世間はワールドカップ開催の真っ最中!連日深夜の試合観戦で「寝不足〜」なんて方も多いのではないでしょうか。
世界中のファンを熱狂させるサッカーですが、今回ご紹介するのは、少し変わったサッカーです。
目が見えない状態でプレーするサッカー、その名も「ブラインドサッカー」。
2020年に東京で開催されるパラリンピックの種目の一つで、日本国内での注目も高まっています。
JAMMINとは2016年10月以来、2度めのコラボとなる「NPO法人日本ブラインドサッカー協会」。日本の視覚障がい者サッカーを統括しながら、ブラインドサッカーの普及を目指し、様々なイベントを行っています。今週、7月8日には、ブラインドサッカー日本選手権の決勝戦も控えているのだとか。
なんと今回、日本ブラインドサッカー協会の高橋(たかはし)めぐみさん(25)にセッティングいただき、ブラインドサッカーチームの監督をされている土屋由奈(つちや・ゆな)さん(25)、ブラインドサッカー選手で、日本代表選手にも選出された寺西一(てらにし・はじめ)さん(28)に、ブラインドサッカーの魅力を教えてもらいました!
(左から、ブラインドサッカーチームで監督を務める土屋さん、ブラインドサッカー選手の寺西さん、日本ブラインドサッカー協会の高橋さん)
NPO法人日本ブラインドサッカー協会
「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現すること」をビジョンとし、障がいの有無に関わらず、ブラインドサッカーに携わるすべての人が生きがいを持って生きられる社会を目指して活動するNPO法人。日本の視覚障がい者サッカーを統括している。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(ゴールキーパーを除く選手はアイマスクを着用し、目が見えない状態でのプレーを義務付けられる。まさに感覚だけが頼りだ)
──今日はよろしくお願いします。
早速ですが、「ブラインドサッカー」はその名の通り、見えない状態でプレーするサッカーですよね。サッカーだけでもすごく手に汗にぎるものですが、ブラインドサッカーのさらなる魅力とは、どういったところでしょうか?
土屋:
私はもともとサッカーが好きで、そこからブラインドサッカーを知りました。ブラインドサッカーの試合を観に行ってみると、「Jリーグより面白い」と感じたんです。
──どんな点を面白いと感じられたんですか?
土屋:
目の見えない中でどうやってサッカーができるのか、最初は衝撃でした。そんな中で選手間でパスが通ったり、点が入ったりするのが、すごく新鮮に映ったんです。
(所属チームでプレーする寺崎さん。スピード感と試合会場の緊迫した雰囲気は、サッカーに引けをとらない)
寺西:
目が見えていない分、聴覚やイメージをフルに使って試合に臨みます。
「この状況なら、こう動く」というのは、サッカーをプレーするときと違う感覚を使っている部分と、やっていることは違っても同じような感覚を使っている部分があると思います。
──イメージを使うんですね?!
寺西:
試合中の展開はめまぐるしく変化します。目が見えない分、今の状況を把握した上で「敵はこう来るんじゃないか」とか「こう動くだろうな」と相手の先の動きを予測しながらプレーすることも重要になります。
──先を読む…。まるで将棋みたいですね!
寺西:
うーん、そんなところもありますね。僕は初段くらいかも…(笑)
(フェンス際の競り合いが、ブラインドサッカーの見所の一つ。昨年3月、品川区で開催された「ワールドグランプリ」にて、日本VSトルコの試合の一コマ)
(観客席の様子。プレーが切れた瞬間が応援のチャンス!)
