突然ですが、全国のマクドナルドの店頭(レジ前)に募金箱があるのをご存知ですか?
この募金箱に寄付されたお金は、すべて今週のチャリティー先である「公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン」へと寄付され、全国にある「ドナルド・マクドナルド・ハウス」運営のために使われています。
では一体、「ドナルド・マクドナルド・ハウス」とは何なのでしょうか?
「ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン」ハウス運営・ブランドコミュニケーションマネージャーの山本実香子(やまもと・みかこ)さん(45)にお話をお伺いしました。
(お話をお伺いした山本さん。「ふちゅうハウス」にて、ボランティアさん手作りのキルトの前で)
公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン
“Home-away-from-home”、「わが家のようにくつろげる第二の家」をコンセプトに、自宅から遠く離れた病院に入院している子どもとその家族がゆったりと過ごせる滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」を、全国12箇所で運営。ハウスは病院の敷地内や徒歩圏内に立地し、病院関係者とも連携をとりながら、闘病中の子どもとその家族をサポートしている。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──ドナルド・マクドナルド・ハウスについて教えてください。
山本:
「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は、20歳までの病気の子どもとその家族が利用できる滞在施設です。
「自宅から遠く離れた病院に入院・通院している子どもとその家族のために、自宅のようにくつろげる「第二の家」を提供したい」という思いから、日本全国12箇所でこのハウスを運営しています。
(全国にある「ドナルド・マクドナルド・ハウス」一覧)
山本:
もともとは、病気の子どもを持つお母さんたちの呼びかけで始まりました。
わが子が病気になって入院を余儀なくされた時、「最善の治療を受けさせたい」「側にいてあげたい」と思うのは、親として誰もが抱く感情ですが、限られた子どもとの面会時間が過ぎてしまうと、家族の行き場はありません。
また、入院先の病院が自宅から遠く離れた場所である場合、ホテルやウィークリーマンションに滞在するには、経済的な負担もかかります。
子どものことを最優先にして、自分のことは後回しになり、ろくな食事もとらず、つきっきりの看病をする親御さんも多いです。
そんな状況をどうにかしたいと、NPOの方たちやお母さんたちが手弁当で自分たちの部屋を提供して助け合ってきたのが、日本での活動の始まりなんです。
(ベッドルームにて。ひとときの団らんを過ごす親子。それぞれのハウスは病院との距離が近いので、外出許可のでた患者とそのきょうだいが、一緒の時間を過ごすことができる)
──ハウスにも団体名にも、「ドナルド・マクドナルド」という名前がついていますが、マクドナルド社が運営している財団なのでしょうか?
山本:
マクドナルド社は私たちにとって最大の支援企業ですが、組織としては別物です。私たちは、そのほかにもたくさんの企業や地域のボランティアの方々に支えられて活動しています。
日本で最初のハウスは、2001年、東京の国立成育医療研究センターの近くにできた「せたがやハウス」です。
当時、このセンターの院長先生が、すでに海外にあった「ドナルド・マクドナルド・ハウス」のような、病気の子どもを持つ家族をサポートする施設が日本にも必要だということでマクドナルド社に直接問い合わせ、第1号のハウスができたという経緯があります。
(日本で最初に建てられた「せたがやハウス」)
──ハウスは、どういった方が利用されるのですか?
山本:
病気の子どもとそのご家族が対象です。
利用は先着順ではなく、利用の希望があった方たちの中から、特に遠方から通院していたり大きな手術があったり、お子さんの治療内容や利用期間も病院側と相談しながら、その都度利用家族を決めています。
病気のお子さんに付きっきりで病院の待合室で寝泊まりすることは、3日や1週間であれば、親御さんも耐えられるかもしれません。しかしそれ以上になると、肉体的な負担や経済的な負担があまりにも大きいという現状があります。
(ダイニングキッチン。利用家族は基本的に自炊だが、そのために必要な冷凍・冷蔵庫、食器や調理器具、基本的な調味料はハウスに揃っている)
山本:
ハウスの利用料は、1日1,000円。また、すべてのハウスが、病院から徒歩5分圏内にあります。病気のお子さんをサポートする家族の負担を少しでも緩和したいという思いがあります。
──利用するご家族からは、どんな声がありますか?
