CHARITY FOR

野生のクマと人との共存を目指して〜日本クマネットワーク

(写真提供:知床財団)

各地のクマ出没のニュース。特に冬眠を迎える前のこの季節、クマたちは餌を探し求めるため、人里近くに現れる頻度が高くなります。

「クマが住宅街に現れた」「農作物が被害に遭った」「クマに襲われそうになった」「罠にひっかかったクマを捕獲」…。こういったニュースを、皆さんはどのように感じていらっしゃるでしょうか。こういった報道がある一方で、九州では野生のクマが絶滅、四国でもほぼ絶滅状態にあるという事実を、ご存知ですか?

今週、JAMMINが1週間限定でコラボするのは、「日本クマネットワーク」。
人間とクマとの共存をはかり、調査や情報交換、啓発活動を行うNGOです。

「日本クマネットワーク」副代表であり、酪農学園大学(北海道江別市)教授である佐藤喜和(さとう・よしかず)さん(47)は、学生の頃よりずっと野生のクマを研究してきました。

「ただクマの命を守りたい、ということではなく、調査・研究を通じて問題を解決しながら、人とクマとが互いに安心して暮らす道を見出していきたい」と語る佐藤さん。

活動について、お話をお伺いしました。

(お話をお伺いした、佐藤喜和さん)

今週のチャリティー

日本クマネットワーク

日本における人間とクマとの共存を目的に、調査や情報交換、啓発を行う市民団体。地域のクマをめぐる問題点や情報を公開し、一地域では対処できない場合などに必要に応じ、連携して社会に働きかけを行い、人とクマとがより良い関係を築くことを目的に活動している。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

「人とクマとの共存」を目指して活動

(クマの生態を知る「トランクキット」を使い、一般の方にクマについて説明している様子)

──今日はよろしくお願いします。まずは、ご活動について教えてください。

佐藤:
「日本クマネットワーク」は、主にクマの調査・保護・管理に携わる研究者から一般市民まで、幅広い集まりで構成された市民団体です。活動開始は1996年で、もともとの趣旨は、地域でクマの保護や管理をしているそれぞれの団体を結ぶネットワークを作りたいと立ち上げた団体です。

その後は、「人とクマとの共存」をキーワードに、人とクマとがそれぞれの健康や暮らしの安全、豊かさを感じながら生きていく社会を作るために活動しています。

──具体的には、どのようなご活動をされているのですか?

佐藤:
一つ目は、普及啓発活動です。クマと人との軋轢を少しでも緩和できるように、クマの生態を知ってもらうために活動しています。

二つ目は、クマ分布の実態調査や農業被害、人身事故を減らすための調査などです。
近年特に力を入れているのが、四国のクマの保全活動です。現在、四国に野生のクマは数十頭しか確認されていません。どのくらいのクマがいて、どういった暮らしをしているのか、彼らを保護していくために何をすべきなのか。各自治体や県、環境省にも働きかけて、保全に向けた取り組みづくりをしています。

三つ目は、各地方のクマ事情を交換し合うネットワークとしての活動です。
それぞれの地域で取り組んでいるクマの課題を共有し、全国レベルの問題に取り組み、政策提言などを行っています。年に1度、シンポジウムも開催しています。

(日本クマネットワーク学生部会のメンバー。クマの保全活動の資金を集めるためにグッズを製作し、日本クマネットワークのホームページにて販売している)

クマが多い地域では、人とのトラブルが課題。
多い年では年間4〜5千頭のクマが駆除される

(2017年1月、徳島市で開催したシンポジウムの様子)

──「クマと人との軋轢」という話がありましたが、クマの出没ニュースは後を絶ちません。どういった背景があるのでしょうか。

佐藤:
たとえば、本州のツキノワグマの場合は、冬場4~5ヶ月間冬眠します。その間、食べたり飲んだりすることはありません。この冬眠に備えて、秋にたくさん餌を食べて、十分な脂肪を蓄える必要があります。主にブナやミズナラ、コナラなどのどんぐりを食べますが、これには豊凶があります。

凶作だった場合には、いつもより広い範囲を動き回り餌を探します。時には人里に出て餌を探すこともあります。
秋以外にも様々な理由で人里に出没します。初夏には独り立ちしたクマが親元を離れて新しく棲む場所を探す時に、経験不足から人目につく場所に出てしまうこともあります。

──なるほど。

佐藤:
この時に人と出くわしたり、農作物を食べてしまったり、人身事故に遭ったりといった人とのトラブルがニュースとなって出てきます。

(自動撮影装置でされたツキノワグマ。ツキノワグマは日本では本州のほぼ全域と四国の剣山系に分布。九州では絶滅したと考えられている(写真提供:稲垣亜希乃))

──餌を探したり、経験が不足しているだけで、クマに悪気はないのですね。

佐藤:
クマの人身事故は多い年には年間100件を超えます。また、多い年では、1年間に4千頭を超えるクマが駆除されています。

──…そんなにですか!

