6月19日は父の日。
世のお父さん方、そしてお父さんを支えるお母さん方にも、ここで質問です。
お父さんは普段「家族と過ごす時間」、作れていますでしょうか?
今週のテーマは「お父さんたちの働き方」。
「笑っている父親が、社会を変える」をモットーに、「男性(父親)の働き方改革」を推進しているNPO、ファザーリング・ジャパンが今週のチャリティー先です。
お話をお伺いしたファザーリング・ジャパン理事の徳倉康之さんは、まだ「イクメン」なんて言葉がこの世に存在しなかった時代に会社で育休を取り、周囲に白い目で見られた経験があるのだそう。
この10年で、男性の育児に対する考え方や、家族との関わり方、働き方は大きく変化したといいますが、その実態はいかに──。
▲お話をお伺いしたファザーリング・ジャパン理事の徳倉さん。
NPO法人ファザーリング・ジャパン
「笑っている父親を増やす」ことをミッションに掲げ、2006年に発足したNPO法人。父親が子育てしやすい環境の整備を目指し、様々な父親支援事業を展開。
2014年に、14の企業が加盟してスタートした、育児をする父親を理解する管理職を育てる「イクボスプロジェクト」は、2017年6月1日現在150の企業同盟となっている。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──多岐にわたる父親支援プログラムやプロジェクトを実施されていますが、活動の背景について、教えてください。
徳倉:
ここ10年ほどで、働くお父さんたちの意識は大きく変化しました。
特に2009年のリーマンショック、2011年の東日本大震災以降、仕事よりも家庭を大切にするお父さん達が増えてきました。
仕事だけに没頭するのではなく、「父親である」ことを楽しみ、家事や育児に積極的に取り組むお父さんたちが増えてきたんです。
しかし、そんなお父さんたちを取り巻く社会の意識や職場の環境は、古い意識のまま。育児休業をとりたくてもとりづらかったり、定時に退社すると白い目で見られたり…。そんなことが依然として当たり前のように起きています。
家族との時間を大切にしたいのに、仕事に拘束されてそれができない…。そんな現状にメスを入れるために、ファザーリング・ジャパンは10年前に結成されました。
▲ファザーリング・ジャパン10周年のシンポジウムの様子。
徳倉:
20代〜30代の若いお父さんたちの意識が変化してきた背景には、女性が社会進出したこともあります。結婚して家庭を持ち、パートナーである妻もフルタイムで働いていると、必然的に家庭内での役割分担が出てきますから。
社会はそうやって変わってきているのに、それを受け入れる職場の体制が旧来のまま。これでは、男性も家庭と仕事の間で板挟みにあってしまい、夫婦で子育てしながら働く事ができない社会であり続けてしまいます。
ここを変えるのが私たちの使命です。
▲ファザーリング・ジャパン10周年記念パーティーにて、理事の記念撮影。皆さん、とっても楽しそう!
──「イク(育)メン」とか「イクダン」なんて言葉も聞かれるようになりましたよね。
徳倉:
子どもの送り迎えをしたり、残業を切り上げて自宅に帰ってキッチンに立ったり、積極的に育児にも取り組むお父さん。共働きの夫婦が増えてきている中で、これは当然の傾向だと思います。
けれど、イクメンに職場がウェルカムかというと、残念ながらそうではないのが現状です。
▲ファザーリング・ジャパンのメンバーによる「パパ料理講座」の様子。頼もしいですね!
──そうですよね。比較的若い会社や上司が柔軟で理解がある職場なら、そんなことない場合もあるんでしょうけど、直接言われるわけではないけれど「仕事が第一」みたいなプレッシャーは、私もこれまでの職場で感じてきました。
徳倉:
会社のことを取り仕切ったり、まとめたりする40〜50代の管理職の人たちは、依然として自分が働いてきた時代のままの古い意識。
せっかく「仕事をしながら育児にも関わりたい」というイクメンたちが増えても、マネジメントする側が古い意識のままでは、なかなか体制は変わりません。
ここを根本から変えるムーブメントを起こしたいと「イクボスプロジェクト」を2014年に立ち上げました。
「イクボス」とは、職場でともに働く部下やスタッフのワーク・ライフ・バランスを配慮し、キャリアや人生を応援しながら、組織として結果も出せて、自らも仕事と私生活を楽しめる上司や経営者のことです。
▲イクボス宣言をしている企業セミナ―の様子。日本の名だたる企業が賛同しています。
──上司に理解があれば、部下たちは安心して家のことができますね。
徳倉:
そうですね。
子どもが生まれて、育休をとる。定時に退社する。育児をするお父さんの働き方の一例ですが「お父さんに降りかかってくること」って、育児だけじゃないですよね。
自分や家族が病気になることもあるだろうし、高齢の親の介護もあるかもしれない。「仕事だけしていればいい」という状況にならないことも、起きてくるんです。
社員の抱える生活を理解しながら、制約のある彼らをどうマネジメントし、パズルのピースを組み合わせるようにして、いかに生産性を上げられるか。
それを考えられる上司、「社員の生活との共生」をマネジメントできるのが「イクボス」。そんなボスを増やすために、企業と同盟を組みイクボスの育成を実施しています。
「イクボス」じゃないと「ダメボス」になるよ、なんて言ってますけどね(笑)
──働く女性の立場からすると「おっしゃるとおり!よくぞ言ってくださった」という思いなんですが(笑)、40〜50代の仕事一筋の管理職の人からすると、まさに「まったく新しい概念」ですよね?
