2015年の6月に「改正公職選挙法」が成立し、選挙権が20歳から18歳以上に引き下がったことは、皆さんの記憶に新しいと思います。
しかし、選挙権が引き下がるだけでは「若者の政治参加」にはつながらない。
若い世代にいかに政治を伝え、興味を持って参加してもらうか──。
今週、JAMMINがコラボするのは、NPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」、通称「ぼくいち」。日本の政治教育を変えるために活動を続ける若者による、若者のためのNPOです。
これまでのイメージを覆し、若者たちに政治を楽しく、かっこよく興味を持ってもらうために「票育」という活動を行っています。
今回、お話をお伺いしたのは、政治を題材にしたボードゲーム「CANVASS(キャンバス)」について。このボードゲームの草案を作り、製作までこぎつけたのが、ぼくいち副代表理事で、現在大学4年生の村山俊洋さん。詳しいお話をお伺いしました!
▲お話をお伺いした「ぼくらの一歩が日本を変える。」副代表の村山さん。
NPO法人 僕らの一歩が日本を変える。
若者と政治に「新しい出会い」を届けるために活動するNPO法人。現在は、地域の担い手を育む政治教育「票育」の全国の地方自治体での展開に力を入れ、人材育成の委託事業や、各学校への出前授業等を行っています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──今日はよろしくお願いします。
「政治を楽しく、かっこよく」ということなんですが、もともと団体を立ち上げたのも、運営されているスタッフの方も、皆さん学生の方ですよね。
村山:
はい。僕自身も、高校三年生のときにぼくいちが主催した「高校生100人×国会議員」というイベントに友人に誘われて参加したことがきっかけで、今はメンバーとして活動しています。
もともと政治に興味があったわけではないんですが、イベントで、自分より年下の子たちが政治について議論している姿を見て焦りました。
参加後、少し興味を持つようになったんです。
ぼくいちは当時、ほかにも「政治×デザイン」、「政治×ゲーム」など「政治ד○○”」というかたちで、政治と何かをかけあわせたイベントを数多くやっていました。
▲「政治×デザイン」というテーマで、ファッションを通して政治に興味を持ってもらえるようなTシャツを作ったときの写真。
村山:
「高校生100人×国会議員」に参加した後、僕は「政治×ゲーム」のイベントにも参加しました。というのも、個人的にボードゲームが好きで、自分にぴったりのイベントだと思ったんです。
そして、政治をどうやって同世代の人に楽しく知ってもらうかを考えたり、そのための企画をプロデュースするところに面白さを感じ、イベントが終わった後、スタッフとして加わりました。
──現在も同様のイベントを開催しているのですか?
村山:
現在は、地方自治体と協力しながら、25歳以下の若者が中立的な立場で届ける政治の授業「票育」や、被選挙権を持たない若者が直接的に政治や行政に関わりを持てる「若者委員会」のプロデュースに力を入れています。
──「政治×ゲーム」に参加したときに、好きだったゲームと、興味のなかった政治がうまく絡み合ってその世界に引き込まれていった、という感じなんですね。
村山:
そうですね。
僕自身もそうでしたが、若者向けの政治イベントを開催しても、基本的にはもともと政治に興味がある人しか参加しません。
それだと、広がりが生まれません。政治に興味を持つとか持たないとかいう以前に、政治を違う切り口で伝え、何か興味のあることと絡めて楽しんでくれたら、自然と政治にも目がいくようになると思うんです。
──確かに、そうですね。
村山:
残念ながらイベントで考えたゲームは実現できなかったんですが、ぼくいちに参加した後もずっと、面白くて政治を学べるゲームを作れないかな、とぼんやりと考えていました。
本当にぼんやりだったので2年くらいが過ぎてしまったんですが(笑)、あるとき、大阪の私立中学校から「生徒たちの東京への修学旅行で、国会見学をした後、宿泊先で何か政治に関する研修をしてもらえないですか。」という依頼をいただいたんです。
この話を聞いた時、せっかくの修学旅行中に興味のない話を、ましてや政治の面白くもない話を聞かされるのは嫌だろうなあと思いました。
そして、それなら楽しみながら政治について考えてもらえることはないだろうかと考え、「ゲームだったらいけるんじゃないか」という結論に至り、CANVASSが生まれました。
▲「CANVASS」のパッケージ。スタイリッシュなデザイン。
──どんなゲームですか?
