CHARITY FOR

「知識こそワクチン」。母子感染により胎児に影響を与える感染症、正しい知識で予防して〜トーチの会

通常は体の免疫システムが働いてくれて大きな問題が出てくることはないので意識することはほぼありませんが、目に見えないだけで、私たちは日々様々な病原体に囲まれて暮らしています。

その病原体の中には、妊娠中に感染すると、子どもに先天的な障害を与える可能性があるものがあります。

今週、JAMMINが1週間限定でコラボするのは、「先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会『トーチの会』」。
「トキソプラズマ」と「サイトメガロウイルス」という病原体の母子感染によって、障害を持って生まれてきた子どもとその家族のためのサポートと、啓発活動を行っています。

代表の渡邊智美(わたなべ・ともみ)さん(39)は、妊娠中に食べた非加熱の肉料理がきっかけで「トキソプラズマ」に感染したと推測され、子どもが障害を持って生まれてきました。

「たった一回の自分の不注意な行動が、子どもの一生に影響を与えることになり、一生母親は自責の念で苦しみ続ける。こんな経験を他の人にはさせたくありません。まずはこういった母子感染症があるということを知ることが、予防の第一歩になります。つまり、知ることがワクチンになるのです。活動を通じて、多くの人に知ってもらい、一人でも苦しむ人を減らしたい」

そう話す渡邊さんに、活動について話を聞きました。

(お話をお伺いした渡邊さん)

今週のチャリティー

【トーチの会】先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会

先天性トキソプラズマ症と先天性サイトメガロウイルス感染症に関して、妊婦とその周囲の人、医療関係者などへの啓発・注意喚起を行うほか、患者やその家族へ向けての支援も行っている。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

先天感染した子を持つ患者家族、協力会員らと啓発活動を行う

(2017年7月、日本周産期新生児医学会でトーチの会のブースを担当した会員の皆さん)

──今日はよろしくお願いします。まずは、貴団体のご活動について教えてください。

渡邊:
私たちは、「トキソプラズマ」と「サイトメガロウイルス」という病原体に母子感染したお子さんを持つ、家族の会であり、ピアサポートの他、妊婦や今後妊娠の可能性がある女性たちとその周囲の人々に向けて、この病原体について正しい知識を持ってもらうための啓発活動を行っています。

より多くの方にこの病気について知ってもらえるよう、医療関係の方や母子保健に関わる行政の方への啓発にも力を入れています。

(2014年6月、患者会交流会にて)

トキソプラズマ:ごくありふれた病原体だが、
母子感染すれば子どもに障害を与える可能性も

(先天性トキソプラズマ症の重症例。「実際はこのような見た目でわかるほどの重症例は少なく、ほとんどが非特異的な症状で気づかれにくいということがあります」(渡邊さん))

──どちらも聞き慣れない病原体なのですが、詳しく教えてください。

渡邊:
まず最初に「母子感染」を定義すると、「妊娠・分娩・授乳を通してお母さんから赤ちゃんにウイルスや細菌、寄生虫などが感染すること」をいいます。その代表的な病原体の頭文字をつなげたものをTORCH(トーチ)症候群といい、会の名前の由来にもなっています。

これらの病原体による感染は、母体での症状は無いか、あっても軽いものなので妊婦自身はなかなか気づくことができません。しかし、これら病原体によりお腹の赤ちゃんの成長・発達が邪魔されると、様々な障害を引き起こす可能性があります。

このTORCH症候群のうちのトキソプラズマとサイトメガロウイルスに焦点を絞った患者会が、私たち「トーチの会」です。

 

(TORCH症候群に含まれる病原体。現在流行中の風疹(Rubella)も含まれる)

渡邊:
実はトキソプラズマもサイトメガロウイルスも、ごく普通に存在する病原体で、ある調査では、トキソプラズマに関しては日本人の1割ほどが、サイトメガロウイルスは6割以上の人が既に感染し抗体を持っているとされています。その先天感染児も決して少ないとは言えない人数が毎年生まれています。
日本ではトキソプラズマに先天感染して何らかの症状を持って生まれた赤ちゃんは、毎年200人位、サイトメガロウイルスに先天感染している赤ちゃんは毎年3000人以上、そのうち何らかの症状が出てしまった赤ちゃんは毎年1000人、生まれていると推定されています。

トキソプラズマは三日月型をしていて、その先端にある構造物を使って細胞に入り込んでいく、小さな寄生虫です。人の体内に入ると全身に広がったあと脳や筋肉にシストと呼ばれる殻のようなものを作り慢性感染を起こしますが、健康な人であれば特に症状が出ることはありません。

(新生児が検査を受ける代謝疾患や、ダウン症などと疾患数を比較した表。非常に多いことがわかる)

──であれば、感染しても特に問題がないのではありませんか?

