小児がんを経験した子どもたち。退院して通常の生活に戻ってからも、彼らは様々な不安や悩みを抱えて生きています。
今週、JAMMINが1週間限定でコラボするのは、NPO法人「にこスマ九州」。
小児がんやそれに準ずる病気を経験した子どもたちが当事者同士で集い、互いの経験や思いを共有する場づくりを行うNPO法人です。
団体代表の白石恵子(しらいし・けいこ)さん(42)は、臨床心理士として、数多くの小児がんの子どもたちと触れ合ってきました。
「社会では“小児がん”というとすごく大変な病気、死んでしまう病気というイメージがまだまだ先行していると感じます。医療が発達した今、小児がんは必ずしも命を落とす病気ではなくなってきました。治療後の子どもたちが社会でどのように生きていくのか、困った時に頼れる場所はあるのか…。気軽に相談できる人や場所がないという問題も出てきています」
そう指摘する白石さん。地域に開かれたコミュニティーを通じ、病院ではケアしきれない広いサポートをしたいと語ります。活動について、お話をお伺いしました。
(お話をお伺いした白石さん(左))
NPO法人にこスマ九州
小児がん経験者とその家族が集い互いの経験や思いを共有しながら、病気を乗り越えて自分らしく社会で活躍できる社会を目指すと同時に、小児がんへの偏見をなくすために啓発活動を行っている。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(2018年8月に開催された小児がん経験者が集まるキャンプ「にこスマキャンプ」での集合写真。九州各地から31名の子どもたちが集まり、スタッフも含め総勢80名でのキャンプになった)
──今日はよろしくお願いします。まずは貴団体のご活動について教えてください。
白石:
小児がん経験者を支援している団体です。活動内容は大きく4つに分かれています。
一つ目が、団体を立ち上げるきっかけにもなった、当事者が集まるキャンプ「にこスマキャンプ」です。小児がんの治療の間、自然に触れ合えなかったり、集団生活の経験が少ない子どもたちに、自然の中でのびのびしながら仲間づくりをしてもらえたらと思って始めた活動です。
現在は春にデイキャンプを、夏にはお泊まりしてのキャンプを実施しています。参加できるのは子どもだけで、ここには病気のために甘やかされがちな子どもたちの自立を図るという目的もあります。
──なるほど。
(小児がん経験者の子どもとその家族が集まる「家族の集い」でのワンシーン。スイカ割りを楽しむ当事者ときょうだいたち)
白石:
二つ目が「家族の集い」です。キャンプは当事者だけが参加できるものですが、親御さんやきょうだいさんも参加したいという声があって始めた活動です。
三つ目が「にこトーク」という17歳以上の経験者が集って話せる場です。「にこスマキャンプ」にも参加してくれるのですが、多感な時期の若者たち、社会に出たばかりの小児がんや若年性がんの経験者が、他の人には相談できない悩みや思いを語り合える場です。
4つ目が、小児がんに対する正しい知識を広めるための啓発活動です。
小児がんのことをきちんと理解してもらうことができたら、良き理解者にもなってもらえると思っていて、広く一般の方に小児がんのことを知ってもらえるように活動しています。
(「にこスマ九州」では、毎年小児がんを経験した子どもたちが描いた絵を集めて啓発カレンダーを制作・販売して啓発活動を行なっている。「コストコホールセールジャパン」の店舗にて、ブース出店の一枚)
(「にこスマキャンプ」での一枚。班対抗のゲームで、みんなで協力してクイズの答えを考えているところ)
──小児がんを取り巻く現状は、どのような課題を抱えているのでしょうか。
白石:
私は九州がんセンターで働いています。院内では日常的に小児がん患者と出会います。しかし、一歩外に出ると当事者と出会うことは滅多にありません。学校でクラスのお友達が小児がんと聞いたとき、何か特別扱いしなければいけないと感じる方も多いです。
小児がん経験のある子どもたちの中には、内服で継続治療を何年もしていたりして免疫力が弱くなっていることから、予防のためにマスクをしている子がいるのですが、「うつる病気だからマスクをしているのかと思った」といわれたという話を最近聞きました。小児がんはまだまだきちんと理解されていないんだなと感じましたね。
