環境破壊や乱獲により、数が減りつつあるウミガメ。
ウミガメと人との共存を目指し、今後ウミガメが自然の中で生きていくことができるよう、調査・保全活動を行うNPO法人「エバーラスティング・ネイチャー」が、今週JAMMINが1週間限定でコラボキャンペーンを展開する団体です。
団体名である「エバーラスティング・ネイチャー(永遠に続く自然)」には、「ウミガメを含む豊かな海と自然を次世代に残していきたい」という願いが込められています。
「ウミガメと人間、両方がWin-Winの関係を築くことは難しいところもあるけれど、人の生活とウミガメの生活が両立できる社会を目指していけたら」。
そう話すのは、スタッフの岩井千尋(いわい・ちひろ)さん(35)。
活動について、お話をお伺いしました。
(お話をお伺いした岩井さん(写真前列)。インドネシアでウミガメ保護活動をしている島を旅立つ際の1枚)
NPO法人エバーラスティング・ネイチャー
アジア地域の海洋生物およびそれらを取り巻く海洋環境を保全していくことを目的に、1999年8月に設立。フィールドワークをモットーに、関東、小笠原諸島、インドネシアの3つの拠点でウミガメの保全活動を行なっている。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(インドネシアでの1枚。運が良ければ、調査中にウミガメの赤ちゃんに会えることもあるのだそう!)
──今日はよろしくお願いします。まずは、貴団体の活動について教えてください。
岩井:
私たちはウミガメを絶滅させないよう、ウミガメが生息する小笠原諸島と関東圏、そしてインドネシアの3つの拠点で調査・保全・研究活動を行なっています。
団体の特徴としては、単にウミガメ保全活動を行うだけでなく、周辺の環境や人々の暮らしも同時に持続可能なものにするべく活動しているところです。
──それぞれの地域のご活動はいかがですか?
岩井:
まず小笠原諸島ですが、ここは「アオウミガメ」という種類の日本最大の産卵地です。ここには私たちが運営する「小笠原海洋センター」があり、スタッフが常駐してウミガメの調査研究や教育・啓発動を行なっています。
センターではウミガメのレクチャーや放流体験、甲羅磨き体験なども行いながら、地域の方や観光客の方たちが実際にウミガメと触れ合い、ウミガメが抱える課題を身近に感じてもらえるよう普及啓発活動を行なっています。また、卵が無事ふ化できるようパトロールや保護も行なっています。ここでウミガメがどのぐらいふ化したのか等、調査も通年で行なっています。
(小笠原諸島にある「小笠原海洋センター」。ウミガメを学べる展示館とウミガメ達に会える水槽スペースがある)
──関東ではどのようなご活動をされているのですか?
岩井:
千葉や茨城、神奈川の海岸には、多く死亡したウミガメ個体が漂着します。当団体は年間100頭ほど調査をしています。漂着した個体を解剖して、ウミガメの生態を把握するために役立てています。また、講演活動やイベントへの出展を通じ、ウミガメ保全の普及啓発活動も行なっています。
(ウミガメ個体漂着の連絡を受け、調査道具を持って現場に急行。その場で解剖・調査を行う)
──もう一つが、インドネシアでのご活動ですね。
岩井:
インドネシアでは、主に「タイマイ」と「オサガメ」という種類のウミガメの保全活動を、ジャワ島周辺や西パプア州という地域で行なっています。ここでも毎年ふ化した卵の数のモニタリング調査を行いつつ、浜辺にやってくるウミガメのパトロールや管理を行なっています。
(インドネシアのウミガメ保全活動の様子。活動地の周りには、美しい海が広がる)
──ウミガメとはどのぐらいの種類が存在するのですか?
岩井:
ウミガメは、7種類しかいないんです。
──少ないんですね!知りませんでした。
岩井:
カメ自体は約300種類ほどいるのですが、ウミガメはたった7種類です。
日本には、本土・四国・九州に「アカウミガメ」が、八丈島以南や屋久島以南に「アオウミガメ」が、奄美諸島などの南の地域には「タイマイ」と呼ばれるウミガメも数は少ないですが産卵に訪れます。
(産卵中のタイマイ。「ウミガメの産卵シーンはとても神秘的」と岩井さん)
──特徴も異なるのですか?
