CHARITY FOR

「大切にされる」経験が、暴力の連鎖を断ち切る。恋人間で起こる暴力「デートDV」をなくすために〜NPO法人エンパワメントかながわ

(小冊子『超カンタン デートDVの基礎知識』(エンパワメントかながわ制作)より抜粋)

恋人間で起きる暴力「デートDV」ご存知ですか?殴ったり蹴ったりといった身体的暴力だけでなく、干渉や監視など行動の制限や精神的な暴力、高価なものを相手に買わせるといった経済的な暴力も含まれます。

若者の間でデートDVがエスカレートした時、やがては望まない妊娠やDV(家庭内暴力)、子どもへの虐待へと発展しかねない、と警鐘をならすのは、今週JAMMINが1週間限定でコラボキャンペーンを展開する「NPO法人エンパワメントかながわ」理事長の阿部真紀(あべ・まき)さん(56)。
エンパワメントかながわが2016年に行った調査によると、10代の交際経験がある男女のうち、これまでに何らかの「デートDV」被害を受けた経験が「ある」と答えた人は全体の37.9%(女性43.8%、男性26.7%)となっています。

また何らかの加害経験が「ある」と答えた人は、全体の21.0%(女性21.4%、男性20.2%)になりました(NPO法人エンパワメントかながわ発行『デートDV白書vol.5全国デートDV実態調査報告書』より)。

交際経験のある10代の実に4割が、「デートDV」被害の経験があるという事実。
決して軽く捉えてはいけないデートDVについて、阿部さんに詳しいお話をお伺いしました。

(お話をお伺いした、「エンパワメントかながわ」理事長の阿部さん)

今週のチャリティー

NPO法人エンパワメントかながわ

暴力のない社会を目指し、予防教育や相談対応を通じて、若者一人ひとりの力を引き出し、つながっていくことでいじめや虐待、性暴力などをなくすために活動するNPO法人。CAP(子どもへの暴力防止)、デートDV予防などのプログラムを実施している。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

「デートDV」とは何か

(「殴られた」といった身体的な暴力だけでなく、「すぐに返信しないと怒られる」「高価な買い物をさせられる」なども立派な「デートDV」。エンパワメントかながわが運営するデートDVの情報発信サイト『notAlone(ナタロン)』より。ナタロン→http://notalone-ddv.org/

──今日はよろしくお願いします。近年耳にするようになった言葉ですが、まず「デートDV」とは何か、その定義について教えてください。

阿部:
私たちは、「恋人同士の間で起きる暴力」と定義づけています。

そもそも「暴力」って何だと思いますか?
殴る蹴るといった身体的な暴力がわかりやすいですが、それだけではなく、言葉の暴力もあります。言葉をかけない、機嫌が悪くなって無視するといった態度の暴力もあるし、性的な暴力や、高価なものを無理矢理買わせるといった経済的な暴力もあります。私たちエンパワメントかながわでは、身体的暴力・行動の制限・精神的暴力・経済的暴力・性的暴力の5つに分類しています。

──身体的暴力はわかりやすいですが、他は少し見えづらくわかりにくいところもありますね。

阿部:
暴力は、人と人との関係によってその呼び方が変わります。
たとえば、友達から友達へ、殴る蹴る、言葉の暴力や無視、性的な暴力があった場合、これは「いじめ」です。大人から子どもへの場合は「虐待」ですし、夫婦間での場合は「DV」になります。これらが結婚していない恋人間で起こる場合は「デートDV」になります。

「メールの返信が遅いとキレる」「相手のメールやアドレスをチェックしたりする」「人付き合いを制限する」といったことについては、「それが暴力にあたるとは知らなかった」という若者もいますが、こういったことがエスカレートして、徐々に身体的暴力や精神的暴力につながっていく可能性があります。

(デートDV情報発信サイト「notAone(ナタロン)」は、「あなたはひとりじゃないよ」というメッセージを込め、デートDVについて若い世代から若い世代へ、周囲の人(家族や友人・学校の先生)、また啓発や支援に関わる人たちへ向けて情報発信している。サイトにはデートDV体験談のほか、デートDV防止活動にかかわる学生の団体からのメッセージコーナーなども)

エスカレートしていくと、様々な問題へと発展していく怖さ

(小学生には「CAP(子どもへの暴力防止)プログラム」を実施。いじめや誘拐、性暴力が向かってきた時、子どもたちが自分自身の力で自分の身を守るための方法を寸劇を使いながらわかりやすく伝える)