サボっているわけでも、仕事が嫌いなわけでも、言い訳しているわけでもないのに、家庭の事情を言うと怒られたり、「辞めたら?」と苦言を呈される同僚も見てきました。
こういう発想の上司には、なかなか受け入れてもらない思想なのではないですか?
徳倉:
「メリット」をしっかりと説明しながら、「イクボスプロジェクト」は「社会の変化とともに多様化する働き方の、新しいマネジメント方法」だと説明すると、意外とすんなり理解してもらえます。
たとえば、女性の働き方に理解を示している会社の女性の就業継続率は、当然そうではない会社よりも良くなりますよね。そういうことであったり、女性の役員がいる会社のほうが平均株価が高いというデータなどを論理的に、定量的なものを提示しながら説明することが大切です。
あと、男性は、男性の話でないとなかなか納得しません(笑)。
女性が何か言うのであれば「すごいですね!」とか「理解があって嬉しいです」って一言声をかけてもらえれば(笑)。いいところを見せようと、もっとやる気を出してがんばりますから。そういうところは単純なんです(笑)。
▲働くお父さんに向けての「働き方セミナー」の様子。
徳倉:
過去の働き方は、会社側が従業員それぞれの抱えている事情を理解しなかった背景があります。でも、そのせいで有能な従業員が辞めていってしまう。
たとえば「子どもの保育園のお迎えがある」と夕方に会社を退社していた社員が、「残業をしない」とイヤミを言われて仕事を辞めてしまった。
それって、その社員にそれまでに費やされた研修費と、穴を埋めるために新たな社員を採用するコストを考えると、会社にとってはマイナスですよね。
その社員がとても有能な人だったら、なおさらです。
新しい社員をまた一から雇って、研修して教育して…っていうことに時間やお金、労力を費やすよりも、一人ひとりの事情を理解し、それぞれが働きやすい環境を用意するほうが、ずっと効率的だということ。
「イクボスプロジェクト」の養成講座では、この辺も説明しています。
──私は何度か転職していますが、社員の生活に配慮しない職場はやっぱり辞めていく人が多かったし、逆に柔軟に対応してくれる会社は、社員が定着していました。社員が定着すると、周りも落ち着いて仕事ができるから、仕事もスムーズに進む実感がありました。
社員が辞めて新たな人材を採用することは会社的にはすごくパワーがいるし、結果としてかえってマイナスというのはすごく納得します。
徳倉:
80年代後半の「♪24時間、戦えますか」という栄養ドリンクのCMじゃないですけど、中高年の人たちがガムシャラに働いてきた時代、そこで彼らが手にした成功体験と、今のそれは違うんだということを、管理職の人たちはまず理解しなきゃいけないと思います。
会社として、チームとして結果を出していくために、社会に合わせて組織もまた柔軟に変化していく必要があるんです。
「イクボス」という考え方は「マネジメントの在り方」です。かみ砕くと「働き方の変化はその場で働く人の多様性を認める事」だと思います。
「一人のわがままではなく、それぞれの人の事情を理解し、その中で力を発揮してもらうためのしくみ」だと普段説明しています。
実際に人手不足で悩んでいた組織が「働き方の多様性」を認めるマネジメントを行い続けた結果、従業員の満足度が上がり、さらに顧客満足度も上がって収益が上がった、というケースは稀ではありません。
▲ファザーリング・ジャパンのプロジェクトのひとつ、「パパエイド」(東北支援)。被災地支援の取り組みで、子どもたちへの絵本の読み聞かせに参加したパパたち。
──本当は家族と過ごしたいけれど「ゆくゆくは家族のために、子どものために出世しなければ」と、お父さんが仕事漬けの生活をがんばっている場合はどうですか?
徳倉:
「出世のために何かを犠牲にしないいけない」という仕組みがそもそもおかしいですね。
「仕事だから仕方ない」、「オレは会社から期待されているんだ」──。果たして、本当にそうでしょうか?
