世界的に人気が高い秋田犬。愛くるしい見た目で、日本人なら誰しもがご存知の犬なのではないかと思います。
その秋田犬、実は日本国内における飼育頭数が激減し、存続が危ぶまれているということをご存知でしょうか。
ピーク時は約4万6,000頭もの秋田犬が犬籍登録されていましたが、現在、国内の犬籍登録数は約2,500頭にまで減っており、絶滅の危機にあるといっても過言ではないといいます。
「皆さんがご存知の『忠犬ハチ公』が秋田犬です。主人が亡くなった後も毎日同じ場所で主人の帰りを待ち続けたハチのように、秋田犬はずっと一人の飼い主に忠義を尽くす犬。飼い主の高齢化や病気によって手放されてしまった秋田犬が親戚や知人に引き取られても、新たな飼い主や環境に懐くことができなかったり、大型犬であるために飼育が大変という理由で手放され、殺処分されるという現実もあります」。
そう話すのは、今週JAMMINが1週間限定でコラボを行う一般社団法人「ONE FOR AKITA」の理事であり、チーフドッグトレーナーを務める鈴木明子(すずき・あきこ)さん。
「救える命を救い、秋田犬を守りたい」と秋田犬の保護活動のほか、秋田犬保護のための啓発や秋田犬の魅力の発信にも力を入れているというONE FOR AKITA。活動について、お話をお伺いしました。
(お話をお伺いした鈴木さん)
一般社団法人ONE FOR AKITA(ワン・フォー・アキタ)
日本だけでなく世界的に注目を集める秋田犬の国内における飼育頭数拡大、殺処分ゼロを目的とし、秋田犬の保存・保護を目的とした「ONE FOR AKITAプロジェクト」を進める一般社団法人。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(トレーニングの様子。2度の飼育放棄された経験を持つ保護犬「疾風(はやて)」は、人間への警戒心が非常に強く、保護当初は心身ともに傷ついていた。鈴木さんの愛情あふれるケアにより、今では良好な関係を築いている)
──今日はよろしくお願いします。まずは、貴団体の活動を教えてください。
鈴木:
秋田犬の保護・保存のために「ONE FOR AKITAプロジェクト」というプロジェクトを進めている団体です。具体的な活動内容は、飼育放棄されて保健所に保護され、里親が見つからず殺処分一歩手前の秋田犬を保護し、専門のドッグトレーナーによる心身のケアを行い、里親に結びつける活動をしています。
トレーナーに支払う人件費や健康診断、避妊・去勢などにも相当な費用がかかるため、継続的に保護活動費用を集めるための取り組みにも力を入れています。
──どのような取り組みですか?
鈴木:
秋田犬の関連商品を作って販売し、その売り上げを秋田犬の保護費用にあてています。
もうひとつは、秋田犬を知らない人たちに秋田犬の魅力を知ってもらい、保護活動を応援してもらえるよう、秋田犬の魅力を発信する活動も行っています。秋田駅から徒歩5分の立地で「秋田犬ステーション」という施設を運営しており、秋田犬の魅力をより多くの人に伝えながら、秋田犬が抱える課題の啓蒙活動も行なっています。ここでは、毎週火曜日・土曜日・日曜日に秋田犬に会うことができますし、売り上げの一部が秋田犬保護のための資金となる秋田犬グッズの販売もしています。
(「秋田犬ステーション」は2018年4月15日、秋田市中心街にある商業施設「エリアなかいち」1Fにオープン)
(鈴木さんは、ONE FOR AKITAの仲間である秋田犬「だいすけ」との出会いが秋田犬専門トレーナーになるきっかけだったという)
─少し前にはロシアのフィギュアスケート選手・ザギトワさんに秋田犬が贈られたことが話題になりました。海外発信で秋田犬のことを目にする機会が多いように思います。
鈴木:
海外では秋田犬はすごく人気です。著名な方ではザギトワさんの他にも、ロシアのプーチン大統領や朝青龍、白鵬、昔の方でいえばヘレン・ケラーも秋田犬を飼っていたことで知られています。
秋田犬の海外人気を証明するデータとして、検索エンジン・Googleで検索されるキーワードの数を調べると、「AKITA」というキーワードの検索数が日本を代表する富士山、「Mount Fuji」や「Fujiyama」よりも圧倒的に多いです。ここで「AKITA」が意味するのは「秋田県」ではなく「秋田犬」です。
また、海外からの都道府県の検索ランキングも、日本の首都である「TOKYO」に次いで検索数が多いのが「AKITA」。世界を代表する大都市といえる東京に次いで、日本では「AKITA」が検索されているんです。
