CHARITY FOR

「僕が頑張ることが、娘が生きた証になる」。女の子だけに発症する難病「レット症候群」の治療法確立を目指して〜NPO法人レット症候群支援機構

15年前、当時2歳だった娘の紗帆(さほ)さんが、治療法の見つかっていない難病「レット症候群」と告げられた谷岡哲次(たにおか・てつじ)さん(49)。

「命に変えても、この子のことを守りたい。身代わりになれないなら、根本的な治療法を見つけるために、できるだけのことをやろう」。谷岡さんは、2011年にNPO法人「レット症候群支援機構」を立ち上げ、治療法確立のためにさまざまな活動に取り組んできました。

2024年からはレット症候群の症状緩和を目指した薬の治験が国内で始まり、少しずつ、治療法の研究の成果が出てきているといいます。

「15年間、諦めずに蒔き続けたタネから、本当に少しずつ、芽が出てきているように感じます。紗帆は、僕の全て。紗帆がいるから、紗帆の笑顔があるから、この活動を続けられる」

そう話す谷岡さん。
活動について、お話を聞きました。

お話をお伺いした谷岡さん

今週のチャリティー

NPO法人レット症候群支援機構

女の子だけに起こる不治の難疾患「レット症候群」を支援する団体。レット症候群の認知を進めると同時に、治療法の確立を目指して活動しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2026/10/05

難病「レット症候群」の
治療法確立を目指して活動

2026年6月に開催した医学的基礎勉強会・懇親会後に、参加した皆さんとの集合写真

──今日はよろしくお願いします。
最初にレット症候群について、また団体のご活動について教えてください。

谷岡:
遺伝子の突然変異で発症するといわれている「レット症候群」の治療法の確立を目指して活動している団体です。

レット症候群は生後半年から1歳半ごろまでは正常でその後発症する、女の子にのみ起こる進行性の神経疾患です。生まれてしばらくは普通に成長していたのが、徐々に体を動かせなくなったり、言葉を話せなくなったりといった退行現象が起こります。

知的障がい、てんかん、睡眠障害や常に手を揉んだり手を口に入れたりするような動作、側弯症、歯ぎしり、息こらえなどを併発します。

「2022年に側弯症の大手術をした後。つらいはずなのに、こちらの呼びかけに笑顔で応えてくれる。いつもこの笑顔に癒され、励まされています」

谷岡:
2011年、当時2歳だった娘の紗帆(さほ)がレット症候群とわかり、根本的な治療法を見つけたいと団体を立ち上げました。
1万人から1万5千人に一人と言われるこの難病のことを一人でも多くの人に知っていただき、支援につなげたいという思いから、啓発活動にも力を入れています。

──治療法の開発は進んでいるのですか。

谷岡:
はい。最近のトピックでいうと、2024年から、海外で処方されている薬の治験が、日本でもスタートしました。もう一つ、別の薬の治験も2026年から始まっており、ようやくここまできたなと感じています。

──どのような薬ですか。

谷岡:
完治を目指せる薬ではありませんが、レット症候群の全体的な症状の緩和を目指した治療薬で、海外ではすでに効果が示され、一般販売されているものです。

「いつもご支援いただいている、株式会社アクセア様の東京本社を表敬訪問。取締役の西山様へ活動報告を行い、日頃のご支援への感謝を込めて感謝状を贈呈しました」

谷岡:
これまで、レット症候群の治療に特化した薬はありませんでした。てんかんならてんかん、睡眠障害なら睡眠障害、それぞれの症状を改善するための対処療法的な治療薬しかなかったのですが、この二つの薬に関しては、まだ治験段階なのではっきりとは言えませんが、レット症候群の全体的な症状に対し、QOLが上がるものであるというふうにも聞いています。

治験を通じ、これからさまざまなことが実証されていくと思います。薬として正式に承認されるかどうかは、来年、再来年には確定すると思います。

活動を始めて15年。
レット症候群の治療薬の前進というところで、やっと実績的な手応えを感じています。

「研究者の方々や製薬企業の皆さんと、イベント後の懇親の場で本音で語り合いました。2026年7月、東京にて」

患者家族が中心となり、
治療法開発や啓発を推し進める

遺伝子治療プロジェクトに取り組む自治医科大学への研究支援を行った

谷岡:
15年前、活動を始めた頃は、患者の分布や臨床データなど基礎研究的なものはあったものの、レット症候群自体に関する研究は、ほとんどされていませんでした。

しかしこの15年でさまざまな研究がされるようになり、「治療はできる。あとはどう安心・安全に治療するか」という、治療薬や治療法を見据えたところまで話が進んできています。その点は、本当に変わったなと思います。僕らの活動があったからとは言いませんが、ひとつのきっかけにはなったのではないかと感じています。