岩井:
「タイマイ」は、甲羅がとてもきれいです。タイマイの甲羅は「べっこう」の原料なのですが、そのために乱獲により数が大きく減少してしまいました。私たちの調査では20世紀の間で8割がいなくなった種類です。現在、ワシントン条約によりタイマイを国際間で商取引することは禁止されています。
──8割も減ってしまったのですね。
岩井:
先々に残していくことを考えて獲っていればここまで減らずに済んだと思います。今市場に出回っているべっこうは、ワシントン条約で乱獲が禁止される前のストックです。
(まるで恐竜のような姿をしているオサガメ。ウミガメ類の中でも最も絶滅に近い種のうちの1つ)
岩井:
「オサガメ」は、皆さんがイメージされるカメのイメージからは大きく離れる見た目をしていると思います。ウミガメ最大種で、体が2m近くあって泳ぎがとても得意です。とても敏感なウミガメで、砂浜で人の気配がすると産卵せずに海に帰ってしまうこともあります。
少し前までオサガメの大産卵地であったマレーシアは産卵数がどんどん減少し、ついに2000年初頭に絶滅宣言がされました。なぜ絶滅してしまったのか。実はマレーシアでは、人間がオサガメの卵を掘り出し、別の場所に卵を移植し管理する「卵の移植」という保護活動が行われていました。この「卵の移植」がオサガメを絶滅に追いやってしまったと私たちは考えています。
(ウミガメの赤ちゃんがふ化したあとの地面を掘り、ふ化殻を調査。「こうすることで、その地域の産卵状況がわかるのです」(岩井さん))
(ウミガメの卵。ピンポン玉のような大きさとかたちをしている)
──卵を移植するということはよくあることなのですか?
岩井:
自然の状態であれば、ウミガメは5月〜7月にかけて、夜〜明け方にピンポン球サイズの大きさの卵を、平均で100個ぐらい産卵します。60日前後でふ化し、生まれた赤ちゃんガメは海へと帰っていきます。自然の中でもエサ場にたどり着けず死んでしまったり他の生き物に食べられてしまったりして、成体になるのは千匹のうち数匹と言われています。
(「ふ化した赤ちゃんガメは、地上に出るとものすごいエネルギーで海へと進んでいきます」(岩井さん))
岩井:
ウミガメ保護の難しさでもあるのですが、団体によって保全のための方向性ややり方が異なります。世界を見渡しても卵を人工的に移植している浜辺では産卵数が減っています。国際会議などで卵の移植は良くないという指摘も出ていますが、良かれと思って移植を続ける団体があるのも事実です。
──何をもって保全とするのかということもありますね。
岩井:
そうですね。ウミガメについては、実はまだわかっていないことが多いです。
普段は海の中で生活しているけれど、産卵のためにだけ上陸する。しかもどこの浜辺でも良いわけではなくて、自分が生まれた浜辺に戻ってくると言われています。
──神秘ですね。
岩井:
なぜ同じ浜辺に戻ってくるのかはわかっていませんが、彼らが何か方向性がわかるような機能を持っていて、同じ場所に戻って来られるのではないかと言われています。
──すごいですね。
岩井:
人間が手を加えることで、この機能も失われてしまうのではないかと懸念されています。卵の向きの上下を変えて移植すると、それだけで卵は死んでしまいますし、人工的な場所に移植したりすることで異変をきたす恐れがあるのです。
──浜辺に戻れなくなったら、そのカメはどこで産卵するのでしょうか?
