豊かな自然に囲まれた国・日本。日本の森林面積は2,512万haにもなり、国土の約2/3を森林が占める、世界でも有数の森林国です。
しかし現在、管理が行き届かず荒廃している森林は少なくありません。こうした森を市民が主体となって積極的に保全しようという動きが2000年代前半に日本各地で起こり、森林の保全活動を行う団体があちこちに生まれました。
こういった団体をつなぎ、サポートしながら「森づくり」の大切さを訴えているのが、今週JAMMINが1週間限定でコラボキャンペーンを行う「NPO法人森づくりフォーラム」。
「自分たちの手で森を守るという主体性を生むきっかけや、そのための知識や技術、つながりを提供できれば。一般市民や地域住民が参加することで、初めて『森づくり』が可能になる」。
そう話すのは、森づくりフォーラム事務局の宮本至(みやもと・いたる)さん(36)。
活動について、お話を聞きました。
(お話をお伺いした、「森づくりフォーラム」の宮本さん)
NPO法人森づくりフォーラム
森林ボランティア団体・森林所有者・市民・行政関係者・企業とをつなぎ、新しい社会システムとしての「森とともに暮らす社会」の創出を目指して活動するNPO法人。森づくりに関する調査・研究、政策提言や団体支援、人材育成のほか、シンポジウムやイベント開催を通じた啓発活動にも力を入れている。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(国有林をフィールドに市民による森づくり活動や自然体験を行っている、フォレスト21「さがみの森」での間伐体験の様子。ベテランのボランティアから指導を受ける初参加者)
──今日はよろしくお願いします。まず、森づくりフォーラムさんのご活動について教えてください。
宮本:
現在、全国には非営利の森づくり団体が4,000ほどあります。それらの団体のネットワークづくりとサポートを中心に据えて、活動しています。
サポートの内容として具体的には、森づくりをはじめとした野外でのボランティア活動向けの保険を提供したり、シンポジウムなどを開催しそれぞれの団体さんの活動に役立つ情報を発信したりしているほか、私たちもイベントやセミナー、ワークショップなどを開催し、一般市民の方に森づくり体験を提供しながら森林の保全活動を行っています。
また、森づくり活動団体に関する実態調査や、より専門的な森林・林業の現状を伝える研究会や、一般の方が参加できる森づくりに関する座学講座なども開催しています。
──各地の森づくり団体をサポートしながら、より多くの人に森づくりを知ってもらうようなご活動をされているんですね。
宮本:
そうですね。様々な活動を通じてのネットワークが、団体の強みです。
(今年の6月に開催した「森林と市民を結ぶ全国の集い2018in東京」にて、森づくりに関する講演の様子)
(東京で活動する様々な森づくり団体と協力し、今年初めて開催したイベント「FUN!FOREST!!初心者のための森づくり体験会」での1枚。道づくりの体験で、木の杭を掛矢(かけや)で打ち込む)
宮本:
市民参加の森づくりのムーブメントは、1980年代から起こりました。
当時、せっかく植えてきた人工林の手入れ不足が大きな課題でした。そこで、草刈りからスタートし、枝打ち(下枝や枯れ枝などを切り落とし、木の生育環境を整えること)や間伐(木を切って、一定の面積の中に生える木が増えすぎるのを調整すること)、植樹や道づくりなどを市民が自主的に行う活動が、2000年頃に全国に広がっていきました。
しかし、いくら自主的に森づくりをやりたいという思いがあっても、森林を所有・管理する行政や民間との関わり方や、どうやって森を手入れするかなどの知恵をそれぞれの団体さんが十分には持っていなかったこともあり、手入れするためのハードルが高いという難点がありました。
そこで、僕たちが実際の作業についてだったり、行政との関わりなどについて意見交換したり、情報を提供したりする場を設けることで、それぞれが森の手入れに集中できる環境づくりのお手伝いをしています。今年で22回目の開催になる「森林と市民を結ぶ全国の集い」というイベント(全国の森づくり活動関係者が集まり、意見交換やディスカッションを行う場)の事務局も運営しています。
──そうなんですね。
宮本:
市民による森づくり活動が始まった当初は荒れた人工林を手入れすることが主な活動でしたが、年月が経ち、少しずつその成果が出てきています。
それに伴って、森づくり活動も多様化しています。
──多様化ですか?
宮本:
はい。最近では、山村や田舎暮らしに関心を持つ若い世代の方たちも増えてきました。ただ森の整備をするだけでなく、ゲストハウスを作ったり、教育の場として使ったり、イベントを開催したり…、地域起こしや移住のツールとして森づくりを活用するケースも増えてきています。
(静岡県掛川市で活動する「NPO法人時ノ寿の森クラブ」は森林保全作業を行うだけでなく、森林フィールドと地域材を活用して、2018年夏に宿泊施設「ゲストハウスB&B森の駅」をオープンさせた)
──確かに、最近ローカルなカルチャーに興味がある若い方が増えてきているように思います。
宮本:
山登りやキャンプなどのアウトドアで週末に山を訪れたり、部屋に観葉植物を飾ったり、自然の中での子育てや、最近はジビエなども流行っていますよね。
いろんな切り口から、森に興味を持ってくれる人が増えてくれたらと思っています。
森づくりフォーラムでも、整備活動や間伐体験、生き物調査や親子体験など、森林に興味を持ってもらう入り口としての入門的なイベントを多数開催しています。
それだけではなく、森の保全に関する技術を磨き、知識を身につけたいという人のために、チェンソー講習や指導者向けの安全管理講習、また森林に関わる研究者や実践者を招いて行う連続講座(森林社会学研究会)など少し応用的なイベントも開催しています。
──楽しそうですね!
