
「スキー」と聞くと、皆さまどんなことを思い浮かべるでしょうか。
雪山、真っ白なゲレンデ、疾走、爽快…、そこに「障がいのある人」というイメージを持つ人は、まだまだ少ないのではないかと思います。
「障がいの有無に関わらず、スキーに挑戦し、楽しんでほしい」。
障がい者スキースクールを運営するNPO法人「ネージュ」が今週のチャリティー先。
「雪の上では、お互い一人のスキーヤー。そこに障がいがあるというだけなんです。
本人の上達の妨げになるものがあるのなら、それをどうしたら取っ払えるか、どうしたらできるようになるのかを考えるのが僕らの役割」。
そう話すのは、団体を立ち上げた稲治大介(いなじ・だいすけ)さん(60)。
稲治さんと、キャストの半沢輝(はんざわ・ひかる)さん(26)にお話を聞きました。

お話をお伺いした稲治さん(写真右)、半沢さん(写真左)
NPO法人ネージュ
年齢、性別、国籍、障がいの有無に関わらず、アイデアと工夫によって、誰もが心からスキーを楽しめるように。さまざまな障がいの種類、状況にあわせて最適な方法でお手伝いしています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2026/10/26

スクールでの一コマ。1本のスキーで滑るチェア(モノ)スキー。「上達すると、サポートなしで滑走します。スピードも上げながら、徐々に急斜面へチャレンジしていきます」
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
稲治:
冬の障がい者専門スキースクールを運営しています。
知的障がいから視覚障がい、難病の方や麻痺のある方…、体がうまく動かせない人も含め、座る体制をとることで体に影響が出ない方であれば、どんな方でも、すべての障がいを受け入れています。
全介助と言われる方でも、車椅子に乗って出かけられる方なら、全然問題ありません。「誰でも雪は楽しめる!」というキャッチコピーで活動しています。
──医療機器などをつけている人も大丈夫ですか。
稲治:
雪の降っているところに医療機器が出ることになるので、何かあった時に大変で、そこまでは対応していません。ただ過去には、医師のOKをいただいた上で、酸素ボンベをスキーの機材に試行錯誤して巻きつけ、時々体の酸素濃度を測りながらスキーを楽しんだ子はいました。

知的障がいを伴うダウン症のあるゲスト。「スキー板が重ならない器具『スキーブラ』を活用してコース取りやスピードコントロールを、キャストが横でサポートしながら伝えます」
──皆さん、どのようにしてスキーを楽しむのでしょうか。
半沢:
ワンシーズンに150名ほどに来ていただきますが、それぞれ障がいによって、滑り方はさまざまです。
それぞれの障がいによって、使用する器具、ケアするポイントやサポートする体制も変わってくるので、完全予約制となっています。
予約の際に、身長や体重、障がいを書いていただいて、適切なスタイルを判断します。事前にもう少し詳しくヒアリングをすることもありますし、たとえば立位のスキーか座位のスキーか迷う時は、当日お会いして、状況を伺いながら決定します。

ネージュでは、座位の機材だけで4種類11台を所有。「これらの機材以外に、立位で使用するアウトリガーやスキーブラ、視覚障がい誘導用スピーカー、雪上車椅子などもあり、あらゆる障がいに適応できる体制を整えています」

「脳性麻痺による体幹機能障がいのあるゲストです。バランスを補うアウトリガーという器具と、スキーブラを活用して滑走。並走しながら身体の使い方などを伝えて、上達に導きます」
──さまざまな器具があるんですね。
半沢:
一人ひとりが持つ能力を最大限に発揮するためには、身体状況や特性に応じ、最適な用具を選定・調整することが不可欠であると考えていて、おそらく、これだけさまざまな用具が集まっているスキー場は、日本では他にはないと思います。
たとえば座位スキー用具(チェアスキー)一つをとっても、フランス製デュアルスキー、スノーカート、チェアスキー、アメリカ製バイスキー、日本製チェアスキー…、さまざまな種類があって、その人の体の状況や大きさに合わせて、最適なものをマッチできます。