岩井:
そこについてもわかっていません。水中で卵を産んでいる可能性も考えられます。
(海の中を優雅に泳ぐアオウミガメ。「海の中では優雅に泳ぎますが、本気で泳ぎ始めると意外と速く、人間では追いつけないのだとか」(岩井さん))
(調査の様子(インドネシア)。調査は炎天下で行われ、かつ産卵場所まで砂浜を何時間も歩くこともあり、かなりハードな業務なのだそう)
岩井:
私たちは地域の人たちとウミガメと、それぞれの生活の両立を目指して活動していますが、現状だけでなく未来を意識して課題と向き合っていくという点はなかなか伝わりにくいと感じています。
インドネシアではウミガメの卵を食べる習慣があり、市場に卵が出回っているので卵の乱獲が課題です。難しい点ですが「次世代にウミガメや卵を残そう」という発想がなく、あったらあるだけ、全てを獲ってしまいます。結果的には絶滅を招き、卵も食べられなくなってしまうのですが…、どうしても目先のことに意識が向きがちです。
私たちは、今まで卵を獲る側だった現地の漁師さんたちをウミガメのパトロールや調査のためのスタッフとして雇い、一緒に見守ることで、少しずつ啓発活動も行なっています。
(インドネシアにて。現地スタッフがウミガメが産卵にやって来る砂浜を監視することで、卵の乱獲を防ぐことができる)
──その地域の文化としてウミガメの卵を食べる習慣が続いてきたのであれば、「絶滅するから獲るな、食べるな」というだけでは変わっていかないというか、一方通行な感じがしますね。
岩井:
私たちは保護活動をしていますが、愛護団体ではありません。「絶対食べるな」「獲るな」ということではなく、ウミガメの絶滅を防ぐために、ヒトとウミガメ、それぞれの生活を守りながら、どうやって共存の道を見出していくかが何より重要だと思っています。
(インドネシアにて、現地の方と写真に収まるスタッフ。「都会を離れると、そこにはのどかな風景が広がっており、人々がのんびりと暮らしています」(岩井さん))
(「小笠原海洋センター」にて。海洋センターのアイドル・アオウミガメの「なっちゃん」はおねだり上手。人を見るとエサを求めて近づいて来る)
──小笠原諸島の場合はどうですか?
岩井:
小笠原諸島の場合は、地域の人たちの中ですでに「ウミガメを守らなければならない」という意識の基盤ができています。地域の方たちの協力はウミガメを保全していく上で非常に大切です。
小笠原諸島は、人の生活とウミガメの生活の範囲が非常に近いです。
観光地でもあるので、夜でも明るい浜辺がありますし、浜のすぐ近くにネオン街があったりもします。生まれたばかりの赤ちゃんガメがネオンの光を見て海と間違えて街に向かってしまったり、誤って道路に出てしまったりといったことが起きてしまいます。
ちょうどこれから産卵のシーズンで、ウミガメが浜辺に戻ってきます。浜辺をパトロールして観光客の方たちにマナーを守っていただいたり、街に出てしまったカメを救出したりしながら、産卵状況の調査を行なっています。
(時には迷いガメを救出することも。「産卵にやってきた母ガメが、くぼみにはまってしまっていて、この後大人4人がかりでこのアオウミガメを救出することに成功しました」(岩井さん))
──地域の方たちの理解があるのは大きいですね。
岩井:
そうですね。ウミガメが観光資源の一つになっているので、観光地や飲食店などに「ウミガメにライトをあてないでね」という張り紙をしてくださったり、ウミガメを守るためのマナーを周知してくださったりと協力していただいています。1900年代前半には、小笠原に来遊する母ガメは20~30頭まで減少しましたが、現在は産卵シーズンには毎年500~600頭ほどの母ガメがこの場所を訪れています。
──増えて良かったですね!