2026年、東京で開催したシンポジウム。「治療薬開発に向けた研究が少しずつ前に進んでいることを実感できたシンポジウムでした」

──治療法の開発や啓発のために、研究者や企業さんと協働し、さまざまな活動をしてこられました。

谷岡:
はい。2021年には、レット症候群の患者家族のためのオンラインアプリ「レッコミ」をリリースしました。レット症候群の患者家族同士でさまざまな情報交換ができるようになっていて、現在、400名ほどの方の登録があります。

かなり古いデータになってしまうのですが、二十歳以下のレット症候群の患者は日本に1,000人ほどいるとされており、それでいくと、このアプリに4割の方が登録してくださっていることになります。

レット症候群の患者家族のためのオンラインアプリ「レッコミ」。「掲示板での情報交換や、マップを使って全国の登録者の分布を把握することができます」

谷岡:
団体として、これだけのつながりがあるというのは、とても大きな強みです。
当事者家族同士が情報交換できることももちろんとても大切ですが、治療法開発を前に進めるためには、製薬会社さんや研究者の方と協力して、当事者の症状や状況を知ってもらうこともとても大切です。

「こういう情報がほしい」という時に、何もつながりがないところから患者さんや患者さんの声を集めるとなるとすごく大変ですが、「レッコミ」という大きなコミュニティがあることで、当事者の状況を共有できるということは、治療法開発の後押しにもつながっていると思います。

──確かに。直接声が聞けるのは、とても心強いですね。

2026年3月に東京で開催したシンポジウム後には、誰でも参加できる懇親会を主催。「患者・家族、企業、研究者の皆さんが交流できる貴重な機会となりました」

谷岡:
もう一つ、僕たちは治療法開発のための研究支援にも力を入れてきました。
研究者と直接つながり、当事者家族である僕らが研究を支援するというかたちは、15年前、希少疾患では特に、他には見られないかたちでした。

国や自治体のプロジェクトとして研究が行われる場合、研究費の助成が出るうちは研究が続けられますが、期限付きの助成金が終了すると、とても残念なことに研究も終了してしまいます。
患者家族が真ん中に入って研究の助成ができれば、そのようなことも回避できて、治療法開発を前に進められます。

──確かに。

「9年前、紗帆が肺炎で入院した時は一時集中治療室にも入り、命の危険を感じました。そばにいることしかできず、何もできない自分が情けなかったことを今でも覚えています」

谷岡:
2020年から研究費の支援を行ってきた自治医科大学の遺伝子治療研究プロジェクトは、その後、国のプロジェクトとして予算をとることができました。

レット症候群支援機構から国へとバトンタッチして、さらにスピードを上げて研究を進めてくださっています。「2030年あたりには治験ができるようにしたい」という目標も発表されており、研究は着実に前に進んでいます。

──すごいですね、いろいろと前進しているのですね。

谷岡:
15年間の活動の中で、活動の成果は出ているのか、活動の意味があるのかと悩んだ時期もありました。だけど、一つのことがダメでも、他に何かできるんじゃないかと常に考えながらやってきた結果、技術の進歩もあって、治療や研究が少しずつ前に進んでいます。
諦めずに蒔き続けたタネから、本当に少しずつ、芽が出てきているように感じています。

2017年には、国際シンポジウムを開催。「開催資金を集めるところから会場運営まで大変でしたが、多くの方々に支えられ、無事に2日間を終えることができました」

「紗帆の笑顔があるから、頑張れる」

2026年3月、支援学校の卒業式の日に、袴を着た紗帆さん

──紗帆ちゃんはお元気ですか?

谷岡:
はい。元気にやっていて、相変わらずニコニコしてくれています。この春に高校を卒業し、今は、自宅のある大阪府枚方市にある生活介護事業所に通っています。

──高校を卒業されたんですね!