子どもが小児がんで入院してきたばかりの親御さんと話をしていても、かなりネガティブなイメージを持たれているなと感じます。
(「にこスマキャンプ」では、病気のことや学校、進路のことなどを話す時間が設けられている)
──小児がんに対してネガティブなイメージができてしまっているということですね。
白石:
そうですね。メディアで取り上げられるのはほとんどマイナスなケースなので、必要以上に大げさな感覚があるとは感じています。
大人のがんも同じですが、病気になったからと言ってすぐに死ぬわけではないし、何もできないわけではありません。配慮が必要なことはありますが、治療中も寝たきりで何もしていないわけではなくて、本人が本人らしくいる時間もあります。小児がんの子どもたちも院内で多分皆さんが思われる以上に遊んでいるし、勉強もしています。そういうイメージがまだまだないと感じます。
(「にこスマキャンプ」の自由時間。トランプなどのゲームをしたり外で遊んだりと、久しぶりに会う仲間と楽しい時間を過ごす子どもたち)
(近況や自分の想いや悩みなどをみんなで共有する「にこトーク」。真剣な表情で話をする若者)
白石:
治療の飛躍的な進歩もあって治療成績は昔にくらべてずっと良くなりました。小児がんで一番多いのは急性リンパ性白血病という血液のがんですが、7〜8割は治る時代になってきています。
ただ、治る病気になってきた一方で、10年、20年経ってから治療による影響が身体の症状に現れる晩期合併症というものがあります。多くは生活の質(QOL)に関わるものですが、中には初めにかかったものと別のがん(二次がん)など生命にかかわるものもあり、注意が必要です。さらに心の問題として、小児がんを経験した子どもたちが社会に出て行く時に、たとえば就職や恋愛、結婚や出産などで抱える不安や悩みをどうサポートしていくかといった課題が出てきています。
体のことは病院へ行くことができるけれど、心のことは気軽に相談できる場所がなかなかありません。私たちのような団体の存在が、何か彼らの支えになればと思っています。
──どのような悩みがあるのでしょうか。
白石:
17歳以上の小児がん経験者が集まって思いを共有する「にこトーク」では、小さい頃に小児がんを経験した子が彼氏ができて、「小児がんの経験を相手にいうべきだろうか?」という不安だったり、就職の際に会社に病気のことを伝えた方が良いのかといった悩み、治療のために大量の放射線を受けた女性が妊よう性(妊娠のしやすさ)がないことを、自分とパートナーの間では理解していても、パートナーの親御さんにどう伝えるべきかといった相談をされる方もいます。
──経験を抱えて社会で生きていかなければならないのですね。
(「にこトーク」での一枚。「小児がん経験者あるあるや楽しい話もたくさんしています」(白石さん))
(2010年3月、はじめて開催された「にこスマキャンプ」の写真。「参加者とスタッフ全員で行なったジャンケン列車で優勝した男の子の笑顔です。にこスマキャンプはここから始まりました」(白石さん))
──周囲の人が意識できることはあるでしょうか。
白石:
難しいところではあるのですが、ずっと配慮が必要なわけではないんだけど、時期によって配慮が必要ということを知っておいてもらえたらと思います。ここは微妙さを抱えていて、配慮してほしい反面、何もない人として扱ってほしいというアンビバレントな感覚が存在します。
ただ、がんだからといって特別扱いしてほしいわけではなくて、今まで通り、これまでと同じように接してほしいという話は患者さんからよく耳にします。
──過剰になりすぎないということですね。
白石:
そうですね。なぜかがんになると、皆さん相手に聞いていいのかをすごく悩まれると思っていて、たとえば「うちの子が熱が出た」とか「主人が糖尿病でね…」というと「大丈夫?」という反応だと思うのですが、がんになると病気のことを聞いていいのか多くの人は悩みますよね。やっぱり何かタブーに触れてはいけないような雰囲気になると思っています。がんが社会でもって「普通の病気」になってくれたらと思っています。
