突然ですが、昨日は、ご飯を誰と食べましたか?家族や気の置けない友人と、最後に楽しく食卓を囲んだり、お茶をしたりしたのはいつですか?どんな話をして、どんな気持ちになりましたか…?
誰かと一緒に食事をしたり、たわいない話で盛り上がったり…。何気ないようで、実はすごく励まされたり、元気をもらえることだと思いませんか。
今週、JAMMINがコラボするのは、東京・山谷地域でホームレス支援活動を行うNPO法人「山友会」。ホームレスの人たちを対象に、無料診療や生活相談、炊き出しなどを行っているほか、ホームレスの人たちの居場所や生きがいづくりを行っています。
「人間同士の関わりが希薄になっている現代だからこそ、つながりの重要性を感じる」。そう話すのは、山友会副代表の油井和徳(ゆい・かずのり)さん(34)。「人間が心から笑えている時は、人とのつながりが豊かで、本当に安心している時。そういう笑顔を取り戻してもらうのが、僕らの活動」といいます。
油井さんともう一人、炊き出しを担当する後藤勝(ごとう・まさる)さん(51)に、活動について、お話をお伺いしました。(山谷地区の歴史と、山友会の始まりについてのインタビューは、こちらのブログに書かせていただきました!)
(お話をお伺いした油井さん(左)と後藤さん(右)。山友会の事務所にて)
NPO法人山友会
東京・山谷地域にて、ホームレスや生活困窮状態者のための無料診療、生活相談・支援、炊き出しなどの支援活動を行うNPO法人。介護が必要な状態などにより単身生活が困難な人にためのケア付き宿泊施設も運営。ホームレスにならざるを得なかった人々が、「ひとりではないと感じて、笑顔を取り戻すこと」をミッションに活動に取り組んでいる。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(水曜日の炊き出しは隅田川の河川敷で行われる。多いときには200人以上の人が並ぶ)
──今日はよろしくお願いします。まずは、貴団体の活動の一つである炊き出しについて教えてください。
後藤:
私たちは、週に2回、水曜日と木曜日に、山谷地域で炊き出しを行っています。水曜日にはパンのセット、もしくは五目ご飯などのお弁当を配り、木曜日にはおにぎり、またはコロッケ弁当を配っています。
──何人ぐらいに配布されているのですか?
後藤:
平均して大体100人〜150人、多い時で200人ほどですね。
──どんな雰囲気なのでしょうか?
後藤:
ボランティアスタッフが「元気ですか」「お待ちどおさまです」と一人ずつ挨拶をしたり、お礼を言ったりと声がけを意識しています。具合が悪そうな人がいたら相談にのったり、ほかにもホームレスの方たちの方から困ったことがあった場合に声をかけてくれることもあります。
──炊き出しで支援しながら、そこをきっかけに、生活相談など新たな支援につなげていく…。そんな「出会いの場」なんですね。
後藤:
天気の良い日には、炊き出しに並んでいた人同士が堤防に座って一緒に食べながら話をしたりしています。炊き出しをきっかけに「山友会」のことを知ってもらって、何かあった時に、私たちのことを頼ってもらえるような関係を作りたいと思っています。
(木曜日の炊き出しにて。温かいお味噌汁を配るボランティアスタッフ)
(隅田川沿いの路上生活者に声をかけ、食料を渡す)
後藤:
この炊き出しとは別で、「アウトリーチ」という活動も行っています。
テント暮らしの方たちのところを一軒一軒訪ねて、お弁当などを配っています。
──炊き出しとは違うのですか?
後藤:
炊き出しに来る人一人ひとりも、できれば普段寝泊まりしている場所などを訪ねられれば良いのですが、炊き出しに並ぶ人の多くは、段ボールは持っていてもテントは持っておらず、日中滞在できる場所がない人が多いです。
夜はネットカフェや、お金がない時は公園、駅などで寝たりしていて、仕事がない時、日中は夜までどこかで時間を潰さなければなりません。そのため、炊き出しに来てもらうという方法で接点が持てるようにしています。
一方、テント生活者は定住というと語弊があるかもしれませんが、生活している場所がわかるので、一軒一軒訪ねて回って関係を築いていったり、見守りを行ったりしています。
──なるほど。
(テント生活をしている人に声掛けして回るボランティアスタッフ。この一角には、約30件のテントがあるという)
(隅田川河川敷テラスにて。一人佇む路上生活者)
──一人ひとりに声がけするのは、大変ではありませんか?