佐藤:
森の中でクマが暮らしている分には問題はないのですが、十分な出没防止対策をしているにもかかわらず畑や民家に繰り返し出没してしまった際に、駆除という選択はやむをえません。
調査・研究を通じ、また地域の人たちとの折り合いをつけながら、その地域に50年後も100年後もクマが暮らしている環境を作っていくことが大切だと思っています。

(ヒグマによって破壊されたゴミ箱(写真提供:知床財団))

九州・四国を除く大半の地域ではクマが勢いを増している

(大人のオスヒグマ。ヒグマは日本では北海道のみに分布。大人のメスは最大200kg、オスは450kg以上にもなる日本最大の陸上野生動物(写真提供:知床財団))

佐藤:
クマの出没は、北海道から本州まで広い範囲で発生しています。
クマ分布は拡大傾向にあり、北海道や東北・中部地方ではほぼ飽和状態にあります。すべての森林にクマが住んでいるという感じです。

日本という国土は南北に長く、人間の自然利用の歴史が地域によって差があるので、日本のすべての地域で増加傾向にあるということではありません。
九州ではクマは絶滅、四国は絶滅寸前という状態です。

(ツキノワグマが、木の枝をかき集めて木の実を食べたサイン(くま棚)(写真提供:C. Kozakai))

──どうして九州・四国ではクマが絶滅したりしかけたりしているのに、北の地域ではクマが増えているのですか?

佐藤:
歴史的な背景があります。
九州や四国、西日本の各地は、江戸時代よりもっと古くから、エネルギー源として木炭や薪を得るために森の利用が多い地域でした。森林は伐り尽くされていて、明治以前の時点でクマの数もかなり減っていたんです。当時は野生動物も食料や毛皮、薬などに利用されていました。

一方で北日本は、禿山になるまで木が切り倒されるということは少なく、森林に人の介入が少なかったという背景があります。

──なるほど、そうなんですね。

佐藤:
時代は変わり、エネルギー源は石炭から石油へと移行し、山からエネルギーを取らない時代になりました。それまで必要だった木は、エネルギーとしてではなく、構造材(建築材料)としてつくられる時代になったんです。また都市化が進み中山間地域で人口減少や高齢化が顕著になったり狩猟者が減少したりして、里山利用が減少していきました。

それによって、他の野生動物と同様にクマの数が増え、勢いを増している地域が増えてきました。

(2018年10月、秋田で開催した日本クマネットワーク学生部会主催によるワークショップ「これからのクマの話をしよう〜みんなで考えるクマ問題〜」)

山間の村の過疎・高齢化も、
クマと人との間に軋轢を生む一つの原因に

(ツキノワグマの住む森と隣接する山間部(写真提供:稲垣亜希乃))

──人間が環境を破壊してそれでクマが減っていると思っていましたが、そうではない事実もあるのですね。

佐藤:
絶滅したといわれる九州のクマ、そして絶滅の危機にある四国のクマの問題とはまた別の話なのでここは後で話すとして、学生にも驚かれるのですが、「クマが減っている」というのはひと昔前の話です。

確かに過度な自然利用によってクマの数は減りました。しかし「自然破壊によって姿を消したクマを保護する」という時代から30〜40年が経過して、今、自然は少しずつ回復してきています。

北日本では、クマの数は飽和状態にあります。例えば北海道では、人口200万人の大都市札幌でさえも、駅前から見える山のすべてにクマが住んでいるという状況です。クマがどんどん勢いを増していく一方で、それとは対照的にクマが暮らす山間部の生活は過疎化や高齢化が進み、どんどん勢いを失っています。

山間の村で人が住まない場所が増えたり、山に入る人が減ったことで、クマと人との生活範囲の垣根が曖昧になり、人里にクマが出没しやすくなり、様々な軋轢が生まれています。

