ペットブームの昨今、飼い主の元で生涯を全うする命がある一方で、保健所で殺処分される命があることを、皆さんはご存知でしょうか。
今週のチャリティー先は、公益財団法人どうぶつ基金。
たった1回の出産でも5〜8頭の子猫を出産し、繁殖力の高い猫。保健所で消えていく命を防ぐために、飼い主のいない猫たちに無料で不妊去勢手術を施し、猫の殺処分ゼロに向けて、活動している団体です。
今回は代表理事の佐上邦久さんに、ご活動内容についてお話をお伺いしました。
公益財団法人どうぶつ基金代表理事の佐上邦久さん。
公益財団法人どうぶつ基金
兵庫県芦屋市を拠点に、猫の殺処分ゼロを目指して全国規模で動物の適正な飼育法の指導や動物愛護思想の普及を行い、動物たちの環境衛生の向上と思いやりのある地域社会のために活動しているNPO法人です。
ーーどうぶつ基金のご活動内容を教えてください。
私たちどうぶつ基金の現在の主な活動内容は、殺処分される猫を減らすために、飼い主のいない猫に無料で不妊去勢手術を行うことです。
1988年に殺処分された猫は、30万頭。それが、平成27年には6万5千頭にまで減りました。
ずっと、殺処分される猫たちは減らないと言われてきましたが、地道に活動を続けてきたからこその数字だと思っています。
ーーなぜ、不妊や去勢手術をすると猫の殺処分数が減るのですか?
ここには、猫の繁殖力の高さが影響しています。
一頭のメスの猫は、一般的に人生のうちで3回出産しますが、1回の出産で5〜8頭の子猫を産みます。
さらに、生まれてきた子猫はたった4カ月で成熟し、母猫として子どもを産むことができる状態になります。妊娠をしてから60日で出産しますから、要は生まれてきて半年後には子どもが生まれるのです。
そう考えると、一頭の母猫から派生して生まれる猫の数は1年で50匹くらいまでに増えることになります。
猫の繁殖力は凄まじく、2匹が3年で80頭に。東京・多頭飼育崩壊現場より。
ーーええっ…そんなにですか?!
そうなんです。ただ、成長の過程で命を落としてしまう猫もいるので、生まれてきた猫がすべて大人になるというわけではありませんが…。
飼い主がいない状態で、繁殖力を持つ猫が増えるとどうなるか。
どんどん猫の数が増えて、糞尿や鳴き声など、近隣住民の方たちの頭を悩ませることになってしまいます。そして、生まれてきた命が保健所で殺処分されるという悲しい結果を招くことになってしまう。
大阪では保健所に持ち込まれる猫の90%以上が、生まれて間も無い幼い子猫たちだというデータがあります。生まれてきてすぐに、「これ以上猫が増えたら困る」と保健所に連れていかれてしまう。ここに待ったをかけなければ、殺処分される猫は減りません。
猫の繁殖を抑えれば、殺される猫を減らすことができる。
不妊去勢手術を施すことで、猫が殺処分されることなく、人間と共存できる社会を目指しています。
ーーなるほど…。猫の繁殖力がそんなにすごいとは知りませんでした。
耳がさくらのかたちをした猫たちですが、ここには何か意図があるのでしょうか?
不妊去勢手術を施した際、麻酔が効いているうちに、施術した猫の耳の先端をV字にカットします。さくらの花びらのようなかたちに見えることから、「さくらねこ」と命名しました。
こちらが「さくらねこ」。さくらの花びらのようにも、ハート型にも見えますね!
ーーたしかに、さくらの花びらのようなかたちですね。
V字にカットする意図ですが、目印がないと、施術していない他の猫たちと見た目は同じでわかりませんから、場合によっては、同じ猫が2度捕獲されたり、麻酔をかけられたりするリスクを受けることになってしまいます。
実際に、私たちどうぶつ基金のさくらねこ無料不妊手術事業で、耳先カットの目印がなかったために2度捕獲された猫たちがいました。
これを避けるために、耳をカットして「手術済みである」という目印にしています。
ーー猫は痛くないのでしょうか?