後藤:
人それぞれですが、最初から話してくれる方もいれば、まったく一言も話さない方もいます。会うたびに声をかけて、何年かかかってやっと口をきいてくれた、というケースも珍しくありません。
油井:
誰しも何かのきっかけで路上生活に陥るリスクはあるものの、路上生活をそう誰もが経験することではありません。一人ひとり背景があって社会的に孤立し、路上生活に至った背景があります。
養育放棄や虐待のような状況で良い幼少期が過ごせなかったために人との関わりに自信が持てなかったり、教育を十分に受けることができなかったり、失業して、新しい仕事が見つからない状況が続いたり…、一人ひとり状況は違えど、彼らの人生において積み重なってきた社会的な不利が、孤立という状況を生み出してしまうのです。
しかし背景がどうであれ、目の前に路上生活を余儀なくされる人がいるのに、誰も声をかけてくれない、まるで風景となってしまっているかのように存在が無視されてしまっている社会はおかしいはずなんです。
路上生活をしている方からしても、困っているのに誰にも助けを求められない社会的に孤立した状況に追い込まれ、「どうせ自分なんか誰にも必要とされていないんだ」と孤独感を深めて、前向きに生きていくことをあきらめてしまいます。時折聞かれる「このままでいいんだ」「好きでやってるんだ」という彼らの言葉は、こうした過程で自分の置かれている状況を自虐的に説明しようとした結果なのかもしれません。
──より孤立を深めてしまうんですね。
(ふりかけや練った梅を混ぜ合わせて、炊き出し用のおにぎりを作っているところ。山友会の活動には、たくさんのボランティアさんが携わっている)
(山友会代表のルボ・ジャンさん(73)(右)。写真は、事務所の前で散髪をしてもらっているところ。山友会に集う人たちにとってジャンさんは家族のような存在で、来所した人たちとふざけ合ったり、冗談を言い合う様子をよく見かけるという)
油井:
山友会代表のルボ・ジャンと「現代は無縁社会と言われているけれど、これはどうやったら解決できるのか?」という話をしたことがあります。ジャンは「難しい問題だけどね。一緒にご飯を食べればいいんだよ。」と言いました。
これって一見すごくシンプルだけど、本質を得た言葉で、実はとても難しいことだと思うんです。一緒に飯を食う関係になるまでがまず大変だし、それを続けていくことだって、すごく大変です。でも、一旦一緒に飯を食う仲間ができるこということは、自分一人ではなく、誰かに相談しながら問題を解決したり、人生の選択ができたりすることだと思うんですね。
──確かに、そうかもしれません。
油井:
大変な時は誰かに相談して、それでスッキリすることもあるし、嬉しいことがあった時も、誰かと共有できた方が、ずっと嬉しいじゃないですか。
人は誰も、一人で生きていくことはできない。だから、一緒に考えよう。そのために、一緒に時間を過ごし、いろいろな経験を共にして、寄り添っていこう、というのが、僕らの考え方です。
この考え方は、山友会の活動のスタンスにもよく表れています。関係を結ぶきっかけは私たちの支援であることが多いのですが、支援の対象者だからといって、問題や課題のある人・弱い立場の人と見なし、一方的に何かを与え続けるような関係であり続けるというのは違うと思っています。
山友会を訪れる路上生活者や路上生活を経験した人の中には、炊き出しや食堂などの活動を手伝ってくれる人もたくさんいます。一緒に活動をして、どうしたらいいか一緒に考えて、一緒に「山友会」というコミュニティをつくっていこう、というのが私たちのスタンスです。
(山友会の相談室では、生活相談のほか、路上生活を経て地域での暮らしに移った方の見守りなどの取り組みを行っている)
(山友会のプロジェクトの一つ「居場所・生きがいづくりプロジェクト」のメンバー。「食堂で使ってほしい」と、事務所の屋上で野菜を育てている)
油井:
家族、会社、地域…、近年はこういった伝統的なコミュニティでの人間同士のつながりが希薄になりつつあります。
一方で、先ほども言ったように、人は一人では生きられません。じゃあ一体、つながりを、コミュニティをどう築いていくのか──。
最も社会的に孤立してしまっているとも考えられる一番「社会」というものから切り離された状況にあるホームレスの人たち、社会の中で一番ひとりぼっちな人たちのそばに行こうとすることの連続が、結果として「新たなコミュニティ」を生み出していくのではないかと、山友会の活動をしながら感じています。
「社会的孤立」が社会問題として認識されてきていますが、これを解決していくためには、地域の中で嫌われ者や除け者のように思われてしまっている人、ひきこもり状態にある人など、地域社会から孤立してしまっている人に、寄り添い一緒に考えながら、そうした人も孤立ずに安心して暮らすことのできる地域を一つ一つ丁寧につくっていくことが必要だと思っています。
何だかとてもハードルの高い話に聞こえるかもしれませんが、つながりやコミュニティを生み出していく上で一人一人ができる身近なことは何なのかと考えてみた時、それは自分と違う価値観や考え方、文化を持つ人を安易に排除しないこと、「寛容である」ということなんだと思います。
──ホームレスの方たち向けの無料診療、生活や住まいの相談、居場所や生きがいづくりなどの活動もされています。
油井:
一つひとつの活動にはそれぞれに目的があります。例えば無料診療は、金銭的な問題などで医療にアクセスできない方の命の守る・病気を治療するということが目的です。