村山:
4人〜7人で遊ぶ「国政」をテーマにしたゲームで、プレーヤーはそれぞれ国会議員になりきります。
自分のターンが回ってきたら「演説をする」、「政策をつくる」、「イベントに参加する」の3つの中から、自分のとりたいアクションを選び、サイコロを振ったりカードを引いたりします。
それぞれのアクションに応じて獲得できる「人気」と「実績」のポイントを他のプレーヤーと奪い合い、最後に合計点が高い人が勝ち、というゲームです。
▲ゲーム参加者一人につき1つのキューブが配られ、「実績」と「人気」を示すボードに配置されます。
たとえばですが、「政策をつくる」というアクションを選んだ場合、約30枚ある「政策カード」の中から、ランダムに1枚のカードを選びます。カードには、「どんな政策で」、「誰向けの政策なのか」、内容が詳細に書かれています。
特に大きなインパクトはないけれど、国政が安定するような政策のカードを引いた場合、高くはないんだけれども、低くもない、安定した「実績ポイント」がもらえます。
逆にインパクトはあるけれど、吉と出るか凶と出るかわからないような政策の場合、得られる「実績」は、すごく高いか低いかのどちらかに設定しています。
▲こちらは、お年寄り向け政策「医療費負担減少」という政策。実績が15,000点追加されます。
──おもしろいですね。ほかにどんな政策カードがあるのですか。
村山:
若者向けの「給付型奨学金」や、子育て・労働世代向けの「正規雇用の拡充」全世代に共通したテーマである「宇宙開発」や「災害対応」などのカードがあります。
上にはそのカードを引いたことによってもらえる「実績」と、下には政策の細かい内容を記載しています。
▲こちらが「政策カード」。政策名の下には、細かい説明が記載されています。
──ゲームをしながら、政治の内容やしくみを学べるようになっているんですね。「イベントに参加する」というアクションは、どんな内容なのですか?
村山:
「イベントに参加する」を選んだ場合、「イベントカード」を引いてもらいます。
イベントカードには「人カード」と「事カード」があり、何が起こるか分からないのが特徴です。
たとえば「テレビ出演」というカードなら、持っている「実績」の半分のポイントが、「人気」に加点されます。
「育児休暇」カードなら、1回休んで「人気」が加点されます。
▲イベントカードには「収賄告発」や「応援演説」などのカードが。
──確かに、政治家の方が育児休暇を取ると、イメージはアップしますね。
村山:
いい面ばかりをフォーカスしても嘘くさいので、政治へのイメージとしてありがちな「スキャンダル」や「ネット炎上」などのカードも盛り込み(笑)、国会議員の生活や政治の現場でどんなことが起きているか、感覚的に知ることができます。
「スキャンダル」カードなら、他のプレーヤーの人気ポイントを半分にできるし、「ネット炎上」カードなら他のプレーヤーが得る得点をそのままマイナスに変えることができます。
あとは、ゲーム性を強めるために、プレーヤーそれぞれが違った特殊な効果を使える「役職カード」といった工夫もしました。
これらのカードの他にも、ゲームを分かりやすく進めてもらうために、ルールブックを作ったり、3つのアクションの説明をカードにまとめて配ったりもしています。
▲左から、CANVASSのルールブック、説明カード、役職カード。
──すごいですね(笑)。政治家が「人気」と「実績」でもってして評価されているというか、国民に判断されるというのは、まさにその通りですしね。
ゲームを作るにあたって、意識した点はありますか?