──すごいですね。なぜ海外でそんなに人気があるのですか。
鈴木:
影響のひとつとして、2009年に公開されたリチャード・ギア主演のハリウッド映画「HACHI 約束の犬」があります。
これは1987年に日本で公開された映画「ハチ公物語」をリメイクした作品で、飼い主が亡くなった後、いつもと同じ場所で主人の帰りをずっと待ち続ける秋田犬・ハチの健気な姿が描かれています。
ここで風格のある立ち姿や、一人の飼い主をずっと一生涯思い続ける「ワンオーナードッグ」である秋田犬に大きな注目が集まったのではないかと思います。
下の表を見ていただくとわかるのですが、この映画が公開された後、2011年あたりから徐々に海外の秋田犬の犬籍登録数が増加し、2016年には海外の犬籍登録数が日本国内の犬籍登録数を上回っていることがわかります。
(犬籍登録数の推移を表したグラフ(ONE FOE AKITAより))
──薄い茶色が日本の犬籍登録数、濃い茶色が海外の犬籍登録数ですね。
…この5年ほどで海外の登録数はぐんと増えているのとは対照的に、日本ではぐっと数が減っていますね。
(ONE FOR AKITAの仲間「まる」のキュートな表情)
鈴木:
秋田犬は、どこか日本の侍精神にリンクするところがあるのではないかと思います。飼い主のために忠義を尽くし戦う。主人を守るためなら他には牙をむくような、一筋に、一心に主人を思う性格が、海外の方たちに人気の理由ではないでしょうか。
──飼い主にしたらたまらないですね(笑)。体格にはどんな特徴があるのでしょうか?
鈴木:
秋田犬は、天然記念物として登録された最初の日本犬になります。体高は平均で61〜67cmあり、体重は35~50kgになります
──大きいですね。
(大型でがっしりとした風格のある凛とした立ち姿)
鈴木:
体の特徴としては、「三角耳」と呼ばれるピンと立った三角の耳と、「巻き尾」という巻いた尻尾があります。毛の色は基本的に3色で、「赤毛」と呼ばれる茶色、「白毛」と呼ばれる白色、「虎毛」と呼ばれる黒と白のまだら色があります。昔は黒毛も存在したのですが、現在はほぼいなくなりました。
性格はそれぞれ違うので、中には人懐こい子もいればそうではない子もいますが、「ハチ公物語」のハチのように、一人の飼い主に対して忠誠を尽くすのが、秋田犬の特徴ですが、ハチが秋田犬であることはあまり知られていません。
東京・渋谷の待ち合わせスポットとして有名な「ハチ公像」がある場所は、ハチが実際にずっと飼い主を待っていた場所だったんですよ。
──そうだったんですね!知りませんでした。
鈴木:
ハチ公像を訪れる外国人の数は、年間540万人といわれています。それだけ、秋田犬による日本へ恩恵は多大なのです。こういったことも含めて、今後もっと秋田犬の魅力を発信しながら、保護活動に力を入れていきたいと思っています。
(東京・渋谷駅前のハチ公像)
(ONE FOR AKITAの仲間、「だいすけ」(左)と「さくら」(右))
──秋田犬は今、どんな課題を抱えているのですか?
鈴木:
最初にお伝えしたように、国内の犬籍登録数が急激に減少していることが大きな課題です。現在、国内で登録されているのはわずか2,500頭余りです。
この背景の中で最も我々が危惧しているのが、秋田犬の殺処分です。一人の飼い主を一途に思う秋田犬は、新たな飼い主さんのところで心を開くことができず、それによって「なついてくれない」「これ以上は飼えない」といった理由で保健所に持ち込まれてしまうケースがあるのです。
調べてみたところ、平成28年に秋田県で殺処分された年間79頭の犬のうち、約3割にあたる21頭が秋田犬でした。
──そんな数にもなるんですね。
鈴木:
大型犬なので「思いのほか大きくなって、散歩や餌やりなどの飼育が大変」といった理由で手放されることもあります。ペットとして小型犬が室内で飼育されるのが一般的になり、秋田犬のような大型犬がなかなか受け入れられないという現実もあると思います。
(里親探しを依頼されていた秋田犬「むぎ」。縁あって秋田県内在住の方に家族として迎え入れられた)
──貴団体はどのような試みで秋田犬を保護・保存しようとされているのですか。
鈴木:
現在私たちの団体には11頭の秋田犬がいます。うち3頭は昨年保健所から保護してきた秋田犬です。現在、3名のドッグトレーナーが新たな飼い主さんと出会えるようにリトレーニングを行っています。一頭が里親さんを見つけたら、また新たに一頭を保護して、トレーニングして、里親さんを見つけて…というサイクルを作りながら、持続的な保護活動を行っていきたいと思っています。
──11頭もいるんですね!
