CHARITY FOR

急速に拡大するロヒンギャ難民キャンプ、難民一人ひとりの生活と命を守るために〜NPO法人ADRAJapan

2017年夏からニュースで目にすることの多い「ロヒンギャ」の問題。命の危険を感じてミャンマーを出た多くの人たちが、近隣諸国に流入しています。

「2017年の8月までのロヒンギャ難民のバングラデシュへの流入は30万人。しかし8月末からは、70万人を超える大量の流入があり、合計の難民数は100万人を超えた。難民の実に4分の3が、8月末から一気に流れ込んだ状態。難民キャンプの整備や支援が追いつかず、課題も発生しつつある」。

そう語るのは、今週JAMMINが1週間限定でチャリティーキャンペーンを展開するNPO法人ADRA Japan(アドラ・ジャパン)で、ロヒンギャ支援にあたる小出一博(こいで・かずひろ)さん(55)。

急速に拡大しつつあり、また長期化が予想される難民キャンプ内では、トイレや飲み水などの水問題が深刻化しつつあるといいます。しかし、キャンプ内は決して悲惨でつらい様子だけではないようです。

「身の危険を感じて逃れて来ている人たちだが、実際に難民キャンプを訪れた際、良い意味での驚きもあった。それは圧倒的なエネルギー。生きようとしている熱気や活気。決してネガティブで悲惨な側面だけを捉えてはいけない」。

ロヒンギャ難民キャンプの様子を聞きました。

(お話をお伺いした小出さん)

今週のチャリティー

NPO法人ADRA Japan(アドラ・ジャパン)

途上国において開発支援や災害被災地において緊急支援活動を行うNPO法人。世界各地において今なお著しく損なわれている人間としての尊厳の回復と維持を実現するために、医療援助、災害救援・緊急支援、教育や経済開発、食料確保の取り組みなどの分野で活動している。
JAMMINとは2014年7月(ネパールの口唇口蓋裂患者の医療支援)、2016年2月(レバノンに滞在するシリア難民支援)に続き3度目のコラボ。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

ロヒンギャの人たちが大量に流出した背景

(ロヒンギャ難民キャンプの一つである「チャクマクル(Chakmarkul)キャンプ」内の様子。丘の上に立ち並ぶ難民の人たちの簡易シェルター。こうした風景が延々と続いている)

──今日はよろしくお願いします。まず「ロヒンギャ難民」について。去年の暮れ頃から急激に目にするようになりましたが、背景を教えてください。

小出:
「ロヒンギャ」とは、ミャンマー西部、バングラデシュの国境に近いラカイン州というところに住む少数民族を指します。2017年の8月末以降から多くの難民が発生したのは、ロヒンギャの人たちの中のごく少数の過激派「アラカンロヒンギャ救世軍」と名乗る急進的なグループが、ラカイン州の警察署などを襲撃したことに端を発します。

それを口実に、今度はミャンマー軍や警察が「不穏分子を探す」という名目でロヒンギャの制圧に入り、虐殺やレイプなどが発生しました。村は焼き払われ、小さい子どもも容赦なく虐殺されました。2017年の8月末からわずか1ヶ月間で、6千人を超える人たちが虐殺されたと言われています。

──たくさんの人たちが巻き込まれたんですね…。

小出:
少数民族であるロヒンギャの人たちは、ミャンマーの中ではかなりひどい差別を受けてきたという歴史があります。

おそらく焼き畑などをしながら移動生活をしていた民族であったロヒンギャの人たちが暮らしてきた地域は、ラオスからタイ、ミャンマーに渡る大陸部東南アジアの生活圏と、インド・ベンガルの生活圏とが交差する場所でした。たまたまミャンマーのラカイン州附近に住むようになりましたが、植民地支配の時代を経て、ミャンマーの領土へと組み込まれてしまったのです。

その多くが仏教徒であるミャンマーの人たちに対して、ロヒンギャの人たちは多くがイスラム教徒です。文化的な面においても、ミャンマーよりも隣国のバングラデシュに近いものをもっています。

(竹を使った簡易シェルター建設の様子。建設にあたっているのは難民の方たち)

1年も経たずに生まれた
「100万人の難民コミュニティー」とどう向き合うか

(ロヒンギャ難民キャンプの一つである「クトゥパロン(Kupupalong)キャンプ」の様子)

──ミャンマー軍の制圧の後、たくさんの人が近隣諸国に逃げています。

小出:
実は、ロヒンギャ難民自体は前から2、30万人ほど存在しました。難民の滞在先であるバングラデシュでは、一部の地域でそういった人たちが季節労働など安い労働力として雇われ、生活をすることができていたんです。
UNHCR(国際連合難民高等弁務官事務所)もそういった状況を見て、ロヒンギャ難民の人たちが避難した先で生活していけるように後押しをしてきました。しかし2017年の8月末以降、難民の数は増える一方で、バングラデシュに流れた難民は100万人にもなっています。