阿部:
デートDVに限らずですが、身近な人の間で起きる暴力にはサイクルがあると言われています。いつも暴力を振るうわけではなく、急に優しくなったり、二度としないと泣いて謝ったりした後、イライラしてまた怒りが爆発し、暴力を振るう…というサイクルが回るなかで、徐々に暴力の内容はエスカレートし、またこのサイクルの回転が速くなります。

──「相手が謝ってくれたから、許してあげよう」と我慢するうちに、どんどん暴力がエスカレートする、ということがあるようですね。

阿部:
そうですね。「お前が悪いから怒鳴ったんだ」「殴ったのはあなたのせいだ」といった加害者の言葉に、だんだん「自分は暴力を受けても仕方ない」と思い込まされていき、被害が深刻化する可能性もあります。首を絞められたり骨を折られても気づかない、というケースもあります。

──そこまでの被害があっても、盲目的になっていて気づけない、ということですね…。

阿部:
「もしかしてこれはデートDVではないか」と当事者や周りの人が気づけるように、予防教育はとても重要です。10代のうちにデートDVの被害に遭いながら、それを認識できなかったために思いがけない妊娠をし、そのことによって学校を退学、ひとり親家庭で子育てをするというケースもあります。こういったケースは、経済的困窮や子どもへの虐待など、負の連鎖が続いて起こる可能性が高いという課題を抱えているのも事実です。

──デートDVから様々な問題へと発展する可能性があるということなのですね。

(エンパワメントかながわが実施する「デートDV予防プログラム」の実施者養成講座の様子。デートDV予防ワークショップが実施できるスキルと教材を提供するため、中学生向け、高校生向け、大学生・教職員向けにそれぞれ実施者養成講座を開催(写真は高校生向けプログラムの講座の様子))

「対等な関係かどうか」が「デートDV」見極めのポイント

──一方で「暴力を振るう相手と付き合い続ける本人がわるい」「自己責任だ」といった声もあると思います。
デートDVに対して、どんな認識を持っておくべきでしょうか。

阿部:
まず知っておいてほしいことは「誰でも加害者や被害者になり得る」ということです。
好き同士で行動を制限したりご飯をおごったりということに対して、「どこからがデートDVなのか」という疑問もあると思いますが、私たちが伝えていることは「対等な関係かどうか」で考えてほしい、ということです。

(『超カンタン デートDVの基礎知識』(エンパワメントかながわ制作)は、神奈川県内の高校1年生に配布している啓発冊子。手に取りやすいCDサイズで、イラストを多用しデートDVについてわかりやすく解説)

恋人同士であっても、人権という視点においては対等です。一人ひとりはとても大切な存在であり、その重みに違いはないのだということ。どちらかが強くて相手の言うことを聞かないといけないとか、嫌だと断っても相手に聞いてもらえない関係が、果たして対等なのかということです。

デートDVを防ぐには、この「対等である」こと、また「どんなに好きになっても、互いの考えや気持ちの違いを認め合うことが大切だ」ということをまず知る必要があります。その上で、「自分には選ぶ権利があるんだ」ということに気づいて欲しいと思っています。

──なるほど。では、「この人はデートDV被害者かもしれない」という人と出会った際に、私たちが知っておくべきことはありますか。

(大学生向けの啓発冊子『まわりに起きてない?』に目を通す大学生。大学生向けの冊子は「デートDVだなんで言われたくない」「知られたくない」といった声を受けて作成。大学でも予防ワークショップを実施している)

阿部:
この問題は、被害者が暴力を受けていても「相手に悪気はなかったんだ」「私がわるかったんだ」などと思い、当事者が気づくのが難しいという特徴があります。
周りが気づいて「別れなよ」「離れなよ」と強くアドバイスしたり、無理やり別れさせようとしたりすると、被害者は逆に「あの人はわるくない」「彼(彼女)のことをわるく言わないで」と距離を置くようになり、もっと孤立を深めてしまうという怖さもあります。

「別れなよ」というアドバイスがすんなりと受け入れられないということをまず知っておくことがすごく大切で、頭ごなしに関係を否定するのではなく、まずは被害者の気持ちに耳を傾け、受け止めることが大切です。
そして本人が少しずつ落ち着きを取り戻した時に、「あなたがそんな目に遭っていいわけはないんだよ」ということを伝え、「この先どうしていくか、自分に選ぶ権利があるんだ」という意識を本人が取り戻していくためのサポートをすることが重要です。
このことは活動を通じ、若者たちだけでなく保護者や先生にも伝えています。