人口17人、猫80匹の瀬戸内海に浮かぶ島・志々島での手術の様子。一頭の施術時間は10分ほどだそう。
麻酔が効いている間にカットしますから、痛みはありませんし、出血もほとんどありません。
過去に他の様々な方法も試されました。ピアスをつけるとか、セーフティー首輪をしてみるとか…。でも猫は動き回りますから、途中で取れてしまったり、首輪なんかは、木にひっかかって事故の元になってしまったり、どうしてもうまくいかない。
試行錯誤した結果、耳の先端をカットする方法が採用されています。
ーーそうだったんですね。
「さくらねこ」という名前には、耳が桜のかたちに見えるのほかに、もうひとつ、「桜の花のように誰からも愛される存在であってほしい」という思いも込められています。
猫と人間が幸せに共存していくために、より良い形を選択していきたいと思っています。
誰にも、何にも脅かされることなく、その命が全うされることを願って。
ーー街にいる野良猫をまず捕まえてくる必要がありますよね。とても大変な作業だと思うのですが…、実際にはどのような運用方法で活動されているのでしょうか?
猫の捕獲〜施術にあたり、「TNR」と呼ぶ活動を用いています。
不妊手術でさくらねこになった猫をリリースする佐上理事長。志々島にて、2016年12月24日撮影。
ーーティー・エヌ・アール、ですか?
はい。詳しくご説明しましょう。
T=TRAP(トラップ)…捕獲のことです。
猫が怪我をしないように、周りに迷惑がかからないように捕獲します。N=NEUTER(ニューター)…不妊去勢手術、さくら耳カットを施します。
手術済みの目印として、耳先をV字カットします。全身麻酔がかけられているので猫は痛みを感じることはなく、出血もほぼありません。R=RETURN(リターン)…術後、元の場所に戻します。
猫ボランティアの方は術後の経過を見守ります。すみやかに捕獲し、施術して、元の場所に戻す。猫の普段の生活を脅かすことなく、不妊去勢手術を行うことができます。
全国にいる何千〜何万頭という猫を捕獲し、元居た場所に返すというのは、莫大な労力がかります。活動は、TRAP (捕獲)とRETURN(リターン)を手伝ってくださるボランティアさんたちに支えられています。
おかげさまで、これまで約3万5千頭の猫に不妊去勢手術を施すことができました。
猫の殺処分ゼロを目指し、「TNR」のNEUTER(手術)の部分を私たちどうぶつ基金が負担しますから、TとRの部分で、ボランティアの方たちに多くご協力いただき、一緒に解決していきましょうという感じです。
ーー具体的に、どのようなかたちでご負担されるのでしょうか。
飼い主のいない猫たちが施術を受けられるように、私たちどうぶつ基金は、協力病院にて無料で不妊去勢手術が受けられる「チケット」を発行しています。
ーー「チケット」ですか…?!
はい、そうなんです。
現在、全国82箇所の動物病院からご協力いただいています。
まず、ボランティアさんには協力病院を選んでもらい、チケットを申請してもらいます。
手術が必要な猫が10頭いたら、10枚分のチケットを申請してもらいます。
その後、猫の施術が済んだ後、協力病院の獣医さんからは請求書とチケットを送ってもらい、施術代を我々が支払うという仕組みです。
ーーなるほど、そういうことなんですね。
しかし、近所に協力病院がない地域で、猫がたくさんいるような場所の場合はどうされているでしょうか。
私たちは、出張手術も行っています。たとえば、福岡県にある小さな島、馬島という島で出張手術を行いました。
「馬島」と、名前こそ馬ですが、馬はいなくて猫が多い島でして(笑)、人口が40人、その倍ぐらいの猫がいたんです。
地域住民の方は、猫の糞尿のにおい、夜中の盛り声に悩まされていましたが、私たちが出張して一斉手術をした後は、猫たちの性格も丸くなり、島人たちからもかわいがられるようになりました。
出張手術には、どうぶつ基金の「さくらねこ号」が出動。
出張手術は、手術車の中で実施します。
不妊去勢手術によって、人間たちも安心して暮らせるようになった事例です。
ほかにも、多くの地域で出張手術を行っています。
出張手術は、地元の方たちの理解や協力がなければ成り立ちませんから、地域のNPO団体とも協力しあって、地元の方と意見調整をしながらプロジェクトを進めていきます。
不妊去勢手術を受けると、猫たちの性格もおだやかになるという。
ーー活動を始められた当初は批判の声もあったのではありませんか?