脊髄損傷により、車椅子を常用しているゲスト。「損傷部位が高いので、より安定性のあるチェアスキーで、2本スキーが装着されたデュアルタイプを使います。国内には、この1台しかありません。後ろからキャストがブレーキ補助を行いながら滑走しています」
──サポートするキャストの皆さんも、障がいや特性に合わせたさまざまな知識や技術が必要になるのではないですか。
稲治:
チェアスキーとスノーカートについては、メーカー公認のトレーニングが必要です。これらの機材は一つ間違うと鉄の塊で、事故につながる危険性があるので、扱うためのスキルもパワーも必要になります。
それ以外の器具に関しては基本、私と半沢とでトレーニングを行い、キャストを育成しています。
──サポートの内容も多岐にわたるのではないですか。
稲治:
そうですね。それぞれの障がいの特徴があって、同じスキーをやるといっても、求められるスキルの難易度は変わってきます。

チェアスキーは、そのままリフトに乗車できる。「乗降は、キャストがしっかりサポート。リフトの上では、技術の話だけでなく、冗談を言い合ったりして楽しい時間です」
稲治:
たとえば、脳性麻痺の人に大きい声でわーっ話しかけないようにということだったり、二分脊椎症は高い確率で水頭症を合併するので、シャントが入っている可能性があって圧迫してはいけない場所がある可能性があるよとか、そういった最低限の知識や注意点を知っておく必要があって、そこは常に勉強し、情報をアップデートしながら、皆と共有しています。
ただ、知識は持ちつつも、病気や障がいに深く入って「こうだからこう」と決めつけるのではなく、その人にとってやってはいけないことを必ず、事前に直接確認すること、勝手にこちらの推測や決めつけで進めないように心がけています。

「身体状況などの理由でスキーの装着が自分では困難なゲストの場合は、キャストがお手伝いもします。大雪の日などは、少々大変なこともあります」

全盲のゲスト。「前を滑るキャストがスピーカーを装着し、声で誘導して滑走します。コース取りやスピードコントロールが大切で、ゲストとの滑走時の間隔調整や衝突をさせないための安全管理などが必要とされるため、最も高いスキルが必要です」
稲治:
スキーはれっきとしたスポーツだから、ネージュでは、障がいがあるからといって特別扱いはしません。
本人が「ここまでで良いや」と諦めているのであれば、そこまでチャレンジを課しませんが、もっともっと上手になれることがわかっているから、「はい次、はい次」ってどんどんチャレンジを課しています。
もちろん相手との関係性や性格にもよりますが、障がいがあるからと言って、下手くそなのに「上手だね」とは言いません。家族は「よくできたね」っていうかもしれないけど、下手は下手なんだから、「下手くそや」ってちゃんと言います(笑)。
それが僕らのいる意味で、もっとできるし、もっと上達するために僕らがいるんだから。

「キャストが前を滑走しながら、斜面に適したコース取りやスピードを伝えているところです。このゲストは上達してきたので、一般スキーヤーと同じスタイル。どのタイミングでスキーブラなど特殊器具が不要なのかなど、上達度を見極めるスキルも必要です」
──障がいがあるからと甘く見ず、対等にスキーを楽しむ、ということなんですね。
稲治:
雪の上では、お互い一人のスキーヤー。そこに障がいがあるというだけなんです。
本人の上達の妨げになるものがあるのなら、それをどうしたら取っ払えるか、どうしたらできるようになるのかを考えるのが僕らの役割。
僕らの持っているスキルやこれまでの経験値、そこから出るアイデアを以てして上手にならないとしたら、それは「上手になることを、僕らが諦めている」ことになります。
障がいがあることは、諦める理由にはなりません。「できる」「もっといける」って思っているし、それをかなえるために、ありとあらゆることを考えています。