(デートDVについて考えていくために、きっかけ作りの劇をスタッフが演じる。被害者、加害者、友達のそれぞれをスタッフが担当)

各地で参加型のデートDV予防プログラムを実施。
「当事者意識」を持つことが重要

(高校生向けのデートDV予防ワークショップの一コマ。クラス単位のワークショップでは、デートDVを伝えるための寸劇に生徒や先生が出演することもあり、盛り上がる)

──実際に中学や高校、大学などでデートDV予防プログラムを実施されています。どういった内容なのでしょうか?

阿部:
中学、高校、大学、それぞれに向けた独自の内容でデートDVを知ってもらう、ワークショップ型のプログラムを実施しています。

プログラムを受けた生徒からの一番多い声は、「たのしかった」というものなんです(笑)。デートDVを被害者と加害者の話として済ませ、傍観者にならないために、「参加型であること」にこだわっています。そうすることで初めて「もしかしたら自分にも関係があるかもしれない」という気づきが生まれ、一人ひとりの関心を引き出すことができるからです。

(デートDVの動画を見てカレシとカノジョの気持ちを想像し、グループで話し合ってシートに書いて提出。それぞれの意見を知ることで、意見に間違っている、正しいはなく、いろんな気持ちや意見があっても良いんだと実体験できるワークショップだ)

──なるほど。一方的に教わるだけでは、当事者意識は生まれにくいですね。

阿部:
もう一つの特徴は、私たちは「暴力を無くす」というミッションのもと、これまで30万人近くにワークショップを提供してきましたが、決して「暴力はダメ」と言ったことがないことでしょうか。

──えっ、そうなんですか?!

阿部:
「暴力を受けていい人はいない」という言い方をしています。「暴力はダメ」と言っても、世の中にはすでにそんなメッセージはたくさん溢れている。それが伝わらないから、なくならない。禁止することより、まずは暴力が身近にあることに気づくことが大切だと思います。

私たちは、「人権」を「=暴力を受けていい人は一人もいない」という言い方で伝えています。生きるために必要なこと、例えば寝たり、食べたりといったことが当たり前に守られるのと同様に、暴力を受けていい人は一人もいないんだということ。だからこそ「自分を大切にしなさい」ではなく、「自分を大切にしてもいいんだよ」ということを、プログラムを通じて伝えています。

──あくまで、「本人が自らの意志で選ぶ」ということなんですね。

阿部:
そうですね。子どもの力ってすごいなと感じるのが、その選択ができた時、自分が大切であることと同様、周りの人も大切にしないといけないんだということをスッと理解するんです。私たちが子どもたちから教えてもらったことですね。

(デートDVであってもいじめであっても、もしも友だちが被害に遭っていたら、声をかける、相談にのるなど、友達としてできることはたくさんある。写真は中学生とのCAPワークショップの様子。お金をとられたすみれさん(スタッフ)に、友達が一緒について来て、「こんなことされるのは嫌だ」と伝える場面)

ワークショップの中で一人ひとりを肯定することが
「自分を大切にする意識」につながる

(「デートDVにならないこと」をテーマに、寸劇のシナリオを書き換えてみようというお題で、仲間と数人のグループとなって意見や考えを出し合う。オリジナリティあふれる楽しいシナリオが次々に誕生)

阿部:
ワークショップの中では、漫画や動画で劇を見てもらいます。そこで描かれるカップルを通じて、参加者皆でデートDVについて考えます。
その中で、小さな付箋に皆に意見を書いてもらい、1枚1枚、講師がすべて読み上げるということをします。これは、ワークショップの中で「肯定される」ということを生徒一人ひとりに感じてもらいたいということ、また、同じテーマを共有しても、一人ひとり全く異なる意見があるんだということを知ってもらいたいという狙いからです。

みんな一人ひとり意見が違うということを体感することで、「恋人の間でもそれぞれ意見や考え方は違って当たり前」ということを知ってもらいたいと思っています。

(神奈川県在住のシンガーソングライターyounA(ゆうな)が学生時代の自らの経験がデートDVだったということに気づき、デートDV防止への思いを込めたオリジナルソング「あなたのままで」を制作。学祭や文化祭などで出張ライブを行っている。曲はこちらから聴くことができます→http://notalone-ddv.org/message/498/

──デートDVを考えるだけでなく、自己肯定の機会や他人との違いを知るきっかけがあったり…、ものすごく高度なワークショップですね…!

