皆さん「人権」と聞いて、どんなことをイメージしますか?
唐突に言われても、ぱっとイメージがわかないぐらい、日本に暮らしていると「人権」を意識する機会はあまり多くないのではないでしょうか。
命や身の危険にさらされるわけでもなく、守られた生活があり、自分の意見や意志を自由に発信することができる。多くの方が感じていることだと思います。
しかし、表立って出てこないだけで、人権問題が存在しています。
今回のチャリティー先は、国内外の様々な人権問題に取り組んでいるヒューマンライツ・ナウ。
様々な人権活動に取り組んでいますが、近年力を入れているプロジェクトのひとつが日本国内のアダルト・ビデオへの出演強要やDV(ドメスティック・バイオレンス)による女性への人権侵害です。
今回は、ヒューマンライツ・ナウ代表の伊藤さんにお話をお伺いしました。
ヒューマンライツ・ナウ代表の伊藤さん。
NPO法人ヒューマンライツ・ナウ(Human Rights Now, HRN)
日本を拠点に活動するNPO法人。国内外の紛争や人権侵害をなくすために2006年に発足。人権侵害のない公正な世界を目指し、国境を超えて活動しています。
近年、女性の「アダルトビデオ(以下AV)出演強要」被害を耳にするようになりました。
皆さんは、この問題についてどう思いますか?
出演の「強要」という言葉に違和感を覚える人も中にはいるのではないかと思うんです。
その理由として、
1.「強要されるようなところまでついて行ったのは本人のせいなのではないか。ちゃんと断ることができるところで断らない本人が悪い」という意見。
2.「AVという仕事にプライドを持って活動している女優もいる。AV出演を一方的に「強制出演だ」というのはおかしいのではないか」という意見。
この2つの意見が挙げられると思うんです。
実は、私も上京したての十代の頃、「モデルやらない?」と街で声をかけられ、よくよく話を聞くとAVだったという経験があります。
幸い早い段階でおかしいと気づいたこと、そこで引き返せる状態にいたこと、そして今思うとそこまで悪質なケースではなかったのか、大事には至りませんでしたが、もし悪質なケースで気づかずに信じてしまっていたらと思うと、恐ろしくなります。
スカウトの場合、最初から「AV女優やりませんか」などというケースはほとんどなく、被害の実態を見るとその手法はかなり悪質なものであるようです。
「モデルにならない?」、「タレントにならない?」と甘い言葉で女性を誘い、「お給料もいいよ。今よりずっと稼げるよ。そうね…このぐらいの本数に出たら100万円すぐに稼げるよ!100万円あったら、君は何をしたい?」と畳み掛ける。(私の場合はそうでした。)
甘い言葉で騙されて密室に入ったら最後、護身術でも学んでいない限り、女性は男性に力で負けてしまいます。抵抗できません。
「そんな場に自分で望んで行ったのではないか」と思う方もいるかもしれません。
しかし、「モデルの仕事」とか「とりあえず商材写真を撮るから」と言われて現地に行くと、すでに撮影の準備がされており、大勢の人に脅されて従わざるを得なかった…という実態があるようです。
テレビでタレントが「街で声をかけられて芸能界入りした」という話を聞けば、「街中で声をかけてもらったら、有名になれるかも」という意識が芽生えます。
その一方で、きらびやかな世界をおとりに、知らない間に自分の意志とは反する場へと足を突っ込んでしまう可能性があるということを覚えておいて欲しいと思います。
動画にしろ写真にしろ、AVに限らず、一度撮影されるとそのデータは半永久的に残ります。
…考えてみてください。不特定多数の人たちに自分の裸の映像が出回ったらどうですか?