(ツキノワグマの冬眠穴。この写真のように樹洞を利用するほか、岩穴や土穴を利用することもある。ヒグマは土穴の利用が多い(写真提供:稲垣亜希乃))

──なるほど…。過疎など人の生活の変化も絡んでいるのですね。

佐藤:
多くの地域でクマが増えていることは、紛れもない事実です。そしてそのクマたちが今後、人里に出没するであろうことも、予測できる事実です。ならば、出てくるクマをどうやって地域に入れないようにしていくか、軋轢を生まないよう、生活範囲をどう線引きし、それぞれの生活を守っていくかを現実的に考えていく必要があります。

放っておいたらクマは出る。じゃあどうするか。地域ぐるみの対策が必要です。
電気柵を張ってクマの侵入を防ぐ、見通しの悪い場所は草刈りをして見通しを良くする、集落の中にある柿や栗の木を、猿やクマが来る前に切っておく…、そういった地域づくりをしながら、「回復して勢いをつけてきたクマとどう付き合っていくか」という意識で、共存を図っていく必要があると思います。

(3頭の子を連れたヒグマ、知床国立公園。冬眠中に生まれた子グマは母親と1年半から2年半行動を共にする(写真提供:知床財団))

九州のクマは絶滅したとされ、
四国地方は絶滅寸前

(2017年7月、四国剣山系の現地調査にて。ツキノワグマの痕跡を探して山道を歩く)

──九州・四国のクマ問題は別ということでした。
先ほどから絶滅という話が出てきますが、九州・四国のクマの現状を教えてください。

佐藤:
九州地方に関しては、残念ながらクマは絶滅したと言われています。本当に絶滅してしまったのかを調査しましたが、結局クマを見つけることはできませんでした。
四国に関しては、私たちも調査を続けていますが、現在は十数頭ほどしか確認されていません。

四国では広い範囲で天然林を伐採し針葉樹を植林しているため、そもそもクマの住める森が狭まっていました。さらに、植林している木の皮をクマが剥いでしまうため、害獣として駆除されてきたんです。植林という人間活動が生息域を狭め、その結果生まれた軋轢を埋めようとクマを駆除するという方向に舵を切った結果、個体数が減ってしまいました。

(2017年の四国剣山系の調査で撮影されたツキノワグマ)

佐藤:
四国のクマは、このまま放っておくと絶滅してしまう状態です。研究者集団として、クマが増えない原因を明らかにしながら、彼らを保全するために、より積極的な方法、たとえばクマが住める森林を増やしたりつなげたりする、餌が足りないのなら餌を与える、繁殖がうまくいかないのなら他の地域からクマを入れる、など今のうちに考えられる具体的な方法とそれを実現するための課題を整理し、国に提案するための策を練っているところです。

それと並行して、地域の人たちにとってクマがどんな存在なのかということも調査をしています。

──なぜですか?

佐藤:
その地域に暮らす人たちにとって、すでにクマは疎遠な存在となっています。暮らしの中で特に関わりがないので関心も価値もない状態です。
そのような中でクマの保全活動が行われてクマが増えれば、地域の人たちにとっては今までなかったクマの出没や被害におびえたりと新しい不安要素が増えるだけ、つまりデメリットだけでメリットのないものになってしまいます。クマの保全活動がそのようなデメリットだけの押しつけにならないようにしていくためです。

(2017年7月、四国剣山系にて実施した分布実態調査にて。調査のためにカメラトラップを設置)

クマを守ることが
地域の利益にもつながるようなしくみづくりを

──共存のためには、地域で暮らす人たちの意識も重要だということですね。

佐藤:
そうですね。
クマ問題から離れた都会に住んでいる人には「クマを幸せに」というメッセージを理解してもらえるかもしれません。身近にクマがいないし、被害に遭うこともないからです。

「クマが増えること=負担」、「出没=リスク」と捉える地域の人たちに、その負担やリスクを押し付けて「クマを守って」というのではなく、クマを守ることが利益につながるような、たとえばクマを守る活動のプロセスで都会からたくさん人がやってきたり、地域の特産品が生まれたり…、そんな循環が生まれたら、また変わってくるのではないかと思います。

もっといえば、地域で「何か」活動することで地域のメリットにつながり、さらにそれが結果としてクマも守ることにつながるようなことであれば、その「何か」はクマと直接関わらなくてもかまわないと思います。

──なるほど。

佐藤:
「地域にとっても良いことをして、結果としてクマも守ることにつながる」というしかけを作れたらと思います。
そのためには、生態の調査とはまた別の角度で、社会学的な視点からも共存を考えていく必要があると感じています。

(徳島大学を会場にして行った、四国のツキノワグマ保全のためのワークショップの様子)

50年後も100年後も、
互いに同じ場所に存在していくために

(じゃれて遊ぶ若いヒグマ。子グマは母親やきょうだいと遊びながら様々なことを学ぶ(写真提供:知床財団))

──佐藤さんは、どうしてクマがお好きなのですか?

