CHARITY FOR

里親制度──社会的養護下にある子どもたちに「愛情の連鎖」を〜NPO法人日本こども支援協会

現在、虐待や経済的な理由、様々な理由で親と一緒に暮らすことができない子どもたちは、全国に4万5千人います。

こういった子どもたちは、約8割が児童養護施設等で暮らしています。限られた職員が世話をする中で、一般家庭で親の愛情を受けながら育つ子どものように、大人からの十分な関わりを受けることはできません。

普通の家庭を知らないまま大人になった子どもたちが、やがて家庭を持った時に、自分も愛情を受けてこなかったために、我が子へどのように愛情を注いで良いかわからず、虐待や育児放棄が連鎖する可能性があると指摘するのは、今週、JAMMINが1週間限定でコラボする「NPO法人こども支援協会」代表の岩朝(いわさ)しのぶさん(45)。

ご自身も、里親として、小学5年生の女の子を育てるママです。

「親子が分離されず一緒に暮らせることがベストだが、様々な事情で養護されたならば、その子どもたちが十分な愛情を注がれ、安心して暮らすために、大人の力が必要。里親や施設と連携しながら、子どもたちが傷つかない社会を作っていきたい」。

そう話す岩朝さんに、活動についてお話をお伺いしました。

(お話をお伺いした岩朝さん。9月にJAMMINのオフィスにいらしてくださいました!その時の1枚。毎年10月4日「里親の日」に開催される里親制度啓発「One Loveキャンペーン」のハート型チラシを持って)

今週のチャリティー

NPO法人日本こども支援協会

奈良を拠点に、里親制度の啓発、子育て支援などを全国で行っているNPO法人。なんらかの事情で親と共に暮らすことができない子どもたちが愛され、家庭で暮らせる社会を目指している。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

社会的養護下にある45,000人の子どもたちに、
「生まれてきてよかった」と思ってもらえる環境を

(2017年11月、活動拠点である奈良・東大寺にて、児童福祉に関わる団体を招き、みんなで地域の子どもの未来を考えるフォーラム「地域で支える子どもの未来」にて講演した時の1枚)

──今日はよろしくお願いします。まずは、ご活動について教えてください。

岩朝:
現在、全国で社会的養護下にある子どもは45,000人います。虐待や貧困の中に生きる子どもたちが十分な愛情を受け、「生まれてきてよかった」と思えるように、里親制度の啓発を行っています。

里親を増やすことが目的かというとそういうわけではなくて、まずはこの事実を一人でも多くの人に知ってもらい、問題として捉えてもらうことが大切だと考えています。

社会的養護下にある子どもたちが大人からの愛情を十分に受ける手段として里親制度があるのであって、本当であれば里親なんて必要ない、すべての子どもたちが愛情を受けながら安心して生きられる社会が理想です。

──具体的にどのようなことをなさっているのですか?

岩朝:
大きく分けて二つあります。一つは、里親への支援です。
里親には、子どもの背景や実親との関わり、社会の理解など、里親ならではの苦悩があります。里親になることを決めた親御さんに対して、事前に心構えをレクチャーしたり、子どもを受け入れたあとの電話やメールによる相談や、里親同士の交流などのフォローも行っています。

もう一つは、全国で「One Loveキャンペーン」という国内最大の里親啓発キャンペーンの開催です。
毎年10月4日、国が定めた「里親の日」に、現在国内で社会的養護下にある子どもの数と同じだけの45,000枚のハート型チラシを各地で配布するという社会的アクションで、広く一般の人に、社会的養育下にある子どもたちのことを知ってもらうための取り組みです。

(こちらが「One Loveキャンペーン」のハート型チラシ。手のひらサイズでキャッチーな見た目に、思わず手にとりたくなる)

──子どもの数と同じ数、チラシを配るというのは面白いですね。

岩朝:
各地で、それぞれの地域の社会的養護下にある子どもの数だけ配布しています。
たとえば、大阪府の社会的養護下にある子どもの数はおよそ3,000人。なので、大阪には3,000枚配布します。