岩井:
先ほど、インドネシアで卵が食用として流通しているという話をしましたが、実は小笠原諸島でも、アオウミガメは食料として流通しています。数が減ってから保護しようという動きが出て、現在は食用としての流通もありながら、確実に数を増やしているんです。ウミガメを捕獲しながら数を増やしている島は世界を見ても他になく、とても珍しいケースです。
小笠原諸島は、ヒトとウミガメとが共存しているモデルケースです。今後別の地域でも、同じようにヒトとウミガメとか共存できる社会を目指していくことができたらと思います。
(小笠原での活動には、年間を通じてたくさんのボランティアさんが参加するのだそう。「海洋センターでの仕事や、調査の補助を手伝ってくれるので、欠かせない存在です」(岩井さん))
(岩井さんお気に入りの1枚。「アオウミガメの赤ちゃんはとっても愛らしい。小笠原海洋センターにやってきて一目ぼれする人が後を絶ちません(笑)」)
岩井:
この活動をしながら感じることですが、海洋ゴミの問題からウミガメの保護に関心を持ってくださる方が多いです。私たちの調査でも、死亡漂着したウミガメを解剖すると、5〜6割は何らかの人工物を食べた痕跡があります。人工物が喉やお腹に詰まり、それが原因で死んでしまうということは稀ですが、お腹の中からスーパーの袋のようなプラスチックが2、3枚出てくることがあります。プラスチックに含まれる物質が何らかの悪影響を及ぼしているのではないかと研究が進んでいますが、真偽のほどはまだわかっていません。
ウミガメを保全していくにあたり、「ゴミを食べて死んでかわいそう」「ゴミが良くない」と「ゴミが問題」という風に捉えられがちな部分がありますが、それだけではないということを知ってもらいたいと思っています。
──なるほど。
岩井:
地域やウミガメの種類によっても異なりますが、ウミガメの居場所が少しずつ失われ、数が減る原因は、ゴミも含め、人間活動の影響に寄るところが大きいです。
護岸工事で砂浜が減っています。上陸してもブロックだらけで産卵ができないウミガメがいます。保護という名目でさえも、人間の介入により数が減りつつある浜辺があります。私たちの生活や行動が、彼らに影響を与えているのです。
「ウミガメのためにはこっちがいいけれど、ヒトのためにはこっちがいい」ということもあります。台風や津波対策のための護岸工事はその良い例かもしれません。私たち人間の生活を守っていくことは大切ですが、その先で、立場の弱いウミガメがあおりを食らってしまいます。
解決するのは難しい問題もあります。それでも、ヒトとウミガメ、両方の生活が成り立つ道を見出して、一緒に生きていくことができたらと思います。
(毎年冬に開催される活動報告会。ウミガメを愛するたくさんの方が参加する)
──団体として、なるべく人間が介入しないやり方で保全するということをモットーにされていますが、ここには何かポリシーがあるのですか?
岩井:
もともとその理念があったというわけではなく、20年保全活動をしてきた中で、「人間が介入しない方が良い」という結論にたどり着きました。
小笠原諸島もそうですし、世界の別の地域を見ても、ウミガメが増えている地域は人間が大きく介入しておらず、あまり何もしないで自然と増えてきたというケースがほとんどです。
ウミガメの力、自然の力を信じて、彼らが本来の姿で生きていける、持続可能な自然を目指していきたいと思います。
(調査中に見つけた、砂の中に取り残されたウミガメの赤ちゃん。そっと砂浜に置くと、一人で大海へと向かっていったという)
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
岩井:
小笠原諸島でのウミガメの調査や夜間の砂浜パトロール、保護したウミガメの放流等、ウミガメ保全のために必要となる資金として使わせていただきたいと思っています。ウミガメを、そしてウミガメが生きていける豊かな自然を後世に残していくために、ぜひチャリティーにご協力いただけたらうれしいです。
──貴重なお話、ありがとうございました!
(小笠原でのウミガメ調査中、産卵地に向かうボートに乗るスタッフの皆さん。「この時、とても美しい夕焼けを見ることができました」(岩井さん))
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
普段は海の中で生活し、産卵の時だけ浜辺に帰ってくるという、しかも自分が生まれた浜辺へと帰ってくるというウミガメ。もしかしたら人間以上に、地球の上で、海の中で起きていることを敏感に感じ取っているのではないでしょうか。
忘れてはならないことは、この星は私たち人間だけのものではないということ。ウミガメが居場所を失いつつあるということは、すなわちいつか、私たち人間も居場所を失うことを意味するのではないかと思います。
この瞬間、ウミガメが海を自由に泳いでいることが、地球を豊かに、そして私たちの心や生活を豊かにしてくれることにつながっているのではないでしょうか。
ウミガメの背中には山や木が描かれています。彼らが生きていくためには、海や陸を含む自然や、地球環境そのものが大切であるということを表現しました。
ウミガメが暮らす尊い海、繊細な自然を守ることが、巡り巡って私たち人間の暮らしを守ることにつながるというメッセージも込められています。
“The earth has music for those who listen”、「聴こえる人には、地球が奏でる音楽が聴こえる」という言葉を添えました。
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