内閣府発表の統計によると、ニートや引きこもり等の若者(15歳〜39歳)の無業者数は75万人。15〜34歳人口に占める若年無業者の割合は、2.1パーセントに及びます。(平成28年版 子ども・若者白書より)
そんな中、若者たちが自分の殻を破り社会と関わりを取り戻すための「本当の自立」を目指す学校があります。その名も「侍学園」(通称サムガク)。
自著「サムライフ」が映画化もされた理事長の長岡さんにお話をお伺いしました。
侍学園 スクオーラ・今人理事長の長岡秀貴さん。
NPO法人侍学園 スクオーラ・今人
元高校講師と4人の若者が作り上げた、「自らの進むべき道を探すための学び舎」。長野県上田市を本拠地とするNPO法人です。
「学びや新しい自分との出会いを求めるすべての人々のための学校」を設立趣旨とし、年齢無制限で生徒を受け入れています。
現在、長野県上田市にある上田本校と、東京の渋谷にある東京校、沖縄の南風原町にある沖縄校の三つの校舎があります。
上田本校には、生徒たちが親元を離れて生活するための寮があります。
学校というスタイルをとっているので、支援団体のなかでは少し変わっているかなと思いますね。
2016年に開校した沖縄校の前で、東京校・沖縄校のスタッフと記念撮影。後列右から3人目が長岡さん。
「いいのよ、あなたは今のままでいいのよ。」そういって慰めたって、その子も25歳になり、30歳になる。
ずっとそのスクールに居続けるならいいんです。でも、いつかは社会には出て行かなきゃいけない。「今のままでいいのよ」って言って何も変わることがなければ同じことを繰り返しますよね。
それでは本当の意味での支援ではないと僕は思うんです。
うちの生徒は、別にかわいそうなんかじゃない。特別でもない。ただ、他の人たちと少し違うだけ。
生きていくうえでは、守っていかなきゃいけないルールがある。ルールがあるから、犯罪も最小限に抑えられ、明日も生きていく保証がある。
自分勝手にやってもいい、ということではないんです。
僕らの学校は「共育」、共に育むことを理念に掲げていますが、「今のままでいいのよ」、「変わらなくていいのよ」ではなく、教える立場も教わる立場も人として本気でぶつかり合うなかで、社会に出てから本人が自立して生きていける力を身につけていくことができる場を提供したいと思っています。
だから、規律に従って生活し、社会に出て生徒が困るようなことは、あらかじめ「ダメだ」ときちんと話しておくことも、僕らの重要な役割です。そのための「学校」というスタイルです。
上田校の校舎。現在30名程の生徒が通う。
毎年恒例の「炎の遠足」。42kmを全員が完歩しました。
そうすると、外見とか異性ももちろん意識するようになります。
だからね、うちの授業では性の話もするし、エチケットの問題、たとえば鼻毛とかムダ毛の処理、体臭とか、あと女性だったらメイクの仕方とか、ヘアースタイルのセットなんかも教えてるんです。
…だって、今までずっと家の中に居たら知らないし、誰も教えてくれないでしょう?
授業のグループワークの様子。
社会参加不全の背後には、家庭の経済的貧困が潜んでいることが多いです。
経済的貧困・社会的貧困は、支援団体と出会うことさえできれば行政支援や福祉支援を受けることができる。
でも、僕たちが「文化的貧困」とよぶ貧困があって、要はその家庭内だけで理解されているような文化ね、ネグレクト(育児放棄)とか家庭内暴力とかです、これはなかなか表層化しないし、相談場所もなく孤立しやすい。
こういうケースは、まずは親を支えながら、子どものサポートをする必要があります。
さらに、この問題は子を家庭乖離(かいり)しないことには、解消できない。
侍学園の寮では、規則正しい集団生活を送るなかで、社会性を学び、文化形成をします。
そうすると、徐々に気づくんだよね。「もしかして、うちはおかしかったんじゃないか」と。本当にみんな、変わっていきますよ。
社会参加不全の人たちのなかには、人に委ねたり、助けてもらったりすること自体を悪だと思っている人たちもいます。
そうじゃなくて、つらいときは人に頼ってもいいんだよ、ちゃんと助けてもらえるんだよっていうことを、学園生活を通じて感じてほしいと思っています。
カリキュラムの一つとして農業の時間も充実。自分たちが食べるお米のほか、学園前の農場では10種類以上の野菜を作っている。
一緒に生活をする。ご飯も自分たちで作る。そんななかで小さな「成功体験」を積み重ねて、少しずつ社会性を身につけているわけです。
最初は「まな板とって」とか「タマネギ切って」、「じゃがいも剥いて」とかね。最初はそういう生活言語でいいんです。最低限の言葉のキャッチボールでいい。