鈴木:
現在の保護活動を立ち上げる前に、すでに8頭の秋田犬がおりました。この活動を始めて、さらに3頭が加わったかたちです。
最初の8頭の中に、「もも」という秋田犬がいます。ONE FOR AKITAプロジェクトのシンボル犬でもある彼女は、小さい頃に捨てられて必要な時に必要な栄養を摂ることができず、今でも中型犬ぐらいのサイズしかありません。私たちの元へ来た時は健康状態も悪く、人間に対する警戒心もとても強い状態でした。しかし手をかけてトレーニングをした結果、今では毛のつやも顔の表情もすっかり変わり、とても人懐こい子になりました。
ももは、「人が手をかけてやることで、救える命がある」ということを私たちに教えてくれた存在で、このプロジェクトをスタートさせるきっかけを作ってくれた犬でもあるんです。
(ONE FOR AKITAの前進会社で保護した「もも」は、プロジェクトを象徴する存在)
(秋田犬を富士山に見立てたデザインや、秋田犬と飼い主のどこか昭和レトロなデザインを施したトートバッグ、バンダナ、缶バッチなどのオリジナル商品)
鈴木:
秋田犬を継続して保護していくには、団体としてそのための資金を捻出していくことも大切です。秋田犬の保護のための資金を集められるしくみづくりにも取り組んでいます。
具体的には秋田犬のオリジナルアイテムを作り、売り上げを秋田犬の保存・保護活動のための資金に充てているほか、私たちがシンボルマークとして使用している「SAVE AKITA」というロゴマークを企業さんの商品に使っていただき、その代わりにライセンス料として3パーセントを保護費用としていただくという取り組みも行っています。
──面白い取り組みですね。
(2018年11月29日、大館市高齢者活躍支援協議会主催で行われた「秋田犬の飼い方講座」にて。トレーナーである鈴木さんが講師として招かれ、秋田犬の現状や具体的なしつけ方法について講演した)
鈴木:
ワンちゃんのおやつやサプリメントを開発・販売する会社さんや地元の珈琲屋さんなど、本当に多彩なジャンルの企業さんが参加してくださっています。
──秋田犬を保護するためのご活動ですが、お伺いしていると、地域が盛り上がることで秋田犬の保護に繋がっていく、何か地域おこし的な要素もあるご活動だと感じました。
鈴木:
おっしゃる通りです。それが一般社団法人にした理由のひとつです。
「秋田犬を守る」という同じひとつの目標に向かって、行政と民間企業が一緒になり、一般の方にも参加していただきながら活動できる場を作りたいという思いがあったんです。
その手段として、やはり観光は欠かせないと思っています。直に秋田犬の魅力を感じてもらい、その中で秋田犬が抱える課題を知っていただく。そうすることで「みんなで一緒に秋田犬の未来を守っていきませんか」とお伝えすることができます。
いろんな立場の人たちと協働しながら、今後も保護活動を続けていきたいと思っています。
(内閣府主催の第3回「クールジャパン・マッチングアワード」の準グランプリに選出された。2018年2月19日に東京ビッグサイトで行われた表彰式の模様。審査では、動物愛護の社会的意義と観光を結びつけた点や、地域資源を活用した点などが高く評価された)
──最後に、今回のチャリティーの使途を教えてください。
鈴木:
秋田犬を保護し、新たな里親さんに譲渡するための養育費に充てさせていただきたいと思っています。
一人の飼い主を思い続ける秋田犬は、一度飼育放棄されると人への警戒心が非常に強くなり、再び心を開いて新しい里親さんを見つけるためには専門のドッグトレーナーによるトレーニングが必須です。
秋田犬を保護した際、初期費用として健康診断や避妊・去勢手術、ワクチンやサプリメント購入のためにお金が必要になるほか、養育費(エサ、ペットシートやトレーニング施設費などを含む)を含めると、1頭あたり1ヶ月(初月)に20万円がかかります。
今回のチャリティーは、このための資金として使わせていただきます。是非ご協力いただけたら幸いです。
──貴重なお話をありがとうございました!
(クールジャパンの表彰式終了後、団体関係者の皆さんと)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
「海外で秋田犬が人気」、そんな話を耳にしたら、日本人であればきっと誰しもが、嬉しく、誇りに思うのではないでしょうか。
「日本人は秋田犬からたくさんの恩恵を受けてきた。だからこそ、彼らの未来が危ぶまれる今、手を差し伸べるのは当然のことではないか」という鈴木さんの一言がとても印象的でした。秋田犬の明るい未来のために、是非チャリティーTシャツで応援してください!
小高い丘から夜明けを待つ凛々しい秋田犬の姿を描き、秋田犬に明るい未来が訪れる様子を表現しました。
“We can change our future”、「未来は変えられる」というメッセージを添えています。
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