が!どちらも大阪から発掘された骨をもとに復元されたものだそう)

いくつかのコーナーに分かれて様々な動物や植物が展示されています。身近にあるものもあるけれど…、普段は意識しない視点がたくさん。終始、「そうだったのかー!」「知らなかったー!」の連続でした。

(躍動感ある昔の生き物の骨の展示コーナー!まるで異次元にトリップしたような感覚になりました)

しかし、今日の取材先は博物館ではなく、NPOである「大阪自然史センター」のはず。一体どういうことなのか、博物館を見学させていただいた後、上田さんにお話を聞かせていただきました。

──博物館は大阪市立となっていますが、NPOである「大阪自然史センター」さんの役割は一体どのような部分にあるのでしょうか。

上田:
「大阪自然史センター」は、「大阪市立自然史博物館」のファンクラブ的なものである「友の会」が母体となって設立されたNPO団体です。博物館ではできないような企画を通じて、自然を愛する気持ちを手伝うこと、自然を愛する気持ちを育むことが私たちの役目です。

大阪市立自然史博物館と連携し、学芸員の方たちとコラボレーションしたワークショップやハイキング、市民参加型の調査や観察会など、自然を学び、楽しむための様々なプログラムを実施しているほか、大阪市立自然史博物館のミュージアムショップでは独自性溢れるオリジナルアイテムを企画・販売したり、書籍の出版なども行っています。

──博物館と市民とをつなぐ架け橋のようなご活動をされているのですね。

上田:
そうですね。
中でも年に一度の大きなイベントが「大阪自然史フェスティバル」で、2003年からほぼ毎年開催し、今年で16回目になります。

(今年11/16、17に開催される「大阪自然史フェスティバル」のポスター。「イラストレーターの引野裕詞さんにビジュアルをご担当いただいてます。今年は、講演テーマと絡めて「苔」と野鳥の「セッカ」を描いていただきました。是非、チラシやホームページのイラストにも注目してください!」(上田さん))

自然を研究するサークルと市民をつなぐフェスを開催

さて、ここからは「大阪自然史フェスティバル」の立ち上げからずっと携わってきたという、大阪市立自然史博物館・動物研究室主任学芸員の和田岳(わだ・たけし)さんも交えて、話を聞きました。

(学芸員の和田さん(写真右))

──フェスティバルはどういった経緯でスタートしたのですか?

和田:
昆虫や植物、鳥、魚、きのこ…自然にまつわるいろんな面白い研究や活動をしているサークルがたくさんあって、博物館の学芸員たちが携わっている活動もたくさんあったのですが、面白い研究や活動をしていても、多くのサークルはそのうち消えていくんですね。なぜなら自分たちだけで活動していて、露出がほとんどなく、リクルートがないから。
せっかくのサークル活動を内部だけにとどめておくのではなく、「友の会」と交流し、露出するという意味合いでスタートしました。

上田:
「大阪自然史フェスティバル」は、年に一度の文化祭のような感じです。大阪だけでなく日本各地から出展してくださっています。今年は131団体が出展し、初めて海外、台湾からの参加もあります。昨年は開催された2日間に、2万人の来場がありました。

(昨年のフェスティバルの様子。「きのこ好きのためのキノコサロン」ブースにて、キノコになりきる)

自然史科学に大切なのは「ローカリティー」

(フェスティバルでは、様々なワークショップも開催。「博物館のバックヤードにあるビオトープで、友の会主催の植物の観察や昆虫などの生き物探しをしました。野鳥を観察することが初めての人も、まだあまり経験のない方も日本野鳥の会大阪支部の方の案内で長居植物園内でバードウォッチングをします」(上田さん))

和田:
自然史科学、特に生物学は「ローカリティー(地域性)」が大事です。狭い大阪であっても、地域ごとに生き物の分布は異なります。その生き物のことを知りたい、研究したいとなった時に、みんなを巻き込んでいかないと成り立たないんですね。

自然史を研究しようと思ったら、仲間を増やさないとできない。市民の方たちが参加してくれるということは、ほぼ必然なんです。

──なるほど。

和田:
「大阪自然史フェスティバル」もその延長線上で、一緒に生き物のことを調査する仲間を増やしていきたいという目的があります。

(会場の2階「ネイチャーホール」では、NPOや一般団体が50団体ほど出展している)

──すごいですね。見どころはどんなところでしょうか。

上田:
出展者の方たちがとにかくめちゃくちゃ楽しんでくださっているところですね。
出展が終わると「来年はどうしようか」ともう来年へ向けて企画してくださっているという出展団体さんのお話や、初めて来場者される方の「楽しかった!」「また来たい」という声を聞くと、様々な団体が集まって自然のおもしろさを伝え、地域と博物館を結ぶことができるこのフェスティバルを、今後も継続していきたいと思いますね。

