CHARITY FOR

オンラインの日本語授業を通じ、日本に住む外国ルーツの子どもたちに教育の機会を〜青少年自立援助センター「YSCグローバル・スクール」

現在、日本国内に外国にルーツを持つ子どもは183万人いるといわれています。
そのうち、公立小中高に通っている子どもは7万3千人。
さらにこのうちの1万人の子どもたちは、日本語がわからないまま、何の支援も受けられていない状態だと見られます(文部科学省『「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成28年度)」の結果について」より計算)。

言葉が理解できないままの状態が続くと、周囲の人たちとコミュニケーションがとれなかったり、学校の授業についていけなかったりと、言葉の壁から派生して、生活にも支障をきたすことになります。

今週、JAMMINがコラボするのはNPO法人青少年自立援助センター・定住外国人子弟支援事業部が運営する「YSCグローバル・スクール」。外国にルーツを持つ子どもたちにオンラインによる日本語教育を提供する「NICO(ニコ) にほんご×こどもプロジェクト(NICOプロジェクト)」を実施しています。

NICOプロジェクトを統括する田中宝紀(たなか・いき)さんは、小中学生時代にいじめを受けたことから、高校はフィリピンのハイスクールへと単身留学。留学期間中たくさんの人に助けられ、居場所を感じ、孤独を感じることがなかったという原体験が、現在の活動のモチベーションだと語ります。

「自分がそうしてもらったように、日本にやってくる子どもたちにも救いの手を差し伸べたい」。そう話す田中さんに、活動について詳しいお話をお伺いしました

(お話をお伺いした「YSCグローバル・スクール」の田中さん。)

今週のチャリティー

NPO法人青少年自立援助センター「YSCグローバル・スクール」

東京福生市を拠点に、外国にルーツを持つ子どもと若者のための日本語教育・学習支援事業、「YSCグローバル・スクール」および、就労支援事業や講演活動などを通じ、外国ルーツの子どもたちや若者の日本での暮らしを支える活動を行っている。

TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

オンラインで、外国にルーツを持つ子どもたちに日本語の授業を提供

(東京都福生市にあるスクールで学ぶ生徒たち。パソコンの画面(画面中央右側)には、遠方からオンラインで参加する子どもの姿が。同じ境遇に置かれた「仲間」として、画面越しに交流を深める。)

──本日はどうぞよろしくお願いします。まずは、ご活動について教えてください。

田中:
はい。
私たちは、外国にルーツを持ち、日本語を母語としない子どもや若者、家族との会話が日本語でなかったり、幼少期を海外で過ごしていたために日本語がわからない子どもたちを対象に、通所やオンラインでの授業を通じて教育支援を行っています。
受講者の幅は広く、6歳〜30代まで、これまでに26カ国・500人以上をサポートしてきました。

私たちの活動拠点である東京・福生市の教室に通うこともできますが、日本全国どこからでもオンラインで受講できます。

(「NICOプロジェクト」のしくみ。)

──イメージでいうと、申し込むとオンラインで英会話が習える「スカイプ英会話」の日本語を教えるバージョン、という感じですね。

田中:
そうですね。
受講者は決まった時間にオンライン上の教室に入室し、授業を受けるというかたちです。教室に直接通っている生徒も含めて、先生一人に対して平均10人ほどの生徒が一緒に授業を受けます。

授業は1コマが45分。受講者は、基本的には1日6コマずつ、週に5日受講します。

フルタイムの日本語学習カリキュラムは全部で40日分(240コマ)あり、長い場合で4ヶ月ほどかけて受講しています。

(自宅からパソコンをつなぎ、日本語を学ぶ生徒。画面越しであっても、クラスでは共に学ぶ仲間。参加当初は緊張した面持ちの生徒たちも、画面越しに冗談を言い合うまでに。)