谷岡:
そうなんです。18歳、成人したということになるので、ほんまに早いなと思います。
2年ほど前には、胃ろうの手術も受けました。迷いましたし、手術前は「また手術か…」と思ったけど、風邪を引いたり本人の体調が悪くて口から食べることが難しい時に、水分や栄養、薬もちゃんととることができるようになったことは良かったです。
本人の調子の良い時は、今でも口から食べています。

日常の一枚。「妹分のトイプードル『ふぅ』と一緒に、テレビを観ながらくつろいでいます」

谷岡:
紗帆はもう年頃なのに、今でも僕がベタベタしているので、妻は「(紗帆が)かわいそうに」って言っていますが(笑)、僕にとっては、今でもスキンシップさせてもらい、介護もさせてもらって、幸せを分けてもらっています。

──谷岡さんにとって、紗帆ちゃんはどんな存在ですか。

谷岡:
人生のすべて、です。紗帆が、僕の生きる意味になっています。
僕に100パーセントの信頼を寄せてくれて、大好きだよという愛情を感じます。

2024年春には、大阪・門真市に生活介護事業所をOPENしたのですが、サラリーマンを継続しながら、NPOの活動、生活介護事業所のお手伝いもして、毎日があっという間に過ぎていきます。

2024年春にOPENした生活介護事業所「スマイルキャンパス」。「写真は、レット症候群の利用者さんが視線入力を使ってデザインした、自動販売機のラッピング。売り上げの一部が、寄附につながります」

谷岡:
昼間、職場を抜けて生活介護事業所に顔を出しているので、その分、朝の6時過ぎには会社へ行って仕事をして、昼に生活介護事業所へ行ってからまた会社に戻り、夕方には生活介護事業所の方で利用者さんの送迎をして、また職場に戻って夜まで仕事をして、帰宅してからはNPOとしての仕事があります。

そんな毎日を何年か続けていて、自分でも「こんなに忙しくて、鬱になるんちゃうか」と思うんですが、紗帆の笑顔を見ると、疲れも何もかも、全部吹き飛ぶんです。
紗帆の笑顔があるから、やっていけてるんやなって感じます。

──どんな笑顔ですか。

谷岡:
ただただ、満面の笑顔です。帰宅して声をかけると、ニコっと笑ってくれる。100パーセント、自分のことを全信頼してくれているのかなと感じる笑顔です。だから、それに応えなあかん、って思います。

「ギューッとハグした時、嫌な顔をせずに嬉しそうな笑顔を見せてくれる。そんな紗帆の笑顔が大好きです」

「僕が頑張ることが、紗帆が生きた証になる」

「1歳頃、紗帆がまだ一人でお座りができていた時の貴重な写真です。おとなしく、あまり手のかからない子でしたが、その後、徐々にそれまでできていたお座りやハイハイをしなくなっていきました。レット症候群と診断された時は、これからどこまで後退してしまうのか、笑顔までなくなってしまうのか……不安しかありませんでした」

──レット症候群支援機構さんとはJAMMINの創業間もない2014年に始めてコラボしていただいて、以降4度にわたってコラボしていただきました。私が最初に取材をさせていただいたのは2017年ですが、そこから9年、「紗帆ちゃんのために根本的な治療法を見つける」というところから、谷岡さんの思いも少しずつ変わってこられたのかなと感じました。

谷岡:
この先、新しく治療法が開発され、いざ治療を始められますよとなった時に、絶対的な安全が確保されているなら別ですが、そうではなかった場合に、治療をやりたいかとなると…難しいなと感じます。

僕からすると、今の紗帆で十分で、今の紗帆がかわいいし、愛おしくてたまりません。
でも本人からしたら、苦しいことがいっぱいあるかもしれない。それが少しでも楽になって、本人が生活しやすくなるんだったら、治療に取り組みたいと思います。だけどもし、そこにリスクや万が一のことがあるとしたら…、難しいなと思いますね。

「この18年を振り返って何より嬉しいのは、紗帆が毎年、無事に誕生日を迎えてこられたこと。今年も、18回目の誕生日を笑顔で過ごすことができたことが、何より幸せです」

谷岡:
もちろん理想は、治療法ができて、紗帆が元気になることです。だけど現実として、今はまだ、それは難しい。
紗帆が笑顔で過ごせる時間ができるだけ長くあることと、もしも願いがかなうのであれば…、紗帆の「パパ」という一言を聞いて、僕の人生が終われたらいいなと思っています。