(ボルネオ島の生物と文化の多様性を記録する「バルネオカメラプロジェクト」のブースにて。ウツボカズラのグッズの紹介を聞く来場者)

学芸員と市民、フラットな関係で
市民の「参加しよか」をつくっていく

(博物館で開催した子どもワークショップの様子。スタッフの話を熱心に聞く子どもたち)

──博物館を愛する市民の方たちが集まった「友の会」が母体となってNPO法人ができ、博物館と関わりながらも独自の運営で、市民と博物館をつなぐ役割を果たしているというのは、なかなか珍しいのではないですか?

和田:
そうですね。大きな博物館になってくると「市民と一緒に何かする」というのはほぼないと思います。でも、僕たちの場合は、地域を巻き込んでいくこと、そのアウトプットが次の新たなステップになっていきます。
市民の方たちが「一緒にやろか」と思ってくださるノウハウを持っているのは、私たちの強みですね。

上田:
学芸員さんのことを「学芸員」ならぬ「学芸人」と呼ぶ方たちもいるぐらい(笑)、大阪市立自然史博物館の学芸員の方たちは、皆さん一人ひとりキャラクターが際立っていて、サービス精神旺盛で、面白いです(笑)。学芸員さん一人ひとりに根強いファンの方がいて、その方たちが一緒になって活動に参加してくださっているというのも団体の特徴かもしれません。

──みんな楽しんではるというか、フラットな感じなんですね。

和田:
自然史科学の分野は、プロがどれだけ研究しても知らないことってあって、逆に言うとそういう意味ではアマチュアにも開かれているから、偉い人でも威張らないですね(笑)。フラットな雰囲気はそういう背景もあるかもしれないですね。

動物の剥製を作る「なにわホネホネ団」というサークルがあって、僕は事務局をやっているのですが、「なにわホネホネ団」で一番えらい人は、先生とか学芸員とかじゃなくて、早く、上手に皮を剥ける人ですからね(笑)

あとはやっぱり関西ということもありますよね。マジメな話をしていても「笑いとったろ」とは思いますね(笑)

──そういうことですね(笑)

(和田さんもメンバーだという「なにわホネホネ団」ブースにて。たくさんの骨を並べ、被り物をかぶって来場者に紹介中)

「一方通行ではなく、市民と学び合う」

ここからはもう一人、植物研究室学芸員の横川昌史(よこがわ・まさし)さんに「大阪自然史フェスティバル」への思いをお伺いしました。横川さんは、草原の植物の研究が専門で、大阪市立自然史博物館では主に種子植物の分野を担当されています。

(学芸員の横川さん)

横川:
フェスの二日間は本当にごった返しているんですが、そのごった返しが楽しいですね。たくさんありすぎてよくわからないと思われるかもしれませんが、会場に来れば、きっと楽しいものを見つけてもらえると思います。

いろんな興味の入り口になるようなイベントなので、鳥なりきのこなり骨なり苔なり…、とりあえず「楽しいな」「あのブース面白かったな」と思って帰ってもらえると嬉しいですね。

そこから一つ何か興味を持ったものがあれば、博物館に来たりサークルに入ったりして、もっと深掘りしてくれたらいいなと思いますね。

(「大阪自然史フェスティバル」の中の企画「ビオトープの生きものを探そう」にて。どんな生き物をみつけられたかな?)

横川:
同じものを見ていても、人によって視点は異なります。
100人の人がいたら、「なるほど、その考えはなかった」という意見をおっしゃる方もいます。博物館を訪問した方とそういうやりとりや交流ができるのが面白いですね。

「大阪市立自然史博物館」自体が、一方通行ではなく市民の人と学び合うという伝統があります。
最近だと大阪では見つかっていなかった植物を市民の方が見つけて持ってきてくださって、それで大阪の植物に1種類仲間が加わったということもありました。

──すごいですね。

横川:
同じ植物でも、見るたびに様子が違っていて、常々発見があります。生き物のことを全部わかっているなんてありえないんですよね。だから飽きないし、つねに探究心というか、ワクワクします。

「学芸員だから何でも知っているだろう」という前提で話を聞かれることもありますが、「ここまではわかる、ここまではわからない」という線引きをできるのがプロだと僕は思います。だから、わからないことはわからない、とはっきり言いますね。

子ども向けにワークショップも開催していますが、「博士でもわからへんって言うんや、博士にもわからへんことってあるんや」というのを持ち帰ってくれるだけでも、何か違うのではないかなと思いますね。