「日本にはこういう問題があるんだ」ということを、まず知ってほしい。
「かわいそうな子どもたち」とひとくくりに片付けるのではなく、本来であれば希望に満ち、輝かしい未来のある子どもたちであり、チラシを受け取った私たち大人一人ひとりに、子どもたちの未来が託されているんだというメッセージが込められています。

(「日本こども支援協会」ホームページでは、全国の都道府県別の社会的養護下の子どもたちの人数を、クリックひとつで知ることができる。自分が住んでいる場所や故郷など、縁ある場所で保護されている子どもたちの数を調べてみよう。日本こども支援協会ホームページ「子どもたちの現状」→https://npojcsa.com/jp_children/index.html

命を救うだけでなく、
彼らの人生をも救いたい

(年間の虐待通報件数は約12万件(平成28年厚労省発表(速報値)のデータより)。虐待の種類、虐待者を示したグラフ(日本こども支援協会ホームページより))

──子どもが親と離れ、養護される背景にはどういったことがあるのでしょうか?

岩朝:
親からの虐待が約7割を占めます。ほかには親の病気や経済的な理由などで、実は死別などはほとんどないんです。

──虐待がそんなにも高い割合を占めるんですね…。

岩朝:
保護されたということは、このままでは危ないという判断があったということ。心身ともに恐怖を体験し、瀕死の状態の子どももいます。彼らが人生を取り戻すためには、誰かが重点的にケアをしなければいけません。

日替わりでいろんな大人たちがボランティアする事でケアできるかといったら、それは現実的に難しいですよね。子どもには、ずっと側にいて、あたたかく見守り、存在を受け入れてくれる、親の愛情が必要なんです。

(2016年の全国一斉里親制度啓発「One Loveキャンペーン」にて、大阪市内でチラシを配布してくれたボランティアの皆さん。「社会的養護下にある子どもたちの人生を、自分たちが背負わなければ、誰が背負うのでしょうか」(岩朝さん))

──絶対的な愛情が必要、ということですね。

岩朝:
そうです。保護したからハイ終わり、ではダメなんです。

日本の里親事情は先進国の中でも最も遅れていて、現在里親のもとで生活している子どもは、全体の18%ほどにしかなりません。残り82%の子どもは、施設で暮らしています。これが他の先進国では、全く逆なんです。約8割の子どもが家庭的な環境で養育されています。

──雲泥の差ですね。

名前:
彼らはまだ社会を知らない子どもたちです。自分たちで声をあげることができません。無力なんです。誰かに注目されることもありません。だからこそ、大人たちが声をあげて、救う必要があるんです。

(2017年10月、阪急百貨店にて「一般財団法人H2Oサンタ」と共催した「医療と福祉の連携シンポジウム」にて。このシンポジウムは、小児科医、産婦人科医、児童養護施設、里親が連携し、情報を共有する目的で開催された)

死が身近だった幼少期。
死を前に何もできなかったはがゆさが、活動の原動力

(6歳の頃、病室にて。中央に写っているのが岩朝さん。「この後、両隣の子ども達はすぐに亡くなりました。3人の中で生き残れたのは私だけでした」(岩朝さん))

──岩朝さんがこのご活動をされる理由というか、モチベーションを教えてください。

岩朝:
私は先天性の病気のため、小さい頃から入退院を繰り返してきました。これまでに16回手術しています。

同じ病棟には、重い病の子どもたちばかりが集まっていました。周りの子どもが亡くなっていくのを、いろんな思いで見つめていた子ども時代でした。死を目の当たりにしながら、自分には何もできないはがゆさや、どうやっても助けられない無常さを感じましたし、我が子が亡くなって、狂いそうなぐらいに泣き叫ぶ親の姿を見て、胸が張り裂けそうでした。そのなんともいえない空気と、何もできない自分と…。当時は、自分もいっぱいいっぱいでした。

大人になってから、親に愛され、短いけれども愛に満ちた命がある一方で、親が手を加えて子どもを殺したり、虐待などに耐えられず自死する子どもがいることを知りました。

病気から生き残り、両極端な二つの命を見ることになったんです。病気で亡くなっていく命には何もできなかったけれど、虐待で亡くなっていく命には何かできるのではないか、と思ったことが、私がこの活動をする原動力です。

