CHARITY FOR

「あの日学んだことを、この森に託したい」。
「災害からいのちを守る森」をつくる〜鎮守の森のプロジェクト

(東日本大震災の津波にも流されず、生き残った鎮守の森。写真:佐脇充(BEAM×10 ))

「鎮守(ちんじゅ)の森」をご存知ですか?
神社の周りをこんもりと守るように植わっている、その地域に本来ある樹種によるふるさとの森を、こう呼ぶのだそうです。

豊かな自然で動物や植物、昆虫など様々な命を育みながら、また田畑や川に栄養をもたらし、その地域と人々の暮らしを守る、強い生命力を持っています。

2011年3月11日に発生した東日本大震災では津波でコンクリート堤防や松林がことごとく破壊される中、この「鎮守の森」だけは、津波から流されずに残りました。この先人より古くから伝わる森は、地域に豊かな恵みをもたらすだけでなく、災害時に「いのちを守る森」として役立つ機能を担っていたのです。

今週、JAMMINがコラボする「公益財団法人 鎮守の森のプロジェクト」は、この森の知恵を後世に残していきたいと、東日本大震災の後、その教訓を生かし、地域本来の森を再生すべく植樹活動を開始しました。

開発が進み、どんどんなくなってしまった地域本来の森。その土地本来の樹種を選定し、どんぐりの状態から育て密植・混植することで、約20年で災害に強い、人々の「いのちを守る森」をつくっています。

活動について「鎮守の森」渉外の石森(いしもり)さんに、お話をお伺いしました。

今週のチャリティー

公益財団法人鎮守の森のプロジェクト

日本に古来から残る「鎮守の森」をモデルに、ドングリを拾って苗木にし、根が張りやすいよう柔らかい盛り土の上に植え、森づくりをすることで「災害からいのちを守る森」を後世に残していきたいと活動する公益財団法人。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

「鎮守の森」をモデルに、活動から6年で44万本以上の苗木を植樹

──今日はよろしくお願いします。ご活動について、教えてください。

石森:
日本に古からある「鎮守の森」をモデルとした自然災害にまけない、強い森をつくるため、これまで、全国7箇所に、447,901本の木を、50,456人のボランティアの方々と一緒に植樹してきました。(2017年10月現在)

私たちの活動は、東日本大震災後翌年の2012年に始まりました。津波で被害にあった東北沿岸部に、大量に残された瓦礫(がれき)を再生した資材を活用し盛り土に入れて植樹することで、苗木の根がよく絡まりながら成長し、次に来る津波から地域を守ろうという取り組みが「瓦礫を活かす森の長城プロジェクト」というもので、現在の「鎮守の森のプロジェクト」の前身です。

(植樹された苗)

(植樹前の同じ場所。津波によって多くのものが失われた)

石森:
いままで東日本大震災の復興支援に特化して活動していましたが、一昨年の4月から、日本全国へと活動範囲を広げました。小学校や幼稚園の周囲に作った小さな規模から、宮城県岩沼市沿岸部の約10キロにわたって30万本以上の木を植えた大規模なものまであります。

「鎮守の森のプロジェクト」の副理事長を務める宮脇昭(みやわき・あきら)博士は、植物生態学者として森を研究してきた方です。
過去の様々な災害の事例から、災害対策としてその地域に本来あった森が重要な機能を果たすことを指摘し、各地でその再生に力を入れていた宮脇博士に、「鎮守の森のプロジェクト」理事長である細川護熙(ほそかわ・もりひろ)元首相が賛同したところから、活動が始まりました。

(「鎮守の森のプロジェクト」理事長の細川さん(左から3人目)。高知県南国市で開催された植樹祭にて)

「鎮守の森」は災害にも強い森だった

(東日本大震災では、流された木々が二次災害・三次災害を引き起こした)

──森はたくさんありますが、なぜ「鎮守の森」が、自然災害から私たちを守る役割を果たしてくれるのですか。他の森との違いは何なのでしょうか?

