今週、JAMMINが1週間限定でコラボするのは、兵庫県西宮市を拠点に活動するNPO法人「ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン(以下「PFLJ」)。行き場を失った犬猫を保護し、豊かな愛情を注ぎ、新たな里親へとつなげる活動をしています。
「団体の特徴は、アットホームである点でしょうか。ペットたちが譲渡の後に暮らしていく環境を考えて、なるべくごく一般の家庭に近い環境で生活しています。一般の家庭で飼い主さんと信頼関係を築き、愛されながら暮らしていくにはしつけが必須。保護できる頭数は少ないながら、また保護施設から引き取りたいと思ってもらえるように、しっかりとしつけをして譲渡しています」。
そう話すのは、事務局長の石本理佐子(いしもと・りさこ)さん(31)。
今回はPFLJさんにお邪魔して、活動についてお話を聞きました。
(お話をお伺いした、PFLJ事務局長の石本さん。保護犬のダンちゃんと)
NPO法人ペッツ・フォー・ライフ・ジャパン(PFLJ)
兵庫県西宮市を拠点に、人間と共に暮らす動物たちの幸福を願い、行き場を失った動物を保護し、里親を探す活動を行いながら、「命の大切さ」を伝えるために子どもたちに向けて教育活動や啓発活動を行っている。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
7月のある日。静かな住宅街の中にあるPFLJさんのシェルターにお邪魔しました。
元はコンビニだったという建物は、閑静な住宅街の一角にあり、目の前には小学校があります。
「近隣が住宅で囲まれているからこそ、犬たちの鳴き声などの騒音やにおいにはかなり気をつけています」と石本さん。
シェルターに一歩足を踏み入れると、明るく開放的な空間が広がっています。
私たちが訪れた際は、ちょうど入ってすぐの場所にあるサークルでマナー教室が開催されていました。
石本:
行き場を失った犬猫を保護する傍ら、飼い主さんとそのペットを対象に「犬のマナー教室」と、飼い主さん不在時に犬を預かる「犬の保育園」も運営しています。
人間がペットを手放す理由はいくつかありますが、吠える・鳴く・噛むといった問題行動や、日中仕事などのためにお世話ができないからというのも理由のひとつ。不幸な命を減らすために私たちができることを行っています。
(犬のマナー教室の様子。「飼い主さんが愛犬と一緒に参加し、生活していく中で必要なしつけを人と犬がコミュニケーションを図り、褒めるしつけでお互い楽しみながら絆を深めています」(石本さん))
マナー教室が開催されているサークルの横を抜けて、奥にある部屋にお邪魔しました。現在保護している4頭の犬と飼い主さんから預かり中の犬たちが、それぞれ大人しくケージの中でお休み中。ケージの上には、一つひとつ布が掛けられています。
(布が掛けられたケージ。保護犬のほかにも、飼い主さんから預かりをしている「犬の保育園」の仔たちもそれぞれのケージの中にいます)
石本:
人間も、ホテルの部屋のドアが開きっぱなしで廊下から清掃員の方やほかのお客さんが見えたらすごく気になりますよね。犬も同じ。こうやって布をかぶせることで、「ここは安心できるスペースなんだ」「自分の空間なんだ」と犬たちが感じることができます。
さらにここには小さな個室が二つあって、片方の部屋ではスタッフさんが預かり犬のトリミングをしている最中でした。
( …カメラ目線!)
普段、この小部屋には保護して間もない犬や見守りが必要な犬たちが入るといいます。
すぐ隣がスタッフの休憩室になっており、窓からいつでも犬の様子が伺えるようになっています。「何かあったときにすぐに対応できるようにするため」と石本さん。
PFLJのスタッフは交代で勤務し、24時間、必ず誰かがついて犬を見守れるよう体制を整えているのだそうです。
(奥の個室。奥に見えるドアがスタッフの休憩室で、休憩室の窓から個室を覗けるようになっています)
(犬が入っているケージは、ステンレスではなくプラスチック製の物を使用。「ステンレスは冷たく、落としてしまった時の音なども大きく気になるので、プラスチックのケージを使用しています。扉もしっかりしていて格子が細かく、もし地震が起きても、上から落ちてきたものが動物たちを傷つける心配もありません」(石本さん))
ひときわ大きなケージに入っていたのは、2歳の「ダン」ちゃん。聞くと、動物愛護センターから1年前にやってきた犬だといいます。
(カメラにも興味深々!)