渡邊:
感染しても、健康であれば免疫系に抑え込まれ特に問題は起きません。トキソプラズマの場合、すでにこの病原体を持っている女性が妊娠・出産することも大きな問題とはなりません。ただ、問題なのは「妊娠中にこの病原体に初めて感染すること」なんです。

これまでトキソプラズマに感染することなく生きてきた女性が、何かのきっかけで妊娠中、お腹の中に胎児がいるときに初めてこの病原体に感染した時、母子感染が起き、胎児に流産・死産、水頭症やてんかん、網脈絡膜炎といった脳や眼の障害などをもたらす可能性があります。これが「先天性トキソプラズマ症」です。

(2016年に大阪で開かれた「髄膜炎の日 呼応イベント」でブースを出し街の人に向けて啓発を行った)

トキソプラズマの感染経路は、加熱不足の肉などが主。
外食や旅先での食事にも注意が必要

(トキソプラズマは、あらゆる動物に感染できるが、ネコの体内でだけ有性生殖ができる。ヒトへの感染経路は感染した肉を食べることと、なにかに付着したトキソプラズマを口に入れること。母子感染以外ではヒトからヒトへの感染はない(画像はトーチの会提供))

──どういった感染経路があるのですか?

渡邊:
トキソプラズマのヒトへの感染経路は、加熱不足の肉を食べるなど、経口感染が多いです。

トキソプラズマは終宿主であるネコの腸の中で増えて糞と一緒に排出されるので、「トキソプラズマ=ネコに触れて感染するモノ」というイメージが強いのですが、感染した患者さんたちに聞き取り調査を行うと、今の時代はネコを飼っていたというケースは多くはないようです。

野良ネコや外飼いのネコの糞が土や水に混ざり、そこでガーデニングをしたり家庭菜園を作ったりして、土埃や洗浄不十分な野菜を食べたりすることで経口感染することもありますが、近代化に伴って衛生面も進化し、トキソプラズマに感染しているネコの数自体が減っています。

それよりも、加熱不足の肉を食べることによる感染のほうが多いです。食生活の変化により、昔と比べると生っぽい肉料理が増えました。お肉の赤みがはっきり見て取れるような加熱不足のレアステーキやローストビーフは一般的ですし、ユッケや肉刺しなど生肉そのものや、生ハムやサラミといった加熱調理をしていない加工品も身近になりました。しかし、こういったものがトキソプラズマの感染源になり得るのです。

(2013年10月、「日本小児感染症学会」にてシンポジストとして登壇。患者の視点で啓発の重要性を訴えた)

渡邊:
旅行先での食事や外食でも、注意が必要です。
「マタ旅」と呼ばれる妊娠中の旅行が流行っていますが、いつもと異なる環境で普段口にしないものを口にしたり、触れないものに触れたりすることが感染につながる可能性もあります。

「旅先で鹿のレアステーキを食べてしまった」という相談が妊婦からありましたが、最近は日本でもジビエが流行っているので、専門のレストランも増えています。ジビエはレアステーキなど生焼けの状態が残った調理法がよく見られますし、野生動物は家畜に比べて育った環境がわからない分、リスクも高くなります。

また各地域に独特な料理もあり「妊娠中にヤギ刺しをすすめられた」という相談もありました。もちろん衛生面で発展途上な国での食事も心配です。妊娠中は、トキソプラズマに限らず、食中毒なども含めて、食品が関与する病気に対してきちんと知識を持ち、行動することが大切です。

──知識として知らないと、つい「旅行に来たのだから」「せっかくの外食だから」と口にしてしまいそうですね。

渡邊:
そうですね。あとは、妊娠中に友人の結婚式の披露宴でレアなお肉が出て「周りの雰囲気に飲まれて」「少しなら大丈夫と思って」食べてしまう、という相談もあります。本人も周囲も知識がないばかりに発した「これ美味しいから食べて!」という善意の一言と行動が、後々大きな後悔につながる可能性もあるのです。