石森:
私たちのつくる自然災害からいのちを守る森づくりの特徴は、まず植樹する土地の植生調査をして、その土地に適した十数種類の常緑広葉樹(シイ・タブ・カシなど)を密植・混植し、互いに競争させながら森をつくっています。
十数種類の常緑広葉樹を植える森は、杉や松などの単植林に比べ、「根が真っすぐ深く張る」「緑の表面積が多い」などの特長があります。これにより、台風や豪雨でも倒されにくく、自然の土留め効果のある森となり、災害時に二次・三次の被害を防ぎます。

──高速道路に乗ったときに見かける針葉樹の森が、日本古来の森かと思っていましたが、考えてみたら同じ木ばかりが植わっています。これは造林であり、日本古来の森とは違うんですね。

石森:
そうなんです。この仕事をするまでは、私も知りませんでした。

一方で、日本各地のお寺や神社の周りにある「鎮守の森」の多くは、その土地本来のふるさとの木による森で、古くからある森です。
各地の気候や環境によって、植わっている木は異なりますが、どの場所でも、様々な種類の高木、亜高木、低木、下草、また土の中のバクテリアやカビ、ミミズなどと関わり合いながら共生し、多層構造の森を形成しています。
その土地本来の常緑樹で構成された森は、根が深くしっかりと土の中に張り巡らされていることから、台風や豪雨、津波でも簡単に倒れることがありません。災害にも強い森なのです。宮脇博士の調査では戦前、日本全国にはおよそ15万箇所以上の「鎮守の森」があったようですが、現在、その数は非常に少なくなってしまいました。

(植樹した木々は少しずつ成長し、やがて森になる。宮城県岩沼市にて)

東日本大震災の津波から、いのちを守った森

(津波にも負けず残った森は、車などの漂流物を受け止める役割を果たした。宮城県多賀城市にて)

──「災害に強い森」、そしてまた「いのちを守る森」ということですが、具体的な事例を教えていただけますか。

石森:
「鎮守の森」が、津波や火災から我々人間の命を守った過去の事例を紹介します。

2011年東日本大震災では、海岸沿いに植えられた松が津波によって根こそぎ倒され、さらに内陸部に流されて、家を破壊するなど二次災害を引き起こしました。しかし、古くからずっと自生する「鎮守の森」の木々は、大きな津波にも流されず、しっかりと生き残っていたんです。

さらに、高木、亜高木や低木など多層構造の「鎮守の森」が壁となって津波のエネルギーを吸収し、威力を最小限に抑えると同時に、引き波によって漂流する家や車などを受け止め、沖へと流れてしまうのを食い止めました。

(多層構造の森が壁となって押し波では津波の威力を和らげ、避難時間を稼ぎ、また家屋の破損も減少させる。引き波では、真っ直ぐ深く張った根に支えられて倒れにくい木々が漂流物を受け止め、沖に流されるのを食い止める)

石森:
宮城県多賀城市には、宮脇博士が中心となって「鎮守の森」をモデルに植樹した森がありました。東日本大震災の発生時、この森は植樹からたった7年。しかし、津波に負けずそこに残っていただけでなく、引き波がさらおうとした多くのものを受け止め、守ったのです。

水分を多く含む「鎮守の森」の木々は、
火災からもいのちを守る

(1995年の阪神淡路大震災にて。常緑広葉樹の並木で火は止まり、小道を一本隔てた集合住宅は延焼を免れた。兵庫県神戸市にて)

石森:
「鎮守の森」は、火災からも私たちを守ることがわかっています。1923年の関東大震災、また1995年の阪神淡路大震災の時にも、昔からその土地に自生する常緑広葉樹は、水分を多く含んでいたために延焼を食い止め、火災から人々の命を守っていました。敷地の周りを常緑広葉樹の木で囲まれた場所にいた人たちは、延焼の被害を受けずに済んだのです。

──常緑広葉樹が、火を食い止めていたんですね。

石森:
そうです。津波対策として沿岸部に植えるだけでなく、災害時に人々の避難先となる学校や、多くの人が集まる商業施設やオフィスビルの周辺に「鎮守の森」をモデルにした森をつくることで、新たなかたちで、人と森とが共生していけるのではないかと考えています。

どんぐりから育て、様々な木を共に植えることで
地に根を張りめぐらせ、災害に強い森をつくる

(どんぐり拾いの様子)

──「鎮守の森」は先人の知恵であり、贈り物であったんですね。

石森:
そうともいえます。
この「災害からいのちを守る森」を、後世へと残していきたい。その思いで、私たちは日本各地で植樹活動を続けています。

──植樹は、具体的にどのように行うのでしょうか?

石森:
「鎮守の森」をモデルにして作る森づくりは、まず植生調査から始まります。その土地に昔から存在した、その土地に本来ある樹種を選定し、現地でどんぐりを拾い、ポット苗に育ててから、混植・密植しています。

(植生調査の様子)

──なせ、ポット苗を混植・密植するのですか?