日本語の基礎が身につけば、学校での会話や授業にもついていける。
中途退学や不登校の予防にも

(YSCグローバル・スクールの時間割表の一部。朝9時15分から夜7時30分まで日本語や教科学習のクラスがぎっしり。オンラインでは、日本語クラスや高校進学クラスを配信している。)

──1日6コマとは、がっつり勉強するんですね。

田中:
週に1回、1時間ほどの薄く長い日本語教育サポートでは、日本語が理解できないまま、子どもたちが学校生活からどんどん取り残されてしまいます。

私たちは来日直後から、短期集中型で日本語の基礎力をぐっと立ち上げるようなサポートをしています。そうすることで、ある程度周囲に意思を伝えられるようにもなるし、授業内容も理解できるようになっていく。学校生活を楽しめるようになり、本人の負担が減ると同時に、学校側の負担も減らすことができる。
中途退学や不登校の予防にもなると考えています。

(小学生のクラスでは読み聞かせやゲームなどを取り入れ、子どもたちが楽しんで日本語が学べるような工夫がされている。)

──たしかに、ただでさえ知らないところへ来て不安なのに、言葉まで通じない、思っていることも伝えられない、伝わらないとなると、学校に行きたくなくなってしまいますね。

田中:
学校生活に必要な日本語や基礎学力をサポートし、授業やコミュニケーションの面で、徐々に学校生活に馴染めるようにサポートする。それが、私たちの活動です。

──オンライン授業ということですが、どんな形で進めるのですか?

田中:
「オンライン授業」というと、生徒が動画を視聴するなど一方的に受け取るようなイメージが強いですが、私たちの授業では、ただ教えるだけでなく「つながる」という要素が大きな柱としてあります。

まったく違う場所に住んでいても、パソコンの画面越しに毎日同じ生徒が顔を合わせ、授業で一緒に会話を練習したりといったやりとりもあります。言葉の壁から日本の学校では孤立しがちな彼らが、同じような境遇の人たちと知り合うことで、居場所を感じてほしいという思いから、このようなかたちをとっています。

(福生にあるスクールへ通学して学ぶ生徒と、オンラインで学ぶ生徒が初めてリアルで対面した時の一コマ。強い絆で結ばれた「クラスメイト」だ。)

──なるほど。こういった取り組みは、他でもあるのでしょうか?

田中:
日本国内でも外国人が多く集まる地域では、自治体による支援がほかの地域と比べて手厚い傾向はあります。また、こういった場所はすでに外国人コミュニティーが存在していることもあって、初来日した人も情報を得やすく、しかるべきサポートが受けやすい環境にあります。

しかし、そういった場所でなかった時に、たとえば地域に外国人が一人もいないような地域にやってきた場合、言葉の壁から孤立が生まれてしまう。

文部科学省の調査では、自治体や周囲からのサポートが一切なく、学校の日本語による授業についていけず、友達の輪に入ることもできないという状態の子どもは、全国に1万人いるといわれています。

──1万人もいるのですね。

田中:
自治体によって、外国をルーツに持つ子どもたちへのフォローの程度の差が大きいのもひとつの課題ですが、私たちの授業をオンラインで配信し、こうした子どもたちになんとか教育機会を提供したいと思っています。

「日本語がわからない」状況が、子どもたちの進学率を下げ
彼らの未来を阻害する

(クラスで学ぶ生徒たち。)

──自治体のサポートの有無や程度の差もそうですが、まず言葉の壁から授業についていけなかったり、周囲から孤立してしまう状況があるというのは、課題ですね。

田中:
そうですね。
日本に定住している外国人の数は、240万人を突破してします。決して少なくないですよね。受け入れる側の私たち日本人にとっても、他人事ではないと思います。

たとえば10歳を超えて日本に来た場合、日本語教育の支援が入ったとしても、日常の意思疎通ができる程度までのレベルになるには1〜2年かかります。さらに、学校の日本語の授業についていけるレベルになるまでには、5〜6年かかると言われています。

