CHARITY FOR

小児病棟で成長する子どもたちに、笑顔と「子どもらしい日常」を〜NPO法人ぷくぷくばるーん

小児がんなどの病気によって闘病生活を余儀なくされた子どもたちの生活は、朝起きて、検温から1日が始まる、普通の子どもたちの生活とは大きくかけ離れたものだといいます。

11年前、白血病で息子を失った一人の女性が「病気であっても子どもが子どもらしく、普通の子どもと同じように笑う瞬間を提供してあげたい」と、小児病棟を訪れ、バルーンアートを届ける活動を始めました。
今週、JAMMINが1週間限定でコラボするNPO法人「ぷくぷくばるーん」の理事を務める大竹由美子(おおたけ・ゆみこ)さん(49)です。

「闘病生活を振り返ってみると、息子を始めとする闘病中の子どもたちの普通が、私たちでいう非日常の世界だった」と当時を語る大竹さん。風船に乗せて、子どもたちに笑顔と「当たり前の日常」を届ける活動は、今年で10周年を迎えました。

活動について、お話をお伺いしました。

(お話をお伺いした大竹さん)

今週のチャリティー

NPO法人ぷくぷくばるーん

風船を使った遊びのボランティア活動を行うNPO法人。
入院生活を送る子どもたちに、バルーンアートを通じて笑顔と外部からの新しい風を届けています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

風船に乗せて、子どもらしい日常を届ける

(「バルーンアートで遊ぶと、子どもたちはもちろん、ご家族や病院の看護士さんや先生…、みんな心の底から楽しい笑顔になります」(大竹さん))

──今日はよろしくお願いします。まずは、貴団体のご活動について教えてください。

大竹:
私たちは愛知県内の小児病棟に出向き、子どもたちや付き添いのご家族の方と一緒にバルーンアートを作る活動をしています。現在は7つの病院の13病棟を訪問しています。

「子どもらしい遊び」をテーマに活動していて、他にもバルーンアートと抱き合わせで、社会で活躍する様々なプロの方を招いたコラボイベントや、子どもの闘病を支えているお母さんを笑顔にしようという「お母さんスマイルプロジェクト」、中学生以上の子ども向けの部活動的なイベント「FOR TEENSプロジェクト」などの活動も行っています。

(バルーンアートを作っているところ。「子どもたちと一緒に作り、一緒に楽しむことを大切にしています」(大竹さん))

──楽しそうですね。どうしてこのようなご活動を行っているのですか?

大竹:
小児病棟での生活は、金属やとんがったもの、四角いものに囲まれています。一般的な幼稚園や小学校にあって、普通の子どもたちにとっては当たり前なもの、カラフルなものやまあるい形のもの、柔らかいものがないんです。病棟に何か子どもらしい感覚になれるものを届けたいと思って風船を届けています。

風船はカラフルで、まあるくて、ふわふわしています。作って置いておくだけでも華やかになるし、色もたくさんあって、感触も楽しくて、子どもはとても喜んでくれます。

──子どもは風船、大好きですね。

大竹:
そうですね。風船を届けることもそうですが、バルーンアートは「一緒に作る」という過程を大切にしています。

(ぷくぷくばるーんが開催したコラボイベントでの一コマ。2013年に名古屋大学医学部附属病院で開催した、フルート奏者のミニコンサートの様子)

病気の子どもたちは、病院の中で成長していく

(バルーンアートで飾られた点滴スタンド。カラフルな風船が、病棟を明るくする)

──どうして、過程を大切にされているのでしょうか?

大竹:
闘病中の子どもたちは、手に点滴がついていたり力が弱いことが多いですし、闘病生活の中で受け身にならざるをえない状況が多いです。

ちょっとでもお手伝いしてもらって一緒に何かひとつの作品を作り上げることで「何かをやり遂げる」という体験や、達成感を感じてほしいと思っています。

というのは、普通の子どもたちは幼稚園や学校で何かに取り組んだり、できなかったことができるようになったり、刺激を受けながら成長していきますが、闘病は治療が生活の中心で、何かをやり遂げたり、達成感を感じたりということがあまりない生活だからです。

──そうなんですね…。

大竹:
普通の子どもたちが社会勉強して成長していくところを、病気の子どもたちは病院の中でそれをしていくんですよね。だから、子どもが本当に子どもらしく、普通の子どもが笑うように笑える瞬間を、風船を通じて一時でも提供したいと思っています。

風船を作る機会って、なかなかないですよね。
最初はこわくて、ドキドキして、それでも少しずつ作品が出来上がって…。風船って、短時間ですごく達成感があるんです。

(バルーンアートが完成して喜ぶ子どもたち。子どもらしい日常を届けたい、と大竹さんは話す)

「子どもたちの確かな成長が、
病院の中にはあった」

(白血病のため闘病生活を送っていた息子さんと大竹さん。入院中、難病と闘う子どもたちの夢をかなえる手伝いをしているボランティア団体「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン」で夢を実現し、家族でグアム旅行に行った際の一枚)

──大竹さんはなぜ、このご活動を始められたのですか?