(ワークショップでの一枚。カラスの剥製の前で、目を輝かせて話を聞く子どもたち)

他にもいろんな取り組み

(「大阪市立自然史博物館」のミュージアムショップ。「独自の品揃えと高いサービスや品質で、お客様と博物館の双方から評価をいただいています」(上田さん))

大阪自然史フェスティバルだけでなく、子ども向けワークショップの開催やミュージアムショップ運営なども行っている「大阪自然史センター」。

上田:
自然とのつながりを広げ、深めるための窓口としてミュージアムショップの運営や、グッズの企画制作などをしています。

(2019年の新作グッズ。こちらは「虫へんサコッシュ」。ほかにはないニッチでアカデミックなアイテムが好評なのだそう)

上田:
子ども向けに開催しているワークショップは、「暗くてこわい」とか「説明が書いてあるけど読むのが難しい」といった子どもたちの博物館へのイメージを払拭すると同時に、展示をスタッフと一緒に楽しく理解することを通じて子どもたちの興味を引き出したいという思いがあります。

(こちらもワークショップでの一枚。ルーペを使って、小さなタネを観察中)

上田:
「博物館」とか「自然史」と聞くと、何か自分とはかけ離れたことのように思うかもしれません。けど、実は身近に奥深いものがあって、そこにどっぷりハマると本当にいろんなものが見えてくるんです。こんなに夢中になる「変な人」がいっぱいいるということを知ってもらうだけでも、一体何がその人をそんなに夢中にさせてるんやろう?と思ってもらうだけでも、また違ったものが見えてくるのではないかなあと思っていて、市民団体だからこその、そういう場や価値を提供していきたいと思っています。

(野鳥写真家の叶内拓哉さんを講師に迎え、長居植物園内でバードウォッチングをしているところ)

チャリティーは、フェス開催のために必要な資金となります!

(「フェスティバル継続開催に向けて、私たちならではの活動をしています。その名も『チャリティ古本市』。自然科学系の良書を次の読み手に渡す場として、おススメの自然史系の本をご寄付いただいています。フェスティバル当日の大阪自然史センターブースで販売。売上は、フェスティバル開催資金に充てるプロジェクトです」(上田さん)詳細は→http://www.omnh.net/npo/fes/2019/donation/index02.html

最後に、チャリティーの使途について上田さんにお伺いしました。

上田:
「大阪自然史フェスティバル」の運営資金に充てさせていただきたいと思っています。

「博物館」や「自然史」への敷居を低くしたいと、フェスティバルは入場無料で開催しています。
出展者さんに関しても、出展についても、企業ブースと販売ブースを除いて出展料はいただいていません。小・中学生のブースなどもあるので、できるだけ出展無料で誰でも参加できる場を続けていきたいと思っています。

とはいっても、運営にはいろいろと資金が必要です。当初は助成金や企業からの大口の支援だけで開催できていたのですが、近年、開催にあたっての資金集めが課題の一つになっています。

毎年楽しみにしてくださっている方、そして今後大阪自然史フェスティバルを通じて自然に触れ、自然を愛してくださる方たちのためにも、ぜひチャリティーに協力いただけたら幸いです。

(2018年のフェスティバルにて、学芸員、大阪自然史センターのスタッフ、学生アルバイト、博物館実習生の皆さんと記念撮影!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

「自然」とか「昆虫」って、考えてみると身近にありながら、好きでない限り、強く意識したり観察したりって、特に大人になるとあんまり無いように思います。今回、大阪自然史センターさんにお伺いして、とにかく興味のツボが刺激されっぱなし!まあ楽しい、なんと楽しい…!

フェスティバルで様々な生き物や植物に触れられるのはもちろんのこと、大人の方たちが夢中になって一つのことを追求する姿は、好きなことに熱中できる、好きなことを好きと表現できるという夢や希望(羨望)を子どもたちにたくさん与えているのだろうなと感じました。

そんな空気感も味わえる、今年の大阪自然史フェスティバルは11/16(土)、17(日)の開催。
皆さん、ぜひ!

・大阪自然史センター ホームページはこちらから
・大阪自然史フェスティバル ホームページはこちらから

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大阪に生息する様々な生き物を描きました。
具体的には、ホンドギツネ、ヒヨドリ、シマヘビ、アサギマダラ、アンモナイト、ゴキヅル。
学芸員の方にも指示を仰ぎながら、細かなディテールにこだわりました。

“Look deeper into nature.The deeper you go, the more knowledge you know”、「自然を深く観察すればするほど、たくさんの知識を得ることができる」というメッセージを添えています。

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