石本さんがケージを開けると、嬉しそうに中から飛び出してきました。よく、初めて会う犬には吠えられることがほとんどなのですが…そんな様子は微塵もなく、初対面の私たちにも興味深々。うれしそうに周りをぐるぐるしたり、ぴょんぴょん飛び跳ねていますが、決して飛びかかったり噛んだりすることはなく、石本さんが「待て」「伏せ」というと、ピタッと従います。
(「あご」というと手に顎を乗せるダンちゃん。保護犬たち1頭1頭としっかりアイコンタクトをとることを大切にしているそう)
興味津々で寄ってきて顔を舐めたり体をすり寄せてきてくれるのですが、それもこちらを伺いながら、彼なりに「甘えていいかな?」とこちらの反応や距離感を探っているような聡明さも感じます。
(「ポーズ!」と石本さんがいうと、手をクロスに!すごい!)
石本:
どこを触られても噛んだり吠えたりしないように、一頭一頭保護した時からしっかりしつけをしています。
ダンの場合は今2歳でほぼ成犬なのですが、生まれて間もない犬の場合は、ごはんもすべて人の手からやるようにしています。「人間の手が自分の前に出てきたら、それは何かいいことなんだよ」ということを知ってもらうためです。
(幼犬のごはんの様子。一握りずつ、手からフードを与えます)
石本:
ここで過ごす保護犬猫たちは日課として、健康チェックや歯磨き(犬の場合)、ブラッシングやハウストレーニング、トイレトレーニング、社会化(犬や人と遊ぶ)などを行っています。シャンプーや爪切りもタイミングを見てやっています。
(ちょうど、PFLJを卒業した犬が飼い主さんと一緒に遊びに来ていました。元気だった〜?と声をかけながら、爪を切るトレーナーの朝井さん。ここを卒業した多くのワンちゃんたちが、よく飼い主さんと一緒に訪れてくれるのだそうです)
石本:
しつけに関しては「ほめてしつける」ことをとても大事にしています。
ここにいる保護犬はもちろん、マナー教室で飼い主さんに学んでもらう際にも「褒めてしつける」ことを徹底してもらっています。
(壁に書かれた1日のスケジュール。窓拭きやハウスの掃除からスタートし、犬猫のケア、お散歩、備品の洗浄などを毎日欠かさない)
(現在保護している犬たちのトレーニング表。「ハウス」「(歯磨き・ブラッシングなどの)ケア」「アイコンタクト」「おすわり」「伏せ」…いろんな項目がそれぞれ「練習スタート」「あともう少し」「完ぺき!」の3つの段階で評価されています)
さて、玄関入ってすぐのサークルのある部屋に戻ると、マナー教室が終わり、犬たちがサークルの中で遊んでいました。PFLJの保護犬だけでなく、飼い主さんからの預かり犬たちも一緒です。犬たちはじゃれあったり、ゆっくりしたり、思い思いの時間を過ごしていました。
こうやって何頭かをサークルで一緒に遊ばせることは、犬にとって運動になるだけでなく、社会性を育むことにもつながるのだそう。犬同士で遊ぶ際のルールやトレーニングも、ここで身につくといいます。
(1日2回の散歩のほかに、室内での運動も欠かしません。トレーナーさんと遊ぶ犬)
PFLJは、保護する犬猫の数を犬は10頭、猫は5匹までと限定しているそう。
石本:
2000年に活動を始めた当初、自分たちのキャパシティとできることを考えた時に、そしてこの先々殺処分数が減っていくのではないかということを視野に入れつつ、「近い将来ペットショップからでなくシェルターから犬を引き取るというかたちに目を向けてもらうためには、きちんとしつけされた犬であることが大事だ」との思いから、限られた数ですが、しっかりと愛情を注いで譲渡へとつなげています。
ここで犬猫の譲渡を受けた人たちが、周囲のペットを飼いたい知人や友達に「保護犬猫もいいよ」と口コミで広めていってもらえるように、一頭一匹に丁寧に丁寧に接し、これまでの19年間で譲渡した犬猫の数はおよそ970頭になります。
(猫部屋の上には、猫専用通路が。この日は何匹かの猫が、冷房の風が一番よく当たる、涼しい場所で寝そべっていました)
「たくさんの数ではないかもしれないけれど、私たちができる限りのことをやりたい」と話す石本さん。その言葉を裏付けるかのように、スタッフさんやボランティアさんがたっぷりと犬猫に愛情を注ぎながらお世話したり、一緒に遊んだりする姿が印象的でした。
(PFLJの犬猫たちは、いつ保護した仔かが名前でわかるよう、アルファベット順に名付けられているのだそう)
ここからは、活動について石本さんにお話を聞きました。
──石本さんは、どういうきっかけでPFLJで働かれるようになったのですか?