阿部:
人間に上下関係があって、子どもが大人の言うことを絶対的に聞かないといけないとしたら、これは、恋人間でデートDVが発生する構図と同じだと思うんです。

──確かに…そうですね。

阿部:
頭ごなしに押さえ込んだり、一方的に命令したりするのではなく、子どもたちに力があると信じ、対等な関係で関わっていくこと。これが、彼らの持っている力を発揮することができる、まさに「エンパワメント(力を引き出す)」できる方法だと思っています。

──大人が、そこに気がついていく必要もあるのではないですか。

阿部:
大人もまた、上下関係しか学んでこなかったのかもしれません。
対等な関係を築くこと、そして大切にされるということを学んでこなかった。そういう意味でも、デートDVは決して若者や当事者の間だけの話ではなく、社会課題だと思っています。

(エンパワメントかながわが設立した「デートDV防止全国ネットワーク」のNPO法人化を記念し、8/26に設立記念シンポジウムを開催。文部科学省が行った妊娠を理由とした高校生の退学についての調査を受け、デートDV予防教育の可能性を話し合った)

チャリティーは、若者がデートDVを啓発する「ユースプロジェクト」の資金になります!

(「スマートイルミネーション横浜」の一環で、ユースプロジェクトのメンバーがみなとみらい象の鼻パークにて開催した「デートDV防止ひかりの実イルミネーション in横浜」での1枚。会場を訪れた人たちに、「デートDVではない”居心地の良い関係”って何だろう?」ということをテーマにしたメッセージをひかりの実に描いてもらい、公園の木々に灯した)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

阿部:
私たちは10代や20代の若者からの啓発を大切にしています。やはり若者が主体となった啓発を広げていくことが一つのカギだと考えているからです。
若者にとって親世代である私たちが、彼らの意見を聞かずして予防啓発はできません。だからこそ、若者から発信する「ユースプロジェクト」を大切にしていて、これまでにも若者が作ったアンケートを拡散したり、プログラムを作る際に彼らの声を取り入れたりしてきました。

ここに関しても、私たちが「これをして」とお願いするのではなく、彼らが自発的にデートDVについて考え、意見を発信することが重要で、そこで彼らをエンパワメントし、サポートするのが私たちの役目だと思っています。

このプロジェクトには、高校生〜20代の若者が全国から参加してくれています。彼らからの発信や啓発に力を入れるため、チャリティーは「ユースプロジェクト」の活動資金として使わせていただきます。具体的な内容は、今後参加する若者たちの間で詰めていくことになりますが、若者たちでデートDV のQ &Aを作成してデートDVを再定義してもらったり、当事者の話を発信したりといったことで、近い世代の若者から共感を得ることができればと思っています。
ぜひ、チャリティーにご協力いただけたらうれしいです。

──貴重なお話、ありがとうございました!

(2018年5月27日に実施した寄付イベント「始めよう!集まろう!川崎の中学生に暴力防止プログラムを」にて、エンパワメントかながわの応援団とスタッフの皆さんで記念にパチリ!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

「デートDV」。ともすると、「当事者の話でしょう」「暴力を振るう相手と付き合うのがわるい」「私には関係ない話」と切り捨ててしまうテーマではないでしょうか。
今回、阿部さんにいろいろとお話をお伺いしながら、デートDVと絡んで潜む様々な課題や、デートDVが発生する背景など、決して「他人事」ではない事実を知りました。

「暴力を受けていい人は一人もいない」、それが「人権」なのだ、というお話に、すごく納得しました。デートDVに限らず、虐待やいじめ、性的暴行や戦争、すべてに当てはまって言えることです。

「ダメ」という頭ごなしの否定は簡単。そうではなく、本人の力を信じ、そこに寄り添うことで本人が気づき、選択していくのを待つこと。その強い信念と、地道なご活動に、頭が下がる思いでした。

・エンパワメントかながわ ホームページはこちら

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ベンチでくつろぐ2匹の猫。自分と誰かを認め合い、互いが心地良く過ごすことができる関係やつながりを表現しました。

“Always know how valuable you are”、「自分には価値があるんだということを、いつも忘れないで」というメッセージを添えています。

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