とは言っても、病原体は目に見えるわけではないので、完全なシャットアウトは難しいです。
妊婦さんがナーバスになりすぎず、それでいて知識を持って妊娠中を過ごせるように、医療関係の方々が的確な指導やアドバイスをしてくださることも一つ重要なポイントになります。

(2016年に一般の方向けに開催した啓発のための学習会「トーチかふぇ」。夫婦や子連れの方の参加があった)

サイトメガロウイルス:日本人の半数以上は感染しているとされる

(先天性サイトメガロウイルス感染症の重症例。生まれてすぐに見た目で判断できるほどの重症例は少なく、大抵は非特異的な症状や成長してから判明するような障害が多い)

──サイトメガロウイルスの方はいかがですか?

渡邊:
サイトメガロウイルスが細胞に感染している様子を観察すると、核内に「フクロウの目」の様な特徴的な形を作ることが有名です。またウイルスの内面にゲノムを内包する「正20面体」のタンパク質の殻がある構造であることも、今回のチャリティーTシャツのデザインを見る時に知っておくと楽しい知識です。

サイトメガロウイルスの母子感染による胎児への影響は、重症の場合、流産や死産があり、また妊婦健診で行われる超音波検査で、「胎盤や胎児の発達の異常」が観察されることがあります。代表的な症状に、難聴があり、しばしば遅発性または進行性になります。また、精神運動発達遅滞、てんかん、視力障害、自閉症なども多いです。先天性サイトメガロウイルス感染症は、先天性トキソプラズマ症と症状は似ているものが多いですが、病原体も感染経路もトキソプラズマとは全く異なります。

(すでに過去に感染し抗体を持つ妊婦から生まれた赤ちゃんは産道を通るときや母乳を飲むことで感染し、無症状のままその後数年ウイルスを排出し続け、保育園などで遊びながら未感染の子どもに感染させる。未感染だった子どもの母親が未感染なまま妊娠中だった場合は、子どもが持ち帰ってきたウイルスに感染する可能性が高い(画像はトーチの会提供))

渡邊:
サイトメガロウイルスの学名は「ヒトヘルペスウイルス5型」と言い、口唇ヘルペスの原因となる単純ヘルペスウイルスや水疱瘡の原因となる水痘ウイルスのきょうだいです。日本人の半数以上は感染しているとされており、どこにでもいるありふれたウイルスです。感染経路は唾液や尿などといったヒトの体液です。

性感染もありますが最も多いと考えられるのは、乳幼児からの感染で、妊娠中に上の子を育てるお母さんや、小さな子どもと接する機会が多い保育士さんが妊娠した場合は特に注意が必要です。

──どういうことでしょうか?

渡邊:
小さな子どもたちは、遊んでいるときにお互いのよだれや鼻水がつくことなんて全く気にしませんので、そういうところからサイトメガロウイルスに感染します。
そのサイトメガロウイルスに感染した子どものお世話をする時に、母親も感染してしまうのです。具体的には、オムツ替えの時に手におしっこがついたり、子どもの食べ残しを同じスプーンで食べたり、よだれがついたおもちゃに触れた手で口や目に触れる、といったことで感染する可能性があるのです。

──我が子だと「大丈夫」となりそうですが。

渡邊:
そうですね。100%必ず感染するというものではありませんが、免疫でやっつけられないほど大量のウイルスに触れる環境であれば、当然感染リスクも高くなります。

目に見えないものなので、完全にシャットアウトするのは不可能です。神経質になるのではなく、まめに手を洗う、よだれがついたおもちゃはきれいに拭いて乾かす、アルコールで除菌するなど意識することで「大量のウイルスを体に入れない」ようにして、リスクを下げることができます。

また、だからといって上の子を遠ざけたり避けたりする必要はありません。よだれでベタベタのほっぺにキスをすることはたしかにリスクがないわけではありませんが、その代わりにおでこにキスをする、ギュッと抱きしめてあげるなど、いくらでもできる愛情表現はあります。

──知識として持っていれば、それを踏まえて対策できますね。

渡邊:
トキソプラズマによる母子感染は「妊娠中にはじめて感染する」ことが大きなポイントになりますが、サイトメガロウイルスはそうとは限りません。なんらかの事情で体の中に居たウイルスが再活性化し、胎児に影響を与えることもありますし、新たなウイルスに再感染することもあります。