石本:
一番大もとのきっかけをたどると、1995年1月17日の阪神・淡路大震災での体験です。
当時、私たち一家は神戸市須磨区に住んでいました。震災で自宅は半壊し、7歳だった私は家具の下敷きになり、幸運にも家具と家具との間に挟まったために一命を取り留め、なんとか引っ張り出してもらってやっと逃げることができました。しかし自宅には住むことができなくなり、私たち一家は知人の元、飼っていた愛犬の「なな」は祖母の元へ、離れ離れで暮らさざるを得なくなったのです。
(愛犬「なな」と石本さん。石本さんの10歳の誕生日にて)
石本:
一緒に暮らせない間、とても会いたかったし、そばにいなくて寂しかった。いかに彼女が家族の一員であるかを強く感じさせられました。同時に、子ども心に何もできない無力感も感じました。
そんな時に震災で被災した犬をレスキューし、里親を探して譲渡する活動をしている人がいることを知り、すごいと思いましたし、必要な活動だと感じました。
──そうだったんですね。
石本:
祖母の家にいた「なな」は、家の中では飼うことができず、外飼いでした。私たちの家ではずっと家の中で一緒に暮らしてきたので、そのことも常に心配でした。「ハウスの練習をしておけば、一緒に避難できたのに」とも思いましたね。今保護している犬たちは、皆ハウスに入りますし、新しい環境でも吠えたり噛んだりしないように訓練しています。
──体験が生かされているんですね。
石本:
社会人になり、最初は別の仕事に就いたのですが、たった一度の人生、やはり犬猫に携わる仕事がしたいと探していた時に、ボランティアさんからPFLJを教えてもらい、理念に深く共感し、ここでスタッフとして働くようになりました。私から犬をとったら何も残らないんです(笑)。本当に、天職に巡り会えたと思っています。
特に専門的に学んだわけではなかったので、ここで本当にいろんな勉強もさせてもらいました。
──どんなときにやりがいを感じられますか?
石本:
一番はやはり、譲渡した時でしょうか。
私にとって犬、動物はかけがえのないもの。それを誰かにも提供できるというのは、本当にすごいことだと思います。
ペットを飼い、そこから10年20年共に暮らすというのは、飼い主さんの生活、そして人生を変える大きな出来事。そこに携われるというのはすごいこと。大げさかもしれませんが、結婚の仲人のような思いです。
(2018年に譲渡した「茶々丸」。「20kgを超える大きさでなかなか里親が見つかりませんでしたが、姫路の街頭活動で茶々丸を見かけてくださったことをきっかけに、新しい家族として迎えていただくことができました。譲渡後も遊びに来てくれたり、お母さんと出会った姫路で街頭活動のお手伝いをしてくれています」(石本さん))
──まさに「家族」なのですね。
石本:
そうですね、それがまさにPFLJの主旨です。
ここを卒業した犬が飼い主さんと一緒によく遊びにきてくれるのですが、里親さんに尻尾を振りながら一緒に帰っていく姿を見ると本当にうれしくなりますね。ここで過ごした時間も良い思い出だけど、そこにすがらずに飼い主さんと新しい時間を過ごしてくれているんだな、と感じます。
(新しい家族を見つけた卒業犬猫たちの写真)
(「いのちの授業」の様子。「子どもたちに動物への正しい接し方や飼育方法を教え、慈しみと思いやりの心を伝えています。子どもとの触れ合いには認定試験に合格したドクタードッグがボランティアとして参加してくれるので安心して触ることができ、犬にも感情やぬくもりがあることを学びます」(石本さん))
──保護活動とは別に、保護犬を通じて子どもたちに「いのちの授業」を開催されているそうですね。これはどういったものなのですか?