──ブラインドサッカーは観戦にも特徴があると聞きました。
高橋:
目が見えない中でプレーするにあたり、今試合の状況がどうなのか、自分がどこにいるのか、「聴覚」が大きなカギになります。
試合中は、選手同士はもちろん、5人のプレーヤーの中で唯一目が見えるゴールキーパーや「ガイド」と呼ばれるゴールまでの距離や角度を伝える役割の人がかけ声を出して選手に今いる位置や指示を伝えることで、他の選手は状況を把握し、コート内を自由に動くことができます。
観客の声援によりこの掛け声がかき消されてしまうので、試合中、観客は原則として声を出さないで観戦するようにお願いしています。
土屋:
ただ、点が入った瞬間だけは別。
ワーッ!とファンも声を出して一緒に喜びを分かち合います。これがすごく良いんです(笑)
寺西:
試合中、声援がない分、観客の方は選手同士がどんな掛け声を出しているのかを聞くことができます。観客は黙っている一方で、コートの中はめちゃくちゃうるさい(笑)。
どんな声を出していて、選手たちがどの声を拾ってどう動くのか。よりリアルな、白熱した雰囲気を楽しんでもらえるんじゃないかなと思いますね。
──まさに選手の方たちの息遣いまで聴こえてきそうな、白熱した雰囲気をそのまま共有できるんですね。
(日本で2015年に開催された「アジア選手権」にて、日本VS韓国戦の得点シーン。全身全霊で喜びを分かち合う)
──他にも、ブラインドサッカーにはサッカーとは異なる独自のルールがありますよね。
高橋:
ブラインドサッカーは、フットサル(5人制サッカー)を元にルールが作られています。ゴールキーパー以外は全盲の選手がプレーします。
試合時間は、前半20分、ハーフタイムを挟んで後半20分です。
フィールドの4人の選手はアイマスクをつけてプレーします。目が見える方も、アイマスクをつけることで選手としてプレーすることができますが、世界大会など国際的な大会では、ゴールキーパーを除くフィールドプレーヤーは「視覚障がい者」であることが条件となります。
(ブラインドサッカーのルール(「日本ブラインドサッカー協会」ホームページより))
土屋:
全盲の選手がプレーするにあたり、3つの大きな特徴があります。
1つめは、「音の鳴るボール」。ボールの位置や転がりを把握するために、転がると音が鳴るボールを使用します。
2つめは、「ガイド(コーラー)」と呼ばれる「晴眼者の協力」。攻めの場面でゴールまでの位置や距離、角度、シュートのタイミングを声で伝え、正確なシュートをサポートします。ゴールキーパー、監督も選手に声をかけながら、皆で一丸となってプレーします。
3つめは、「ボイ(Voy)!」という掛け声。スペイン語で「行く」という意味ですが、フィールドにいる選手は全盲なので、相手が近づいてきても気づくのが難しいことがあります。ボールを持った相手に向かっていくとき、選手は「ボイ!」と声を出して相手の選手に存在を知らせる必要があります。
これは危険な衝突を避けるためのルールで、このルールを破るとファウルを取られます。
──様々な工夫があるんですね。面白いですね。
(自らもブラインドサッカーチームに所属し、ガイドとして活躍する高橋さん。ゴール横から、選手たちに的確な指示を出す)
(今年3月に品川区天王洲で開催されたワールドグランプリにて、日本代表選手に選出されDF(ディフェンス)として活躍する寺西さん。対戦国はフランス)
──寺西さんは、いつからブラインドサッカーを始められたんですか?
寺西:
ブラインドサッカーを始めて13年になります。最初は中学2年の時でした。視覚障害者の学校の寮に住んでいたんですが、そこにたまたまブランインドサッカーのチームがあったんです。
学校認定の部活動ではなく、有志のチームでした。最初に話を聞いたときは、見えない状態でサッカーができるなんて、信じられないと思いましたね。
どんなものかまったく想像もつかなかったので、試しにやってみようと軽い気持ちでやってみたのがきっかけです。
そして思ったのが、「動ける!」ということ。サッカーは初心者でしたが、他のブラインドスポーツと比べて圧倒的に自由に動けるなという感覚があったんです。
──「自由に動ける」というのは?