ただ、妊娠中に初めて感染する方が、再活性化や再感染の場合よりも胎児に影響が出る確率が何倍も高くなります。なのでトキソプラズマの予防と同じように、やはり「初めての感染は避ける」べきなのです。

(トーチの会が作成した妊婦向けの啓発パンフレット)

知らずに口にした食材によって母子感染。
渡邊さんの後悔と活動への思い

(出産の翌日、初めて娘を抱く渡邊さん)

──渡邊さんは、妊娠中のトキソプラズマ感染によりお子さんが障害を持って生まれてきたとお伺いしました。

渡邊:
トーチの会を作ったのは、娘が先天性トキソプラズマ症だったからです。
娘がお腹の中にいる時に、妊婦健診で水頭症が見つかり、その原因として、私がトキソプラズマに初感染した可能性が高いと言われました。現在トーチの会の顧問をしてくださっている、妊婦のトキソプラズマ感染症の権威である小島先生に診てもらったところ、やはりそうだという診断が出たんです。

十分に加熱されていない肉が感染経路としてあると知り、過去の日記を見返してみると、妊娠のお祝いで行ったお店でユッケを食べたと記していました。当時はまだ規制されておらず、自由に食べることができたんです。

生魚や傷んだ食品は避けていましたが、「豚肉はダメだけど牛肉は生焼けでも大丈夫」というイメージで、軽い気持ちで口にしたのですが、これがその後の運命を変えました。

最初は受け入れられず、何故こうなったのかと自分を責めました。
悩んでも悩んでも答えは出ませんでしたが、私の場合は幸い妊娠中に判明したので、「かわいそうな子だと思ったら、生まれてきてもおめでとうと迎えてあげられなくなる」と考え、生まれるまでに気持ちをなんとか切り替えることができました。おかげで事前に準備することができ、出産後すぐに治療してあげることも、早期の療育やリハビリを受けさせることもできました。それでも我が子の障害を見るたびに「母子感染」という残酷な事実を思い出し、いつも後悔と自責の念で胸がいっぱいになってしまいます。その苦しい経験を、少しでも建設的に、誰かの役に立てたいという思いが「トーチの会」での活動のモチベーションにもなっています。

──そうだったんですね。

渡邊:
患者会のお母さんたちからは、「知識があればわざわざ生肉を食べなかった」「子どものスプーンから感染するなんて思いもよらなかった」という声が多く聞かれます。何とも感じていなかった、ごく普通の行動が、結果として感染を招き、我が子や家族の運命を変えてしまった。もし知識があれば、未来が変わっていたかもしれない、と。

(妊婦教育のために啓発パンフレットを設置・配布している病院や自治体も多い。「トキソプラズマとサイトメガロウイルスだけでなく、妊娠中に感染症から身を守るための予防法を11か条にまとめたものも記載しており、これがとても好評です。全文はトーチの会ホームページから見ることができます」(渡邊さん))

早い段階で感染がわかれば、適切な治療により
子どもの予後も変わってくる

(渡邊さん(左)と、トーチの会顧問のミューズレディスクリニック院長・小島俊行先生(中央)、長崎大学小児科教授・森内浩幸先生(右))

渡邊:
子どもの感染が少しでも早くわかれば、どこの病院で産むか、どう育てていくかなど考え準備することもできるし、早期に適切な治療を受けることができ、子どもの予後も変わってきます。

症状の重さには個人差がありますが、説明したように、トキソプラズマは網脈絡膜炎など目へ、サイトメガロウイルスは難聴など耳への障害が出やすいという特徴があります。これらやてんかん、発達障害などの症状は、生まれてきた子どもをパッと見て判断できるものではなく、子どもが少し成長してから判明することがほとんどです。しかし生まれてすぐ、もしくは妊娠中に診断がついていれば、意識して子どもに問題がないか診ようとしますし、症状の進行を止めたり改善したりする投薬や、その後の発達を促す療育も可能になります。

(2017年に翻訳出版した、先天性サイトメガロウイルス感染症の女の子を育てた米国のお母さんの手記『エリザベスと奇跡の犬ライリー: サイトメガロウイルスによる母子感染症について知って欲しいこと』(サウザンブックス社/2017年)。「TORCHの会の企画でクラウンドファンディングで出版したのですが、この中にはどうして自分が感染してしまったのか悩む様子や、我が子の障害を受け入れるまで、またきょうだい児との関わりなどが詳細に記されています。巻末には森内先生による先天性サイトメガロウイルス感染症の解説も掲載されています。ぜひたくさんの方に読んでいただきたいと思います。Amazon等で購入できます」(渡邊さん))

──いずれにしても「そうかもしれない」という知識があってこそ、検査、そして診断がくだった場合には治療までたどり着くことができるということですね。しかし妊娠した場合、母子検診で感染の有無を調べたりすることができるのではないですか?