しかも、誰が見ているかわからない。
精神的苦痛は想像を絶するものです。
ヒューマンライツ・ナウ代表の伊藤さんによると、日本ではAVを制作するメーカーやプロダクションに対しての法的な規制は存在せず、違法行為があっても十分に取り締まられない状態なのだと言います。
現在の法律下では、たとえAV出演強要であったとしても、本人「同意」のもと「演技」だとみなされ、強要や強姦、暴行罪等の罪に問われることは難しいのだそうです。
AV出演強要問題が取り上げられたNHK『クローズアップ現代』に伊藤さんが出演しました。(2016年7月)
ヒューマンライツ・ナウは、まずは、「AV出演を強要された」という被害者がなくなるような法制度を求め、省庁や国会議員、メディアや業界に対して、被害を防止・救済するために必要な施策、法整備を始めとする様々な働きかけをしています。
AV業界は女性をスカウトする「スカウト」、アダルトビデオを制作する「メーカー」、メーカーに出演女性を派遣する「プロダクション」、そして完成したアダルトビデオを販売する「販売」の4つに大きく分かれているのだそうです。
過去にJAMMINとチャリティーコラボを実施した夜の仕事のセカンドキャリアをサポートする一般社団法人Grow As People代表・角間淳一郎さんにも話を聞いてみたところ、次のような答えが返ってきました。
僕らが関わっている風俗の世界よりも、AVのほうがダマシ(詐称)が横行していると聞きます。
スカウトする人がフリーランスとして紹介料をもらう仕組みで、メーカーや制作会社、販売会社はスカウト行為に直接関与していないため、黙認している部分が少なからずあり、ここに問題がある。
GrowAsPeopleが対象としている性風俗産業とは異なり、AVの世界は立場や職種が多様で複雑な世界。
そのため、業界の話を聞くことに不慣れな女性(殆どがそうでしょうが)にとっては、話を持ちかけられても、仕事内容や契約内容を理解することは難しい。さらに時間をかけて判断する機会を作られないため、知らないところで話が進んでしまうこともあります。
つまり、それぞれが責任をなすりつけ合うようなかたちで、いつまでたっても被害者が出る実態が改善されないのです。
ここまで、AV出演強要についてご紹介してきましたが、AV強要だけが女性たちの被害ではありません。
DV(家庭内暴力)やデートDV、ストーカー被害など、ほかにも女性の人権侵害は後を絶ちません。
我々が日々ニュースで目にするのはごく一部で、家庭内暴力やストーカー被害は表立っていないところで深刻な問題が進んでいる場合もあります。
「自分を大切にし、不当な暴力や強要に立ち向かう意識と、権利があるという認識を育てていくこと」。ヒューマンライツ・ナウは呼びかけています。
インドでは、女性の権利について現地で聞き取りをしました。
「AV出演強要」というテーマで「人権問題」についてみてきましたが、ヒューマンライツ・ナウは日本国内・女性だけに留まらず、世界の人権問題にも取り組んでいます。
詳しい活動内容について、伊藤さんにお伺いしました。
ヒューマンライツ・ナウの活動は、日本の女性の権利に留まりません。
例えば、日本でも世界でも心配になってきた、マイノリティを差別したり迫害したりする問題。
日本ではヘイトスピーチ(※1)の被害が深刻です。ヒューマンライツ・ナウは、ヘイトスピーチをなくすためにキャンペーン活動や実態調査活動を展開し、2016年にはヘイトスピーチ解消法が国会で成立しました。
(※1「ヘイトスピーチ」…「憎悪をむき出しにした発言。特に、公の場で、特定の人種・民族・宗教・性別・職業・身分に属する個人や集団に対してする、極端な悪口や中傷のこと。」/デジタル大辞泉より)
左上は、AV出演強要問題について行った記者会見の様子。その他にも様々な人権問題に取り組んでいます。
私たちが来ている服や身近な商品も実は、児童労働や過酷な労働、先住民の生きる権利を奪うなどの人権侵害とつながっています。
ヒューマンライツ・ナウはアジアの国々の市民とつながり、こうしたビジネスの過程で起きる人権侵害を調査し、改善を求めています。
ヒューマンライツ・ナウが調査を行った結果、改善を進めている会社としてはユニクロ、ミキハウス、ワコールなどがあります。
東京・新宿にあるユニクロ本店前にて。カンボジアにおける労働環境の改善を求めてスタンディングを行いました。(2016年10月)