(「フォレスト21『さがみの森』造成20周年記念イベント」にて、バームクーヘンづくりを楽しむ参加者。竹の先に生地を塗り、炭火の上でくるくる回しながら何層も重ねて焼いていく)
(「間伐が放置されると、林内が暗く、下層植生が消失し、表土の流出が著しく、森林の水源かん養機能が低くなる。幹が細長い、いわゆる【もやし状】の森林となり、風雪に弱くなる」(写真・文ともに林野庁HPより))
──そもそも、なぜ森林を手入れする必要があるのですか?
宮本:
人の手で植えた人工林の場合、その森林の管理が放棄されると、鬱蒼としてきます。そうすると木々が生えている地面まで光が届かず、他の生物が生息できなくなってしまいます。また、木々自体に栄養が行き渡らなくなってしまうので、草刈りや間伐が必須です。
こういった作業を進めるため、また伐った木を搬出するために、安全性にも配慮した道づくりも必要になってきます。
放棄された森林は山崩れの原因の一つにもなり得ますし、人が入らないことでイノシシやシカの活動範囲が広がり、人間が動物の被害に遭うといったことも出てきます。
──なるほど。
宮本:
一部の地域を除くと、太古から人の手が全く入っていない厳密な意味での原生林は、日本にはごくわずかしか残っていません。ほとんどの森は、人の手が一度入ってしまっているんです。人間が手をつけた以上は、やはり人間がコントロールしていく必要があります。そうすることで人が入りやすく、いろんな生物が生きる森林になっていくんです。
(作業に向かう途中の風景。この道もボランティアが作ったもの。鋸や鉈などの道具類はベルトや紐で腰に装着し、ロープを手に持つ。ロープは間伐や丸太運びなど森づくりにとって必需品だという)
──原生林がほぼ残されていないということなんですね。
宮本:
そうですね。日本国内の森林は、いずれの時代も人の手が入ってきた歴史があります。江戸時代は暮らしの中に木がある生活をしていましたし、明治時代以降は鉄道、戦争、近代建築にも木が使われました。
今でこそ緑が生い茂る森林ですが、第二次世界大戦の後は過剰な伐採などによってハゲ山が目立っていました。住宅用としての木材が必要だったため、1950年〜60年代にかけて、スギ・ヒノキ・カラマツなどの針葉樹がたくさん植林されました。これが広葉樹などを伐採して針葉樹を植えていく「拡大造林」です。エネルギー革命によって、主に広葉樹から生産される木炭や薪がそれまでに比べて必要としない時期にも入っていましたし、森林のある山村地域に多くの人手もありました。
こうして、将来の住宅材を見込んでスギなどの植林をすすめたのですが、建築材は、外国から大量に輸入されるようになりました。また、高度成長期には山村地域の人口も減少していきました。そうしたことから、個人所有の森林(人工林)ではその管理を放棄せざるを得ない状況が多くなってしまったんです。
しかしだからといって森林管理を放置すると、先ほど挙げたような問題が起きてきます。国土の大半を占める森林のこれからを、私たち一人ひとりが考えていく必要があります。
(ボランティアによって手入れされた「さがみの森」のヒノキ林。林内に光が入ることで地表の緑も豊かになり、森全体が元気になる。これからも手入れは続いていく)
──なるほど…。一つ疑問なのですが、森の整備を、プロである林業の方たちにお願いすることはできないのですか?