──小学校高学年にもなってくると、ただでさえ授業の難易度も高くなりますよね。

田中:
そうですね。たとえば小学5年で日本へ来たとしたら、そこから5〜6年ほとんど授業がわからない。言葉の壁どうこうという以前に、基礎学力を得る機会すら失われてしまうのです。

これは、高校への進学率を比較するととてもよくわかります。
文部科学省の調査によると日本人の高校への進学率は98%ですが、母語や地域・国籍にもよりますが、外国ルーツの子どもたちの高校進学率は50〜60%にとどまります。
外国ルーツの子どもたちへの支援が充実している自治体ですら、進学率は80〜90%にまで下がります。

言葉の壁が生む「新たな課題」

(休み時間に、カードゲームをする生徒たち。国籍も母語も肌の色の違いも軽々と超える。)

──日本人の高校進学率と比較すると低いですね。進学しなかった場合、彼らにはどのような進路があるのですか?

田中:
進学自体を諦めるケースもあれば、勉強して再受験するケースもあります。

進学を諦めた場合、友人や知人のつてを頼ってアルバイトをしたりしながら、就労と離職を繰り返し、「貧困」という課題も出てきます。社会保障がいずれ必要な存在になっていきやすく、こういった状況を未然に防ぐために、教育機会をしっかりと提供していくことが、日本社会にとっても大きな意味合いを持つのではないかと考えています。

──たとえば日本語も、生きる上で必要な基礎的な学力もないまま働くとなると、仕事の内容も制限されてしまいそうですね。

田中:
そうだと思います。
こういった課題を先送りすればするほど、負の影響が大きくなってしまうのではないでしょうか。

義務教育の間に来日している場合は、小学校・中学校とつながっている時点でなんとか「教育」のレールの上に乗れるようにサポートすることが重要です。

学校を出て彼らと社会との接点が薄れてしまうと、彼らの状況を行政側が把握できない状態になり、それが社会不安につながる恐れもあります。

「日本人オンリー」を想定して作られた社会に警鐘を鳴らす

──共に生きていくには、言葉の壁だけでなく文化や生活習慣の違いなど、様々なところで乗り越えるべき課題がありそうですね。

田中:
日本は「日本人だけがいること」を想定して作られている社会だと思います。
ただ、共に生活をしていく以上には、彼らにも視点をあわせ、必要な配慮をする必要があります。外国人の人たちを呼び寄せ、教育や就労だけを支援するのではなく、それこそゆりかごから墓場まで、彼らの人生を組み込んでいく覚悟が必要です。

サポートをすることももちろんそうですが、「サポートが受けられる」という情報を、きちんと必要な人たちに届けていくこと。まだまだこれからですが、どういうフローがスムーズでうまくいくのか、探り探りやっていく必要があると思います。そんな中でも、言葉はコミュケーションの手段であり、情報を得る手段でもあるので、まず大切になってくることだと思います。

フィリピンで感じた「あたたかさ」を、来日した子どもたちにも

──話は変わるのですが、田中さんがこのようなご活動をするようになったきっかけを教えてください。

田中:
小学生の時からいじめに遭い、学校生活に馴染めずにいました。高校1年の頃に都立高校を辞め、フィリピンの小さな田舎町の公立のハイスクールへ1年単身留学したんです。

まったく言葉がわからない私を、周りのクラスメイトがいろいろとかまってくれました。「ここ以外に私の居場所はない」と思えるほど、一員として接してくれたんです。

(フィリピンのハイスクールで、クラス担任の先生と当時の田中さん。生徒たちだけでなく先生もとてもフレンドリーで、まったく言葉が通じない中でも毎日のように声をかけてくれたという。)

田中:
日本に帰国した後、フィリピンにルーツのある子と出会った時、言葉の壁からいじめに苦しみ、通っている学校さえ彼らをあたたかく迎え入れていないことを知ったんです。

せっかく日本に来てくれたのだから、私がフィリピンで経験したように、社会の一員としてあたたかく迎え入れられたら、という思いがあります。

──そうだったんですね。

チャリティーは、日本語を学ぶ子どもたちの
テキスト一式購入のための資金になります!

