なくならない、盲導犬ユーザーの駅のホームからの転落事故や、飲食店や病院での補助犬同伴拒否のニュース。
…皆さんは、何故こういった事件がなくならないと思いますか?
今週のテーマは「補助犬について、正しく知ろう」。
JAMMINがコラボするのは、日本補助犬情報センター。
補助犬ユーザーの方たちが直面している現状から見えてくる、すべての人に優しい社会のあり方と、そこに向けての課題。
日本補助犬情報センターの専務理事兼事務局長・橋爪智子さんにお話をお伺いしました。
(日本補助犬情報センターの橋爪さん。)
NPO法人日本補助犬情報センター
補助犬の社会における理解と普及を目指して啓発活動を行うほか、障がい者の自立と社会参加・社会復帰の推進を目的に、第三者機関として中立の立場から相談や情報提供を行っているNPO法人。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──今日はよろしくお願いします。
まず最初に、「補助犬」について教えてください。
橋爪:
はい。補助犬には、「盲導犬」・「聴導犬」・「介助犬」の3つの種類があり、これらをまとめて「補助犬」と呼んでいます。
日本には現在、約950頭の盲導犬、約70頭の介助犬、同じく約70頭の聴導犬が実働しています。
(補助犬の中でも、特に盲導犬は広く知られている。)
──盲導犬は視覚障害者をサポートしてくれる犬だとイメージできるのですが、聴導犬と介助犬は、それぞれどういったサポートをするのですか?
橋爪:
聴導犬は、聴覚障がい者の生活をサポートします。私たちの日常生活では、ふだんからたくさんの音から情報を得て、判断していることが多いです。
たとえば、目覚まし音やインターフォン、FAXやメールの受信音、冷蔵庫の閉め忘れなども音で知らせてくれますよね。赤ちゃんの泣き声も大切な情報です。街中に出ると、車のクラクションやサイレンの音、自転車のベルなども「音」の情報です。聴覚障がい者は「自分が危険な状態にある」ということに気づきにくいのです。
聴覚障害者に代わってこれらの音を察知する役割をしているのが聴導犬です。盲導犬と異なり、犬種が特に限られていないので、プードルや日本犬雑種などの犬種も聴導犬として活躍しています。
(後ろから来る自転車の音を知らせる聴導犬。)
──そうすると、見た目は普通にペットを連れて歩いている人というふうに見えますよね?
橋爪:
聴覚障害は、外見からは見えない(わからない)障がいです。聴導犬は外出の際には、マナーも兼ねてケープを着用するのですが、そこに「聴導犬」と書いてあるので、聴導犬を連れていることが聴覚障害者であることの目印になります。
──そうなんですね。
橋爪:
聴導犬を連れて外出した聴覚障害者が、駅で発生したトラブルによる緊急アナウンスが聞こえず一人ベンチに座っていたときに、聴導犬を連れている姿を見て聴覚障害者だと認識した通りがかりの人が、携帯電話の入力画面を使って状況を説明してくれて、事態が把握できたということが過去にありました。
(目覚ましの音を飼い主に伝える聴導犬。)
──介助犬はどうですか?