そんな中から「誰かに必要とされているんだ」とか、僕たちは「自己効力感」って呼んでるんだけど、「自分が存在することで誰か他人に影響がある」ということを少しずつ感じていくことで、集団のなかの一人であることも意識するし、自信もつけていく。
寮での夕食作りの様子。日替わりの夕食当番を決め、当番が寮生分の食事を作ります。
家庭だと、なかなかそうはいかない。だって、わざわざ夕食の準備したりしないでしょ。他人同士一緒に生活しているから、ルールを守って生活できるところもある。
赤の他人との生活のなかで、コミュニケーションに対する恐怖心も軽減されていきます。
やり続けることで初めて、達成感を味わうことができる。
ほとんどみんな始めたときは素人だし、笑顔で楽しそうにやってるんだけど、実際は365日、無力感を味わったり失敗の連続で、本当にしんどい仕事です。みんな本当にがんばってくれている。
良い職員に恵まれているなと感じます。
学園祭のワンシーン・生徒発表の本番前の様子。スタッフ、生徒も一丸となって気合を入れます。
侍学園では、在学期間を設けていません。生徒が卒業したいと思えば、スタッフに申し出ることができます。
でも、卒業のハードルは低くない。1月の終わりの職員会議で認定がおりなければ、卒業することはできません。
卒業にあたっては、2つの要素で生徒を判断します。
ひとつは、「経済的自立の可能性」。在学中に6ヶ月以上の就労をしていることが条件です。
もうひとつは、「精神的自立の可能性」。社会に出て行く訳なので、他人との接触で大きな問題はないかを判断します。
卒業式のその1日で、スタッフたちのそれまでの364日が報われる。そんな日です。本当にもう、言葉にできないぐらい感無量なんです。
卒業式の様子。昨年度は5名の生徒が卒業を果たした。
スタッフたちにとっても、自分が誰かを変えることに携われたんだという「自己効力感」を感じる日こそが、卒業式なんです。
「何が自分の幸せか」に気づき、「幸福を感じられる時間をどれだけ増やすか」、そのために、僕らができる提案をしていく。
そして、侍学園を通じて「自分で考えて生きられる力」を身につけて欲しいと思っています。
以来、やるかやらないか、自分が生き続けて動いている限りは、人様のために時間を使いたいと思ってきました。
でもね、そうやって生きてきたから、今日まで生きながらえているんです。僕自身も幸せですしね。そんな姿を生きるモデルとして見せていきたい。そんな思いもあります。
16歳で絶望を経験したとき、死から生を見たんですよね。
生徒たちが、生から死をみて不安に思うのは当然で、でもね、死から生を見たときに、また違ったふうに見えるんだよってことを、経験者として伝えて生きたいとも思います。
現在寄付集めのためのファンドレイジングもやっていますが、チャリティー金額はその建設資金として使わせていただきます。
2016年12月15日寮建設地にて地鎮祭の様子。この場所からまた新たな出会いが生まれ、若者の未来がスタートする場になるように、願いを込めて。
インタビューを終えて〜編集後記〜
文字量の関係で今回の記事には掲載できませんでしたが…、今後のビジョンや取り組みについても熱く語っていただきました。長岡さんはとても気さくで、にじみ出るあたたかさと強いポジティブなオーラに溢れた方で、まさにこれぞ「カリスマ」という言葉がぴったりな方でした。
「侍学園 スクオーラ・今人」の「今人」は、ジョン・レノンの名曲「イマジン」が由来。この歌のなかで歌われる「すべての人たちが平和に生きる世界」を今から作っていく人々を育成する学校、という思いを込めたのだそうです。
ジョン・レノンは歌います。
「みんなが幸せで平和な世の中なんて、「そんなの夢の世界の話だ」って君は言うかもしれない。けど、いつか君も加わってくれたら 世界はひとつになるんだよ」と。
「侍学園」、正にその名の通り、時代をよくするために立ち上がった彼らの取り組み。この輪にあなたも加わり、「イマジン」の世界を作っていきませんか。
寮の新設に向けて、ご協力お願いします!
侍学園 スクオーラ・今人のホームページはこちら
並んだ個性豊かなペンと、一本の刀。個性豊かなペンは、侍学園に通う一人ひとりの生徒の個性を、「侍」から連想した刀は、刀ではなく志で世界を変えた侍たちの強い意志を象徴しています。
“EVERYDAY IS A NEW DAY.” 今日は、人生の新たな1ページ。
「スタートラインは、毎日やってくる」という侍学園が以来掲げている言葉からヒントを得たメッセージを添えました。
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