山本:
病院が自宅から遠く離れている場合、毎日通うのは、ご家族にとって当然大きな負担です。何かあった時に、すぐに駆けつけられない不安もあります。
かといって、ホテルやウィークリーマンションに滞在するには経済的な負担も大きい。病気のお子さん以外にも子どもがいるご家族の場合は、その子たちのことも心配です。
子どもの入院している病院のすぐ側で、経済的な負担も少なく生活できることも喜んでいただいていますが、入院しているお子さんの外出許可が下りれば、ハウスでは家族皆で宿泊することができます。
「家族みんなで水入らずの時間を過ごすことができた」「何かあっても、病院がすぐ近くなので安心」「時間的に余裕ができて、その分子どもと落ち着いて接することができるようになった」といった声をいただいています。
(患者やそのきょうだいの子ども達が遊ぶことができるプレイルーム。ベビーシッターはハウス内にはいないので、家族の目が行き届くようオープンスペースとなっている)
(リビングルーム。ゆっくりテレビを見たり、新聞を読んだり、他の家族との団らんを楽しんだりすることができる)
──ハウスは、どのような造りになっているのですか?
山本:
ベッドルームは各室個室になっていて、それぞれの部屋にはベッドが二つと、バス・トイレがついています。
滞在者が増えたときのために、エキストラベッドを設置することも可能です。
キッチンやリビングは共有スペースになっており、テレビも共有スペースにあります。
──個室にはテレビはないんですね。
山本:
「他の人と話して、精神的に支え合ってほしい」というハウスの思いがあるので、個室にテレビは置いていません。全てがベッドルームで完結してしまうと、子どものお見舞いに行く時以外は部屋にこもりがちになってしまいます。
ちょっとお茶を飲んだり、テレビを見たりする時に、ふと同じ空間にいる他の滞在者さんと触れ合うことで、互いの悩みや不安を打ち明け、気持ちが楽になったり励みになったりするきっかけができればと思います。
(多目的室(図書室)。病院の先生との打ち合わせを行ったり、本を読んだり、お父さんが仕事をしたり…と使用用途はさまざま)
(こちらはベッドルーム。ベッドカバーはボランティアさんが手作りしたキルトで。手作りのものが一つあるだけで、温かい雰囲気が生まれる)
──ハウスの運営にあたって、意識していることはありますか?
山本:
ハウスのコンセプトは、“Home-away-from-home”。家から遠く離れていても、自宅のようにくつろげる「第二の家」目指しています。
ホテルなどのようには見えないように、たくさんのボランティアさんに協力してもらって、あえて手作りのものを用意しています。
滞在施設ではあるんですが、施設のように見えないように、というか…。
たとえば、ベッドの上に手作りのキルトカバーをかけたり、手作りの置物を置いたりして、温かく感じてもらえる工夫をしています。
(ベッドメイキングをするボランティアの皆さん。一つのハウスには、150〜200人ほどのボランティアが携わっているという)
──運営には、たくさんのボランティアさんが携わっているとお伺いしました。
山本:
私たちドナルド・マクドナルド・ハウスには「地域のボランティアによって支えられなければいけない」というルールがあります。
一つのハウスにつき、100人から250人のボランティアさんが支援してくださっています。ハウス内の清掃や入居する方への対応、いただいた寄付品の仕分けなど、様々なことを手伝ってくれています。
ボランティアさんなしには、ハウスの活動は成り立ちません。
(キルトを作成するボランティアの皆さん)
──ただその場にハウスを建てて活動するだけでなく、ボランティアの方たちとつながりながら、地域ともつながっていく場所なのですね。
山本:
そうですね。地域の人たちと一緒に、困難な状況の人たちを支援したいという思いがあります。ハウスを利用する方も、地域の方がハウスにいることで、自宅に帰ってきたような安心感が得られます。
ほかには、地元の学生さんや企業など、団体の1日ボランティアも受け入れています。こちらは日常的なお手伝いというよりは、普段は手の行き届かない場所、たとえば庭の草むしりや「ミールプログラム」と呼ばれる滞在者への食事の提供などでサポートしていただいています。
(企業ボランティアの方には、普段手の行き届かない部分の清掃などをお願いすることが多い)
──「ミールプログラム」ですか?
山本:
不定期の開催ですが、ボランティアに参加してくださる団体さんが「今日は○○社の皆さん」「今日は△△大学の学生さん」といったかたちで、ハウスに滞在するご家族に食事を提供するプログラムです。
──どんなメニューが出るのですか?