想像してみてください。たった1年に満たない間に、100万人もの人が新たに住む場所を見つけ、そこに定住するということ。これは、ホストコミュニティー(難民を受け入れる地域のコミュニティー)を脅かすことになりかねません。その地域にもともと住んでいる人たちの立場や、利益が脅かされる可能性が高くなります。バングラデシュ政府はロヒンギャ難民を基本的に受け入れ、サポートしてくれていますが、彼らも自分の生活を守る必要があります。

──新たな軋轢が生まれては大変ですね。

小出:
100万人規模のコミュニティーが、ある日を境に突然できる。
難民を受け入れる地域の人たちにとっても、そしてサポートする私たちのような支援団体にとっても、今後どうしていったらいいかというのは大きな課題です。

(難民キャンプのひとつ「ナヤパラキャンプ」近くの、ホストコミュニティーのマーケット)

巨大化し、長期化が予想されるキャンプ内では
水問題が深刻化している

(キャンプ内にて、排水路を整備する)

──ADRA Japanさんでは具体的に現在、どのような支援をされているのですか?

小出:
ADRA Japanのバングラデシュ支部と連携しながら、難民の流入が始まった昨年の秋〜冬にかけては、緊急援助として生きるために必要な食料や生活用品などの提供をしていました。

難民キャンプの長期化が予想されたため、年があけて2018年からは難民キャンプ内の土木環境の整備、たとえば道を整備したり、雨が降った際の排水を考えたり、土砂崩れに備えたりといったキャンプマネジメントに、今年の5月まで従事しました。

(食糧配付の様子)

──現在、課題としてはどんなことがありますか?

小出:
キャンプ内で生活する人がどっと増えたことによって、現在の一番の課題は水問題、特にトイレの問題です。

実は前年、キャンプ内に難民の方がわっと増えたときに、あわてて井戸を掘ったり、簡易的なトイレを作ったんですが、当時は浅い井戸しか掘れなかったんです。そのため、飲み水の帯水(たいすい)層があるところと、トイレのし尿槽が同じ層にあるため、飲料水の汚染が深刻な課題になっています。

──どういうことでしょうか?

小出:
地下を掘っていくと、水が出てくるところがありますよね。これが帯水層です。簡易トイレは、同じように地下を掘り、掘ったところにコンクリートの輪を入れてし尿槽にしただけの簡単なもの。少ない数であればそう大きな問題にはなりませんが、今回は難民キャンプに滞在する人たちの数が莫大で、トイレのし尿槽と井戸の帯水層が同じ位置にあるため、徐々に飲料水を汚染してしまうのです。
キャンプ内には水の浄化装置がないので、水は、この帯水層からくみ上げただけのものをそれぞれの家庭で煮沸して飲んでいます。こういったことから、汚染した飲料水が伝染病などのもとになってしまう恐れが出ています。

(キャンプ内によく見られる簡易トイレ)

──水は毎日飲むものですし、危険ですね。

小出:
これからまだまだ人が増えれば、その分トイレも必要です。
難民キャンプが長期化することも視野に入れて、「水源から30m以内にトイレは作らない」といったルールを定めたり、浅井戸ではない、100mほどの深さの井戸を掘り、そこから飲料水を確保しようなど、汚染しないトイレを作り、深井戸を掘って清潔な飲み水を確保するために、いろんなNGO団体が協力し合い、課題解決へ向けて取り組んでいます。

(設置された井戸(他団体によるもの)に水を汲みに集まっている難民の人たち)

衛生啓発も一つの課題。
各国のNGOが協力し、支援を続けている

(トイレに設置された手洗い用の水のタンク(他団体によるもの))

小出:
難民の人たちが人間らしい生活を送れるようにと、キャンプ内ではたくさんのNGOが手を取り合い、協力しながら活躍しています。暖かくなり、病原菌などが発生しやすくなる夏にむけて、衛生環境を少しでもよくするために、この4月〜6月にかけては、キャンプ内にある数千のトイレを汲み取りました。

あとは、ロヒンギャの人たちの衛生習慣もしっかり育てていくこと。ここが非常に重要です。移動民族であったため、トイレを使う習慣や手洗いの意識が低いロヒンギャの人たちに、いかに衛生習慣を身につけてもらうかが、清潔で快適なキャンプを作る一つのカギになってきます。

(キャンプマネージメント関係者のミーティングの様子)

──衛生の啓発も一つの課題なのですね。

小出:
そうですね。衛生的な生活を送れるようにロヒンギャの人の意識に働きかけていくことも僕たちの役目のひとつです。

衛生啓発のプログラムは現地ですでに実施されていて、「水は煮沸する」「手洗いする」「水を入れるタンクは毎回洗う」といった基本的な衛生習慣を伝えています。
広いキャンプ内は、僕たちのようなNGOのスタッフがいつでもどこにでもいるわけではないので、彼ら自身の生活の中でトイレをきれいに使用することや、メンテンスの仕方なども伝えています。

