新聞を読んでいて、これはと思う記事にぶつかる。あとで切り抜いておこう、と思いながら、ほかのところへ目を移す。ところが、この「あとで」がくせものである。しばしば、その「あとで」はとうとう、やってこない。(「思考の整理学」外山滋比古より)
興味・関心の幅が広くて、この記事を読んで下っている皆さんでもこんな経験があるのではないでしょうか? 今週のチャリティーでは、新聞・ニュースでたびたび見かけるパレスチナ・ガザについて紹介していきます。皆さんがニュースで見て“あとで”知りたかったと思うことが、この記事の中に見つけられることを願って。
(占領ノート掲載地図)
ガザ地区とはイスラエルとエジプトの国境付近の360m2の地域を指します。その大きさは東京都23区の2/3程度。ガザに180万人が暮らしています。以降の話は、パレスチナはアラブ人が主体となった地域、イスラエルはユダヤ人が主体となった国と、割りきって読んで欲しいと思います。現実はこんな単純ではないですが。
イスラエルとパレスチナは長く世界(主に先進国)の思惑に左右された地域です。近代では迫害を受けたユダヤ人が第二次世界大戦後にイスラエル独立を目指し、それを国連が支持。国連はパレスチナが持っていた土地の半分をイスラエルとすることを認めます。
その後、周囲のアラブ人がイスラエル独立に反対し、イスラエルへ攻め込み戦争が何度も起こります。戦争の最中、イスラエルは独立。その後、1993年に中立国であったノルウェーの働きかけや、パレスチナ人の民衆自身の抵抗運動もあり、イスラエルがパレスチナの一部から引き上げた後、パレスチナの自治を認めます。
しかし、イスラエル軍は、現在もガザを含むパレスチナを実質的に占領。パレスチナとイスラエル間の憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖が続きます。2014年8月にはガザ地区をイスラエル軍が1ヶ月以上に渡り攻撃を続けます。その結果、パレスチナでは死者2,000名以上を出す惨事になりました。
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ガザ地区に関する資料集:パレスチナ情報センター
現在でもイスラエル軍による実質占領といっても過言ではないガザ地区。イスラエルは、パレスチナが自由に物資を輸入することを拒んでいるため、パレスチナ人にとって必要な物を輸入したり、材料や技術を得て自分たちで作ることも出来ません。そして、ガザ地区の市民がガザで医療を受けることは困難であるにも関わらず、自由にガザの地区外に出来る事が出来ません。また、ガザでの失業率は45%を超えていると言われるほど厳しい環境です。
特に、この地域で問題となっているのが“見えない飢餓”と呼ばれる子どもの栄養失調です。国連による食糧支援はカロリーを取るための食材が多く、ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素は不足しがちです。仕事のないガザでは食料を買うお金が得られず、人々は国連などの援助に頼って暮らしています。そんなガザで、2002年から活動するのが今週のチャリティー、NPO法人日本国際ボランティアセンター(以下、JVC)です。
国連のデータによると、ガザ地区では5歳以下の子どもの約4割は常に貧血状態にあるそう。JVCは、ガザの人々が自分たちの手で子どもの栄養失調が起こらないようにすることを目指し活動。子ども達の健診を定期的に行い、特に深刻なケースの子どもはクリニックにつれて行き、栄養失調の予防や治療を目指すプロジェクトを展開しています。
今週のチャリティーは、ガザ地区の子どもの栄養失調予防のために使われます。700円のチャリティーで栄養失調に苦しむ子どもが4人、1回ずつ病院に行けるようになります。その他には、子どもの血中ヘモグロビン値を測る血液テストチップを5つ購入することが出来、子どもの栄養失調の予防・リスク管理が出来るようになります。
(血液テストチップを使う様子)
現地で活動するJVCコーディネーターの金子由佳さんは、ある雑誌のインタビューでこう答えています。
話をよく聞き、よく観察して、ガザの人々が何を求めているかを見極めます。パレスチナにはいろんな国のNGOスタッフがいるのでコミュニケーション能力を生かした情報交換も重要です。(BRUTUS 2014/10/15 世界で生き抜く、いくつかの知恵。より)
この考えは、まさに言うは易く行うは難し。何を求めているのかを見極めないと、支援が成果につながらないこともあるからです。そして、JVCが活動するガザ地区の市民からはこんな声も寄せられています。
戦争後、夫には仕事がなく、1歳7カ月の子どもとともに親戚を頼って暮らしています。JVCの支援を受けられて本当に良かった。地域と人々に支えられている安心感を得ることができます。(支援を受ける女性の言葉)
JVCは現地に日本人を多く派遣はしていません。なるべく現地の人の手で現地の人を支えていけるようになって欲しいとの想いから、日本人の駐在員は2人だけ。活動の多くは現地のパートナー団体やボランティアをともに進めています。そして、現地のボランティアは自身も厳しい状況に置かれながらもJVCの活動に参加。JVCにとっては、ガザの女性ボランティアスタッフも支えるべき相手の1人でもあります。
ボランティアとしてJVCの活動に参加しています。父は病気で亡くなり、兄と姉は空爆によって殺されました。こうやって外に出る仕事に巡り会え、自分は普通の生活を取り戻し、悲しみから逃れることができました。(JVCの女性ボランティアスタッフの言葉)
今週はパレスチナのガザ地区について、特集してきました。今後、もし皆さんが紛争の映像を見て「大変そう。。。」と思うだけでなく、ぜひ次の2つのことを思い出して欲しいと考えています。
1つ目は、ガザという厳しい地域で奮闘するJVCのような民間NGOの存在に、ほんの少しでいいから想いを馳せて欲しいという点。厳しい環境の最前線で身体を張って行動し続ける彼らの存在は、余りに貴重です。2つ目は、これを読む私たちとガザで生まれた人とは“単に生まれた場所が違うだけ”ということ。今まさにこの記事を読めている私たちと、封鎖が続くガザに生まれた人との間に、人間的な違いはありません。2つ目については当たり前のように思えますが、意外と忘れがちなことでもあります。この2つを意識することで日々のニュースをまた違った角度で見れるのではないでしょうか。これからもパレスチナ・ガザで奮闘するJVCをぜひ応援し続けましょう!
希望がある、その微かな光に賭けたいんだ。(パレスチナ発のHIPHOPグループ「DAM」メンバー ターメル・ナッファール)
団体名:特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター
活 動:東京に事務所を構え、アジア・中東・アフリカの9の国/地域および東日本大震災被災地で活動する非営利法人。
住 所:東京都台東区上野5-3-4 クリエイティブOne秋葉原ビル6F
H P:http://www.ngo-jvc.net/
TEXT BY JAMMIN