「先天的に心臓が弱いゲストは、常時酸素吸入が必要でした。ドクターのOKをもらった上で、スノーカートという座位のスキーに酸素ボンベを装着して滑走しました」

「家族皆が、同じ場所で同じスキー、スノーボードが楽しめる。写真の息子さんは、知的障がいを伴う脳性麻痺で歩行が安定しないため、スノーカートで滑走。障がいがあっても、こんなに笑顔の時間になります」
──どのような方が来られますか。
稲治:
35パーセントほどが知的障がいのある方、残りが身体障がいのある方です。
知的障がいのある方の場合、言葉による理解が難しいということもありますが、初めてのスキーの時には、怖くてキャストにしがみつく方も少なくありません。…それも、もう全身で、体のすべてを預けてきます(笑)。自閉症の方はてんかんを持っているケースも少なくないので、発作が起きた時はどう対応すればいいのかの確認や、他にも注意点がないかを伺うようにしています。
ありえないような体制になることもあって、こちらが危険を回避しながら、どう楽しさを伝えていくのかがポイントになってきます。
──…確かに。言葉での理解が難しいとしたら、どんなふうに伝えられるのですか。
稲治:
こちらが「何も伝わらない」と思っているうちは、伝わりません。
相手も一人の人で、言葉という僕らのツールで伝わらないなら、相手にもわかる表現、やり方の引き出しをどう増やしていくかというところで、頭を柔軟にする癖がついていくと、だんだんと対応できるようになっていきます。スキーが好きじゃないとやれないし、楽しさは伝えられません。

「上達し、ご家族でスキーを楽しんでいる“卒業生”とご両親が、毎年差し入れを持って会いに来てくれます。こうして元気な顔を見せに来てくれて、皆で写真撮って。ネージュに愛着を持ってくれて、とてもうれしい瞬間です。『いつでも来ていいんだよ!』という空気感は、大切にしていきたいです」
──半沢さんは、最初戸惑ったのではないですか。
半沢:
戸惑いまくりました(笑)。
一応ずっとスキーはやってきたので、「スキーだったらなんとかなるんじゃないか」っていう自信があったのですが、自分が伝えていることが伝わっておらず、予想外の動きをされるとあたふたしてしまい、何もできない状態になりました。
「知的障がいだったらこう対応すればいい」というような決められた型のようなものは一切なくて、一人ひとり全く違って、それぞれに対応が異なるということを痛感したし、コミュニケーションの取り方もなかなかうまくいかなくて、一度、自信を全て失いました。

「ある日のラスト1本。麓に降りてきたゲストとキャストの後ろ姿が、ゲストに寄り添いながら、『自分でできる喜び』をキャストも共有するという、ネージュの原点を感じさせてくれました」
──身体障がいの場合はいかがですか。
稲治:
身体障がいの場合も、皆さん本当に症状はバラバラです。
たとえば「下半身に障がいがある」といっても、左右の状態、足の向き、どの部分がどれだけ動くのかといったこともそれぞれなので、打ち合わせをして状態を見極めながら、スキー板や靴など、最初に細かい調整をします。1時間半ほど調整に時間をかけることもあります。
全員違うから、マニュアルはないし、十人いたら十通り、千人いたら千通りのやり方があります。
いずれにしても柔軟性はすごく大切で、頭が硬いと難しいかもしれません。
「こういうものだ」と思い込み、型にあてはめてしまうと、できないことがたくさん起きてきて、その人の能力を十分に引き出せません。安全の確保はもちろんですが、滑れないとしたら、それはゲストではなく僕らの責任。常にそう考えています。

「『(公社)難病の子どもとその家族へ夢を』さんの企画『ウィッシュバケーション』の一コマ。参加者もリゾートスタッフもキャストも、皆笑顔です」

シーズン前のキャストトレーニング。「雪上と座学の研修を行います。写真は『コミュニケーション』研修風景。皆、楽しみながらも真剣です」
──かなりも緊張感も伴うのではないかと思うのですが、二人がやっていて良かったと思う瞬間はどんな時ですか。
半沢:
上から下へ、同じ方向を見て滑っていくわけなので、滑っている瞬間の本人の顔はわかりません。「楽しそうにしてるかな」などと想像しながら一緒に滑っていくのですが、滑り終えて顔を合わせた時、すごくナチュラルで純粋な、とても嬉しそうな笑顔を見せてくれる瞬間があって、そんな時が嬉しいです。
さらには家族も一緒になって喜んでいたり、楽しんでいる姿を目にすると、グッとくるというか…、「今日はいい日だな」って思います。
そこに至るまで、日常の生活の中でも、障がいを理由にやりたいことを諦めないといけなかったり、いろんなことがあると思うんです。だけどスキーを通じて、皆が笑顔になれる瞬間がある。「この仕事をやっていて良かった」と心から思います。