──…生まれたばかりの大きなキャンプを管理していく。とてもチャレンジングなご活動ですね。

小出:
そうですね。いろんな意味でチャレンジングです。
でも、「無理だ」と諦めるのではなく、ここでどうするか、どう改善していくかが、私たちの知恵の絞りどころ、腕の見せどころだと思っています。

それが我々の責任だし、各地から集まった他のNGO団体さんも、みんな少しでも状況を良くしようと考えています。団体やキャンプの垣根を越えて、支援スタッフが集まってこの数十万のコミュニティーをより良くするために、話し合いを重ねています。僕はそこにも、大きな可能性があると感じます。

(水場で、身体や衣服を洗う子どもたち。皆生き生きとしている)

力強く生命力にあふれたロヒンギャの人たち

(キャンプ内の整備には、難民の方たちも積極的に参加する)

──小出さんは4月にロヒンギャ難民キャンプを訪れたということでした。その時の様子はいかがでしたか?

小出:
僕が訪れたのは、バングラデシュのコックスバザールという地域にある難民キャンプです。キャンプは本当に広いです。私が訪れたトゥクパロン・キャンプは、広大な土地が仮設テントで埋め尽くされていました。丘陵地にあるキャンプなのですが、小高い丘から見渡す限り、向こう側までずっと難民キャンプという広さです。

──すごいですね。人々の生活はいかがでしたか。

小出:
テレビやインターネットのニュースでは、ロヒンギャの人たちが置かれた悲惨な状況ばかりがクローズアップして映し出されています。けれど、僕がキャンプを訪れた時、そんな雰囲気は感じなかったんですね。

もちろん、つらい立場に置かれた人たちです。けれどそれ以上に、生きようとするそのエネルギー、活気や熱意に満ち溢れている姿が、とても印象的だったんです。

子どもたちは人懐こくて、笑いかけるとニコッと笑い返してくれる。大人たちはしっかりと落ち着いた雰囲気が印象的でした。キャンプの至るところに路上マーケットがあって、みんないろんなものを売って商売しているんです。

彼らに支援が必要なのはもちろんそうなのですが、その一方で、自分たちで何かを仕入れて売ったり、キャンプの中をスマホで録画して世界に発信したりする人もいて、彼らのたくましさ、明るさ、生命力の強さを感じました。
ネガティブで悲惨な人たち、というふうには見てはいけないな、と気づかされました。

支援する側としては「悲惨だ」とか「かわいそうだ」と思いがちですが、そうではなく、彼らが生きようとする中で、その生きる力をどうプラスに変えていけるかが、僕たちに与えられた課題だと思っています。

(キャンプ内のマーケットにて)

チャリティーは、難民キャンプの各世帯に「保健衛生キット」を配布するための資金になります!

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

小出:
僕たちは引き続きロヒンギャの人たちへの支援を続けていく予定です。今回のチャリティーで、彼らの生活を衛生面から守るための「保健衛生キット(1世帯あたり3,000円)を50世帯分、配布できたらと思っています。

──「保健衛生キット」とは?

小出:
身の回りに必要な洗面器やバケツ、タオル、石鹸など、生活を衛生に保つための一式が入ったキットです。世帯によってはこういったものを全く持っておらず、そのために衛生環境がわるくなってしまうことがあります。皆さまからのチャリティーは、彼らの生活を健やかに保つため、このキット購入のための資金となります!ぜひ、ご協力いただけたらうれしいです。

──貴重なお話、ありがとうございました!

(ADRA Japanが設置した橋の前で、スタッフと記念撮影!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

ロヒンギャと聞いて思い浮かべるのは、虐殺、レイプといった悲惨なものばかり。難民キャンプへと逃れた人々の生活も、失意、怒り、落胆、涙…、さぞかし悲惨なものなのではないかとネガティブなイメージにばかりスポットライトを当てていました。
しかし小出さんの話を聞いて、長く住んだ場所を離れても、新たな場で生きようとする人々の力強さや、彼らの生きる力を支えようと世界中から集まったNGOの人たちの懸命な支援を知り、ロヒンギャの人たちが前を向いて生きていくために、私たちの意識もまた「かわいそう」だけで済ませてはいけない、その次のステップを見つめていかなければいけないと強く感じました。

・ADRA Japan ホームページはこちら

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彼らの生きる力をサポートするために私たちにできることをしよう、という思いを込め、サフラン(花言葉は「喜びにあふれる笑顔」)とガーベラ(花言葉は「希望、常に前進」)、コマツナギ(花言葉は「希望をかなえる」)の花を描きました。

“Together we can make changes”、「一緒になら、変化を起こすことができる」というメッセージを添えています。

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