──確かに。「二人に一人ががんになる時代」と言われているのに、ですね。
白石:
「がん=死」というイメージや、ひと昔前の痛い痛いと苦しむ治療のイメージ、副作用のイメージがまだまだ強いと感じています。もちろん痛みや苦しみがないわけではありません。しかし、小児がんは治療して、そのまま社会に出られる時代にもなってきています。がんがもっと普通の病気になれば、もっと生きやすい社会になるのではないでしょうか。
(「にこスマキャンプ」で、毎回皆が楽しみにしているBBQや流しそうめん。「非日常な空間で、外でみんなと一緒に食べると、より一層楽しくて美味しい!」(白石さん))
(「にこスマキャンプ」は子どもの保護者は参加できない代わりに、サポートスタッフがマンツーマンで子どもたちに寄り添う)
──これまでのご活動の中で、白石さんが特に印象に残っている方はいらっしゃいますか。
白石:
一人ひとり、本当に思い出深いのですか…にこトークに1度きてくれた若い女の子が印象に残っています。彼女は学校を卒業してから就職できず、自宅にいることが多くなっていました。主治医の先生が何度か活動に誘ってくれていたのですがなかなか来ることができず、やっと初めて顔を出してくれたんです。一生懸命自分の思っていることを話している姿が印象的でした。
それまで彼女は、小児がんになった自分のことを「社会から差別されている」と感じていたようです。しかし、同じように小児がん経験者であるみんなの意見を聞いて「あっ、私は悲劇のヒロインじゃないんだ。なんでもしたいことをやっていんだ、できるんだ」と思ったそうで、このトークに参加した後、すぐに就職して、その数ヶ月後には「東京に行きたい」と周囲の心配をよそに一人暮らしを始めたんです。
にこトークに参加して話をしただけで、「私はがんだからできない」という呪縛から解き放たれたんですね。輝いて社会へと羽ばたいていった彼女を見てよかったと思う一方で、医療者としては「医療現場での私たちの努力は一体なんなんだろう」とさみしくも思いますが(笑)、仲間の存在があること、他の人の経験やアドバイスを聞いてみること、それは本当にすごく大きな力があるんだということを改めて感じさせてくれた出来事でした。
(「家族の集い」にて、シャボン玉で遊ぶ子どもたち)
(活動を始めた当初の一枚。2010年に行なった「にこスマキャンプ」にて、BBQの様子)
──団体を立ち上げられて10年ですが、白石さんのモチベーションを教えてください。
白石:
なぜでしょうね?!やり始めたからには、続けてやるか!という感じですね(笑)。ただ、活動する中で、にこスマ九州があることがいろんな人にいい影響を与えているんだなという実感はあります。
団体として何かを発信するということももちろん大事なのですが、団体の存在が誰かの助けになっているということだったり、ここに集う子どもたちがみんな楽しそうにしている姿を見ると、やり続けないといけないなと感じますね。
「10年やらないと結果はでない」と思って活動をスタートさせました。
少しずつですが「にこスマ九州ってこんな場所」という場ができてきているように感じています。今後もっとも層を厚くしていく必要があると思っていますが、大きな花火を一発打ち上げるのではなく、細く長く、活動を続けていけたらと思いますね。
(昨年11月、京都で行われた国際小児がん学会(SIOP)にて。「ブース出展し、海外の方にも活動を紹介しました。その他にも学術集会でレモネードスタンドなどの啓発活動も行なっています」(白石さん))
──こういった活動は都心部に集中しているように思うのですが、九州でのご活動にこだわられるのは何か理由がありますか。
白石:
そうですね。どうしても東京や大阪に集まりがちですが、私は普段九州がんセンターで働いているので、九州でもあった方がいいなという思いです。
私、本当は東京の大学に通う予定だったんです。当時、福岡には何もありませんでした。希望の大学に落ちてしまい、仕方なく福岡に残り、そこからいろんなものが入ってきて福岡も都会になりましたが、「東京や大阪ではできて、福岡や九州に住んでいるからできない」は嫌だなという思いもあります。
キャンプなどの集いを通じて子どもたちが元気になって、ここが明日への活力となってくれたら、それ以上に嬉しいことはないですね。
