今年で3回目となる日本ダウン症協会さんとのコラボ。一昨年の1回目のコラボ時には「植物」で、昨年は「自転車と三輪車」で、ダウン症の特徴である「21トリソミー」を表現しました。…そして、今年は?!
気になるデザインは、後ほど紹介します!
3月21日の「世界ダウン症の日」、今年の標語は”What I bring to my community”、「いるだけで伝わることがある~どんな街にも あなたのそばにも~」。
かつて「平均寿命が短い」と言われていたダウン症ですが、環境の変化に伴い、現在は寿命が伸びてきていることが明らかになっています。と同時に、30代・40代・50代を迎えたダウン症のある人たちが、「健康」や「老い」とどう関わっていくのか、また、それぞれの暮らすコミュニティとどうつき合っていくのか、医療・福祉・保育・教育・就労、新たな課題も生まれています。
日本ダウン症協会の理事であり、日本ダウン症協会大阪支部長でもある、大阪医科大学教授の玉井浩(たまい・ひろし)先生は、ダウン症を専門に研究してこられた第一人者。医師としての立場から、そしてダウン症のお子さんを持つ一人の親として、お話をお伺いしました。
(取材させていただいた玉井浩先生。大阪医科大学・玉井先生の教授室にて、娘のみほさんの写真の前で)
公益財団法人日本ダウン症協会
ダウン症のある人たちとその家族、支援者でつくられた会員組織。相談活動と会報発行等を軸に、ダウン症に関わる様々な活動を行っている。また、マスコミをはじめ様々な立場の人からの相談、質問、依頼、要望に応え、ダウン症のある人たちがいきいきと充実した人生を送れるように活動する公益財団法人。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(2018年2月12日に開催された「世界ダウン症の日キックオフイベント」にて、今回のコラボTシャツを着てパチリ!)
──本日はよろしくお願いします。
今年の「世界ダウン症の日」の標語、”What I bring to my community”には、「コミュニティー」という言葉がズバリ入っていますが、ダウン症のある人たちを取り巻く社会やコミュニティーの課題について、教えてください。
玉井:
過去を遡ると、ダウン症のある人たちは早く亡くなると言われていました。ダウン症は、生まれた時に他の合併症を持っていることが多く、心不全など心臓の問題、あるいは甲状腺の病気や白血病などで、幼いうちに亡くなることが多かったんです。
しかし近年、ダウン症のある人たちに対して積極的に手術や治療が行われるようになってきました。これにより、寿命が伸びてきたんです。報告によると寿命が60歳ぐらいと言われています。
寿命は伸びて、皆長生きしているのに、それぞれの人たちが一体どんな生活をしているのか、何に困っているのか、そして何に困っていくのか、ダウン症のある人たちの成人期以降の実態が、まだ見えていないのが実情なんです。
──今後、そこを解明していく必要があるということですね。
(成人期のダウン症のある人たちが「何に困っているのか」「何に困っていくのか」、その実態を研究し「新しいダウン症像」を考えていくために、日本ダウン症協会では、2017年11月にダウン症のある人たちと専門家が一同に会する「日本ダウン症会議」を初開催した)
玉井:
ダウン症のある人たちの寿命が長くなっている昨今、取り組むべき課題の一つは「老化」に関する医学的な研究です。
ダウン症のある人たちの体力的なピークは30代で、40代から老化が始まっていくと言われています。ただ、その中にも比較的老化が早い人と、早くない人がいるんです。この理由が解明できれば、比較的元気に老後を迎えることができる人たちが増えます。
(画家のいかわあきこさん。30歳で絵を始め、47歳の今も絵を描くのを楽しんでいる)
──原因がわかれば、それを参考にしながら、健康的な生活ができますね。
玉井:
そうですね。また、ダウン症のある人たちの「死因」に関する研究も進めていく必要があります。
ダウン症のある人たちは太っている人が多いですが、実は高血圧や動脈硬化になる人は少ないという調査が出ているんです。また、白血病になる人は多いのですが、固形がんを患う人は少ないんですね。
ダウン症のある人たちの死因に関する特徴はいくつかあるのですが、研究自体が少なく、暗中模索の状態なんです。つまり、「老い」という分野で、ダウン症のことがよくわかっていない、ということがわかってきたんです。
テーマを決めて研究し、成果を生むことができれば、彼らの健康な生活や老いを支える知識へとつなげていくことができます。
──なるほど。
玉井:
ダウン症のある子どもを持つ一人の父親として、自分が亡き後のことを考えます。
娘は先日成人式を迎えました。親として、「二十歳になったし大丈夫」と思いたいけれど、健康のこともよくわからないし、30代40代50代のダウン症のある人たちがどんな暮らしをしているのかもわからない。わからないことだらけの中で、親が先に死んでしまう。
実態調査に基づく研究により、「新しいダウン症像」を見出していくことができれば、ダウン症のある人たちの未来はもっと明るくなっていくと思っています。
(玉井先生の娘・みほさんは、先日成人式を迎えた。奥様が着ていた振袖を着て、とびきりの笑顔)