渡邊:
妊婦健診において、トキソプラズマについては半数以上の産科施設で、妊娠初期の感染症を調べる血液検査の中に、抗体検査をもいれています。でも、サイトメガロウイルスに関してはほぼ実施されていません。妊婦が申し出たら検査する、というところがほとんどです。

とはいえ、せっかく多くの施設がトキソプラズマの抗体検査をやってくれていても、妊婦にはこれが何を意味するものなのかなど、詳しい説明をしない医師が多いというのが現状です。「陰性でよかったね」と言われ、何も考えずに喜んで過ごしていたら、その後感染して陽性になるということもあり得ます。
その陽転も早く気づくことができれば、胎児への感染予防、もしくは障害の軽減に使用できる薬を妊娠中に投薬することができます。この薬は昨年やっと保険適用になったのに、的確な検査が行われなければ、この薬の活躍の場はありません。

ただ検査をして終わりではなく、それが何を意味するのか、予防や出産後の対応はどうしたらいいのかを知らせること、そこまでが検査の意味ではないでしょうか。
ちなみにヨーロッパには、妊娠初期・中期・後期、ずっと経過を調べる国もあります。日本は初期の検査のみでその後のフォローがうまくいっておらず、検査が生かされていないという現実があるのです。

また、出生後すぐに、新生児の聴覚に問題がないか調べる新生児聴覚スクリーニングという検査を実施している施設が多くなってきています。その検査では、遅発性の難聴は拾うことはできませんが、生まれた時点ですでに難聴である子どもをふるい分けることができます。そういった難聴の可能性が高い新生児の3週間以内の尿を使用して、先天性サイトメガロウイルス感染症かどうかを調べられる検査も昨年から保険適用になりました。このように新生児聴覚スクリーニング検査の結果が要再検査だった場合、先天性サイトメガロウイルス感染症の確定診断用尿検査もセットで行うようにすれば、早期発見に繋がります。しかし、この尿検査も、まだ医師たちにも広く周知されてるとは言えず、もったいない状況です。

(2015年5月、「日本小児耳鼻咽喉科学会」にて。「シンポジウムに参加し、産婦人科小児科と耳鼻咽喉科の連携をもっととってほしい、そして見逃しを減らすためにも新生児聴覚スクリーニングとサイトメガロウイルス感染症の確定診断用尿検査の活用をもっとして欲しいと訴えました」(渡邊さん))

行政や医療関係者への啓発も重要課題。
「知ること」こそがワクチン

(衆議院議員会館に陳情に訪れたことも。三ツ林裕巳衆議院議員に、母子感染症の啓発を国主導で行う必要があることを説明した)

渡邊:
パンフレットを作り、産婦人科など妊婦さんが訪れる場所に置いてもらっていますが、一人ひとりに啓発するには限界があり、医療関係者や行政へのアプローチも重要だと捉えています。

何度か陳情にも訪れていますが、現在も母子手帳や厚生労働省のホームページにも、未だ妊婦へのトキソプラズマとサイトメガロウイルスに関する注意喚起はありません。
いくつかの自治体では、妊婦向けの副読本などの資料に記載してくれていて、そういった地域では妊婦さんたちは知ることができますが、全自治体がそうしているわけではないので、妊婦さんの持つ情報量に地域差が生まれてしまいます。

産婦人科の先生であっても、まだまだこの病気について知らない方が多く、そのために診断が遅れたり、ミスリードを招くといったこともあります。専門知識を持って出産、産後までを見守る立場なので、正しい知識で妊婦さんをリードして欲しいと思っています。

──知ることに大きなハードルがあるのですね。

渡邊:
これらの病気にワクチンはありません。知ること、知識こそが何よりのワクチンです。

(2018年、東京の某区での全戸訪問従事者向け母子保健講習にて講師を務めた)