──そうだったんですね。

負の連鎖を断ち切るために必要なのは、深い愛情。
罰ではなく、愛や優しさを与えられる社会に

(2016年の「One Loveキャンペーン」にて、大阪駅にてボランティアさん達と)

岩朝:
とある施設にいたのは、胸が締めつけられるような子どもたちばかりでした。心を閉ざし、話しかけても会話が成り立たない子ども。目を合わせることもなく、近づくと逃げる子ども。日常の会話がないために、いつまでたっても言葉を発することができない子ども。虐待によって後天的な障害を抱える子どももいます。

そんな光景を目の当たりにして、施設を出た後、駐車場に戻って、くやしくてやりきれなくて、号泣しました。命は助けられているのに、人生は助けられていない。あの子達はもう社会に戻れないかもしれない。私たちに何ができるでしょうか。
無責任に人生を救うだけではなく、まずは、そもそも子どもが心に傷を負わない状況を作っていくことをしていかなければならないと強く感じました。

──虐待自体をなくす、ということですね。
虐待の報道のたびに、「子どもがかわいそう」ということは皆共通していると思うのですが、「親が悪い」「面倒を見られないのに子どもを作るのが悪い」と親が叩かれる風潮があります。ここについてどのように感じていらっしゃいますか。

岩朝:
子どもだけでなく、虐待や貧困、精神的な障害やドラッグや服役などで子どもと一緒に生活することができない親たちもまた、人生の豊かさを感じて生きられていないことが多いと感じています。

親子を分離して終わり、子どもを保護して終わり、ではなく、お母さんと子どもが分離しなくていい体勢を整えたり、親子が一緒に生きていけるよう親の社会とのつながりをケアしたり、親と子を一緒にサポートできる体勢も今後もっと必要だと思います。

親を責めるのではなく、抱きしめる必要があります。
罰ではなく、愛や優しさを与えられる社会になればいいなと思います。負のチェーンを断ち切るためには、深い愛情が必要なんです。

──そこで、里親制度が出てくるのですね。

(2018年4月、ライオンズクラブで里親についての講演後、参加者の皆さんと)

血のつながりはなくても、子どもへ注いだ愛情が、
20年後、30年後、後世へとずっと続いていく

──里親制度について、教えてください。

岩朝:
里親制度には、いくつかの種類があります。
代表的なものを挙げると、親権者が別にいながら、子どもと暮らすのが「養育里親」。私も養育里親として、小学生の女の子を育てています。
親権を持ち、戸籍に入れて親子になる「養子縁組里親」や、自治体にもよりますが他に夏休みの間や週末だけなど短期間子どもを預かる「週末里親」などもあります。

(「One Loveキャンペーン」のハート形チラシは二つ折りになっていて、開くと四つ葉のクローバーのかたちに。中には、里親制度の種類についても書かれている)

──いろいろあるんですね。

岩朝:
施設で暮らす子どもたちは、家庭の「普通」を知りません。一緒にスーパーへ買い物に行ったり、好きな食べ物を作ってもらったり、レストランで食事したり…。各施設では小規模化や家庭的な環境に近い間取りにしたり、最大限に子どもの最善のために労していますが、どうしても1対1の関係性は作れない。家庭を知り、「愛されているんだ」「自分は特別なんだ」と感じることが、その子が成長していく時に、大きな糧になります。

問題が起きてから対処するのではなく、永続的に解決するためには、根本的に社会が変わっていく必要があります。そしてそれには、すごく時間がかかります。

里親の元で育つ子どもは、自分が大人になった時、里親の真似をして子育てをしていくんですよね。社会的養護下にあった子どもたちが親になった時に初めて、負の連鎖が断ち切れる瞬間が訪れるんだと思うんです。
血ではつながっていなくても、育ちでつながり、20年後、30年後、さらにその後の世代にどんどん愛情がつながっていくんです。