はい。最初の頃は、「不妊・去勢をするなんて自然に反している」、「かわいそうだ」、「無駄だ」と様々な批判の声もありました。
でも、せっかく生まれてきたのに保健所で無残に殺されてしまう猫たちが、しかも大勢いるという現実に目を向けたときに、猫の繁殖力のすごさを考えるとこれしか方法がないと、信じて活動を続けてきました。
平成18年度ぐらいまで20年ほど、猫の殺処分数は年間20万頭~30万頭ぐらいで横ばい、なかなか減りませんでしたが、約10年で6万7千頭まで減りました。
どうぶつ基金のさくらねこ無料不妊手術数に協力してくださるボランティアの方やどうぶつ病院も少しずつ増え、これまでで3万5千頭を超える猫たちに施術をすることができました。
多くの方たちに助けていただきながら、活動を地道に続けてこれたからだと思っています。
年間、1万5千〜2万頭ほどずつ殺処分数は減っていますから、このままいけば、東京オリンピックが開催される2020年には猫の殺処分ゼロの国として、世界中の皆さんをお迎えしたいと思っています。
殺処分される猫がゼロになる日を目指して、これからも精力的に活動していきます。
もし、皆さんがどこかで耳をカットされたさくらねこを見かけたときは、一代限りの命を生きている彼らを、ぜひあたたかい目で見守ってほしいと思います。
彼らが生きている背景には、寝る間も惜しんで猫を捕獲し、施術後にまたもとの場所に返してくれるボランティアさんたちや、協力してくださる獣医の先生方がいるということを思い出して欲しいと思います。
そして、「猫が安心して暮らせるこの街はきっと、いい街なんだな」と思っていただけたらうれしいです。
さらにいうのであれば、動物と人間たちが殺処分なく、幸せに共存していくために、もし犬や猫を飼いたいと思ったとき、ペットショップではなく、年間多くの犬や猫が殺処分される現状に目を向け、保護された動物たちを引き取るという選択肢を持っていただけたら、うれしいです。
猫も、人間も、その命の尊さは同じ。人間と動物が健やかに共存できる未来を目指して。
ーー最後に、今回のチャリティーの使途をお伺いできますか?
猫たちの去勢・不妊手術にはそれぞれ、オス一頭あたり2,000円、メス一頭あたり4,000円の手術代がかかります。
今回のチャリティーは、この手術費用として使わせていただきます。
ーーということは、Tシャツ1枚につき700円のチャリティーなので、3枚でオス猫1頭分、6枚でメス猫1頭分の施術が可能ですね。
はい。どうぶつ基金の運営費は、ほとんど個人の方たちからの寄付によって賄われています。
今回のTシャツチャリティーで、より多くの方に猫の殺処分問題を知っていただければうれしいです。
ーーありがとうございます。今後のご活動も期待しています!
出張手術を行った志々島にて、スタッフ・ボランティア・獣医・地元住民の方と集合写真。皆さんでさくら耳のポーズでハイ・チーズ!
インタビューを終えて〜編集後記〜
動物の愛くるしい姿は、いつ見ても心を癒してくれます。テレビやインターネットでも、かわいらしい犬や猫のしぐさが多く取り上げられています。
しかし一方で、保健所で失われていく命もあるという現実。「動物が好き」ならば、この事実に一度目を向けてほしいと思います。
「一代限りの命をけなげに生きる猫たちを、あたたかく見守ってほしい」、そうおっしゃる佐上さん。佐上さんの猫への深い愛情を感じるインタビューでした。
殺処分ゼロの日本へ向けて、ぜひ応援をお願いします!
人間と動物が共に幸せに暮らせる世の中を作っていきましょう。
“I HAVE MY OWN LIFE”. たとえ飼い主がいなくても、生まれてきた限りは、その命を誰にも脅かされることなく生きていきたい。
猫の殺処分ゼロを目指すどうぶつ基金の取り組みと、耳をV字にカットしたさくらねこのイラストで、人間と動物が幸せに共存できる社会をイメージしたデザインです。
Designed By DLOP