山本:
すべて団体さんにお任せしていて、カレーライスとサラダだったり、コースメニューだったり…いろいろです(笑)
病気の子どもの面倒を見ている親御さんは、簡単なコンビニ食などで食事を済ませたり、ただでさえ栄養が偏りがちです。
滞在者の方の健康を配慮して栄養のバランスを考えた献立を考えてくださることもそうですが、何よりも「久しぶりに手作りの料理を食べた」と、愛情のこもった手料理を喜んでいただいています。
(作るだけでなく、献立から買い物、片づけまですべてミールプログラムのボランティアが行う。家族の健康を考えて、野菜などがふんだんに使われている献立が多い)
(利用者のノート。ベッドルームには、利用家族が自由にその時の気持ちを書くことができるノートを設置している。辛い気持ちやハウスへの感謝の気持ちなど、このノートには家族の本当の気持ちがたくさん書き綴られている)
山本:
病気の子どもを持つ親御さんの中には「なぜ健康な体で産んであげられなかったのか」と自分を責めたり、「わかってくれる人がいない」と孤独を抱え、周囲から孤立してしまうケースもあります。
しかし、ハウスを通じて、病気の子どもを持つお母さんたちが情報交換したり、互いの悩みを打ち明け、励まし合い、支え合いながら闘病生活を続けています。
また、食料品やシャンプー、トイレットペーパーなどハウスの中にある大半の生活用品は、個人や企業からの寄付でまかなわれていますし、運営はたくさんのボランティアさんが支えてくれています。
病気の子どもを支える生活は決して楽ではありませんが、そんな中でも、「支援してくれる人がいる」「見ず知らずの人たちが親身になって支援してくれた」と感じることで、「一人じゃないんだ」と感じてもらうことができれば、それを力にして、つらいことや苦しいことを乗り越えてほしい、と思っています。
(ティッシュやトイレットペーパーなど、ハウスで使用する日用品も寄付で集められる(写真左)。買い物に行く時間がない家族のためにレトルト食品なども寄付で募り、利用者は自由に使うことができる(写真右上)。シャンプーや歯ブラシなどを持参せず急に利用することになった家族のために、アメニティーも充実。こちらも寄付されたもの(写真右下))
(リビングの壁にある「感謝の樹」。ハウスへと寄付してくださった企業や個人のお名前を掲載し、感謝の意を表している)
──最後に、今回のチャリティーの使途を教えてください。
山本:
埼玉にある「さいたまハウス」が入っている埼玉県立小児医療センターは、がん拠点病院に指定されており、小児がんの子どもを持つ親御さんが多く滞在する施設です。
現在7つあるそれぞれのベッドルームに加湿器を置きたいのですが、チャリティーはそのための費用として使わせていただきたいと思っています。
(「さいたまハウス」は病院内に建てられているが、外から家に帰ってきたと感じてもらえるよう、壁紙をタイルっぽい柄にするなど工夫がされている)
──加湿器ですか?
山本:
お子さんが病気の場合、免疫力が落ちているので、親御さんたちは自分が風邪をひいたりしてそれを子どもにうつさないように、普段からケアをしっかりして気を遣っています。
「さいたまハウス」は病院内にあるため、構造上ベッドルームの窓が開かず、換気が難しい造りになっていて、どうしても部屋が乾燥しがちです。
乾燥対策のために、皆さん部屋に洗濯物を干したりと工夫と努力をされているのですが、それでもやはり部屋が乾燥してしまい、体調にも影響が出てしまいます。
ハウスに加湿器はあるのですが、1台しかなく、要望があった場合にのみ貸し出している状況です。それぞれの部屋に加湿器があれば、家族の方はより安心して生活ができ、子どものサポートに注力することができます。ぜひ、ご協力いただけたらうれしいです!
──ありがとうございました!
(「さいたまハウス」1周年の記念式典にて、活動しているボランティアの方たちと記念撮影!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
ドナルド・マクドナルド・ハウスの存在は、マクドナルドの店内に貼ってあったポスターで知っていましたが、私は募金箱の存在は知りませんでした。
マクドナルドでは昨年、「マックハッピーデー」を実施、その日の「ハッピーセット」の売り上げの一部が、すべてドナルド・マクドナルド・ハウスへとチャリティーされたそうです。実施されたキャンペーンの規模の大きさもさることながら「人の心と心を繋ぐ」というチャリティーの素晴らしさを、改めて感じました。
病気の子どもと、その家族を支えるために──。
ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパンの活動を、ぜひ一緒に応援してください!
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道と道の間にある、一軒の山小屋。
旅の途中、ふと足を止め、誰しもがゆっくりとくつろげる「第二の家」のような場所を表現しました。
ドナルド・マクドナルド・ハウスのコンセプトである
“Home Away From Home”、「家から遠く離れた、第二のわが家」というメッセージを添えています。
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