事業で成功することは大切ですが、お金は、後からでも稼げます。もちろん、1から万にするのには、アイディアや努力も要るけれど、挽回できる。
でも「子育て」って期間限定なんです。10年逃すと、子どもはもう大人になっちゃっている。挽回できないんです。
一緒に遊んだり、一緒に走ったり、キャッチボールしたり、ご飯を食べたり…。そんな「特別な時間」は、果たして一生のうちに何回あるかということを問いたいです。
お父さんは子育てをするなかで、徐々に父親のあり方を学び、父親になっていくんです。
仕事だけに熱中するのではなく、自分の仕事もがんばりながら、生活、人生を充実させているお父さんって、男性から見ても、女性から見ても、子どもから見てもかっこいいと思うんですよね。
▲「アースデイ東京」にて、絵本の読み聞かせボランティアをするパパ。子どもたちは絵本に夢中でとても嬉しそう…それ以上に、パパもとっても嬉しそう!
──「笑っている父親が、社会を変える」というスローガンで活動されていますが、このスローガンにはどんな意味があるのですか。
徳倉:
企業の古い体質が変わり、お父さんたちが仕事をしながら、積極的に育児や家事に参加するようになれば、社会も変わっていくと思うんです。
仕事に拘束されてがんじがらめになるのではなく、職場でなんのしがらみもなく育休がとれたり、効率よく働き定時で仕事を終え、帰って家族と過ごす時間が増えれば、お父さんはもっと笑顔になれます。
そして、お父さんと過ごす時間は子どもにも笑顔を生みます。育児や家事にこれまで以上に関わる事で、妻とのコミュニケーションも増え、妻にもさらに笑顔が生まれます。子どもの行事や地域のイベントにも積極的に参加するようになり、周囲の人たちにも笑顔が生まれる。
長い目でみると、「笑っている父親」が増えていくことで、少子化や犯罪、待機児童の問題や地域とのつながり…いろんな社会問題の解決につながっていくと思っています。
まだまだ封建的な古い思想がはびこっていますが、我々の活動が、そのくさびになれれば、と思っています。
そして…男性の育児が当たり前の社会になったら、私たちは解散します(笑)。解散を目指して活動しています。
▲こちらも「アースデイ東京」にて。パパたちによる絵本読み聞かせライブ。
──今回のコラボのチャリティーの使途を教えてください。
徳倉:
6月16日・17日に開催する「ファザーリング全国フォーラムinおおいた」の開催費用として使わせていただきます。
「ファザーリング全国フォーラム」は、2012年より、自治体と一緒になって毎年実施しているビッグイベントで、過去に滋賀、鳥取、三重、福岡、富山で実施しました。
今年は大分県大分市で開催。男性の子育て参画や女性の活躍推進、夫婦のパートナーシップ、働き方改革などをテーマにした分科会やシンポジウムのほか、家族みんなで楽しめるワークショップを開催します。
地方開催することで「ファザーリングマインド」を全国に広げ、浸透させていきたいと思っています。
▲今年は大分市で開催。お近くのお父さん、ご家族とぜひ今回のコラボTシャツを着て出かけてみてください!
──父の日ですが、最後に世のお父さん方に向けてメッセージをお願いします!
徳倉:
「自分が父親と最後に遊んだのはいつか?」、思い出してみてください。そして、自分の子どもはいつまで自分と一緒にいてくれるのか、考えてみてほしいと思います。
何をもって「豊か」とするか。人生観や生き方の話になってきますが、子どもや家族と過ごす、二度と戻ってこない一瞬一瞬の時間を、大切にしてほしい。
そのための選択をしていってほしいと思いますね。
──ありがとうございました!
▲父子でキャンプに行く「FJツアー」にて、参加者みんなで記念にパチリ!お母さんも同行しますが、お母さんには一切何もせずにのんびりしてもらうツアーなのだそう。
インタビューを終えて〜編集後記 by山本〜
「お父さん」という切り口で話を伺いつつ、「『家族』とは何か」、「『働く』とは何か」について考えさせられるインタビューでした。
家族の数だけ、価値観や考え方があると思います。しかし「家族が一緒に過ごす」時間が増え、共有するものが増えたとき、お父さんの仕事のストレスや、お母さんの育児のストレスや、子どもの「かまってもらえない」というストレスが減ったとき、なるほど、家族みんながニコニコしている絵が浮かぶのです!
6月19日は父の日。いつもがんばっているお父さんへ、今回のコラボTシャツをプレゼント、なんていかがでしょうか?
色違いでご夫婦で揃えるのもおすすめです◎
“Your smile makes your family smile”.「パパの笑顔が、家族を笑顔にする」。
ファザーリング・ジャパンの思いを表現したテキストと、The Beatlesのアルバム「アビーロード」をパロディーしたデザイン。
横断歩道を颯爽と歩くのは、それぞれ育児にいそしむお父さんたち。
“Father-ing”、「子育てをしながら、父親になる」。そんなメッセージを込めました。
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