(過去に「にこスマキャンプ」に参加した子どもが、大きくなって今度は運営の立場でキャンプを支えているという。「今年のキャンプリーダー(写真右)は最初のキャンプを開催した時、まだ小学5年生でした。2人とも参加者という立場から、現在は運営スタッフとして、子どもたちのお手本として活躍してくれています」(白石さん))
(「立ち上げの時からの運営スタッフ、中高生で参加した子たちが運営スタッフやサポートスタッフとして支えてくれています。現在参加してくれている子どもたちも、いつかスタッフとして活躍してくれることを期待しています」(白石さん))
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
白石:
毎年開催している小児がん経験者の交流キャンプ「にこスマキャンプ」のための資金として使わせていただきます。
今年で10回目の開催になるこのキャンプは、小児がん経験者の若者たちが運営を担ってくれています。医師や看護師も同行しますが、当事者だった若者たちが、自分たちが子どものときにしてほしかったこと、やりたかったことをやろう、という話を団体立ち上げ当初から話しています。
──そうなんですね!
白石:
毎年キャンプで何をやるかも彼らが企画してくれていて、これまでにはキャンプファイヤーだったり、過去にはエコバッグやフォトフレームを作ったりもしました。レクリエーションがあることで子どもたちがより楽しみ、つながりが生まれるきっかけにもなりますし、活動して10年経ってくると、過去に参加した子どもが大きくなって運営スタッフとして参加してくれて、参加してよかった体験を思い出してプログラムを考えてくれたりもします。
──うれしいですね。
(小児がんの啓発活動として、博多駅前で小児がん支援につながるレモネードスタンド活動も行っている)
白石:
そうですね。当事者として皆同じような経験を持っているので「これはちょっとしんどいから、こうしよう」とか「これだともっといいんじゃないか」という話しが自然と生まれていて、頼もしく感じています。人のためを思い、考え、行動すること。当日困らないように準備を進めていくこと。彼らが社会に出る上で、大きな経験になるのではないかと思っています。
ぜひ、コラボアイテムでチャリティーにご協力いただけたら幸いです。
──子どもたちにとっても、成長した若者たちにとって、キャンプが成長の場になるんですね!貴重なお話、ありがとうございました。
(月に1回ぐらいの頻度で運営スタッフが集まり、キャンプやイベントの企画会議を行っている。運営スタッフの皆さんで、今回のコラボデザインを持ってパチリ!「運営スタッフも、Tシャツの完成を楽しみにしています!」(白石さん))
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
自分の経験や思いを心置きなく語れる相手がいること。それを受け入れたり、共感してくれたりする相手がいること。身近なところにこんな相手がいてくれたらつい忘れがちですが、これって、生きていく上ですごく大切なことだと思います。小児がんを経験した子どもたちが普段の生活に戻ってから、自分たちが経てきた体験や、そこから派生してごく自然に抱く悩みや疑問、思いを話せる場所がなかなかないということは、私たちが普段の生活で、友達や家族、友人に思いや悩みを打ち明けられない時と同じなのかもしれない、と感じました。話すことでラクになるし、共感してもらえることで、自信にもなる。これは万人に共通して同じなのではないでしょうか。にこスマ九州さんの活動を通じて、小児がん経験者が居場所を感じ、今後ものびのびと羽ばたいていきますように。
カメラ、帽子、旅のしおり、外で食べるおいしいご飯…。
キャンプのモチーフを円で描き、そこで出会う人たちとのつながりが大きな力になっていく様子を表現しました。
“Your smile lights up The World”、「君の笑顔が、世界を明るくする」というメッセージを添えています。
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