一つひとつの活動の目的もそれぞれ重要ですが、団体として何より大切にしていることは、医療・食事など路上生活を送る人々のニーズに応じたサポートを通して、つながりやコミュニティを彼らと一緒に築いていくということなんです。
(無料診療所「山友会クリニック」での診察光景。多いときには1日に20人近くが来院する)
(食堂での昼食光景。1日に50人以上の人に昼食を提供している)
──そこが、山友会さんの活動の核なんですね。
油井:
そうですね。僕たちの事務所の2階には、無料で昼食が食べられる食堂があります。路上生活を送る人など事務所を訪れた方たちに、お腹も心も満たされてもらいたいというのがこの食堂の目的です。
オープンな雰囲気にしているので、路上生活をしている人をはじめ様々な方たちが食べに来ます。黙々と食べて帰って行かれる方もいますし、スタッフと談笑したり、相談ついでにご飯を食べたりする方もいます。私たち職員やボランティアも、一緒に食べています。
(食堂では日替わりでメニューが変わる。一番人気はカレーライス)
──まさにジャンさんのいう「一緒にご飯を食べる」環境ですね。
油井:
そうですね。毎日のように来る方もいて、徐々に名前を覚えてくれて、関係が深まってくると困っていることを打ち明けてくれたり、「○○さんの調子が悪そうだよ」と他の方のことを知らせてくれたりもします。
何より一番うれしいのは、通ってくれるうちに彼らに笑顔が増えていくこと。人が心から相手を信頼している時、笑顔は自然と生まれると思うんです。
(山友会相談室長の薗部(そのべ)さん(右)と来訪者の方とのツーショット。山友会の事務所前は、いつも賑やかで和やかな雰囲気で溢れている)
油井:
僕たちの活動は、「マイナスをゼロにする」という課題解決を行うようなことだけではありません。
「マイナスをゼロにする」、例えば、住まいを失った路上生活者が、住まいを得る。それで終わりかというとそうではなく、一人ひとりと向き合いながら、その人がどんな暮らしや人生を送っていきたいかということを一緒に考えたり、さまざまな経験を共にする中で、彼ら一人ひとりの魅力を引き出していきたい。そして、一緒に「山友会」というひとつのコミュニティをにつくっていきたいと思っています。
その過程で、コミュニティはもちろん、地域社会の人間関係や主体性が少しずつ豊かになるようなプラスの価値を生み出していくことも、僕たちの大切な取り組みなんです。
後藤:
この活動をしていると「何故すぐに助けてあげないのですか」と言われることがあります。でも、これまでの人生があっての今なので、すべての人をいっしょくたにして「みんなこういう風になればいい」というのは、違うと思うんです。
一人ひとり、相手との関係を深めながら、その人のペースで、その人なりの「幸せな人生」を、一緒に考えていきたいと思っています。
油井:
一人ひとりがどんな人で、どんなことに困っていて、どんなことに幸せや価値を見出す人なのか、それがわからないと、手の差し伸べ方もわかりません。
住まいや健康、最低限の生活を送っていくためのお金はもちろん大切です。けれどそれだけでなく、その人の「人生の質」というところまで意識しながら、その人の「価値観」や「人となり」に合った関わり方で、おせっかいかもしれないけれど、その人の人生や、その人にとっての幸せを、一緒に考えられたらと思っています。
(人形づくりを行う「居場所・生きがいづくりプロジェクト」のメンバー。つくった人形は、スタディツアーなど見学で訪問した方に記念に渡しているそう)
──とても温かい支援の様子が伝わってきます。最後に、チャリティーの使途を教えてください。
油井:
食堂は、土日を除く平日は毎日運営しており、毎日40名ほどが利用してくださっています。一食あたりの食材費は300円です。今回のチャリティーで、ホームレスの方や地域で孤立して暮らす生活困窮者に1週間の昼食を届けるための費用・6万円(300円×40人×5日分)を集めたいと思います。
「一緒に食べる喜び」を感じ、お腹だけじゃなく、心もいっぱいに満たしてもらえる食堂をこれからも運営していくために、チャリティーに是非ご協力たいただけると嬉しいです!
──貴重なお話、ありがとうございました!
(食堂のボランティアの皆さん。食堂をはじめ、山友会の活動は多くのボランティアによって支えられている)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
「ホームレスになる=家を失う」ことですが、それは誰とも一緒にご飯が食べられないということなんだ、台所もないし、食べる場所も、食べる相手との関係さえ断ち切られて、本当に追い詰められて一人ぼっちなんだ…と感じました。「ホームレスになった自分が悪い」という人がいるかもしれません。でも、誰がひとりぼっちになることを望むでしょうか?空腹や孤独を抱えて生きることを望むでしょうか…?!
お二人の話を聞きながら、私自身本当にたくさんの「つながり」の中で生かされているんだということを改めて感じました。と同時に、この「つながり」を一度失った人にもう一度手渡し、紡いでいく山友会さんのご活動の素晴らしさを感じました。
大きな鍋を一緒に囲み、食事をしながら楽しくおしゃべりしたり、くつろいだりしている動物たち。
「一緒にご飯を食べる」ことを通じて、人とのつながりや明るい未来が生まれる様子を表現しました。
“Eat together, smile together”、「一緒に食べて、一緒に笑おう」というメッセージを添えています。
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