橋爪:
介助犬は、手足に障がいのある肢体不自由者、主に車椅子生活者の日常生活をサポートしています。
障がいがない人にとっては当たり前の、落とした物を拾ったり、冷蔵庫から何か取り出したりという動作も、手足に障がいがある人にとっては簡単ではありません。
介助犬がこういった日常の生活をサポートして、「あきらめかけていた、ちょっとした“当たり前”」ができるようになります。
いずれにしても、ユーザーの生活をよりよくするためにサポートしているのが補助犬です。
(介助犬は、落とした物を拾ってくれたり(左)、指示した物を手元まで持ってきてくれる(右)。)
──補助犬情報センターさんの活動を教えてください。
橋爪:
「障がい者をどうやって受け入れたらいいの?」という疑問に対して、私たちは補助犬を切り口に、講演活動やイベントを通じて、障がい者への理解をすすめる活動をしています。
(補助犬ユーザーの話を聞きながら、補助犬について知るイベント「MassMass」の様子。)
橋爪:
日本では、2002年に身体障害者補助犬法が施行されました。障がい者の自立と社会参加の促進を目的に施行された法律で、スーパーやコンビニ、病院やレストランなど、不特定多数の人たちが利用する場所は、補助犬を連れた障がい者たちも安心して利用できるということを定めています。
にもかかわらず、補助犬への理解が広まらず、出かけた先で「犬は困る」、「他のお客様の迷惑になる」といったことを理由に、入店を断られるケースが後を絶ちません。
国で認められているにもかかわらず、現実では補助犬を連れていると同伴拒否を受けてしまう。私たちの調査では、補助犬ユーザーのうち6割以上の人が、これまでに何らかの同伴拒否を受けたという結果が出ました。
──なぜ、同伴拒否は無くならないのでしょうか。
橋爪:
まず、補助犬法自体が知られていないということがひとつ大きいと思います。もう一つは、障がい者に対する理解の低さや、補助犬自体が正しく理解されていないこと、知られていないことが原因だと思っています。
──知らないと、どうしていいかもわからないから「お断りします」ってなってしまう…。他の団体さんともコラボしてきて感じることですが、ここが本当に大きな課題で、変わっていく必要があるところですよね。
橋爪:
今、全国にはおよそ1,100人の補助犬ユーザーの方がいますが、補助犬と生活するためには、国からの認定証が必要です。
この認定証は、本人に自立の意思があるのはもちろんのこと、40日以上にも及ぶ訓練を経て、補助犬の衛生管理や社会でのマナー等もしっかり学んだ上で手に入るものです。認定証を持つということは、「あなたと補助犬と、このペアで社会参加できますよ」というお墨付きをもらったということなのです。
(厚労省が出している「Welcome!ほじょ犬」ステッカー(左)。右は兵庫県宝塚市の「ようこそ!補助犬」ステッカー(右)。)
──なのに、受け入れる側の体制がまだまだ整っていないということですよね…。
橋爪:
残念ながら、それが現状です。特に飲食店は「他のお客様に迷惑になる」という理由で、入店を断られることが多いです。
──実際は、ペットではなく、片腕、もしくはそれ以上の存在であるにもかかわらず、ということですよね。
橋爪:
そうですね。「犬を連れていることを否定される」=「その人自身が否定される」ことと同じ。傷つくユーザーさんも多いです。
橋爪:
ただ、世間では「入店拒否された」といったネガティブな側面がフォーカスされがちですが、私たちのもとには、お店側から「補助犬ユーザーさんにも気兼ねなく来てもらって、料理を楽しんでほしい」とか、「障がい者も遠慮なく遊びに来てほしい」という声も、実はたくさんいただいているんです。
「障がいのある人もウェルカムだけど、どうやったらその思いが届けられるの?!」という声もあって、ぜひその声に応えていきたいと思っています。
補助犬ユーザーの方たちも当たり前にレストランで食事やお茶を楽しめて、かつ、そこから補助犬への理解が深まるように、現在、NPO法人MAMIEさん・NPO法人essenceさんと協働で「補助犬とお店に行こう!」というプロジェクトを進めています。
(NPO法人essenceが作成した「補助犬welcome」ステッカー。スタイリッシュなデザインには「入って当たり前」というメッセージが込められているという。)
橋爪:
店頭に「補助犬ユーザーさんウェルカムです」という目印があれば、お店の方たちが意思表示できる一方で、補助犬ユーザーの方たちは入りやすくなりますよね。「補助犬WELCOMEステッカー」を貼ってもらって、補助犬ユーザーさんが入れるお店を増やし、彼らの社会参加を促進するのが、このプロジェクトの目的です。
店舗を一軒一軒訪問し、このプロジェクトに賛同していただくために配布するパンフレットを作成しようとしているところです。
(essenceの補助犬ステッカーをエントランスに貼ったお店。沖縄の「Pain de Kaito(パンドカイト)」。)
──つまり、店舗へ向けて補助犬の理解をすすめるためのパンプレットということですね。どんなことを記載されるのですか?