団体を立ち上げた15年前は、「紗帆のために」という思いが強くありました。
団体を立ち上げてから、関わる人も増え、つながりもたくさん生まれて、紗帆だけのためというよりは「レット症候群の未来のために、僕がどこまでバトンを前に進められるか」という思いで活動しています。

僕が団体を立ち上げる時も、インターネットのない時代から、患者会という形で頑張ってこられた先輩方からのバトンがあって、僕はたまたま、インターネットやSNSが普及した時代に、治療を目指して団体を立ち上げました。行けるところまで前へと進めて、次へバトンタッチしたいと思っています。

「この夏、紗帆と妻と一緒に、神戸の劇場型アクアリウムatoaへ。久しぶりに病院やリハビリ以外でのお出かけを楽しむことができました。大きなゾウガメと記念撮影」

──根治の治療法の確立は、もしかしたら紗帆ちゃんには間に合わないかもしれない。そうなると「間に合わないなら(活動を)辞める」という選択肢も、あったと思うのです。谷岡さんが走り続ける、そのモチベーションを教えてください。

谷岡:
…僕が頑張ることが、紗帆が生きた証になると思うからです。

紗帆には間に合わなくても、今回のようにちょっとでも新しい薬が入ってきたり、治療法が前に進んで、その時に「谷岡さんっていう人が頑張ったんだね」「そのきっかけが、娘の紗帆ちゃんだったね」って思ってもらえたら、それは紗帆が生きた証になる。そう思っています。

団体を立ち上げた当時に思っていたことと、今思っていること。それは大きく変わっていません。
紗帆のことは、命に変えても守りたい。手がかかったりして大変なこともあるけれど、それ以上に、僕が紗帆からもらっているものが大きいです。全く思い描かなかった人生ですが、紗帆がいなかったら今、自分も家族も、どうしていたかわかりません。

レット症候群支援機構の会員は、現在約80家族。「年1回のNPO総会に加え、医学の基礎を学ぶ勉強会やシンポジウムも毎年開催しています。アプリの登録者は約400名となり、日本全国のレット症候群関係者とのネットワークも少しずつ構築されてきました」

谷岡:
この活動を、紗帆に100パーセント還元できているかと言われたら、そうではないかもしれません。だけど僕は紗帆がいるから、紗帆の笑顔があるから、この活動を続けられています。

活動を通じ、めぐりめぐって違う方に、何か前向きなものを届けられているとすれば、それは、紗帆がいてくれるおかげなのかなって思っています。

治療法の開発は、もしかしたら紗帆には間に合わないかもしれない。だけど結果として、他の人たちの未来につながればと願っています。

「2025年のシンポジウムでは、我武者羅應援團の皆さんがサプライズで登場。患者家族や研究者の皆さんへ熱いエールを送っていただき、会場全体が感動に包まれました。最後に、メンバーの皆さんと記念撮影した時の一枚です」

──紗帆ちゃんの存在と、その笑顔が循環している活動なのですね。
最後に、チャリティーの使途を教えてください。

谷岡:
レット症候群支援機構として毎年、シンポジウムを開催しています。
今回のチャリティーは、2027年3月6日に開催するシンポジウムの開催費用の一部として活用させていただく予定です。ぜひ、応援いただけたら嬉しいです。

──今回も貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

2026年3月、支援学校卒業の日に、自宅にて

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

今日までのご活動を、谷岡さんが紗帆ちゃんと共に歩んでこられたこと。どんな日にも、紗帆ちゃんの笑顔が、谷岡さんを支えてこられたんだなということを、改めて感じるインタビューでした。

団体を立ち上げられて15年。この間に、治療法確立を見据えた研究が進んでいるとのこと、もしかしたらそう遠くない未来に、レット症候群の症状を劇的に改善したり、病気自体を治してしまうような治療法が出てくるかもしれません。紗帆ちゃんと谷岡さんをはじめ、レット症候群の患者さんとご家族の穏やかな日々が、夜空に瞬く星のように、ずっと続くようにと願います。

・レット症候群支援機構 ホームページはこちらから

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【2026/10/5-11の1週間限定販売】
星の瞬夜空に美しく飛ぶランタンを描きました。
レット症候群の治療法確立の未来に向けての希望、そしてまた、一つひとつのいのちの輝きを表現したデザインです。夜空にある「隠しRETT」の文字も探してみてくださいね。

“The light of hope for brighter tomorrows(より明るい未来に向けての、希望の光)”というメッセージを添えました。

チャリティーアイテム一覧はこちら!

JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!

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