──最後に、今回のチャリティーの使途を教えてください。

田中:
私たちは、市販のテキスト1冊と付属のワークブック2冊をもとに授業はもちろん、練習や宿題をすすめています。このテキストをもとに授業を最後まで受講すれば、周囲と意思疎通できるレベルになります。

テキスト一式は生徒それぞれの家庭に負担いただいていますが、7,560円と安くはなく、なかには生活が苦しくテキスト購入が難しい家庭もあります。

年間約100名の若者を支援していますが、毎年25〜30%は生活困窮世帯にあたります。
こういった家庭の子どもたちに無償でテキストを提供したいと考えていて、今回のチャリティーでテキスト一式20名分の購入費・151,200円を集めたいと思っています。

(テキストは、10代の子どもから30代くらいの若者まで共通で使えるものを使用。このテキストを通して、日本語だけでなく、日本の生活に必要な知識も学ぶことができるのが特徴だ。)

田中:
外国にルーツを持つ子どもたちに手を差し伸べることは、この先の未来で必ず、日本の力になると思います。

日本語が分からず教育というレールからドロップアウトしてしまい、本人の価値を見出せずグローバル人材として活躍できるはずの彼らの根っこを腐らせているのは、社会の責任だと思います。

子どもは無限の可能性を秘めています。最大限にその可能性をひろげ、彼らが活躍することで、社会が得られるメリットも大きくなっていく。

画一的な集団の集まりは、強くなれません。多様な人たちが輝いてこそ、価値観にせよ、経済活動にせよ、豊かさを享受できる社会が実現します。ぜひ、チャリティーにご協力いただけたら嬉しいです!

──言葉の壁の先にある未来へ向けて、お手伝いができたら幸いです。
ありがとうございました!

(クラスの終わり際に、福生のスクールにて、生徒の子どもたちと。10か国以上にルーツを持つ子ども・若者がともに学ぶ現場では、毎日が発見の連続だとか。)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

いざ新しい土地に住むとなると、言葉の壁は想像以上にハードルの高いもの。私も、外の世界が見たいと自ら望んで行ったにもかかわらず、海外に住んだ最初の2、3ヵ月は「外に出たくない」と思いつめてしまうほど、言葉の壁に苦しんだことを思い出しました。銀行口座を作るのも、レストランで注文するのも…慣れない頃は、本当に心臓がドキドキ緊張して、冷や汗をかいていたものでした。

そんな状況を乗り越えられたのは、内心ハラハラドキドキしている私をよそに、「ハーイ、元気?」といつもかわらず声をかけてくれる人や、困った時にかならず「どうしたの?」と助けてくれる人がいたから。また、同じように英語を母語としない仲間と知り合い、彼らが言葉の壁に臆することなく周囲に積極的に話しかける姿を見たからでした。

JAMMINのある京都は外国人観光客が多く、それこそ近年、街中の標識はもちろん、レストランや土産物屋もほとんどの場所で英語はもちろん、その他の言語に対応していますが、そうではない場所はどうでしょうか?

旅行なら、身振り手振りでOKかもしれない。しかし、その場所に「住む」となったら──。今日の行動をふと振り返って「これがもし言葉の通じない外国の国だったら、どうだろう」と一度考えてみてほしいと思います。

今回特別に「YSCグローバル・スクール」に通う生徒の方にもインタビューさせていただきましたので、あわせてご覧下さい!
オンラインの日本語授業を通じ、日本に住む外国ルーツの子どもたちに教育の機会を〜青少年自立援助センター「YSCグローバル・スクール」

NICOプロジェクト ホームページはこちら 

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“HELLO”という言葉が、壁を突き破っています。

言葉が力となって、人と人や文化の壁を打ち破る。
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【THANKS】NPO法人青少年自立援助センター「YSCグローバル・スクール」より、御礼とメッセージをいただきました! – 2018/5/4

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