また、日本の周辺国の中にはいまも、人々が「人権とは何か」すら教えられないまま、人権が十分に保障されない国があります。
そうした国で育っている若い世代の人たちに人権について知ってもらい、若い世代が人権や自由を自分のものとして切り開いてもらうために、アジアの国・ミャンマーなどに日本から講師を派遣する人権トレーニングの活動を長年展開し、少しずつ成果と希望が見えています。
さらに遠くの話ですが、人権の問題として避けて通れないのが「戦争」です。
ミャンマーにて人権教育を行ったときの様子。
戦争が起きると途方もなく深刻な人権侵害が起き、罪もない子どもたちまでが大量に殺されてしまう。こうしたことは今も日常茶飯事のように繰り返されています。
こうした悲劇をなくすために、紛争下での子どもの保護や、無差別的で残虐な兵器の廃止を国際社会に呼びかけて国連レベルでの活動をしています。
話を日本国内、女性の人権問題に戻しましょう。
家庭内の暴力、ましてや性の問題となると世間体を気にするあまり誰にも相談できず、被害を受けた女性が1人で抱え込んでしまうという危険性も持ち合わせています。
問題が表立ってこないために、「大した問題ではない」とないがしろにされ、解決が後回しにされがちなところがあるのではないでしょうか。
「本当に問題なら、本人が言いに来るのではないか」。そんな疑問もあるかもしれません。
でも、1人で悩み、抱え込んでいる女性たちがいるのもまた事実なのです。
だからこそ、まずは被害者を作らないこと。
そして「被害を受けた。これはおかしいのではないか」と勇気のある弱者が立ち上がったとき、せめてその声が届く環境を、作っていきませんか。
もしも「モデルになりませんか?」、「タレントに興味ない?」などと声をかけられたら、たとえ「そう!私タレントになりたい!」などと思っても、すぐに飛びつかずに冷静に話を聞くこと。
ここで「今すぐ契約書にサインして」とか「今から事務所に行こう」などと急かしてくるようであれば、怪しいと思ったほうがよいでしょう。
10代〜20代の娘さんがいる親御さんは、ぜひ一度お子さんも含めて話し合う機会を作ってみてください。
今回のチャリティーは、AV出演強要による被害をなくすためのプロモーションビデオの制作費用としてお使いいただきます。
このプロモーションビデオは、AV出演強要被害に遭わないよう、特にターゲットになりやすい若い女性に向けてメッセージを伝え、啓発すると同時に、傷ついた人たちの心を癒し、勇気を出してほしいというメッセージを伝えるために制作します。
プロモーションビデオ制作の目標金額100万円のうち、10万円を今回のコラボで集めたいと考えていますので、ぜひご協力いただければと思います。
巧みな誘導によってAV出演を余儀なくされ、その被害に苦しんでいる女性がいるという事実がある以上、その事実を根絶するために、協力いただけると幸いです。
NPO法人ヒューマンライツ・ナウのホームページはこちら
AV出演強要をなくすためのビデオ制作 詳細ページはこちら
自らのAV出演強要被害を公表し、今回のビデオに出演予定の”くるみんアロマ”さんと伊藤さん。
インタビューを終えて〜編集後記〜
AV出演強要の問題点としては、冒頭でも述べたように「モデルにならない?」などと甘い言葉で女性を誘い込み、逃げられない状況でAVに出演せざるを得なくなってしまい、被害にあった人たちがいるということを認識しておいてほしいと思います。
特にターゲットにされやすい若い女性に対しては、スカウトの人の話をまず信じないということ、実際に被害に遭い、苦しんでいる方たちがいるという事実を知ってほしい。
実はあなたに身近なところでも困っている人がいるかもしれません。今回のチャリティーを通じて「人権」について考えてみるきっかけにしていただければ幸いです。
“Real Love Never Hurt”.
「本当の愛は傷つけない」という意味と、「難しいかもしれないけれど、本物の愛を求めてみようよ」という二つの意味が込められています。
また、モチーフとして用いた「ベラドンナリリー」という名の百合の花の花言葉は「ありのままの私を見て」。
皆がありのままの姿で、愛を感じながら自分らしく生きていける社会を目指すヒューマンライツ・ナウの願いを表現しています。
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