大竹:
11年前に亡くなった息子は、白血病を発症し、6、7年間ずっと闘病生活を送っていました。

闘病中は考えなかったのですが、息子が居なくなってから改めて病院での闘病生活を振り返った時に、ここで息子は6歳から12歳になる手間まで過ごしていたので「ここで成長してきたんだな」ということを感じたんです。

息子に限らず、同じ病棟で一緒に闘病していた子どもたちもそうです。あの子たちにとっての日常が、私たちにとっての非日常だったと、入院生活が終わってから感じたんです。

──そうだったんですね。

(風船にマジックで目を描き込んで…完成!)

大竹:
あの子たちの確かな成長が、病院の中にはあった。だとしたら、彼らが本当に子どもらしく無邪気に笑えた瞬間がどのぐらいあったんだろう?と。

息子は最終的には亡くなってしまいましたが、病院の先生や看護士さん、本当にいろんな方たちにお世話になり、かわいがってもらった子でした。
どうにかして恩返しがしたい、と思った時に「子どもたちに、子どもらしい日常を届ける」ということしか思い浮かばなかったんです。

──伺いにくい質問なのですが、息子さんを亡くされて、病院を訪れて悲しくなったり、闘病中の子どもと息子さんを重ねてつらくなったりすることはありませんか。

大竹:
当事者として、当時足りなかったと感じていたことを届けられているので、悲しいという感情はありません。
ただ、最初は「やりたい」という気持ちだけで始めた活動ですが、活動を10年続けてきて、病気の子どもたちやご家族に自分や息子を重ね合わせて見た時に、改めて、深くこの活動を見返すことはあります。

(バルーンアートで作った風船の花束を持つボランティアスタッフさんたち)

心の中で、子どもたちやその家族に寄り添う

(団体立ち上げ当初の1枚。まだ慣れないバルーンアートを、ボランティアみんなで練習)

大竹:
息子がなくなって半年後には活動を開始し、10ヶ月後にはNPO団体になりました。2008年のことです。

──息子さんが亡くなられて、そう時間を置かず活動を始められたのですね。

大竹:
そうですね。振り返ってみて、気がついたら10年が経っていたという感じです。
本当にいろんな方たちに関わってもらったし、たくさんの子どもたちや、ボランティアさんとも関わることができました。自分たちの力だけでは、絶対にできなかったことです。

息子の死に関しては、気がついたら乗り越えていた、という感じです。
亡くなった時は、全然後悔がないといったらおかしいのですが「やりきった」という思いがありました。いろんな人に助けてもらってここまで来られた。本当によくやった、本当にありがとうございました、という感じでした。

今でもつながりはあって、当時お世話になった病院の先生が、団体の理事を務めてくださっています。

──そうなんですね。

(理事会にて。活動について意見を交し合う)

大竹:
ただ、元患者家族であり遺族だということを、活動をする上であえて患者さんのご家族にお伝えするということはありません。

──なぜですか?

大竹:
「私たちもつらかったんですよ」というのは、押し付けになってしまうからです。
現在闘病中のご家族に「気持ちわかります」と言ったって、気持ちはわからないからです。闘病中の子どもたちやその家族にとっては「今」がつらいんです。私が闘病していた時から時間も経っているし、一緒に闘病しているわけではないからです。

ただ、元患者家族として、本人やご家族のつらい気持ちやたいへんな思いも理解していますし、気持ちとしては、いつも寄り添っているつもりです。

(2018年11月11日に開催した10周年記念イベントにて。理事やボランティアスタッフ、関係者の皆さんと)

「普通を届ける」ことにこだわる理由

(病室を出て、プレイルームでボランティアさんと一緒にバルーンアートを楽しむ子ども。完成までは、ワクワクドキドキ)

大竹:
息子が闘病していた時、何が私の願いだったかというと、息子を通っていた小学校に戻して勉強したり友達同士で遊んだり、「普通の小学生」に戻ってもらうことでした。

私がこの活動で「普通を届ける」ことにこだわる理由は、そんなところにあります。

朝起きて、朝ご飯を食べて、登校して、授業を受けて、遊んで、帰ってきて塾へ行って、夜ご飯を食べて、寝て…、そんな何気ない日常が繰り返される日々。病院の子どもたちは、朝起きて、検温して、血圧を測って、薬を飲んで、回診があって、検査があって…、とまるでかけ離れた日常を送っています。

自分の世界はベッドの上だけ。寝るのも、起きて遊ぶのも、すべてベッドの上です。周りにいるのは、同じように入院している子どもたちと先生や看護士さんたちだけ。そんな狭い中で生活しているので、刺激は無いに等しいんです。

──想像すると、つらくなります…。

大竹:
そんな生活の中で「ワーッ、楽しい!」とか「うれしい!」とか、心からわくわくしたり、ドキドキしたり、楽しかったり、そんな「子どもらしい気持ち」が病院にはありませんでした。月に1回2回、少しでもそういうことを感じてもらえることがあったら、たとえ病院にいても、子どもが子どもらしい感覚を持って成長できるんじゃないかなと思います。

(最初は怖がる子どもも。ボランティアさんが一人ひとりの反応や病状にあわせながら、一緒に作品を作り上げる)

ただ、その時間を一緒に楽しむ

(バルーンアートのお寿司。「食べ物の作品は、子どもたちに大人気です」(大竹さん))

大竹:
いろんなことを話しましたが、深くは考えていなくて(笑)。ただ、その瞬間が子どもたちや私たちにとって、楽しければいいなと思っているんです。

──というのは?