寺西:
もちろん、自分のポジションや選手のフォーメーションはあります。でも、他のブラインドスポーツと比べて、圧倒的にたくさん動けるなという印象を持ったんです。
バレーボールやテニス、卓球などは学校の授業や部活にもあって、やったことがありました。ネット型のスポーツは、ネットにぶつかったりもしてしまうので、たとえば「向こう側に行ってはいけない」というふうに、動きが制限されてしまうところがあります。ブラインドサッカーは、それがなかった。自由度が高いな感じました。
──目の見えない中で走り回るということに、怖さはなかったですか?
寺西:
怖かったですね。でも、それよりも「動けるな」という感覚の方が勝ちましたね。
──13年前というと、日本ではまだまだブラインドサッカーが知られていなかったのではないですか?
そうですね。中学生だったので、「人がやったことないことをしている自分ってカッコいい」みたいな意識もありましたね(笑)。
(8年前の寺西さん。「他のことをしていたら、それはそれで別の世界が広がっただろう。だけど、僕が出会ったのはブラインドサッカーだった。ブラインドサッカーなしの生活は考えられない」と話す)
(現在は、千葉県と東京都で活動するブラインドサッカーチーム「松戸・乃木坂ユナイテッド」に所属する寺西さん。こちらは試合前の円陣の様子)
寺西:
有志のチームだったので、そのチームが途中で無くなってしまいました。それでブラインドサッカーを続けるためには、学校を出て遠出して練習に参加する必要が出てきたんです。それまでは学校の中だけで完結していたのが、1人で電車に乗って練習場所へ行ったり、年上の人に出会ったり、ブラインドサッカーを続けることで、学校の外の世界を知ったんです。
(小学生にブラインドサッカーの指導をする寺西さん。「障がいのあるなしにとどまらず、コミュニケーションをとりながら相手のことを知り、理解することは必ず役に立つはず」と語る)
寺西:
「人に会わなきゃいけない」とか「外に出なきゃいけない」という意識ではなく、大好きなブラインドサッカーを続けていたら、自然と世界が広がっていった。他のスポーツや趣味をしていたら、また別の道があったのかもしれないけれど、これは、僕がブラインドサッカーに感謝していることの一つです。
僕が経験した、「世界は広がる」ということを、視覚障害のある子どもたちや、目が見えなくなって間もないない人たちにも、知ってほしい。そして「こんな世界もあるんだ」「こういう生き方もあるんだ」という夢を与えたい。
そんなに障がいを抱えなくても、みんなで支えて、分かち合って生きていけるということを知ってほしい。これこそ僕が、ブラインドサッカーの発展に携わる大きな理由です。
──そうだったんですね。
(ブラインドサッカー協会が実施する、視覚障がい児向けのキッズキャンプにて。「障がいのある子どもたちで、サッカーが好きな子どもはまだまだたくさんいる。夢を与えていきたい」(寺西さん))
(土屋さんは、名古屋のブラインドサッカーチーム「Mix Sense名古屋」に所属し、監督を務める。後列グリーンの服を着ているのが土屋さん)
寺西:
ブラインドサッカーは、選手同士互いにコミュニケーションをとりながら、深く相手のことを知らないと、競技として成り立たないところがあります。僕たちはこれをたまたまブラインドサッカーでやっていますが、もしブラインドサッカーを離れたとしても、社会で生き、人間関係を築いていく上で、これは一緒だと思うんです。
対話をする中で相手を深く理解すること。これは障がいのあるなしに関わらず、そうなんじゃないかなと思うんです。
高橋:
私は大学時代、サッカー部のマネージャーをしていました。今はブラインドサッカーチームでガイドをしています。どちらも、チームメイトの関係やロッカールームの雰囲気ってまったく変わらないんです(笑)。
他愛ない話で盛り上がったり、「目が見えないから、友達の誕生日プレゼント一緒に選んでよ!」といわれてプレゼントを買いにいったり…。スポーツを通じて共に喜んだり、悔しんだり…、同じように分かち合うことに、障がいのあるなしは特に関係ないと思うんです。
ブラインドサッカーは、視覚障がいのある人も、ない人も一緒になってできるスポーツ。ブラインドサッカーを通じて「気兼ねない関係」になれるのが、すごく魅力だと思っています。
(高橋さんは、盲学校のチーム「free bird mejirodai」でガイドを務める。「ブラインドサッカーがなかったら、視覚障がいのある人と交わることはきっとなかった。気兼ねない関係を築き、本当の友達になれるのもブラインドサッカーの魅力」と語る)
(日本選手権「アクサブレイブカップ」のポスター。決勝戦は、2018年7月8日に開催!)