「ゲストとご家族、また他のゲストやもちろんキャストとも、よく一緒に記念撮影をします!この日は快晴、気持ち良くて、皆の笑顔も爆発!」
稲治:
僕も同じですね。
スキーって多分、多くの人が「障がいのある人にはできない」と考えるスポーツの一つだと思うんです。だからこそ、上手い下手ではなく、本人や家族が「できない」と思っていたことが何か一つできた時の、あのにじみ出るような笑顔は、すごくいいなと思います。
もう一つは、家族に障がいがあると、皆で同じ場所に出かけて一緒に楽しむということが難しいことが少なくないですが、ここではスタイルは違っても、家族皆でスキーを楽しめる。そのような場を作れた時、すごく嬉しいと感じます。
「スクール」と謳っている以上、卒業してほしいと思っているから、ゲストには「いつまでもいるな」って言っています(笑)。ネージュでやり方を覚えて、スキーが人生を通しての趣味になったり、家族や友達との共通の楽しみになってくれたら、すごく嬉しいです。

キャストが後ろから操作して滑る「デュアルデュオ」というチェアスキー。「楽しんでいるのは、脳性麻痺の息子さんとご家族です。ご家族皆、スキーが大好きで、いつもここへ来ていただくと、めいっぱい滑りまくります」

小学生の時に交通事故に遭い、車椅子生活になったAくん。大学生になった現在も毎シーズン、ネージュに滑りにやって来る。「斜度25度の斜面を全力疾走!ダイナミックバイスキーというチェアスキーで、キャストはロープでブレーキのサポートをしながら滑走しますが、ものすごいスピードです」
──これまで一緒にスキーをした方で、印象に残っている方を教えてください。
稲治:
Aくんは小学生の時に交通事故に遭い、脊椎を損傷して車椅子常用になりました。病院にいる1年間、窓もカーテンも閉め切った部屋から出ることなく過ごしたそうです。そんな彼を見て、ネージュのことを知っていたおじいさんが家族を説得し、一緒にきてくれたのが初めての出会いでした。彼が小学校4年生の時でした。
ここに来てひとしきり滑った後、おじいさんが彼に「腹減ったか」と尋ねたら、彼は「うん、腹減った」と。そして事故後、初めて一緒に外食して、そこから全てが変わったと、後からおじいさんに聞きました。そこからの彼の障がいの受容はとても早く、どんどんいろんなことにチャレンジするようになり、家族がびっくりしたそうです。今もびっくりの連続みたいですが(笑)。
──何が、Aくんをそこまで変えたんでしょうか。
稲治:
シャイなので本当のところをあんまり話してくれないけど(笑)、単純に、スキーが楽しかったみたいです。「これをやってみよう」「それができたら、じゃあこれもやってみよう」って、どんどんやっていく中で「車椅子になっても、自分はできるんだ」ということを、なんとなく感じたのではないかと思います。
Aくんは大学生になった今も、毎シーズン3回ぐらい滑りに来てくれます。スピード狂で怖いものしらずだから、むしろこっちが怖いです。「誰があんなふうにしたんだ!」と言いたいぐらいです(笑)。
半沢:
すぐに急な斜面の方に行きたがるので、こっちが試されている感じですね(笑)。
稲治:
もう一人、26歳のBくんも印象的です。
Bくんは脳性麻痺で、軽度の知的障がいがあります。小学1年性の時に初めてここに来た時、どう考えても座ってやる方が良さそうでしたが、本人が「立ってスキーがしたい」と言うので、立位のスキーに挑みました。

「立ってスキーをする」ことにこだわり続けたBくん。「腕にはアウトリガー、スキーの先端にはスキーブラを活用して滑走。今や転倒することはほとんどなく、キャストの役目は、コース取りのアドバイスくらいです」
稲治:
普段の生活では立って歩いているのですが、スキーとなると簡単ではない。ずっと甘やかされてきたこともあり、もう頼りっきりでした。30cm進むごとにひっくり返って、1本降りてくるのに3時間半もかかったんです。
やっと降りてきたら「もうやりたくない」と言うから、頭にきて(笑)。「自分が立ってスキーをするって言ったんだぞ。本当にダメなら手伝うけど、甘えるな!」って言ったんです。
それで辞めずに、再度チャレンジしたんですね。この日、彼は「立ってスキーがしたい」という意思を、いつもみたいに諦めず、貫けたことが嬉しかったんじゃないかな。そこからは毎年、スキーという楽しみができて、「宿題をやらないならスキーもやらなくていい」と言われて、宿題もちゃんとやるようになったそうです(笑)。
最初はお母さんと一緒に来ていたBくんですが、大きくなった今は、お父さんと二人で来るようになりました。筋力が弱くなって少しずつ疲れが出るようになってきたものの、立ってスキーを楽しむ二人の姿を遠くから見ていると「いい親父と息子だな」って思います。
僕らが勝手に、「これはできない」「無理だよ」って決めて、諦めちゃいけないんだなってことを改めて感じたエピソードです。