橋爪:
補助犬のこと、補助犬法についてなど、基本的な情報のほか、飲食店の場合、補助犬の入店で特に懸念されるのが衛生面に関してなので、ここの疑問や誤解を解くための情報を掲載したいと思います。
補助犬は定期健診や予防接種は当然のこと、外出時の抜け毛対策に日々ブラッシングをかけたり、「マナーコート」と呼ばれるケープを着用したりと、常日頃しっかりと衛生管理されています。
公衆衛生上は問題ないのですが、そのことも実はあまり知られていません。
──そうなんですね。
橋爪:
また、補助犬の排泄について心配されることがあるのですが、補助犬は指示した場所と時間に排泄するように訓練されているんです。
──知りませんでした。
(補助犬は、飲食店ではおとなしく待機するのがマナー。吠えたり、うろうろしたりして周囲の人に迷惑をかけることはない。)
──ユーザーの方がしっかり注意を払い、周囲を気遣っている。
そのことを知るだけでも「だったら、うちでも受け入れよう!」と前向きに受け入れてくれる店舗も増えそうですね!
──最後に、今回のチャリティーの使途を教えてください。
橋爪:
今回のチャリティーは、この店舗配布用のパンフレット作成のための資金として使わせていただきたいと思っています。ディレクションやデザイン費を含め、1,000部分の費用・10万円を集めることが目標です!
(「補助犬とお店に行こう!」打ち合わせにて。大阪の「LE SUCRE-COEUR(ル・シュクレクレール)」。
──単純計算して1,000店舗分ですよね。もしもこれだけの店舗が「ウェルカム!」と共感し、発信してくれたら、きっとこれまでにない世界が広がりますね!
橋爪:
補助犬ウェルカム!なお店がどんどん増えていった時、補助犬ユーザーさんたちがそこで過ごすひと時や生活を安心して楽しめるのはもちろん、彼らがいることが「当たり前」な景色がそこには存在すると思うんです。
ご飯を食べに行ったら、隣のテーブルで補助犬を連れて食事を楽しむ人がいた。そんな景色が当たり前のように見られるようになってきた時「補助犬を連れてることって、何も特別なことではないんだ」と、人々の意識もまた変化していくと思うんです。
補助犬ユーザーの方たちが、他の人たちと同じように楽しめて、当たり前のように馴染める社会になって欲しい。
互いに気を遣って「ごめんなさい」と言い合うのではなく、笑顔の「ありがとう」が増えていく社会を作っていけたらと思います!
──ワクワクしますね!そんな社会を作っていくためのお手伝いができたら嬉しいです。
ありがとうございました!
(日本補助犬情報センター理事の皆さんとパチリ!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
幼稚園から小学校、中学、高校…振り返ったときに、「障がい者との接点」が根本的にありませんでした。わからないから、知らないから、たまに街で見かけたら、遠くの方から、まるで珍しいものをみるように見つめるだけ…。
でも、いつまでそれを続けるんでしょうか?いつまで価値観を塗り替えず、守備に入り続けるんでしょうか?
…過去は変えられない。けれど、これからは変えられる!
ひとつの景色の中にいろんな人がいて、補助犬もいて、みんなそれぞれ充実した生活を送り、みんな良い。それぞれが楽しめる、カラフルな社会。とてもワクワクします。
安心して街にでられる補助犬ユーザーさんが増えるように、今回のチャリティーにご協力ください!
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「補助犬とお店に行こう!」特設サイトはこちらから
“It’s all a part of my life”、
「すべてが、私の人生の一部」。
補助犬を連れて遊びに出かけ、楽しい時間を過ごすことも、
当たり前のように補助犬がそこにいて生活をサポートしてくれることも、
特別ではなく当たり前のこと、という思いを表現しています。
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