村山:
一番意識したことは、「学び」と「楽しさ」のバランスをとること。
「楽しい」を作るのは大変ですが、同様に「学ぶ」を作るのも大変です。両方どこまで突き詰めるか、そのバランスに苦労しました。
──「学び」がメインになるとゲームとしてはちょっとテンポが悪くなってしまうし、逆に「ゲーム」がメインになって政治のことが全然頭に入ってこないと、それはそれで意味が薄くなってしまいますね。
村山:
個人的には、「楽しいこと」が大前提だと思っています。
政治にまったく興味がなかったとしても、頭の片隅にゲームで出た政策や政治に関する単語が残ってくれて、次のきっかけにつながってほしい。
そこを重視しました。
「地味」とか「おもしろくない」というイメージを持たれがちな政治ですが、ちょっとでもおもしろさにフォーカスしたい。
ボードゲームを楽しむ中で、政治もおもしろいと思ってくれたら嬉しいですね。ゲームを通じて、政治のイメージ自体が変わればと思います。
▲政治に関わる活動をされている方々とのCANVASS体験会。
──すばらしい発想ですね。やはりどうしても、「政治」というとおカタいイメージがあるので…。
村山:
僕たちのような活動を通じて、政治だけじゃなく、他の分野のいろんな人たちが入って、もっとこの業界自体をオープンにしていくべきだと思います。
別にこの業界が排他的なわけではないし、興味がある人に対してはウェルカムなんですが、かといって魅力的なわけではない。「政治の魅力」を発掘し、それを伝えていくことで、若者が政治に興味を持つことや、選挙に行くことにつながってくれたらと思います。
僕たちは「選挙に参加してください」とか「政治に興味を持ってください」とは言いません。これまでと同じやり方をしても変わらないし、政治に興味がない人たちにいくら言ったところで、届きません。それに、興味を持てない人たちの気持ちも分かるので、なおさらです。
今の政治のイメージを塗り替え、若者たちがアクセスしやすい新しい「政治」を発信していく中で、自然と興味を持ってくれたらと思っています。
CANVASSで遊んでもらった中高生からは「政治でこんなに盛り上がるとは思わなかった」とか(笑)、「意外と楽しい!」、「学校に置いてほしい!」という声がありました。
▲CANVASSで盛り上がる中学生。
──最後に、今回のチャリティーの使途を教えてください。
村山:
この政治を学べるボードゲーム「CANVASS」は、誰でもどこでも楽しめるゲームにしたいと思っています。
自分たちが出前授業やイベントの時だけ使うのでなく、自分たち以外の方々にも活用していただいたり、学校に置いて休み時間に遊んでもらったりして欲しいんです。
現在は、プロトタイプを10セット作成してあるのみで、「遊んでみたい!」や「学校に欲しい!」といった要望に応えきれていません。
現状のゲームを改善し、数を増やして、もっと多くの若者に政治の魅力を伝えていきたいと思っています。
製作費用は1セットあたり約1,200円。今回のチャリティーで、新たに50セットを製作するための費用を集めたいと思います!
学校で朝友達に会ったときに、前日のテレビ番組の話とか、芸能人の話って普通にしますよね。そんな感じで、政治の話も当たり前に、そしてポジティブに話せるようになったらいいなと思います。
──ありがとうございました!
▲ぼくいち運営スタッフの皆さんで、記念撮影!
インタビューを終えて〜編集後記 by山本〜
「CANVASS」について、生き生きと話してくださった村山さん。ルールや内容を聞いていると、本格的なゲームそのもの。ネーミングもそうですが、見た目もスタイリッシュで政治のイメージとはまるで真反対でした。
CANVASSで遊ぶ中高生が増えれば、きっと、それまでなんとなく持っていたイメージとはまた別のイメージを持つ若者たちが増えるはずです。
ぜひ、今回のチャリティーに協力ください!
「NPO法人 僕らの一歩が日本を変える。」のホームページはこちら
「票育オフィシャルサイト」はこちら
「政治」と「若者」、一見つながりのない両者をつなぐ「僕らの一歩が日本を変える。」の活動を「手紙」で表現したデザイン。手紙の中には、ボードゲーム「CANVASS」のアイテムのひとつ・カードが入っています。
“Big things have small beginnings”、「大きな出来事は、小さなスタートの積み重ね」。そんなメッセージを表現しました。
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