宮本:
森の整備は素人では対処が難しい場面もあるので、プロである林業事業体にお願いすることもありますが、プロの林業は基本的に収益を上げる必要があります。つまり、収益性があるからこそ、森を整備しているんです。奈良県の吉野や京都の北山の一部などは、現在でも良質で高級な材木を育てる山があり、こういった場所の森林は経済的に循環するように、何百年も前から管理されています。
一方で、先ほどもいったように戦後拡大造林でどんどん木が植えられた森林は、木の価値自体が下がっています。標高の高いところにまで木が植わっていますが、こういった木は、下手をすると木が売れる価格よりも、運び出す価格の方が高くつくんです。お金にもならないから、放置されてしまう。そうすると、やはり市民がその山の手入れを担っていくしかないのです。
そのためには、やはり私たち一人ひとりが、「森とともに生きる暮らし」を取り戻していくことが大事なのではないかと思っています。
(「さがみの森」の植林イベントでの1枚。苗木を植えるために穴を掘る様子)
(木々が密集すると、上手く成長できず風などの影響で枝が折れたり傾いたりしてしまう。放置された森は見通しが悪く、視覚的にも怖い印象を与えてしまう)
宮本:
エネルギーが木から石油へと変わるのと時を同じくして、人々の暮らしもまた、森林から離れていく方向へと動きました。
工業化により都市部の仕事が増え、山間地域の人たちはどんどん都会へと流出しました。以前は森林の手入れをしていた山間部の地域の過疎・高齢化により、放置林にますます拍車がかかるかたちになったんです。
──なるほど…。
宮本:
経済的な側面から、森ではなく都市の方に人々の暮らしのベースが動いています。「お金を稼ぐ」ということを考えた時に、やはり働く必要がありますよね。
都市での暮らしは森林とは無縁で、森林を感じて生きることは難しいと感じます。
そんな中で都市部に住んでいる方に「森林をこのまま放置したらやばいよ」といっても、ピンとこないと思うんです。
しかし、生物多様性や自然災害に気候変動、長い目で日本のこれからを考えた時に、都市部での生活が森林と関係ないというと、やはりそうではありません。私たちの飲み水も、豊かな森林があってこそ安定的に得られます。
たとえば週末だけ山に来て、また都市の生活に戻ったとしても、森林との触れ合いがあれば、何か森林に対して興味を持って動いてくれると思うんです。森林に興味を持ってもらうことが、森林を守る活動にもつながっていくし、それが「森づくり」であるというふうにも考えています。
(東京都八王子市で活動する「こげさわ渓谷冒険の森の会」が、毎年2回行っている親子対象の自然体験会での1枚。写真は森に流れる沢に住む生きものを観察する様子。ほかにも木を伐ったり、虫や花を探したりと森林の中で自然を体験できる。「水の中の生き物も、森林に興味を持つきっかけになるかもしれません」(宮本さん))
(道具を使って木に登り、枝打ちをする様子。木に登るための道具は、梯子(はしご)以外にも様々だ)
宮本:
人と森とがともに生きることは、地球にもやさしい暮らしです。
現在、私たちの生活は大半を石油に依存していますが、石油もいつか枯渇します。一方で、森林との暮らしは、循環的で、持続可能な社会を作っていきます。
──具体的に、どういうことでしょうか?
宮本:
木は、植えればまた生えてきます。育てて切って、建築材として、家具材として、エネルギー材として使っても、また植えて育てれば、使える材料になります。森林は再生可能な資源の宝庫であり、生物多様性の宝庫でもあります。また森林には水源を守る力があり、CO2を吸収して温暖化を防止するなど、地球環境を保全する機能もあるため、持続可能な社会を作るために必要不可欠な存在です。
森林にある木を使い、森とともに、循環的に生きてきた時代が長い人間ですが、過去の時代にはなかった新しい技術も生まれています。
森とともに生きる、その価値観を継承しながら、新しいアプローチで、森林とともに、より豊かに生きられる社会を目指していくことができれば良いと思いますね。
(切り株の上に自然に生えたスギの実生。大木も最初はこのような小さな姿から。ゆっくりと成長し、未来の森を担っていく)
(ある日の作業後の1枚。達成感からか皆さんとっても良い笑顔)
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
宮本:
全国各地の森づくり団体の活動や魅力を、我々から発信するための広報費用に充てたいと思っています。
小さな団体さんも多く、せっかく魅力的な取り組みをしているのに、それを知ってもらう機会がないという団体さんも少なくありません。私たちが活動を紹介することで、団体としての魅力はもちろん、森づくりの素晴らしさや、森とともに生きる魅力を発信していきたいと思っています。
──素晴らしいですね!具体的には、どのようなかたちで発信される予定なのでしょうか?
宮本:
まだ企画を詰めている段階ですが、団体さんを取材させてもらい、ホームページなどに掲載したいと思っています。森づくりの魅力を一人でも多くの方に知ってもらうため、ぜひチャリティーにご協力いただけたらうれしいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
(「さがみの森」2018年10月の定例活動に参加されたみなさんと記念にパチリ!「秋晴れの作業日和で心地よい1日でした」(宮本さん))
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
森林の良さ、木の良さって何でしょうか。
私の実家では、今でも薪でお風呂を沸かしています(五右衛門風呂ですね)。
体の芯まで温まる薪風呂。薪のパチパチという音、かまどの木のにおいは、なんとも言えない幸せを与えてくれます。
幼い頃通っていた幼稚園は、森の中にありました。遊ぶのはいつも森。運動場の遊具や教室の玩具も、ほぼすべて木でした。大人になって思うのは、森や木に、豊かに生きる力を育んでもらったのではないかということ。言語化するのは難しいですが、人間と木は、どこか命の深い深いところでつながっているような気がします。
あなたの身近には、どんな森や木がありますか。
木々や葉っぱに混ざり、森づくりに必要なノコギリなどの道具と、キノコや森に生息する生き物たちを描きました。
「森とともに暮らす社会」を表現した、やさしく、あたたかなデザインです。
“Forest in your life”、「あなたの命(人生)の中に、生きる森」。
そんなメッセージを添えました。
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