大竹:
ボランティアさんにお願いしていることがあります。「遊んであげなきゃ」とか「遊んであげる」というふうに思わなくていいし、バルーンアートの出来上がりも不細工で良いけれど、「ただ、その時間を一緒に楽しむ」ということに対しては、全力を尽くしてほしいと思っているんです。ワクワクしたり、ドキドキしたり、そんな時間を感じてもらいたいし、そんな時間があるんだということを知ってほしい。子どもには、必要な時間だからです。

ある時、入院中の一人の女の子が、バルーンアートをした後に「入院はつらいことばっかりだったけど、こんなに楽しいことがあるなんて思わなかった」と言ってくれました。とてもうれしくて、心に残っています。

病院の中の子どもたちも、日々成長しています。闘病中であっても「楽しいこと」も普通に必要です。

(ハロウィンのかぼちゃのランタンをバルーンアートで!自分で作った作品を前に、得意げに目を輝かせる)

息子と共に歩んできた10年

(みんなで風船を飛ばして遊んでいるところ)

大竹:
近年はどこの小児病棟も、子ども向けに明るくかわいくなっていますし、保育士さんやCLS(※)がいる病棟も増えてきました。子どもたちは以前よりも良い環境にいると感じます。

なので、私たちがこの活動を通じて何かを主張するというのではなく、病院の中で育まれる日常の中で、そこに何か少し新しい風を吹かせるような、そんな存在でありたいと思っています。

(※)CLS(チャイルド・ライフ・スペシャリスト)…医療チームの一員として、医療環境にある子どもやその家族に、心理社会的支援を提供する専門職のこと。

──なるほど。

大竹:
息子が闘病中、自分ができなかったことを、今やらせてもらっている。そんな思いがあります。
子どもたちが笑う姿を見ながら、そこに亡くなった息子の笑顔を重ね合わせています。病院へ行くと、今でも息子がいるような気がします。

息子はもうこの世にはいませんが、この10年間、息子と一緒に進んできました。活動を続けているおかげで、息子のことを知ってもらったり覚えていてもらえるのも、ありがたいと感じています。これからも一つひとつの活動を続けながら、いつか後継者が現れて、ずっと続けていくことができたらいいなと思っています。

(訓練を受けたスタッフが、子どもたち一人ひとりに寄り添いながら活動する)

チャリティーは、バルーンアートを小児病棟の子どもたちに届けるための資金になります!

(膨らませる前の風船で遊ぶ子ども。「膨らませて、何ができるんだろう…?」、風船と一緒に想像も膨らむ)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

大竹:
私たちは月に6回ほど各地の小児病棟を訪れ、バルーンアートを届けています。今回のチャリティーで、毎回の訪問に必要な費用(バルーンアート用の風船購入費、ボランティアの交通費)を集めたいと思っています。

1回の訪問に必要な費用は、約3,000円。今回のチャリティーで、半年分(36回分)の訪問に必要な、約11万円を集めたいと思っています。ぜひ、コラボアイテムで小児病棟の子どもたちに笑顔を届ける活動を応援いただけたらうれしいです。

──貴重なお話、ありがとうございました!

(11月11日の10周年記念イベントにて、ボランティアスタッフの皆さんと。写真前列中央が大竹さん)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

「闘病生活」と聞くと、つい「闘病」の面に意識がいきがちですが、闘病生活の中にも子どもたちの日常があり、成長があるんだということを、大竹さんの話を通じて改めて強く感じさせられました。

闘病生活は、想像を絶するつらさかもしれません。しかし、限られた空間、限られた人たちとの交流の中であったとしても、その中で子どもたちは知識を得たり、何かを考えたり、夢を見たり、子どもたちなりの世界を精一杯生きている。子どもらしい、無邪気な瞬間を増やすために、ぜひチャリティーにご協力いただけたらうれしいです。

・ぷくぷくばるーん ホームページはこちらから

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大きな風船(気球)が運んでいるのは、たくさんの動物や人。ぷくぷくばるーんの活動が、病棟で過ごす子どもたちと外の世界とをつなぎ、新しい世界を運んでくる様子を表現しました。

何気ない瞬間や何気ない普通の1日こそ、貴重なもの。「今日こそが美しい」という思いを表現するため、“What a beautifyl day”、「なんて美しい1日!」というメッセージを添えました。

Design by DLOP

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