「脳性麻痺で、車椅子を常用しているゲストです。最初はバランスキープが困難でしたが、コツコツと努力した結果、最もバランス保持が難しい、1本のチェア(モノ)スキーで滑走するようになりました」

稲治さんがチェアスキーのゲストと共に訪れた、フランスのスキー場の標高3200mの景色。「『こんなところでもスキーができるようになるんだ!』と皆に夢を持ってもらえたらと、この写真をパンフレットやポスターにも使いました」
稲治:
もう一つ、僕が最近勉強になった方がいます。
脳出血で倒れ、体に麻痺が残った75歳のCさんは、倒れる前はスキーが大好きで、もう一回ゲレンデに立つことを目標にリハビリを頑張ってこられたそうです。
娘さんのご家族と一緒に、遠路はるばる来てくださって、立位でなんとかうまく滑ることができ、義理の息子さんは、泣いて喜んでおられました。
翌年も家族でまた来てくださったんですが、Cさんは自前のスキーブーツを持ってきてくださったんですね。
スキーブーツには、滑るには安定感を取りやすい前を閉めるタイプと、履きやすい後ろを閉めるタイプがあります。Cさんが持ってこられたのは後ろを閉めるタイプの方だったのですが、これは前を閉めるタイプと比べて、滑走時のバランスをとるのが難しくなるんです。

脳出血の後遺症で、右半身に麻痺が残ったCさん。「もう一度スキーを!と懸命にリハビリされ、ネージュでは単独で数本滑走されました」
稲治:
ご本人の体の状況を見て、「前を閉めるタイプの方が、よりバランスがとりやすくて楽に滑れますよ」という話をして、義理の息子さんも「前が閉まるタイプをレンタルしたらどうか」と言ったんですね。
そしたらCさんが「いや、僕のスキーは、自分で履けないんだったら、やる意味がないから」っておっしゃったんです。ハッとしました。「ああ、自分の勝手な都合を押し付けるところだった、危なかった」と思いました。
Cさんが持ってきたブーツは、安定して滑りにくいし、本数もたくさんは滑れない。だけど、決めるのは本人です。「どちらでも、僕は付き合います」と言いました。持参したブーツでスキーを楽しんだCさん。実際に滑った本数は少なかったけど、大満足して帰られました。
「この人にとっては、これがスキーなんだ」。
決めつけないようにと常々言っていたのに、僕も決めつけようとしていた。選択肢を提供する大切さをすごく教えられた出来事でした。

半沢さん、ネージュでのキャストデビュー時の一枚。「忘れもしない、ネージュでのキャストデビュー戦。あまりの緊張で、スキー板を履くの忘れてリフトに乗ってしまった自分…(笑)。この時の緊張感を大切にしていきたいです(スキー板はちゃんと履きます)!」

学生時代の稲治さん(写真中央)。「大学生時代、毎冬過ごしたスキースクールの仲間との写真です。毎年12月から4月まで、学校の試験以外はずっと住み込みで、1日8時間くらいスキーをしていました」
──稲治さんはなぜ、この活動を始められたのですか。
稲治:
学生時代、スキー場でアルバイトをしていた時に、知的障がいのある子を3日間担当したことがあるんです。当時は、障がいのある人への何の知識もありません。3日間すごく大変だったけど、1年後、ご両親が来られて「稲治さんですか。うちの子があなたの名前だけ覚えていて、あなたとまたスキーがしたいと言っています」と伝えてくださったことがありました。
その後、「スキーでは食っていけない」と一般企業に就職したのですが、会社の社会貢献活動の一環で重度障がいのある子どもたちを知る機会があり、自分が普通にやっていることができない人が、すぐそばにいたことにショックを受けました。
スキーがとにかく大好きで、「雪のあるところに転勤させてくれ」と言って仙台で働いていましたが、そういえば、スキー場で障がいのある人たちのことを見ることもなかった。