石森:
30cmほどのポット苗は、根を切る必要もなくそのまま植えることができ、成木を植えるより、土に根づきやすいです。また、古くからある「鎮守の森」同様、いくつかの種類の高木や低木を一緒に植えることで、木々が競争し合って成長が加速します。
こうして植えられた木々は、地面の中で根を力いっぱい張り巡らせ、根を互いに絡め合い、そしてまた、周りの生き物とも共生しながら、その地域に適した「いのちを守る森」へと成長し、20年で立派な森が完成します。

──20年ですか?!もっとかかるのかと思っていました。

石森:
自然の力では、100~300年ほどかかると言われています。宮脇博士が考えた独自のメソッドによって、20年という期間で立派な森をつくることが可能になっています。海外からも視察があるほど、注目されているんですよ。

──どんぐりから苗を育てるということでしたが、実際に一本一本の苗はどうやって植えているのですか?

石森:
植樹には、全国各地からボランティアの方が参加してくださっています。植樹後、3年間はメンテナンスが必要ですが、その後は、メンテナンスも特に必要ありません。自然の力で循環し、9000年持続する森になると、宮脇博士は言っています。
「鎮守の森」は、長期的なメンテナンスは必要ありません。今後人口が減っていく中で、人手やコストのかからないエコな防災システムを後世に残していくことができるのです。

──すごいですね。

(植樹祭にて。全国各地からボランティアが集まり、一本ずつ丁寧に苗を植える)

地域に根付き、いのちを守り、
新たないのちを育む森へ

(その地域本来の森は、もともとそこにいた在来の生物を呼び戻し、新たないのちを育む)

石森:
「鎮守の森」が果たす役割は、海外からも注目が集まっています。
自然災害の多い国は、日本だけに限りません。津波や台風、火災などに備え、自分たちの国にもこの取り組みを応用できないかと、期待が高まっています。
「災害からいのちを守る森」を作る、ということが私たちの使命ですが、「鎮守の森」がもたらすのは、防災の機能だけではありません。その地域本来の森は、もともとそこにいた在来の生物、鳥や昆虫を守り、新たないのちを育みます。また、田畑や海、川にたくさんのミネラルをもたらしてくれます。

「明治神宮」をご存知ですか?あの森もまた人の手で木々を植えてできた「人工の森」なんです。

──ええっ⁈ 知らなかったです。とても自然を感じられる場所なので、てっきり自然の森かと…。でもそう言われてみると、自然の森にしては少し整備されている様子がありますね。

石森:
明治神宮の森は、もともと荒れ地だった場所につくられた、人工の森なんですよ。けれど、植樹から100年で、本当に昔からあった森のように、自然淘汰により豊かな生態系を育む場所になったんです。

──すばらしい…そうだったんですね!

チャリティーは、「鎮守の森のプロジェクト」の森づくりの資金に充てられます

(「鎮守の森のプロジェクト」が実施したポット苗講習会の様子)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

石森:
「鎮守の森」をつくるにあたり、一本の苗木を植えるには、植樹資材や土壌改良費を含め1,000円が必要です。
先ほども話したいように、どんぐりを採種し、約2年半育てた苗木を土壌改良した盛土の上に植樹しています。今回のチャリティーで、「鎮守の森」をつくる100本分の苗木の費用・10万円を集めたいと思います!

──小さな苗木がその土地に根付き、やがてその土地を守る木になる。すばらしいですね!ありがとうございました!

(「災害からいのちを守る森」を後世へ残すべく、これからも活動していきます!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

「鎮守の森のプロジェクト」の副理事長を務める宮脇昭博士のご著書『鎮守の森』(宮脇昭著・新潮社・2000年)を読みました。
非常に印象に残った箇所を紹介します。

生き物を扱っている立場からいつも思う。現代人は若者、高齢者、政治家、教育者、行政、企業、労組も、ご家庭の主婦に至るまで、死んだ材料での規格品づくりが便利で効率的で経済的と思い込みすぎていないか。(中略)

死んだ材料では規格品化が大事であるが、自然はその一員であるヒトの顔、指紋、歯形ほどの多様性を持っている。多様性こそ最も強い自然の表現力である。多様性があるから、さまざまな危機に対応して生きていける。

これは、人間社会でも今まさに叫ばれていることではないでしょうか。
多様性を育み、危機に強い地球を作っていくために、ぜひ今回のチャリティーにご協力ください!

鎮守の森のプロジェクト ホームページはこちら

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都会のビルと大きな木、森が入り乱れながら、
一つの世界をつくり上げています。
私たちの暮らしを、森が隣り合わせで寄り添いながら守り、そして私たち人間は、森を育んでいく…。
「鎮守の森のプロジェクト」が目指す未来を表現しました。

“Life saving forest”、「いのちを守る森」というメッセージを添えています。

Design by DLOP

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