感染症がよく知られていないが故の
入園拒否など二次的な壁も

(2016年6月、「小児保健協会学会」でブースを担当した会員の方。「自らが経験した入園拒否の不必要さ、周囲の無理解について、医療関係者らに知ってもらうために声を上げてくれました」(渡邊さん))

渡邊:
患者会の中でご家族とやりとりする中でわかったことが、「先天性」や「感染症」という名前がついているだけで、役所や園側が「何が起きるかわからない」と子どもの幼稚園や保育園の入園を拒否するケースがあるということです。

診断書を持参してもダメで、説明資料を作り、保育園で何度も説明会を開催して1年越しで入園にこぎつけたこともありました。中には入園はしたものの、隔離保育されていた子どももいました。これも、正しくこの病気が理解されていないが故に起きる現実です。

健康な園児たちの多くが普通にこのウイルスを唾液や尿に排泄しているのに、先天性サイトメガロウイルス感染症の子どもやその母親を特別視するのはおかしなことです。しかも、インフルエンザのように飛沫感染することはないのです。唾液や尿に触れた手を介してしか感染しないので手洗いをきちんと行うことで予防できます。感染者を差別したり隔離したりしても無意味で、何の効果もないことを理解してほしいです。感染している子どもやその母親への差別・偏見は傷つけるだけです。

──多くの人がこの病気を知り、理解することが大きな前進につながりそうですね。

渡邊:
なってしまったことは変えられません。でも、後ろを向くのではなく、当事者として経験を発信していくことが、これから生まれてくる命を知識で守り、同時に、既に存在する患者たちが差別されることなく生きやすい世の中にしていくためには、必要なことだと信じています。

(交流会の様子。「当事者にしかわからない苦労や経験を、当事者仲間と話すことで孤独感から救われ、いろいろな話を聞くことで希望を持つことができます」(渡邊さん))

チャリティーは、感染症啓発のポスター・パンフレットを一人でも多くの方のもとへ届けるための資金になります

(トーチの会が作成した3種のポスターには感染経路や予防法などについて要点がまとめて書かれており、病院待合室や保健所に掲示される機会が増えてきたという。啓発パンフレットとこのポスター3種を初回無料セットとして全国の医療施設や保健所などに配布しているほか、これらはすべてTORCHのホームページから無料でダウンロードすることが可能。ダウンロードはこちらから→https://toxo-cmv.org/download/

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

渡邊:
トキソプラズマとサイトメガロウイルス啓発のためのパンフレットやポスターを、希望があった産婦人科、小児科や保健所などに「初回無料セット」として届けています。妊婦さんに手にしてもらうためのパンフレット100枚・ポスター3枚で1セットで、プラス送料で1つの箇所に届けるには1,180円が必要です。今回のチャリティーで、このセットを50の箇所に届けるための59,000円と、医療関係者に向けての啓発のための、1回の学会展示の必要な経費(資料印刷、備品や配送費)50,000円、計109,000円を集めたいと思っています。

この感染症について一人でも多くの方に知ってもらえるよう、ぜひチャリティーにご協力いただけたら幸いです。

──貴重なお話、ありがとうございました!

(2018年8月、「日本周産期新生児医学会」での出展にて、顧問の森内先生を囲み、会員の皆さんと!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

「あの時、こうすればよかった」という後悔は、誰にも経験があるのではないかと思います。それが自らの意志・選択によるものでなく、知識がないが故の行動だったらどうでしょうか。さらにその行動が家族の未来を変えてしまったらどうでしょうか。自責の念にかられるお母さんの気持ちを想像すると、胸が痛くなります。しかしそこに止まらず、悲しむ人を減らしたいと経験をバネに活動する渡邊さん。まさに「トーチ(松明)」のように未来を照らす光になるのではないかと感じました。

・先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」

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三日月にとまるフクロウを描きました。
トキソプラズマが三日月の形(その内部には核やミトコンドリアなどの構造物も)を、月の周りに光る六角形(実際は正20面体)はサイトメガロウイルスの芯の部分を示しています。同時に、月明かりの中を導いてくれるフクロウのように、正しい知識を伝えていくことで、暗闇の中を照らしていくトーチの会の活動を表現しました。

“The light shines in the darkness, and the darkness has not overcome it”、「光は暗闇を照らし、そして暗闇が光に打ち勝つことはない」というメッセージを添えています。

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