佐藤:
大学に入って初めてクマの調査のサークルに入り、最初に関わった動物がクマでした。野生のクマを初めて見た時、はまりましたね。

動物園のクマやシンボルとしてのイラストやぬいぐるみのクマとはまた印象が異なって、しなやかで力強いけれどふさふさの毛並みや、風が吹くと毛が揺れて、金色の毛が光る姿に惹かれました。

とても頭のいい動物だけれど、おばかさんで憎めないところもあります。人間ともほとんど大きさが変わらない生き物なので、しぐさなども理解しやすいところもあります。兄弟のクマがずっとレスリングをして、飽きてお母さんグマのところに行ったら、ポコッと叩かれたり、空きカンから舐めた缶ジュースの味を一旦覚えてしまったら、それだけを探し求めて歩き回ったり…。皆それぞれ個性があって、かわいらしいんです。

──微笑ましいですね(笑)

佐藤:
まずは、クマのことを正しく知ってもらいたいと思っています。クマが今どういう状況に置かれていて、どうして人との間に軋轢が生まれてしまうのか。
それを知った上で、互いに50年後も100年後もその場所に存在していくために、事前に備えるべきだと思うんです。

現在、日本には約1.5~2万頭のツキノワグマと約1万頭のヒグマがいます。先進国の中で、豊かな自然があり、これだけ大きいクマのような動物が、これだけの数存在する国はありません。この状況を、うまく守っていきたいと思っています。

(ヒグマが市民農園に侵入するのを防ぐため。下草刈りと電気柵を設置。2016年8月、札幌市(写真提供:浦幌ヒグマ調査会))

チャリティーは、人とクマとの共存を目指し、啓発・調査のための資金になります!

(ツキノワグマ版のトランクキット。毛皮、頭骨、足形。等身大シルエット、クマ撃退様スプレーなどが入っている)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

佐藤:
人とクマの共存に向けて、普及啓発や調査のための資金に充てたいと思います。具体的には、クマの生態を知るトランクキットを製作するための資金や、クマの生態把握に必要な自動撮影カメラ購入などの資金です。

──トランクキットとは何ですか?

佐藤:
より多くの方にクマに関する正しい知識を持っていただくための教育キットです。「ツキノワグマ編」と「ヒグマ編」の2種類があります。
トランクの中には、クマの頭骨や、毛皮や、等身大シルエットや足型などのほか、クマ対策グッズや、クマの生態やクマ対策方法を収めたDVDなど、様々な道具入っています。
トランクキットを通じて、クマの生態を知り、共存について考えるプログラムを提供するものとなっています。

──面白そうですね。クマに対する正しい知識が広まり、人とクマ、どちらもが幸せに生きられる場所が、増えていくといいですね。
貴重なお話を、ありがとうございました!

(2011年、九州祖母傾山系で行ったツキノワグマを探す現地調査の際に、調査メンバーの皆さんで集合写真)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

我々が野生のクマのことを考える機会というのは、普段そうないと思います。あるとしたら、やはりクマ出没のニュースが取り上げられた時。どうしても、クマがわるものになりがちなのではないでしょうか。

太鼓の昔から、様々な生き物たちもこの星で命を育み、人間と共に生きてきました。この星が様々な変化を迎えるなかで、排除するのではなく、一緒に生きていく方法を考えていくことが、やがて人間への豊かさにもつながっていくように思います。

チャリティーTシャツで、ぜひ「人とクマの共存」を応援してください!

・日本クマネットワーク ホームページはこちら

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森と都会の街並みをバックに、肩を並べるクマの親子。人とクマとか、互いを尊重しながら幸せに生きる世界を表現しました。

“We are all living on the same planet”、「私たちは皆、同じ星に生きている」というメッセージを添えました。

Design by DLOP

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「未来をつくるプロデューサー」パシフィックコンサルタンツ株式会社。
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