(2014年の「世界ダウン症の日」啓発ポスター。3月21日は、国連が国際デーの一つとして定めた「世界ダウン症の日」。ダウン症の啓発を目的に、世界各地で様々なイベントが開催される)
※画像をクリックするとポスターを拡大してご覧いただけます
玉井:
寿命が伸びて、20代30代40代を元気に過ごすことができるとなると、次に課題になってくるのは「社会との関わり」です。
病院に勤めていると、ダウン症のある患者さんがよく診察に訪れます。診察にいらっしゃるわけなので、それぞれ皆さん何かしら課題を抱えている人たちです。もちろん元気な人たちもたくさんいます。どんどん社会へ出て活躍してもらいたいと思いますし、多くの方が目にするのもこういった方たちでしょう。
ただ、ダウン症のある人たちの中には、必ずしもそうではない人もいるんだ、ということは一つ知っておいて欲しいと思うことです。
一般的にはあまり知られていませんが、ダウン症のある人の中には、20代で急激に社会性を失う「退行様症状」という病態を発症することがあります。「うつ」のような症状です。
原因の一つとされているのが「急激な環境の変化」です。
学校を卒業し、社会に出て働く時、私たちでさえも「どうしたらいいんだろう」と戸惑ったり、ストレスを感じたりしますよね。ダウン症のある人たちの中には、コミュケーションを取ることが上手ではない人たちもいます。急激な環境の変化についていけず、適応障害のような症状が出ているのではないかといわれています。
あるいは「老化の一つのかたち」だという意見もあります。このへんのことも、実は多くはわかっていないんです。
※【退行様症状】を詳しく知りたい方はこちらをご覧ください
→「ダウン症候群における社会性に関連する能力の退行様症状」の診断の手引き
(昨年11月に開催された「日本ダウン症会議」では、出生前診断についての市民公開講座も開かれた。右から2番目が玉井先生)
(取材中の一コマ。玉井先生は医師としての視点から、またダウン症のある子を持つ親の立場から、わかりやすく様々な課題を説明してくださった)
──準備が十分でない状態で社会へ出て、精神的に大きな負担がかかってしまう、ということは避けたいですね。
玉井:
社会とうまく関わっていくために、ダウン症のある人たちは「働く意味」をしっかりと理解する必要があると思っています。
それはどういうことか。いろいろな意見があると思いますが、個人的には「やりがいを感じ、プライドを持って取り組むこと」だと思っています。そして「社会の一員」として、認められて生きていくことではないかと思います。
──どうやって「働く意味」を伝えられるでしょうか?
(保育園で働く伊藤隆史さん。「小さい子のお世話をする仕事がしたい」という夢をかなえ、2015年の日本ダウン症協会啓発ポスターのモデルになった)
※画像をクリックするとポスターを拡大してご覧いただけます
玉井:
「働く意味」を伝えるには、働くことだけではなく、「お金の価値」も同時に教えていく必要があると思います。「お金の価値」は、使ってみないことにはわかりません。「将来困るから」と貯めることだけ教えていたら、お金を使うことは知らないままです。働く意欲は、お金を使うことを知らない人には、なかなか湧きにくいのではないでしょうか。
稼いだお金でほしいものを買う、たとえば好きなタレントさんのCDを買うとか、好きなことをするとか、いろんな楽しみがあります。「その楽しみは、働いているからこそなんだ」というところまで、彼らがわかるように伝えていく必要があると思います。
(41〜50歳の天草に住む仲間達がモデルとなった2018年のダウン症啓発ポスター。左から小山将堂(こやま・しょうどう)さん(49)、有田真紀子(ありた・まきこ)さん(43)、桃田由紀子(ももた・ゆきこ)さん(41)、江﨑淳一(えざき・じゅんいち)さん(50)、釘嶋智一(くぎしま・ともかず)さん(40)、溝上洋(みぞかみ・ひろし)さん(41))
※画像をクリックするとポスターを拡大してご覧いただけます
玉井:
仕事をする時、ダウン症のある人たちに、「生産効率」を求めることは難しいかもしれません。けれど、皆それぞれ個性があって、得意なことがあります。
その場の空気をやわからくして、皆がそこに溶け込めるようにしてくれる、潤滑油のような役割を担うことが多いのではないかと思います。私の娘も、いるのといないのとでは、家の中の雰囲気も全然違います(笑)
以前、こんなことがありました。
家内がいない時に来客があって、私は気が利かずお茶も出さずにいたんですが、娘がお茶に茶菓子まで添えて、お盆に載せて持ってきてくれたんです(笑)。
彼女は彼女なりに、ちゃんと状況を見て、周りに気を使っている。
話すと上手にしゃべれなかったり、レスポンスに時間がかかったり、人と同じようにできないことも多いかもしれません。健常者の子どもたちと同じ指示ではわかりづらくて、求められたことができないこともあるでしょう。けれど、本人にわかるように指示されると、機嫌よくやってくれるんです。
仕事を与えられるということ、そしてそこで評価されるということは、彼らにとって、モチベーションにもつながります。それができるのが「成熟した社会」であり、私たちが目指すべきところではないでしょうか。
(2018年のダウン症啓発ポスター撮影時の一コマ。天草に住む江﨑淳一さんら仲間たち6名がモデルに。ご家族や親せきの方々と記念撮影!)