石本:
団体を立ち上げたメンバーの中に子ども関係の仕事に就いていたスタッフがおり、犬猫を保護するだけでなく、人間よりも小さないのちの存在を通じて、子どもに何か伝えられることができるのではないかと感じ、主に小学生を対象に年に数回開催している授業です。
昨年から、高学年の子どもたちに「保護動物ってなんだろう?」というテーマでもお話をさせてもらうようになりました。
犬と触れる中で、相手を観察し、相手の気持ちを理解し、そして相手を思いやる気持ちを養う機会になればと思いながら、子どもたちが集中力を切らさず、楽しく授業に参加してもらえるよう様々な工夫を凝らしています。
「犬を飼ったことがない」「犬が苦手」という子どももいますが、動物との触れ合いが心のどこかに楽しい思い出として残り、将来、どこかで役立ってくれたらと思っています。
(シェルターの中では、犬と猫も仲良し。触れ合うことで、社会化の訓練につながる)
(街頭活動での1枚。「PFLJをより多くの方に知っていただくために事業の紹介や触れ合いの啓発活動を行っています。活動には保護犬のほかにも、譲渡して幸せになった犬や、しつけ教室の参加者さんなどがボランティアとして、愛犬と一緒にご参加して下さっています」(石本さん))
──読者の方に向けてメッセージをお願いできませんか。
石本:
保護犬猫に「かわいそう」というイメージを持っている方も少なくないと思います。中には「かわいそうすぎて、シェルターなんてとても足を運べない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。でも、少し見方を変えて彼らのことを見てもらえたらと思います。
(新しい里親さんが見つかり、シェルターを離れる際には一頭一匹に卒業証書が手渡される。犬の表情も誇らしげ…?!)
石本:
動物たちは前へ前へと進もうとしています。過去にとらわれるのではなく、過去がどうであれ「これから幸せになろうね」という目線で見てもらえたらうれしいなと思いますね。
動物保護に取り組まれている様々な団体さんのいろんな努力があります。
いろんな情報が飛び交う中で、それを鵜呑みにするのではなく、実際に現場に足を運び、目で見て、肌で感じて、ご自身で判断してもらえたらいいなと思います。
(保護された4頭のきょうだい。この後それぞれに里親さんが見つかり、PFLJを卒業した)
(年に一度開催される卒業犬たちの同窓会「リホームドッグ同窓会」にて、再会した4頭のきょうだい)
(行き場を失った高齢犬をボランティアが預かる「老犬フォスターファミリー」制度。現在推定12歳のマルチーズ「うらら」を保護している。「保護された高齢犬はファミリーの愛情を受け、充実した余生を送ります」(石本さん))
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
石本:
ゆくゆくは新しいシェルターを建設したいという夢があり、そのために少しずつ準備を進めていますが、候補地を現在探している途中で、資金の問題もあり、こちらについては、実現はまだ先になりそうです。
現在の施設は老朽化が進んでおり、フローリングの剥がれや、エアコンも随分古くなって空調管理しづらいといった問題が少しずつ出てきています。今回のチャリティーは、保護動物たちの生活の質を上げるため、施設の環境整備の資金として使わせていただきたいと思っています。ぜひ、チャリティーアイテムで応援いただけたら幸いです。
──貴重なお話をありがとうございました!
(取材の最後に、保護犬猫とスタッフの皆さんをパチリ!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
アットホームな雰囲気が魅力的なPFLJさん。
犬や猫たちが全然怯えたり怒ったりすることなく、とてもリラックスした表情を浮かべているのが印象的でした。保護犬たちと接する際の石本さんやスタッフさんたちも、一時的に保護しているというよりもまるで本当の飼い主のようで、互いの信頼関係がとても強く感じられました。
そしてまた、「特に意識している」というクリーンな室内。隅々まで清掃が行き届いていて、とても心地よい空間でした!
靴の周りで自由にくつろぐ犬猫の姿を描きました。人と犬猫が共に幸せな時間を過ごし、そして一生のパートナーとして、愛し愛される未来に向けての一歩を歩み出そう、という思いを込めています。
“Compassion is passion with heart”、「思いやりは、心からの情熱」というメッセージを添えました。
Design by DLOP