──去年からは、男子だけでなく女子の競技も始まったそうですね。
高橋:
そうなんです。本当に楽しい競技なので、少しずつ競技人口やファンを増やしていきたいと考えています。
6月からは「ブラインドサッカー日本選手権 アクサブレイブカップ」が開催され、予選ラウンドを勝ち抜いたチームが、この7月8日、アミノバイタルフィールド(東京都調布市)にて、日本一の座をかけて戦います。
一昨年の日本選手権への参加は16チーム、昨年は19チーム、そして今年は21チームと少しずつ参加チームも増えており、競技人口が増えているんだなとうれしく思っています。
──楽しそうですね!
先ほど世界大会のお話もちらっと出ました。2020年の東京パラリンピックも控えていますが、世界のブラインドサッカー事情はどうですか?
やっぱり、ドイツとかブラジルが強いのでしょうか?
寺西:
ブラジルは強いですね!アルゼンチンも強いです。アジアでいえば、意外なところで中国が強いです。
──そうなんですね!
(2014年に渋谷で開催した世界選手権にて、活躍するブラジルの選手)
(ブラインドサッカーのボール)
──最後に、今回のチャリティーの使途を教えてください。
高橋:
現在、ブラインドサッカーで使用するボールは1サイズのみなのですが、小学生がブラインドサッカーを始めるには正直少し大きいサイズなんです。
また、音が鳴る仕組みになっているためボールの表面が通常のサッカーボールより固くなっていて、当たると痛いのも難点なんです。
ブラインドサッカーをもっと身近に、小さな子どもたちも始められるようにしたい。そうして、ブラインドサッカーの競技者を増やしていきたい。そのために、少し小さくて当たっても痛くない、そんなボールを開発したいと思っていて、ボールメーカーさんと相談を始めたところです。
今回のチャリティーは、この子ども用のブラインドサッカー専用ボール開発のための資金に充てたいと思っています!
──競技者が増え、もっともっと盛り上がっていくといいですね!
貴重なお話、ありがとうございました!
(2018年3月に開催したワールドグランプリ大会の会場にて、大会運営のスタッフの皆さんで記念撮影!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
3人のお話をお伺いしながら、すっかりブラインドサッカーの魅力に感動してしまいました。「見えない中でのプレー」、あなたなら、どんな風に動き、どんなことを感じますか?
現在、日本ブラインドサッカー協会に登録しているチームは全国に21チーム。「住んでいる近くにブラインドサッカーチームがあるか知りたい!」「大会観戦に行きたい!」「自分もプレーしてみたい!」という方、是非是非日本ブラインドサッカー協会さんのホームページで今後の情報をチェックしてください!
・第17回アクサブレイブカップ ブラインドサッカー日本選手権の詳細はこちら
サッカーボールを水の雫に見立て、水面に落ちる一粒の雫と、そこを起点に描かれる放射線を描きました。
感性を研ぎ澄まさなけれ感じられない雫の滴り。
ブラインドサッカーに通じる集中力と繊細さを表現すると同時に、この雫は「ここを起点に、世界が広がる」、ブラインドサッカーの魅力をも表現しています。
“you are brave enough to take the first step“、
「最初の一歩を踏み出す勇気が、君にはある」というメッセージを添えました。
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