玉井:
何度か日本にもお呼びし、講演していただいているブライアン・スコトコ先生は、全米のダウン症研究の第一人者です。
彼が勤務するマサチューセッツ総合病院で、彼のもとで働く10人ほどのチームの中に、ダウン症を持つスタッフが一名働いています。
スコトコ先生はダウン症研究の権威ですから、全米中からダウン症のある人たちが集まってきます。ダウン症のあるスタッフがチームの一員となって働く姿は、彼らにとって「成人したらこういう仕事ができるんだ!」という目標になります。
(「世界ダウン症の日キックオフイベント」にて、今回のコラボTシャツを着た画家のいかわあきこさん。お隣はお母様の居川隆子さん)
玉井:
社会における存在意義は、人それぞれ異なります。決して表舞台に立つとも限りません。
私の知り合いで、ある食堂でお皿を洗う仕事をしている方がいます。
もしかしたら、健常者がやった方が効率は上がるかもしれません。誰でもできる仕事だと思われるかもしれません。けれど、彼女にだってできる。自分にできる仕事を一生懸命やって、社会の一員として生きているということに、彼女は自信とプライドを持っています。
実態はまだあまり知られていませんが、こういったかたちで社会の一員として、存在意義を持って生きているダウン症のある人たちの事例が、各地にきっとたくさんあるはずです。ここも、今後研究していきたい課題の一つです。
──いろんな事例がわかれば、可能性や希望も出てきますね。
(「世界ダウン症の日キックオフイベント」では、今回のコラボTシャツのお披露目ショーも開催されました!公募のモデルさんたちが、思い思いの着こなしをしてくれています。今回は、キッズサイズの販売もあります!ぜひ親子でおそろコーデしてくださいね!)
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
玉井:
医療や福祉、保育、教育や就労の分野から、成人期のダウン症のある人たちが「何に困っているのか」「何に困っていくのか」、その実態を研究し、またそのためのネットワークを作り「新しいダウン症像」を考えていくために、日本ダウン症協会では、2017年に「日本ダウン症会議」を初開催し、その中で「成人期ダウン症研究会」を発足させました。
成人期のダウン症のある人たちの生活をより豊かなものにしていくために、今回のチャリティーは「日本ダウン症会議」の活動資金としてイベント開催費やポスターの制作費に充てるほか、「成人期ダウン症研究会」の活動資金にも充てたいと思っています。
──活動の成果で、今後より豊かな人生、豊かな老後を送ることができる人たちが増えていくと良いですね。
玉井:
私たちは「ダウン症」という切り口で活動していますが、ダウン症に限らず、皆が色とりどりの多様性を受け入れ、共有する社会の実現に向けて、これからも走り続けていきたいと思っています。
ぜひ、活動を応援していただけたら幸いです。
──貴重なお話をありがとうございました!
(「世界ダウン症の日キックオフイベント」にて、出演者の皆さんで記念撮影!3月21日の「世界ダウン症の日」に向けて、皆で盛り上げていきましょう!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
昨年、ドラマでも話題になった「出生前診断」。我が子がダウン症であるとわかったとき、「育てる自信がない」と妊娠の継続を選択しない理由は、ダウン症のことを知らないから、わからないから、避けたくなるのではないか、と玉井先生。
「“そうじゃないんだよ”とダウン症のことを知ってもらうために、そういった現場でも活動をしているけれど、ダウン症のある成人のところに行くと、知っている情報が少なくて“もっと勉強しなきゃ”と思うようになった」とおっしゃっていました。
「成人期ダウン症研究会」で今後様々な研究が進み、成人期以降のダウン症のある方の実態が明らかになる中で、一人でも多くの方が、自分らしく人生を謳歌できることを願います。
娘さんのお話をされるとき、終始目尻を下げてとてもうれしそうに話される玉井先生の姿が、とても印象的でした。玉井先生、ありがとうございました!
3回目となる日本ダウン症協会さんとのコラボ。
1回目の「葉っぱ」、2回目の「自転車と三輪車」に続き、3回目となる今回は「家」でダウン症の特徴である「21トリソミー(21番染色体が通常より1本多い3本ある状態)」を表現しました。
23ある家にはそれぞれ2つの窓が描かれていますが、
ひとつだけ、窓にプラスしてひとつのドアが。
ダウン症だからこそ、見える世界がある。
ドアを開けて、そこからさらなる世界へと飛び出していこう──。
そんなメッセージを込めています。
同時に、一つひとつの家は街を表しており、どんな街にも、あなたのそばにもいるダウン症のある人たちと、明るいコミュニティーを築いていこう!という思いも込められています。
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