「夏場は、ネージュのプログラムを受講できるメイン会場『湯沢中里スノーリゾート』から10分ほどのところにある大源太湖で、カヤックやSUPの体験教室をやっています。障がいのある方もいらっしゃいます」
稲治:
僕はスキーで輝かしい成績があるわけでもないし、ただスキーが好きなだけの人だけど、スキーにチャレンジできない人がいることを知って、ええっと思ったんです。
そこをサポートしてあげようっていう感覚というよりは、単純に「こんなに楽しいのに、なんで?できるんちゃうの?やってみてほしいな」って思ったんです。「自分が大好きなスキーを知ってほしい、楽しいからやってみてほしい」、そんな気持ちで始めました。
──そうだったんですね。
読者の皆さんへ、メッセージをお願いします。
半沢:
何かをする時に「えっ、無理」ではなくて「できそうじゃない?!」っていう気持ちを大切にしてもらえたら嬉しいです。
挑戦する気持ち、やってみたい気持ちを大切に、日々の生活の中でいろんなことにどんどんチャレンジしてもらえたら嬉しいし、僕らの活動が、本人や家族の心が、そういうふうに変わっていくきっかけになれたら嬉しいです。
稲治:
僕らはスキーという手段を使っていますけど、上手でも下手でも、できへんと思ってたことができた時に、他にも諦めてたことに対して「一歩踏み出してみよう」って思ってもらえたら嬉しいなと思います。「やってみると意外とできるかもよ!」っていうことを、これからも伝えていきたといと思っています。

ネージュのキャストの皆さん。「キャストの集合写真です!皆スキーが大好き、人が大好き、お酒も大好きの愉快なメンバーです」
──チャリティーの使途を教えてください。
稲治:
フランスのマーク・ゴストリ氏が開発した、「30秒間つかまり立ちができれば立位スキーが可能になる」ことをコンセプトとした「GO TO SKI」というフランス製のスキー機材があります。日本ではまだ、導入事例がありません。マーク氏とは20年来の知り合いで、僕と半沢は4月にフランスを訪問し、マーク氏と面会して実際に試乗してきました。
これまで、普段は立位で歩行している方や立位歩行のためのリハビリに取り組んでいる方であっても、脚の向きや筋力、立位を保持できる時間などの要因から、従来の立位スキーを安全に楽しむことは非常に困難でした。また、そのような方を支える適切な補助機材もなく、結果として「座位スキー」という選択肢しかありませんでした。
もちろん、座位スキーを否定しているわけではありません。身体状況によっては、座位スキーが最も適した選択である方も多くいますし、ネージュとしても、これまでにさまざまな座位スキー用具を導入してきました。
一方で「立てるけれど、立位スキーはできない」という境界にいる方々にとっては、本来挑戦できる可能性がありながらも、その機会を提供することができませんでした。「GO TO SKI」は、そのような方々にとって、新たな選択肢になるものです。さらに、病気や事故などにより歩行が困難になった方にとって、「立った姿勢でスポーツを楽しめる」ことは、大きな夢や希望にもつながります。
チャリティーは「GO TO SKI」の購入費、また講師招聘のための資金として活用させていただけれたらと思います。ぜひ、応援よろしくお願いします!
──貴重なお話をありがとうございました!

2026年9月、稲治さんが遠路はるばる、JAMMINに足を運んでくださいました!お話を聞かせていただいた後、稲治さんを囲んで
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
スキーという少し非日常の体験を通じて、「できる!」という実感を届けるネージュさんの活動。雪の上で皆、同じようにスキーを楽しめるし、そのためのサポートがしたいというお二人のお話から、スキーをものすごく愛しておられることが伝わってきました。
真っ白な雪、青い空、山から見える壮大な景色…、普段の生活とはまた異なる空間で、五感を刺激されながら、知らなかった新しい自分に出会う。その経験は、雪の上を離れても、さまざまなことに生かされていくように思います。

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雪山をバックに、スキーヤーが残した3本と2本のラインを描きました。
「誰でも雪は楽しめる!」。障がいの有無に関係なく、真っ白なゲレンデの上で雪を思い切り楽しむ様子と、その体験が、生きる上でのポジティブな気持ちにつながることを表現しています。
“The snow welcomes everyone(雪は、すべての人に開かれている)”というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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