(岩朝さんが育てている里子が、小学校入学のお祝いで食事に行った際、初めて岩朝さんに「ワガママ」を言ったのだそう。「食事を食べて帰ろうとした時、『ソフトクリームが食べたい!』と甘えてくれて、思わず笑みがこぼれました。彼女はそれまでは少し遠慮があったのと大人への恐怖で、ワガママを言えないでいました。初めてのワガママを言ってくれた時、『私たちを信用してくれたんだ』と感じました」(岩朝さん))

「知っていて救わないのなら、加害者と変わらない。
やらないという選択肢は、私にはない」

(活動について話す岩朝さん)

岩朝:
保護されることで子どもたちの命は助かるけれど、人生は助かっていません。「生きていてよかった」と思える、人生の喜びを感じてほしい。そうやって生きていく権利が、誰しもにあります。

そのためには、周りがサポートできる社会であってほしい。課題を自分ごととして感じてもらえる気づきやきっかけを作ることで、誰か子どもの人生が変わるかしれない。そう思っています。

虐待する親を批判し、責任をなすりつけるのは簡単です。しかし、見て知っているのに救わないのは、加害者と同罪ではないでしょうか。

里親と聞くと「人さまの子どもを育てる責任は持てない」や「そんな自信はない」という声もあります。でも、責任ということでいえば、やらないほうがずっと無責任だと思います。社会的養護下にある子どもたちの人生を、自分が背負わなければ、誰が背負うのでしょうか?だから、私にはやらないという選択肢はありません。社会の一員として、自分ができる範囲で、できるサポートをしながら、みんなで面倒を見られる社会になればいいなと思っています。

(2018年に開催した「感謝の集い」(総会)にて、支援者の方たちとパチリ!「私たちに賛同してくださり共に立ち上がってくださっている素晴らしい仲間です」(岩朝さん))

チャリティーは、社会的養護下にある子どもたち10,000人を知ってもらうための資金になります!

(2016年10月、東京・都庁前で「One Loveキャンペーン」のチラシを配布したボランティアさんと里親の方々)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

岩朝:
今年の10月4日も、全国で「One Loveキャンペーン」を実施します。
毎年、「里親の日」にあわせて各地でチラシを配布する啓発キャンペーンは、来年以降も引き続き行って行く予定です。

チラシ1枚あたりの印刷費は12円ほど。今年のチラシはすでに用意してあるので、今回のチャリティーは、来年、このチラシを10,000人に届けるための印刷代・12万円を集めたいと思います。ぜひ、ご協力いただけたらうれしいです!

──つまり10,000人の社会的養護下にある子どもたちの思いを届けるお手伝いができるということですね!
貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

(お話を聞かせていただいた岩朝さん(中央)、スタッフの吉本千尋さん(右)と一緒に。わざわざお越しいただき、ありがとうございました!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

今月4ヶ月になる甥がいます。最近やっと首が座り、寝返りも打てるようになりました。甥と、母である姉を見ていると、親の愛情の深さをまざまざと感じます。泣き出すと駆けつけ、少しでも異変があると離れません。甥が笑う時も、泣いている時も、寝ている時も。いつも側で、見守っています。甥がやがて成長して母親の元を離れても、この愛情のつながりは、決して消えることがないんだと感じます。姉と甥を見ていると、愛情こそが、全ての根本なんだと強く思わされます。

しかし、もしこの深い愛情がベースになかったらどうでしょうか。
心は荒み、悲しみや孤独が支配するのではないか、ということを想像するのは難しくありません。

愛情が、すべての子どもに行き届き、喜びにあふれた人生になるように。この機会に、社会的養護の下にある子どもたちのこと、そして未来を、考えてみませんか。

・NPO法人日本こども支援協会 ホームページはこちら

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さんさんと照らす太陽の下に、テントがあります。
太陽は親から子へと注がれる普遍的な愛を、テントは、親子が一緒の空間で仲良く穏やかに過ごす場所を表現しました。

“There is always the sun in the sky for those who want to see it”、「見たい人のためには、太陽はいつでも空に存在するよ」というメッセージには、何があっても変わらない普遍の愛と、逆境野中でも空を見上げ、太陽を見ながら、希望を捨てずに生きてほしい、という願いを込めています。

Design by DLOP

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